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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Knights of round Vol.1 Runaway
64/178

その老女、危険につき

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 深夜、寝静まったドロシーの家の中をホークガールが音もなく男共の部屋へと移動する。

 彼女がそっと部屋の中に入ると、彼等は彼女の到着を待っていた。


「ディーはメガンと一緒。結果だけ教えてって。それでいいよね?」


 彼女が元気をなくしていることは分かっていたので、ルーベンがまず口火を切った。


「ドロシーさんを巻き込むわけにはいかない。僕達はここをすぐにでも出ていかないといけない」


その言葉に全員が同意を示す。いきなりだが結論が出てしまった。だが、問題は多い。


「残念だけど、こうなったら西にはもう進めない。南下して国境を目指すしかない」

「そうなるとまた車がいる。国外に出ると言うなら、書類も必要になる」

「銀行の口座に、例の賞金はあるけど。追われているとなると、うかうか取りに行けないね」

「とにかくここにいて動かないことが一番まずい。明日の朝にでも、ドロシーさんには話してみよう。昼か夕方には、ここを出るってことで」

「でも、彼女に止められるかも。そうしたらどうする?私達のこと、いうの?」

「……それは最後の手だね。事情を聞いてくれないおかげで、ここまで誤魔化せたけど。わかってもらうためなら、話さないといけない」


 彼等の結論はあっさりでた。



▼▼▼▼▼



 だが、彼等の思惑と違ってドロシーは思いのほか面倒な女性だった。

 まず、朝食の席で話があるんだと切り出した。この時にはもう、ディアナにもメガンにも伝えてある。

 ところが彼女は、なぜかちっとも彼等の話を聞こうとしない。「もう少しだけいて」を繰り返すばかり。寂いしいから自分達にもうしばらくいてほしいと言っているのかとも思ったが、どうもそうでもないらしい。自分達がここにいることであなたの身に危険が及ぶことになるかもしれないと言っても、ちっとも言うことを聞きやしない。

(どうする?よくしてもらった人だけど、強引でも出ていこうか?)

 などと彼等がいい加減、思い始めた時であった。ドロシーの家に訪問客が現れた。



 ブザー音がして、ようやくお互いの口を閉じる。

 ドロシーが玄関へといき、トニーとルーベンが怪しい者が来たのではないかとさりげなく後を追う。

 だが、玄関の扉の向こうからあらわれたのはいがいにも、もう1人の老婆であった。彼女は挨拶もそこそこに、持って歩いていたバッグを引きずりながら家の中へと入ってきた。


「ああ、よかった!もう、”間に合わないかと思った”わ。いらっしゃい、ジェシカ」

「よかった?間に合わないって?何を言っているのよ、ドロシー。しばらく会わない間にボケちゃったの?まったく、こっちは例の議員の事件でとんだツアーに……あら、まぁ」


 ここでようやく、客人である老婆は孤独な独り暮らしの老女の家にいる子供達の存在に気がついて驚いてみせた。



「なぁ、なんかさ。面倒に面倒が重なってないか?」


 トニーのげんなりした声に、メガンが肘を入れるが。トニーも肘を入れ返す。だが、その気持ちは分からないではない。

 ドロシーは子供達に、あと少しだけ待っていてくれとだけ言うと客人を連れて先程から離れで何事かを必死に伝えようとしている。こういってはなんだが、客人の老婆がとても大変そうで見ていて気の毒に感じるくらいだ。



 しばらくすると話が終わったのか、2人の老婆は戻ってきた。だが、なぜか口を開いたのはドロシーではなく客人の方であった。


「あのね子供達。ああ、ごめんなさい。突然お婆ちゃん達が2人でヒソヒソやったらうんざりしちゃうわよね。わかるわ。

 でも、聞いていたらわかるでしょうけど。私ってこんな感じでポンポンと話しちゃうものだからよく人と話していて嫌がられてしまうの。

 でね、大変失礼なことだとわかっているんだけれども。まず、みんなの名前を教えて頂戴。その後で、ぜーんぶまとめて私が話しちゃうから」


 なんか仕切る人だった。仕方が無いので、それぞれが自己紹介をしていく。1つ不思議だったのは、ホークガールがまたいつもの調子で本名ではなく「ホークガールよ」とだけ答えたのに、彼女はそれをすんなりと受け入れたことだろうか。

