転がる石
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「そうか……逃げられたのか」
町の残骸の中、近くのがれきに腰をおろしてうつむいているリメーン。そして回復したドブとボクストンの報告を聞いて、イゴーはボソッとつぶやいて見せた。
ジャンプゲートを開いて待機していたイゴーの元に、現場から救援要請が来たときはさすがに呆れてしまった。
これまでも、訓練場では自分達を満足させるような結果をだしてこなかった子供達相手にこの体たらくである。ここしばらく自分達が、世間では恐れられている犯罪者だとは思えなくなってきた、などと嘆いていたが、現場に来るとその認識は変わった。
ドブは倒れている妻を見てくれと慌てているし、そんな彼もボクストンとおなじでだいぶきつくやり返されたようだ。身体中が傷だらけである。
なによりも愉快で、不快なことが。今回の件で力を見せてもらえると期待していた、若手のリメーンも逃げられたことにショックを受けて座り込んでいたことだ。
(若造が、大口を叩いておいても1人も捕まえることができないなんてな)
まだ、彼を無能と断じるわけにはいかないが。失望と、嘲笑は避けられない状況だった。
「ドブ、奥さんはここまでだ。肩に穴をあけられているし。なにか電気系のショックを与えられたのだろう?ココは大事を取って入院させた方がいい」
それを聞くと、唸り声をあげたドブは。手近にあった車を激しく何度も叩きつぶし、最終的には真っ二つにさせた破片をまだかろうじて形を残している民家に向かって放り投げることで怒りを納めた。
彼は直情の男だ。相手の攻撃や衝撃を力に変え、自分の物とする超人だ。あまり褒められることの無い、無駄な行為だがそれは彼の優れた点でもあるのだ。
「そうか……逃げられたのか」
イゴーは呟く。そして、町から残骸の山になりかわってしまった辺りを見回した。
聞けば、突如として雷鳴がしたかとおもうと、竜巻があらわれて暴れ回ったらしい。ガソリンスタンドだけではない。この町に残された傷跡から、それが娘の起こしたことだとはっきりわかる。
そう、自分が何も教えようとはしなかった娘が、だ!
イゴーはその惨状を見て、自分の中に湧き上がる誇らしさや他の親たちへの優越感を感じる一方で。だれにも明かしてはこなかった、自分の娘への警戒心、危機感は正しかったのだと再確認した。
彼は娘を恐れていた。
それは彼女が才能があったからではない。彼女がもの覚えが良かったからでもない。
あの娘が作り上げた、自分の魔杖。それが問題だった。
彼女の場合は片方に刃があった。それは杖というより、槍の方が正しい気もするが。とにかくある日、彼は何の気なしに娘が作りだしたこの魔杖の刃に触れた。
別に素手でがっしりとつかんだわけではないし、すっと刃先を滑らせたわけでもなかった。
ただ、ほんの少し指先が触れた。それだけのことで、イゴーの指の3分の1が切られたのである。
まだ、満足に”魔法使い見習い”とも呼べない娘の生み出した杖の刃は、この段階ですでにこの切れ味である。もし、このまま訓練を施しては、いつの日か自分に逆らう時が来るのではないだろうか?
かつて、自分が師匠にしでかした行いを、娘が自分にするのではないか。その疑惑は、そう簡単に捨て去ることはできなかったのだ。
とにかく、ここにいても仕方がなかった。
彼等はイゴーを作りだしたゲートの中に、次々と入っていって姿を消していく。
今日は失敗してしまったが、それだけだ。追いついた以上、彼等をこのまま逃がしたりはしない。次は確実にしとめてみせる。彼等の今日の勝利は、大人である親達に十分な危機感を抱かせてしまったのだ。
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ドロシーはその朝、めずらしくスッキリと目が覚めた。
今年で84歳、こんな田舎だとこんなお婆ちゃん相手でも「おやおや、まだ若い」といってくれるのは、歩けて自活ができるから、という単純なことだろう。でも、きっとそれも十分に必要なことなのだ。
ベットの脇に立てかけた写真の中では10年前の自分が居て、夫が居る。体を壊してからは、なかなか厳しい毎日になれなかった頃。この夫に向かって自分が先に天に召されるからね、となんども悪態をついていた。だが、皮肉な話で夫が、彼の方が先に旅立ってしまった。
2歳年下の夫は、嵐の夜。車で出たきり戻らなかったのだ。車は見つかり、その近くの排水溝では彼が愛用していたフェルト帽があったがそれだけだった。だから彼の墓には本人の体は入っていない。帽子が入っているだけだ。
