誤算と彼女
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翌朝、午前10時を回った頃。
【レヴォリューション9】の居住地に住む大人達はようやく子供達のしでかした事を認識した。
つまり、”可愛い子供達”は家出をしたのだ、と。
続いて始まったのは、怒りと羞恥心を隠すためにお互いの気の緩みを非難することであった。
真っ先に責められたのはモリスン夫妻である。
あの日、子供部屋でトッシュが言い放った宣言を大人達は把握していた。当然である、彼等は自分達の次代を担うに足る才能を持って生まれた子供達だ。
【ハイブリッド】な力を持つ超人達の誕生は【教典】の教えが示す未来に必要な存在である。
小一時間の言い争いが続く中、それでも冷静さを保っていた少数が粛々と捜査の手を広げていく。そして、昼時にはだいたいのことについて把握できた。
情報は以下の通り。
まず、16歳のルーベン以下。5人全員が消えていた。
さらに彼等は服を始めとしたいくつかの装備を巧妙に持ちだしていた事。どうやって探りだしたのか、知ったのか。施設の隠し金庫からもまとまった金額が持ち出されていたのである。
だが、これらはそれほど大したことではない。
彼等が何よりも怒りを感じたのは、この家出が衝動的なものなどではなく。計画的なものだとわかったからだ。
それを裏付ける要素はいくつもあった。用意周到な準備……金庫の暗証番号が破られていたことや、昨夜のセキュリティになんの異常も検出されなかったこと、彼等がいつも遊んでいた子供部屋の中央にコレ見よがしにブロックや人形の山に埋められたあきらかに爆弾と思われるものが残されていっていること。
これは彼等からのメッセージに他ならなかった。
そう子供達は家族を、組織にもう戻らないという宣言に他ならない!
「どうだ、解除できそうか?」
「難しいな。よくできてるよ。爆弾の製造の授業は良かったようだ。色々とアイデアをあちこちに駆使して使っている」
子供達の置き土産を前に、大人達はおかしな感心の仕方をしていた。
「ここにあったカメラには、本当に何も映っていなかったのか?」
「ミラが警備システムを点検しているが、あっちも色々と巧妙に仕掛けてあったらしい。この部屋にある全てのカメラに写った映像は、24時間前からこいつがこの部屋の真ん中にでんと置かれていたってさ。
信じられるか?そうなると昨日、あの子らはコイツを前にしてバスケットをしていた事になる」
「本当か?」
「馬鹿、違うに決まっているだろ。前もって用意した映像をコンピューターに合成させるように指示を出していたんだ。やられたよ、金庫はわざと乱暴にあけたようにみせようと偽装されていたし。あの子らがココからいつでていったのか、見当もつかない。念のため、支部の方には連絡を送って援軍をだしてもらえるように言っておいたそうだ」
「何を弱気になっている、相手はまだ子供だぞ?」
「どうかな?あの子らの中でもヴィクターは昔からイタズラをする時はトニーと組んで大暴れしていた。あの中じゃ一番有望な奴だ。そいつが仲間を使って今回の計画を実行したとすれば気を抜いていると手こずるかもしれん」
「ハッ、あいつ等はガキだ。どいつもこいつも頭のカチ割り方も知らない半人前だぞ?買いかぶりすぎさ」
そう言うと、突いていた文字盤の下から青と赤と黄色のコードを引っ張り出した。
「これか?」
「ああ、このどれかが本物で後は偽物、だと思う。どれだ?」
疑問に答える声は……彼らとはまったく違うところから告げられた!
