限界寸前
よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。
視点が行ったり来たりさせてしまったので大変なことになってしまったなぁ、というのが読み直して思うこと。
「もういいのか、メガン?」
「うん」
ルーベンがメガンに聞く声で、ヴィクターはうっすらと右目を開ける。
左目のまぶたには、まったく力が入らなかった。
見ると、満天の星空の下。荒野の中にある岩陰で火を起こしているのがわかる。
自分はどうやら寝てしまっていたらしい。
(そうか、とにかく”自分達は逃げられた”んだ。他のみんなも大丈夫だといいが)
ヴィクターの脳裏に、あの時の情景が再び蘇る。
「頑張れ、兄弟。皆を守ってくれよ」
そう言うとヴィクターは自分の体の中を駆け巡る、血液に集中するようにした。ばくん、ばくんと心臓を何度も巡る感覚はどこか不快感が伴うが、同時にトニーの手首をつかむ彼の手が燃えるようにカッと熱くなる。
「すごい、なにこれ」
ホークガールは、自分の目の前で起きていることに驚いて目を丸くしていた。
皮膚は焼けただれ、真っ黒な部分も見えていたトニーの手の色が真っ赤になる。そして、ピキピキとかパキパキというなにかが裂けるような、砕けるような音が聞こえてくる。
よく見るとそれはただれ落ちた皮膚が硬化し。次々と勝手に手からはがれおちていくのがわかる。
その間に、ディアナはルンとメガンになにやら話して聞かせている。合流に向けての打ち合わせだろうか?
「ああ、マズイ。モリモリマッチョなのが奥さんじゃなくて、こっちを凄い顔で見てるよ!」
ホークガールが外を覗いて説明を続ける。実際、ドブはまたなにやら叫んでいるのが聞こえるが何を言っているのかまでは分からない。まぁ、どうせ口汚く子供らを罵っているであろうことだけは予想がつく。
時間は残り少なかった。
「も、もういい。ヴィクター」
「……」
「メガン!メガン、俺の手からヴィクターをはがせ!離れたらすぐに連れていけ、ルーベンと行くんだ」
メガンが慌ててヴィクターに飛びつくと、力一杯手首を握っているその指を無理矢理一本一本指をはがしていく。
同時に、トニーの掌の中に赤い光が灯る。なんと力が戻ってきたようだ。
「メガン!こっちだ、ヴィクターを連れてこい」
裏の出口の前に立つディアナとルーベンが呼ぶと、メガンは小さな体の秘められた怪力でもってひょいとヴィクターを肩の上に抱えあげ、駆け足で向かう。
同時に、雄たけびをあげたドブが怒りの表情で窓ガラスを破りながら店内に突入してきた。
「このガキ共っ!!」
「お前は出ていけっ!」
物陰から飛び出したトニーも負けじと怒鳴り返しながら、復活したばかりの両の掌をドブへと向ける。そこから放たれる炎と衝撃は、簡単に巨体のドブを吹き飛ばすと、相変わらず炎の柱を囂々と燃えあがらせるそこへと突っ込んでいく。
「来るなら来いよっ!絶対にお前等には捕まらない!」
トニーは怒りの咆哮をあげ。その後ろにディアナとホークガールがつく。
一方、そとではゆっくりとリメーンが現場へと舞い戻ってきていた。
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メガンはヴィクターの側に行って少ししつこいくらいに食事を勧めると、ヴィクターは3口ほどは我慢して飲み込んだが、その後すぐに眠ってしまう。
(よくないんだ)
肩を落として皿を持ってくるメガンにルーべンは励ますようにいった。
「明日はみんなと合流する。今日はこれで眠ろう」
「うん」
寝袋に入って、空を見上げる。
暗い夜がまるで自分達を押しつぶしにかかってるような、そんな感覚を覚える。
色々あって、なんとか皆でやってこれた。そう思っていた。
だが、たった一度。親達に、それも数人に見つかっただけで自分達はあっさりとボロボロにされてしまった。
もう一度、会ってしまったら。次も自分達は逃げ切れるチャンスがあるのだろうか?
不安に眠れぬ夜を過ごすのは、彼らだけではなかった。
場所を離れ、この大空の下を1人。闇の中で眠る少年が居た。
トッシュ・スティーブンスこと、トニーである。
彼は空に自分の掌をかざしてみた。自分が間抜けだったせいで、あの時ヴィクターによって”修復”された手だ。
ヴィクターとは同じ日に生まれ、兄弟のように育ってきた。
その彼が言ったのだ。皆を守ってくれ、と。だからこそ、自分はそれをしなくてはいけないのだ。
だが、あの男1人を相手にしたとしても。そんなことができるのだろうか?