 とにかく、その客人は自己紹介中もその笑顔を崩すことなく、しっかりと子供達の顔を確認しながら黙って聞いていた。そして


「ありがとう。本当にごめんなさいね。お婆ちゃんなものだから、顔と名前を一緒に見て聞かないとすぐに忘れちゃうのよ。

 私、名前はジェシカ。ジェシカ・ラズベリーっていいます。ドロシーとは、っていっても。彼女は私にとってはお姉さんなのよ。どっちも皺くちゃだけどね。この齢になると、こういう言い回しが出来る回数が少なくなるから、是非に言っておきたくてね。

 で、小説家をやってます。あなたたちのような若い人達にも知ってもらえているかしら?推理小説なんかを書いているんだけど……」


 ジェシカの問いにルーベンとディアナは「んんっ?」という顔をしたが、他は全員誰ですか?と顔に表しているのをみて諦める。


「まぁ、そうよね。『探偵アラン』とか『検事ジュビリー』なんてのを出してたの。興味あったら、読んでみて頂戴。

 で!だいぶ失礼な話なんだけど、あなた達。親御さんの元から逃げてきたってことでいいのかしら?それを変える気は全然ないし、妥協点もない。それでいい?」

「……ミセス。申し訳ないんですが、僕等は気の迷いでやっているわけじゃないんです」

「そう……そうよね」


 そう言っている間、ジェシカと名乗るこの老婆は顎に手を置いて行ったり来たりしはじめる。が、しばらくすると


「……やっぱり、皆にはちゃんと全部話してもらわないといけなさそうね。でも、その前に教えておくわ。あなた達、ドロシーとあまり会話をしなかったんじゃない?」

「ええ、まぁ……特に、詳しくは事情も聞かれませんでしたし」

「そうでしょうね、当然ね。

 あのね、驚かないで聞いてね。このドロシーは”予知能力”をもっているの。若い頃はその力で占い師なんてやっててね。と、いってもほんの少し先のことがうっすらわかる程度だからたいした力はなかったのよ。

 実際、年を取ってからはこうして田舎で引退生活しているんだもの。最近じゃ、連絡を取っても『引退したらまったく力はなくなってしまった』とか言い出すくらいでね。まったく、車じゃないんだからガス切れのように超人が人間になれるわけがないじゃないってね」

「ええっ!?……いやぁ、それは」


 そういってコロコロ笑いながら言うが、子供達が驚かないわけが無かった。彼等自身、この予知能力というものがどれほどの効果があるのか目にしたことはなかったが。言葉通りなら、やけに無口で無償の心の広さを示してくれたドロシーは、この未来を見たからしてくれたことで。この後に何を言いだされるのかと思うと、不気味ですらあった。

 そんな子供達の心の変化に気がついて、ジェシカは慌てて火消しに入る。


「ああ、違うのよ。勘違いしないで。

 彼女は別になにかよからぬ陰謀があってとかじゃないの。あなた達を見た時に、これは助けてあげないといけないって思ったからだと本人は言ってる。……ごめんなさいね、予知能力者って変わり者が多くて面倒くさい人が多いのよ。口では全く説明しにくいことを、やけに自信満々に感情で行動するからね。

 そう考える自分が見たものなんかをはっきりと他人に伝えようって気にならないのよね。まぁ、無理もないんだけど。

 そういうわけで、またまた申し訳ないんだけど。あなた達のこと、全部教えて頂戴。隠さなくてもいいわ、大丈夫だから」


 どうやら、とりあえず全部話してみろと言うことらしい。

 避けておきたい事ではあったが、ここまで”何かある”と思わされると要求を拒否することはできなかった。

 彼等は全てを話すことにした。

 【レヴォリューション9】のこと、そこでの日々、半月の間の逃走と出会い、危険なバイト、両親たちと最悪の激突、ドロシーの力を借りて再合流まで。この中でも、特に両親達との対決は説明するのに躊躇した。