体をベットから起こす、本当に珍しい話でいつものようなまとってくる虚脱感などが一切感じない。正直、自分の寿命が来てしまったのではないか、それとも若返ってしまったかと思えるほどだ。不気味な話ではある。
この年になれば、その日の調子があまり良くないか、とてもよくないの間を行き来する日が続くのも不思議な話ではないのだ。こんな”何もない普通”な日は貴重である。
着替えるのを終えて階下へと降りると、居間を横切ろうとして……足を止めた。
自分しか住んでいないはずのこの家なのに、なぜだかダイニングテーブルの上の真ん中に、【自分の仕事道具】が置かれているのを見つけたからだ。タロットカード、運命をしめす78枚。
(……変ね、昨日、寝る前に出した?……そんな記憶はないけれども)
訝しく思いながらも、それを元の場所にしまおうと手に取る。すると、これまた珍しいことにぴぴぴっと脳裏にひらめくような、”あの感覚”が走った。
そういえば、友人が旅先から送ってくれたというティーセットが郵便事故とやらで3つほど先の町、メイラン・タウンにあってまだ送られていなかったのではないか?話を聞いた時は、会社の役員共は死ね、と呪いでもかけてやろうかと思ったが。こんなに体調が良いなら、今日はひさびさにドライブというのもいいだろう。
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「あの子らの合流ポイントはメイランタウンで間違いない」
トッシュの父。ロイド・スティーブンスことロックは皆を前にしてそう断言する。
周りの男達もそれに異議を唱えるものはいない。というより、いままでいた女性、つまり母親達は誰もそこにはいなかった。先日の一戦で、子供らが本気で抵抗を示し。彼等の手から一度は完璧にすり抜けていったことで、彼等も本気になったのである。
その証拠に、今回は私服姿ではなく戦闘スーツを、胸に【R9】と自分達の組織のロゴがはいったそれを身につけていた。
「彼等が我等から良く学んでいることは前回でわかった。しかし、それだけにそれ以上の事は出来ないのも事実。むこうもこちらの待ち伏せを予測しているだろうが、その対処までは用意していないだろう」
イゴーはそう言って自分の言にも同意を求めるが、今度はボクストンが否定してきた。
「いや、それはどうだろう?前回の事で子供達も経験を積んだ。以前と同じ甘い認識では、また逃げられてしまう」
「まさか!たしかに経験は積んだだろうよ。だからといって、その前からあの子供達が我等の予想を超える成長をしていたとは考えにくい」
「いや、わからねぇぞ」
今度は黙っていたドブまでボクストンに同調してきた。
「そもそも、だ。俺達の認識が甘かったとは言っても、あのよくわからないメスガキが1人増えていたくらいしか驚くことはなかったはずだ。だが、結果はどうだ?
妻は入院、俺は何度か地面に叩きつけられ、一度はベーコンみたいにカリカリにされそうになった。ボクストンもやられてる。なにより、イゴー。
あんたの娘は、俺達に向けて魔法を使ったんだぞ?あれがなければ、アンタの娘は捕まえられたはずだ。確か、あの時は自分の娘は何も出来ないと、そう言っていたな?
まさか、本当は使えるのを黙っていたとか。秘密にしていた、とでもいうのか?」
「つまらん詮索はよせ。あれには自分も驚いた」
小さな町だった。
だが、それを半壊させ、住人34人に怪我を負わせたあの力は。確かにイゴーには予想していなかったことだ。
「皆、気が立っている。落ちつくんだ。
この事で、もう半月以上もの間、面倒をこうむっているんだ。しょうがない。
だが、それも今回まで、だ。女達には別に動いてもらっているし、俺達は今日のうちにあの子らを回収しなくてはならなくなっている。
……リメーン、君が今回のリーダーだ。なにか、言いたい事でもあるんじゃないか?」
ロックは突然、話をきると。この席に居てじっと動くことなく、押し黙ったままの若者に水を向けた。
その当のリメーンだが、少し様子が変わっていた。
厭味ったらしいニタニタ笑いもなくなり、大口をたたくことも少なくなった。そのかわり、眉間には深い皺が出来ている。
「……ありがとう、ロック。
そういう…わけで……。ああ、えっと。
前回の田舎町を半壊させたせいで、政府がそろそろこちらの異変に気がつきかけている。皆さんの…奥方達には情報のかく乱を担当して貰っているが、いつまでも出来ることではない。
今日、皆さんにここに来てもらったのは……完璧な仕事をするためだ。そう、完璧にね。