「こなくそがっ!」
今度はトニーの掌から雷がボール状になって飛び出し、リメーンへと向かっていく。直前のホークガールの矢を、片手に掲げることで防いだ車を、今度は紙でできているかのようにポイっと放り投げてぶつけてきた。
雷の球は車にぶつかると、火花と鉄が焼ける匂いを振りまいた。その刺激臭に、さらにいっそう顔を歪める。
「まだ終わりではないぞっ」
リメーンそう叫ぶと、落ちてきた車が着地するとその身体に蹴りを叩き込む。
メガンがするような怪力で押したとはとても見えなかったが、ただそれだけでリメーンに蹴飛ばされた車はまた氷の上をすべるように加速しながら地面を滑って加速してきた。
ディアナはそれを見ると、冷静に杖で2度地面を叩いてジャンプゲートを車の前に出現させる。
その穴の中へ車は吸い込まれていくのをみて、リメーンは慌てて今いる場所から飛びのいた。その直後、真上から滑っていってゲートの中に吸い込まれたはずの車が落下してくる。
「やるではないか、非力なりに貴様等はよく頑張っているぞ」
リメーンの顔には、汗があったがそこにある余裕はまったく消えていなかった。
(くそっ、くそっ。ヴィクターが作ってくれたチャンスなんだぞ!?これじゃダメなんだ)
トニーは悔しかった。
得意のファイヤーボールも、サンダ―ボールもこいつの体に届く前に防がれてしまい。まったくといっていいほど直撃させることができる気がしないでいた。
あと、残るは凍らせるためのフリーズボールがあるが。近くでガソリンがボーボーと燃えあがっている。使えるわけがなかった。
「トニー、時間よ。撤退して」
驚いて振り向いた。ホークガールが矢を放つとなりで、ディアナがトニーを見ていた。
そして、もう一度繰り返す「撤退して」、と。
本当はそんなことしたくなかった。ふざけるな、まだおわりじゃないとあの場所にいた時のように、これまでいつもやっていたようにごねて戦闘を続けることもできた。だが、今のトニーはそうはしないことに彼は決めていた。
「わかった」
そう答えると、かれはリメーンの方へと向き直る。
後一撃、これだけはやって見せなくてはいけない。彼は両手をつきだし、そこから徐々に両の掌を合わせようとしながら意識を集中させる。
(風だ、刃となるほどの鋭利な風)
イメージはそのまま。すると、両の掌からこれまでにない感覚が満ちてくるのを感じる。
そして相手の顔をじっくりと観察する。あの顔、ムカつく薄笑いを浮かべたあの余裕の表情を、今からグチャグチャにしてやるからな。
他の時と違い、掌には感覚はなかった。しかし、確信として”それ”は間違いなく発射されたことを理解した。
リメーンは突然、自分の顔の左半分に強く引っ張られるような違和感を感じる。続いて、バッと血が飛び散ったのがわかった。あわてて、頬に手をやると、鋭い刃できりつけられたような一文字の傷から血が流れていた。
(あいつがやったのか!?)
リメーンは驚きと共にトニーを見ようとして、見ようとして……そこにいないことに気がついた。
なんと、彼はリメーンの異変を見て取ると。一目散に彼の横を通り抜け、ガソリンスタンドの表から町を横切って走っていた。
まさか、自分の目の前を横切って走り抜けていかれたとは思わなくて。探したあげくに見たのは、遠くの家の裏に身を躍らせて姿を消していくトニーの後ろ姿だけであった。
逃げるのか―!?