 なにせ今現在もテレビで捜査していると報じられている事件は自分達が引き起こしたのである。それがたとえ、不可抗力だったとしても、だ。


 ドロシーはお茶を入れ、ジェシカは荷物を放り出したまま子供達の話すことを一生懸命聞いて、理解を示してくれた。


「そう、よくわかったわ。

 まずディアナ、貴方はそんなに気にしなくてもいいのよ。超人の使う力が強すぎて、時に酷いことが起こるのは知っている。でもね、怪我人は多いけど死人が出なかったことはあなたにとって、良くはないだろうけど最悪ってわけでもない。

 でも、今後は気をつけなくてはいけないわね。いまはそれだけ、集中しなさい。

 それとね、皆にはいっておかなくてはいけないわ。このまま国境を目指すのはやめなさい。ハッキリ言わせてもらうけど、無謀以外なにものでもないわ。

 あああ、ちょっと待って。最後まで言わせて。

 これは別にあなた達のせいとばかりはいえないのだけど。最近のTVが騒いでいるのは、少し前に起きた大統領の避暑地で起こった議員暗殺未遂、もとい襲撃事件がひきがねになっているの。

 それにどうも話を聞くと、あなた達は偶然その実行部隊と接触を持っていたのね。こうなると、運命を感じるわ。

 ああ、話が脱線した。

 とにかく、政府は自分達の機関【U.S.エージェント】が、政府に雇われた超人達に近いうちに出動命令が下ると言う噂があるの。これがもし本当だとすると、残念だけどあなた達はこのまま旅を続けるのは困難よ。

 あなた達は騒ぎを起こしていて、そして親御さんたちは追跡をまだ諦めていない。すぐに彼等の目に止まってしまうわ」

「……逃げられない、ということですか?」


 ルーベンの質問は感情が無い固い声だった。


「残念だけど、あなた達は見つかるのもふくめて2度接触している。このまま進路を変えなければ、すぐにあなた達の前にまたあらわれることになる。トラブルは確実、騒ぎになれば目を引いてしまう。

 それに、さっき言った事件で国境も今は警備が強化されている。書類などは偽造するつもりなのでしょうけど、それをつくるのも。それで国境を越えるのもリスクが高すぎる。危険すぎて自殺と変わらないとしか言えないわ」

「そ、それじゃ。政府のその機関に話すとか、協力するとかで保護して貰うとか」


 トニーの思いつきにもジェシカは暗い顔で返す。


「残念だけど、まったくお勧めできないわ。

 あなた達が育った組織のこともあるけど、この逃走劇の間であったことも悪い方に受け取られそう。

 実行部隊のところに忍び入った時、あなた方の親もそこにいたというでしょ?政府はそれを聞いたら、共犯ではないかと必ず疑ってくるわ。その後、あなた達が親御さんたちと激突したことも悪く取るかもしれない。『ものを知らない少年達が、浅はかにも重大な事件に関わったので逃げだしてきた。そして自分達は無実だと訴えて逃れようとしている』ってね」

「……それだけ、じゃないんでしょ?ジェシカさん」

「ああ、ヴィクター。あなたはもうわかっているんでしょうね。

 そうよ、多分それでは終わらない。あなた達の【技術】を彼等が着目しないはずはないわ。法律やマスコミを使ってあなた達を窒息寸前まで追い詰めるでしょう。そして最終的に【U.S.エージェント】へ参加することでチャラって話になると思う。

 こういう話しはね、多いの。司法取引でリクルートされるっていうのはね。全員ではないけれど、私の知り合いの何人かはそれで引っぱられていったわ」


 ジェシカの口から出てくる言葉はどれも衝撃的なことばかりであった。ヴィクターでさえ、最悪のシナリオとしてうっすらと描いていたものが、実は現実であるということを突きつけられたからだ。