「そんなこともわからんのですか!?」
突然、部屋の入り口からバカにするような、哀れむような視線と言葉が飛んできて爆弾とにらめっこしていた2人の大人は振り返る。
「お前は?」
「どうも、はじめまして。
私の名前は【リメーン】。あなた達の言葉を借りれば、【支部の子供】ってやつですよ、連絡を貰ったので来ました。
なんでも私の”未来の部下達”がそろって逃げだしたそうですね?まったく、自分達の運命を受け入れられずに逃げ出すとは、餓鬼共は世の中の厳しさを知らない。わかろうとすらしない。
家族の期待に背くばかりか、捨てるなんてことがいかに許されない行為か”しっかりと”教えてやらなくちゃいけない。
というわけで、さっさとそんなもの終わらせて探すのですよ」
大人達は突然現れた二十歳前後のこの若者の存在に困惑して動くのも声を出すのも躊躇っている。そんな彼らにリメーンは
「だからいったでしょ?
その3本のコードは全部偽物です。何をやっても爆発しますよ。しかし、心配はいりません。どうせ……」
そう言ってリメーンと名乗ったこの超人の若者は子供部屋の中をニタニタと笑いながら見回す。
「この部屋を吹き飛ばす程度の爆薬しか用意されてないはずですよ。餓鬼共らしい甘さだ。基地を丸ごとフッ飛ばすんじゃないかと言う親達の不安につけ入ろうとしているのです」
それだけ答えると、彼はさっと身をひるがえして部屋を出ていってしまう。
リメーン、子供達の”未来のリーダー”を自任するこの若者の目は、時間と距離を稼ごうとしている子供達の背中に向けられていた。
▼▼▼▼▼
最初の大きなトラブルは、家出してから5日目の事だった。
ヴィクターの計画に沿って、一行はマザーベースから200キロ近く距離を稼いでいた。
だが、問題は後ろからではなくすぐ側でおこった。
一行の最年少、11歳のメガン・ヒルである。
彼女の超人としての力は正確には分かっていない。成長期の入り口にいる今、ハッキリとその力が形になるのは、まだ少し先の話になる。
そんな彼女の能力ではっきりと分かっていることと言えば、爆発的な怪力と瞬発力を持っているということである。彼女は彼女なりにこれまで皆の足を引っ張らないようにと頑張ってはいたのだが、ここに来て彼女の不安定な力が問題になったのである。
食事量である。
力の発現がまだしっかりとしていない彼女は燃費がとても悪い。成長期ということも関係しているのだろうが、とにかくよく食べたし。食べなければ長時間力を使った時のように動けなくなって眠ってしまう。だからといって彼女が満足するようなやり方は財布に厳しいのだ。
そんなわけもあって、メガンの食事量を昨日から減らした結果、移動距離がガクンと落ちてきてしまったのである。大変な問題である。
今は、地図では文字が小さすぎて読む気も起きない名前の小さな町(どうせ後数時間で出ていくし)のダイナーにいた。
だが、この問題は距離だけではすまない。この中でメガンのような元気娘が暗くしていると、自然雰囲気も悪くなる。それはメガンを除く4人が、明るく前向きな性格だとはお世辞にも言えないことも原因だった。自然と空気は重くなる。
「メガン、大丈夫?」
「大丈夫。心配ないよ」
ディアナの問いに少女はすぐに答えるが、やはり元気がない。
一応食べているので餓えるなんてことはないが、マザーベースに居た時は人の何倍も食べていた娘である。
移動距離の低下と精神的圧力、士気の低下は逃亡中の彼等を焦らせミスを引き起こすことになる。早くも彼らの家出は正念場を迎えようとしているように感じられた。
「それじゃ……ヴィクター。説明を」
「わかった。この地図を見てくれ。ここが出発した場所。そこからこんな感じで南東へ……正確に言うと南南東に大陸を降りてきている」
「この後はどうするのさ?」
「……トニーいい質問だ、そしてそれが問題だ。明後日の夕方まで最初のペースを維持できれば、そこから東に進路を切り替えるつもりだった」