思わず叫んだリメーンの言葉は、どこか滑稽なものであった。
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ディアナにだって、”年頃”のころには父親との関係で大いに悩んだものである。
イゴー・バーン、彼は娘に対してなにかにつけ「~が足りない」と口にしていた。
こんなことがあった。
【レヴォリューション9】では子供達にチームプレイを学ばせようとして、合同訓練が季節ごとに何回かおこなわれていた。
イゴーはそこでは必ずディアナに殿(しんがり、最後尾の事)を務めさせた。
だが、そのせいでチームは毎回惨敗。当然だろう、戦闘で力を合わせて勝つことは何回かはあったが、追撃をくらうとディアナにはそれを押し止める力はなかったからだ。
だから当然のように、ディアナは自分の役割について文句を言う。
すると父は「お前は思慮が足りない」というと、魔法使いが追撃してくる存在をおさえるのに最適であることを説明し。
ディアナは父が自分に満足に魔法を教えてくれないと文句を言うと。今度は「お前は修行が足りない」といって、その考え方と未熟さをたしなめ。
ディアナがそれなら勝手に自分で試してやる、というと。最後に「お前は教えを学ぶ姿勢すらわかっていない」と嘆いて見せるだけであった。
そんな父に、娘はどう接すればいいと言うのか。
そんな彼女にも1つの決断を下す時が来た。
大人達に囲まれ、分散しての撤退で、ホークガールが一緒ではあったが。それでもディアナは自分で最後まで残ることを選んだ。そして、トニーはいつもとちがった決断をし、目の前で自分の新しい可能性を見せてくれた。
皆がこの町から無事に脱出するには、今こそ彼女の可能性を試す時なのかもしれない。
走り去るトニーの後ろ姿に吠えているリメーンに対し、ホークガールが続けて2射放ってけん制する。頭に血がのぼるのは構わないが、あのままトニーの後を追われては困る。
「ねぇ、次は私達の番だよ。引くタイミング、教えてね」
「わかった」
ありがたいことだった。ホークガールはこちらの指揮に従ってくれるという。彼女の信頼を感じる。
だからこそ、”今回だけ”はディアナには失敗が許されなかった。
(魔法を、”本物の魔法”を使わないとダメ。あたしのジャンプゲートだけだと追いつかれてしまう。やるしかないんだ!)
最後にトニーが見せたもの、あれは風を使ったのだと推測した。
そう、風だ。
ディアナは空を見上げる。晴れ渡る青空ではない、薄めの雲で覆い隠されているが、水の気配をかんじないのであめにはならないだろう。
「ホークガール、時間を頂戴。やれることをやったら、その後で行くから」
「了解」
そう答えると、彼女は前に飛び出していった。
(風、雲、雨……嵐、そこまでいけば合格よね?)
そう結論を出すと、ディアナは自分の魔杖にもたれるようにして膝をつき、目をつぶる。
気象を変える、天候を変化させるのだ。簡単なことではないが。
心の中でイメージを作る。テレビで見た、海岸線を直撃する嵐の映像や、台風が通り過ぎた後の町の被害等を頭の中に映し出していく。念じるのだ、それを実現させなくてはならないのだ。
「…ゴウ、モトク、アン、バショ―、ハレ……」
いつからだろうか、口から勝手に言葉が漏れていた。それが魔法の言葉だとわかったのは、自分のその言葉に怪しげな魔力の匂いをかぐことができたからだ。
(よし、できそう。やってやる、やってみせる!)
そのことに勇気づけられ、彼女は躊躇うことなく、自分の作業を続ける。
リメーンはコンクリートの塊を拾い上げると、それがまるで発泡スチロールかというくらいアッサリ持ち上げて放り投げる。
ホークガールは横転に側転を混ぜてそれを回避しながら、回転中に曲芸よろしく器用に矢を放って見せる。
「直撃も、受け止めるのも。もうごめんだな」
リメーンはそう口にすると、絶妙に飛んでくる矢の軌道を読むと間に今度は落ちていた看板を突きだす。矢はそれに刺さるが、貫く前に矢じりが光るとパキパキと音を立てて凍りつきはじめた。
「貴様、面白い矢を使っているな。それに似たものを使う奴等を知っているぞ」
「……」
「先日、東海岸で暴れた時だ。貴様とは違うが、マスクをした女の弓使いが居た。名前はアルテミスといったか、ちょうどこんなような矢で攻撃された。知り合いか?」
「……知らない。でも、話だけ聞いたら気が合いそう。会った時の話題になるよう、あんたの肩に穴をあけてやるわ」
気のせいであったか。だが、このような武器があちこちで売られているとも思えなかった。
ゴロゴロ
突然、雷音が鳴り響いて驚いた。
2人は思わず、空を見上げる。
雲は厚くなったようには見えないし、雨が降りそうな気配もない。そのかわり、かなり強めの風が出てきた気がする。
人口が200人ほどしかいないであろう、この田舎町を怪しい空気が覆い始めていた。
ホークガールは、背後から聞こえる男女の悲鳴を無視したまま大急ぎで戻ってきた。
その顔はサングラスで判別は難しかったが、興奮しているのか頬が紅潮している。
「ディー、やったね!大成功、大騒ぎになってる。脱出するんでしょ?」
実際に直前に自分が見たものは、この友人がやったのだと思っていた。
だから、ディアナが魔杖にもたれかかるようにして膝をつき、ボーゼントしているのを見て混乱した。なぜ、そんな顔をするの?