あの連中が集結する前に、見つけだして叩く。それにもし……もし、抵抗すると言うなら。その時はその息の根を……」
「おい、ちょっと待て!なぜ殺すと言う話になっている?」
「それは……それは、覚悟の話ですよ。ここでも逃せば、政府や耳のいいお節介共がしゃしゃりでてくるかもしれないではありませんか。そうなる……そうなるくらいなら、それくらいするぞという気持ちで。そういうことです」
なにやら語尾に不穏な気配を漂わせながら、こわばった笑顔で語るリメーンに対し。男達は不信の目を向けていた。
この若者は、これまで十分な訓練とその実力を彼等にも示していたはずだった。だが、今回はどうも危なっかしいところが見え隠れしている。彼等の不安はゆっくりと疑惑を飛びこして不信の目へとかわりかけている。
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メイラン・タウン AM11:17
この町は思ったよりも最悪だ。ルーベンは素早く通りを確認しながら、この町に入ってからする何度目かの感想を脳内で思いっきり叫んだ。
同じような通りを、同じような家が立ち並んでいる。
隠れて移動する、なんてのはかえって見られたら不信がられるだけだし。そこを待ち構えているであろう、親達の前を胸を張って通り過ぎることもできない。
後ろを振り向くと、まだ顔色の悪いヴィクターとメガンがついてきている。
一応は最年長の彼は、いつもはだいたいメガンと行動するように意識していた。一番責任感があると言うのも理由だが、やはりこの娘は時々、突拍子もないことをしでかすことがあった。
この時も、それをするのだが弱っているヴィクターと周囲を気にして集中力を切らしてしまっていた。
「メガン?ルン、どうしようメガンがいない!?」
ヴィクターの声でルーベンもようやくあの一番若い、あの少女が姿を消していることに気がついた。
(馬鹿か!?周りばかり見て、肝心なことを忘れているなんて)
自分のうかつさを呪うがもう遅い。
やはり、長い逃亡生活とついに追いつかれてしまったという緊張が、彼等の体を。骨を削るような疲労となって苦しめていたのである。
「いた!ああ、まずい……」
「……っ!?」
ヴィクターの視線の先を追うと、確かにメガンがいる。
彼女は道路の脇にぽつんと立っている。中腰なのは何か理由があるのだろうが、こちらからはよくわからない。
ヴィクターに何が見えるのか聞こうとした、その時である。彼女は、メガンは突然道路に飛び出したのだ!
そこからは、世界が止まったかのようにスローに感じられた。
走り出すメガンの後ろ姿に驚いて、声をあげようとする2人だったが。メガンの横からかなりの速度を出したコンボイが突っこんできて小さな少女の体を吹き飛ばそうとする。
グワシャッ!
平和で静かな朝を過ごしていたメイラン・タウン中に、何かがひしゃげる強烈な音が鳴り響く。
その音を耳にしたのは町の住人達だけではない。 この町に来て合流しようとしていたディアナ達と、彼等を今日こそ取り押さえようと待ち構えていた親達の耳にもしっかりと届いていたのだ!
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「いたか?」
「いや……まだ見ていない」
「おかしいぞ、こんなに見て回っているのに。誰一人として見つからない!」
ドブとボクストンは、お互いの成果を確認し合い。いら立っていた。
メイラン・タウンもまた。言ってしまえば小さな田舎町である。申し訳程度に住居があって、そこにいる人間の為の店がちょいちょいとある。そんな場所でしかない。
ここに入った【レヴォリューション9】の男達は、分散して子供の姿を探して回っていた。
そんなしかめっ面の2人を見つけ、ロックが近づいて聞いてきた。
「どうだ?」
「駄目だ、そっちは?」
「イゴーとはさっき会った。また回ってくるそうだ。(自分も)この後、そうするつもりだ」
「なぁ……子供達はここには来ていない、そんなことが考えられるか?}
ドブの不安そうな言葉に、ロックはすぐさま否定の意を示す。
「ないだろうな。あの子らに与えた知識は、我々の教えたものだ。それを全て投げ出して、物事に当たるというのは考えにくい。ここだって、もしもの時はということで確実に選んでいるはずだ」
「しかし……」
「はぁ……こんなことをいうのもな。まったく根拠がないわけではないんだ。……実は、ハッキリとは断言できないから、だまっていたかったんだが……さっき、自分の息子を見つけた。そう思った」
「?」
「どういうことだ?」
ロックのいい方が要領得なくて、2人は聞き返した。