「東海岸へ向かうのか?」
「そのつもり、だった。だが、今の調子だと難しい。
これをなんとかしようという事になるとこれまでにない移動方法を……(小声)今から車を調達できたとしても、元の計画通りには進めなくなっている。正直言ってかなりヤバい」
「くっそ……いっ!?」
トッシュこと、トニーがまた余計な愚痴を吐き出す前に。ヴィクターが肘で、ルーベンが腿に拳を、体面に座るディアナが足を蹴飛ばしたので「いてー」と口にするだけであった。
もし、彼等が全力で止めていなかったら。元気をなくしているメガンについて余計なことを口にしていたのは明らかだった。
「……だったら、どうする?」
「一番まずいのは、移動を止めることだ。追っ手は間違いなく近づいてきてる。そう簡単に諦めるわけないしね。僕らは組織の大切な未来なんだから。
とにかく、今はとにかく少しでも距離を稼がないと…………けど、金だって潤沢にあるわけじゃないし。どこかで働かないといけないかも」
あえて口にはしなかったが、ヴィクターはここでは黙っていた。そう、ついに自分達は親たちから逃げるために犯罪に手を出すと言う道について考えるということを。
「そうなると… 留まることができるくらいの大きな町に行く必要があるってことよね?」
「ああ。最初にL.A.に行こうって考えていたのも、あの辺りならヒーロー活動をしている超人も多いし、人に紛れて暮らすのも楽だから」
「じゃあ、そこに行くのか?」
「いや、だからトニー。東は無理だって話しているんだよ。それに、追っ手も僕らの後姿か影はもう捕えているはずさ。L.A.に向かっていると向こうがわかった時に、僕らは町に入っていないと、追いつかれてしまうよ。だから東にはいけない、このまま南にいくしかない」
「そうなると…………どうなるの?」
「ざっと見た感じ、メトロタウン。グリーン・コーストとか、エメラルド・シティとか」
「ブブー。おい、今上がった中には犯罪都市で有名なヤバいところも入ってたみたいだけど?」
トニーがまたも憎まれ口を叩く。しかし、今回は注文した食事を運んできたウェイトレスのおかげでお仕置きは免れた。そのせいなのか、5人は無言のまま食事を済ませた。
そんな、ちょっと自分達の未来に暗い気分になっている彼等の前で事件は起こった。
「みんな、動くんじゃない強盗だぞ!」
突然、なんの前触れも無くダイナーの中に声が響いた。慌てて皆が目を向けると、先程まで入口側の席で向かいあってイチャイチャしていた若いカップルが、銃を取り出し机の上で立ち上がって口汚く叫んでいた。
「ぴくりとでも動いてみな。ここの床に脳味噌ぶちまけてやるからね!」
油断なく銃を構えている女はびっくりするほど汚い言葉で叫んでいる。
「まずい、強盗だ」
「なに落ち着いて解説してるんだよ、ルン。見りゃわかるし、自己紹介は向こうがしたのを見たろっ」
「やめなさい、2人とも」
小声だが場をわきまえずに口喧嘩をはじめそうなトニーとルーベンをディアナが止め、ヴィクターは油断なく鋭い視線を強盗達に向ける。
「……女の方が袋で財布を集めて回る気だ。困ったな」
「そりゃ困るよな、ヴィクター。俺達は金持ちじゃないし、取られたら終わりだぞ」
「落ちつきなさいって。うるさいからキャンキャン吠えないでよ」
「アアン!?」
「静かにっ。トニー、落ちつけ。騒いで目立つ気か?暴れたいならもう少し我慢しろ」
ヴィクターの言うとおり、女強盗は大きめの布袋を手に銃をもう片方の手で振り回しながら、席をめぐって財布をその中に入れるように要求しているのが見えた。それほど時間がかからずに、ここにもくるだろう。
「……それでどうする?必要なら、鋼鉄化して1人でも対処できると思う」
ルーベンはさっそく反撃の計画を口にしたが、ヴィクターはそれを却下する。
「ダメだよ、ルン。あいつらが超人だと驚いて撃ちまくったら不味い。怪我人じゃ済まないかも。やるなら全員で一気にやるしかない」