「違う、違うの……そうじゃない。これは…こんなはずじゃ」
ホークガールを見上げる彼女の目は弱々しく、言っている言葉も要領を得ない。
「落ちついて、ディアナ。あなたがやったの、やったんでしょ?」
「ええ、そう。そうよ、あたしがやった」
「なら安心して、外は大混乱。逃げるなら今がチャンス」
だが、ディアナは首を振ると違うんだと繰り返してばかりいる。
「違うの、出来れば嵐を呼ぼうって。とにかく雨とか風があればって、そう思ったの」
「え?」
「だから違う、あんなことを”望んではいなかった!”」
「じゃあ、それじゃあディアナ。外のあれは……あの”竜巻”はあなたの意志ではないってこと!?」
突如、リメーン達の後方にあらわれた竜巻は、彼等を追いかけるようにして前の道路を動きまわっていた。
舞いあがる風の激流に、時折炎の柱が混ざり合っている様は、それに意志があるのではないかという気にもなる。
だが、信じたくないが。ディアナによればあれは予定されていたものではなかったのだと言う。
「あの竜巻、あれはこの後どうなるの?」
「わからない!最初は全部、うまく運んでいたの。力が膨れ上がって、魔力の言葉で紡げて”つながり”をつくりあげていっていた。成功するとばかり思ってた!
でも、突然”つながり”からあたしは弾き飛ばされてしまった。そしたら、そうしたら”あれ”があらわれて……」
ディアナの言っていることはさっぱり分からなかったが、わかったこともあった。
ホークガールはディアナの腕を取ると立たせる。そして出来るだけ強い調子で断言した。
「ディー。ディアナ、聞いてちょうだい。これから脱出するわ。ついてきて」
「でも……外が」
「そうね。でも、”あなたはコントロールできない”。そういうことなんでしょ?なら、私達ができることはひとつしかない。捕まれば皆が危険になる。そうでしょ?」
「そ、そうだけど」
「”それが必要なこと”なのよ。ここには長居はできない。逃げなくちゃいけない。
……ディアナ。あの竜巻は凄い勢いがある。きっと、町にも被害を出すわ。人も傷つけるでしょう。駄目よ!今は泣いちゃいけない。後悔するのも、泣きわめくのも、めい一杯落ち込むのもいいけど、それは後にして。その時は私も一緒に居てあげるから」
そう言い切ると、目の端に涙を浮かべているディアナの手を取って走りだした。
2人が町の外へ駆けだす頃には、竜巻は人の住む住宅の屋根を吹き飛ばし、破壊の限りを尽くしていた。
その狂暴な力で持って、バリバリと音を立てて町を破壊する音を背に、そこに押し殺したディアナの泣き声が混ざっていたが。ホークガールは走ることをやめようとはせず、後ろを振り向くこともなかった。
▼▼▼▼▼
ディアナとホークガールもまた、この夜の下にいた。
彼女達は無言でただ、囲んでいる火がはぜる音を聞き、揺らめく炎を見つめていた。
沈黙に耐えられなくなったのか、ホークガールがボソボソと口を開く。
「明日は、合流ね。大丈夫かな?」
「ええ。あたし達が最後……町を出た時、”だれも追いかけてこなかった”から大丈夫なはずよ」
「それにしては暗い」
「……むこうは、あそこからあたし達がどう立ち去ったのかはわかっているはず。追いつかれた以上、この後のこっちの動きは予想されてしまう。だって、これを教えてくれたのはあの人達だから」
ディアナはもう、親のことを”むこう”とか”あの人”としか呼ばなくなっていた。
あの戦いは、彼女の中のなにかをまた一つ破壊したのかもしれない。
「じゃ、またぶつかる?」
「可能性は高いわ。いない方がむしろ驚き……ホークガール、逃げるなら今よ。あなたの事をしられてしまった。もし次が……」
「次も逃げるよ!出来るって。ホラ、私達意外に息があったじゃない。チームプレーってのも悪くないなって思ったよ」
彼女の友情に自分は何を言えばいいのかわからなかった。だから、せめて感謝を伝えたくて笑顔を見せようとしたがあまりうまく言ったとはいえなかったようだ。
ホークガールは黙って、ディアナの隣に移動してくると2人は寄り添った。
その姿勢のまま、2人はボーっと燃え続ける焚火を見つめている。明日の事で不安が無いわけではない。
だが、そんなことよりも。ディアナは”自分があの場所でしでかしてしまったこと”が恐ろしくて、忘れられなくてどうしていいかわからなかったのだ。
だって、あんなことになるとは全くの想定外のことだったのだから。