「この町の……ここからだと北西の方角になるか。そこにあった商店街で、トッシュ……トニーを見た、と思ったんだ。
服は見たことないものだったし、正面から顔をしっかりと見たわけでもない。荷物を背負って1人で歩く、子供の後ろ姿を見た気がした」
「それでっ!?」
「もちろん、後を追ったさ。だが、ほら。あれだよ、先程の大きな音が住宅街からしただろう」
「ああ、トラックの事故だったようだな」
「あの若造、リメーンだったか。あれが見てくると言ってた。あれに気を取られている間に、姿を見失ってしまったんだ」
「そうか……」
「だから言ったろう!確信はない、と。
だがな、あれがもし本人だと考えるなら。こちらが居るのを察して姿を隠しているのだろう」
「だが、そうはいってもこんな開けた場所では。隠れるにも苦労するのではないか?」
「その通りだな。とにかく、できるだけ探してみよう。もしもの時は、イゴーも魔法で位置情報を探ってもいいと言っているし」
「いやぁ、ロック。それはどうかな?」
「俺も同感だ。やめておいた方がいい。町の話じゃ、例の前回の町の半壊騒ぎについて噂していた。外から来た見知らぬ連中が集まって、おかしなところをしていると見られたら、余計なトラブルになるかもしれない」
「……そうか」
そう言ってため息をつくと、2人の顔を見て
「そうだ。この後リメーンのヤツを見かけたら、気をつけてくれ」
「どうした?なにかあるのか?」
「あの若造。何か様子がおかしかったが、最後にあった時。例の車騒ぎの所を見に行くと言っていた時だ。空から見下ろせば確実だ、とかいっていたんだ」
「なんだって!?」
「もちろん止めたさ。こんな田舎町で、宙空から睥睨している奴がいたら。誰だって怪しむし、怯えて通報もする」
「……若造は言うことを聞かない、と?」
「どうだろう。なにやらここ数日、おかしな態度だったからな。馬鹿を分かっていてもしでかすかもしれん。注意しないと」
彼等は情報を確認し合うと、再び別れていく。だが、結局の話。なにも得るものはなかった。
太陽が天頂を通って傾く頃、彼等は再び集合すると、ついに我慢が出来なくなって街中にいるにもかかわらず、イゴーの魔法で子供らの位置を知ろうとした。
結果は「もうここには、いない」それは、彼等が既に合流を果たし、この町を後にしたと言う意味になる。
それを見てボクストンとロックは無言だった。ドブは怒りの声をあげ、イゴーは「そんな馬鹿な」を繰り返した。
そして、リメーンは笑っていた。ただ、その笑いはどこかひきつったような、神経質なものに見られ。彼の中で激しい葛藤が行われているのは容易に想像ができた。
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時間を数時間ほど時計の針を戻さなくてはならない。
ドロシーはメイラン・タウンの郵便局に入ると手早く荷物を受け取った。
ひどく面倒をかけてくれたものだから、本当ならば嫌みの1つや2つも言っておきたいが。彼女はあえてなにも言わずに淡々と作業を終えると、乗ってきた車へと荷物を持って帰ってくる。
彼女は車のドアを開ける。助手席にはドロシーが持ってきた彼女の帽子。真っ赤なカウボーイハットをかぶって、年老いた彼女の猫を抱いていたメガンが居た。
「メガンちゃん。待ってる間、なにかあった?」
「ううん、ないよ」
猫を片手で抱き、空いた手で喉をさすってゴロゴロさせている。
「そう。じゃ、町を出るまでは、あなたもそこで顔を低くしていなさい」
そう言いながら、エンジンをかけた。
シートで覆って隠している荷台には、メガンの友人達が所狭しと身を潜めているはずだ。今の声は彼等にも気超えているだろうし、意図することもわかってるはずだ。
なんだか、おかしなことになってしまったけれど。久しぶりにドキドキすることなのは間違いない。
("新しい出会い"、確かにあったわね)
ふと、フロントガラスに置かれたカードを……出かける際に山から一枚だけ抜き出したそれを見る。
そこには、魔術師が描かれていた。
今回は悩みました。
この分量で3度、書き直したのです。嫌になってしまいましたね。
結果、お茶を濁したかのような薄味になってしまいましたが仕方ありません。当初は、ドキドキの2度目の隠密ミッションという展開にしようと試みたのですが。前回の潜入以上のドキドキ感がまったくでないのであきらめてこのような形で落ち着くことになりました。子供と婆ちゃんの視点ではどうにも話が広がりませんでした。困った、困った。
ゆるんでしまった分はこの後の展開で巻き返したいな、と思っております。