 この時点で、彼等の”逃げ道はどこにもない”。そんな絶望的な気持ちに襲われかけていた。


「チクショウ、結局俺達にはいく場所なんてないってことか。運がねぇなぁ」

「あら、トニー。ちょっと待って、そんなことは誰も言ってないわよ?ここからが本番じゃない。

 ここでようやく私達は話を最初に戻せるのよ。聞いたでしょ?ドロシーがあなた達に『もうちょっとまって』って言って、私がここへ来た時に『間に合わないかと思った』って。

 子供達、そういうことなのよ。ドロシーはあなた達と私を出会わせるために助けたの。それがあなた達に”新しい逃げ道”を作りだせることだってわかっていたから。

 まぁ、確かに彼女は無口ではあったけれど。どうだろう、これで信用して貰えるかしら?」


 そういうとジェシカは肩をすくめ、その隣に座っていたドロシーはニッコリと笑みを浮かべる。なにがなんだかわからないが、きつねにばかされるようにこのまま全部話を聞けと言うことなのだろう。


ディアナはゴホゴホと咳をすると、改めて質問する。


「その……つまり、あたしたちはあきらめなくてもいいってこと?」

「ええ、その通り」

「国境以外の選択肢を、教えてもらえるんですか?」

「ええ、もちろん!」

「それは……どこですか?」

「ディアナ、はやる気持ちはわかるけど。ここはもうちょっと落ち着いて検証をしてからにしましょうよ。ここで私がいきなり言っても納得してくれないだろうし。あーでもない、こーでもないって言った後なら、同意して貰えると思うの」


 そういうとジェシカはドロシーにお茶のお代わりを要求した。



「さて、まず西海岸は無理っていうのはわかってもらえたわよね?

 続いて、あえてみんなは言わなかったけど北のCanadaを目指さなかったのも賢明だったわ。あそこは国境の向こうから来るトラブルに政府はうんざりしているの。もしなにかあったら、一発で強制送還されたでしょうね。

 東海岸は、私も思うにあなた達にとってベストの選択だったとは思うけど、確かにそれだけに目指さなかったのは良かったと思うわ。あそこはね、何もない人なら出入りが楽なんだけど、あなた達のようにちょっと事情というかトラブルの種を持っているのが近づこうとするのを嫌がる連中がいてね。邪魔してくる可能性があるのよ。

 あら、知らなかった?覚えておくといいわよ。あそこは自由の空気があるけれど、同時にちょっと変な人も多いの」


 次々と話を進めるジェシカに、子供達は黙って聞いていることしか出来ない。というか、段々とテストの採点をされているようなそんな変な気分にすらなってきた。


「さて、そういう事で南しかない。それも国境を超えるのは駄目。

 そうなると選択肢はこの近くに行ける大都市で、あなた達を保護してくれそうな場所を狙うしかない。

 まずはエメラルドシティね。この国で最低の治安を常に争う犯罪者の町。却下ね、マフィアにはなりたくないでしょ。

 次はグリーン・コースト。悪くはないけど、西海岸に近づきすぎるわ。これもダメ。

 パール・ヒルはどう?いいところよ、でものどかすぎてちょっと退屈ね。あなた達のことを煙たがるかもしれない、却下。

 フォレストタウン、いいわね。あそこには気骨のある連中も多いし。でも、ここからだとちょっとどころじゃない距離になるわね。南東方向にどこまでも突き進んでけばいいけど。多分、途中で待ち伏せとかもらいそう。これも駄目」


 次々と候補が上がり、却下されていくがジェシカの言っていることをしっかりと理解しているのはたぶん、ヴィクターくらいだろう。他の連中にすると「どこだ、それ?」とか「どっちにあったっけ?」の連続で、メガンに至っては頭を抱えて唸ってしまっている。

(そうなると、残っているのは……)

「それでね、みんな聞いて。私が思うにお勧めはこれ。アークシティ!、あそこが皆にはいいと思うの。ちょっとどころじゃない刺激に溢れたところだけど、同時に頼れる連中も多いわ。あなた達の出自に関しても、きっと理解してもらえるはずよ」


「いやよ!そんな所にはいかない、アークシティにだけは私はいかないから!」


 突然誰かがそう叫んだことで、皆が驚いた。

 それはとても感情的で、悲痛な思いのこもったものなだけに強く耳に残る拒否の声であった。

 そして、その声の主は他ならぬホークガールである。

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