「だよな。流石だぜ兄弟」
「馬鹿言わないで。今のメガンに戦えって言うの?それに騒ぎになれば、あたし達がこの町にいたことがばれてしまうわ」
ディアナの言う通りだった。強盗に金を取られるわけにはいかないが、強盗をここで倒すと、それはそれで面倒なことになる。少しばかり厄介な状況になりつつあった。
「メガンは動かなくていい。あの2人なら4人で十分だよ。よし、こうしよう。
ルン、トニー。準備をしておいてくれ。最悪、僕等で制圧する。ディーは発信機を用意。財布に入れておくんだ。あの女がここに来たら、とりあえず素直に財布は全部渡すんだ。彼等がここを離れた後で、追跡して取り返す」
「おい、それだと……」
「決まりね。トニー、黙りなさい。集中するの。おかしな真似は出来ないから、ここではやり過ごすの。外に出たら、人の目が無い所で襲って金を取り返す。だから限界まで動いちゃダメ、わかった?」
ディアナがそう言うと男達の顔を見回す。すでに、彼等の顔つきは戦士のそれを感じさせる緊張感があった。
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女強盗はついに子供達の席にやってきた。彼等の顔を見ると、フンと鼻を鳴らす。
「なんだい、お前等。ガキだけなのかい?」
「そうだよ」
袋の中に財布を放り込みながら、ヴィクターが出来るだけ自然にふるまおうとする。
「大人はどうした?」
「キャンプの帰りなんだよ。親はもうすぐここに”迎えに来る予定”なんだ」
皮肉な話しだが、間違ったことは言っていない。ここで面倒を起こせば間違いなくそうなるのだから。
「ボーイスカウトには見えないね」
「キャンプをするのに一々着替える必要はないし、楽しむのに一々ボーイスカウトになる必要もないだろ」
「ハッ。楽しむ、ね」
鼻で笑うと女強盗は、ジロジロとディアナとメガンにねっとりとした視線を向け、続いてルーベン達の顔をのぞいてくる。
どうやら、脳内で勝手にストーリーを作ってくれているらしい。うっかり、本当のことを…………自分達の親が高名な悪党集団にいて、自分達は彼らに鍛えられているなんて事実を教えたらどんな顔をする恩だろう、などと不謹慎なことを考えてしまいそうになる。もちろん、その魅力を満足させるようなおろかな真似をするつもりは無いが。
「みんな袋に入れた。さぁ、いって」
最後にディアナが発信機を仕込んだ自分の財布を袋の中に放り込んで言った。
だが、女強盗はにやにや笑いを浮かべて拒否した。
「まだだよ、そこのガキのもだしな」
そういって顎でメガンを指す。まずいことになった。
「彼女は持ってない……まだ11歳なんだ。僕らが管理していた」
「それを信じろって?」
「事実だからね。財布は出したよ、全部。もういってくれよ」
「嘘だね。なら、なんでそいつはこっちを見ようとしないんだい?」
慌ててディアナはメガンの手を握るが、すっかり元気をなくしているメガンはボーっとしているのかうつむいて状況に気がつかない。頭が回っていない、ということはないだろうが元気が出ないのでやる気をすっかりなくしてしまっているようだった。
それがどうも女強盗の気分を害してしまったようだ。
「この娘、今朝は調子が悪くて……親が来たら病院に連れて行った方がいいかもって言うつもりだから」
「信じられないね。出しな」
「おい、だから全部出したって言ったろ?あっちいけって」
なにをどうしたいのかわからないが、女強盗はしつこくメガンも出せと言って譲ろうとしない。
(まずいな……)
今のメガンはいつもとは違う。こんな時にしつこくされれば、いつもは天真爛漫な彼女でもどんな反応を見せるかわかったものじゃない。
「なぁ、もうないといったろ。ないものをどうやって出せと言うんだ」
「なら本人が答えな」
「だから、この子は調子が悪いって言ってるでしょ。何がしたいのよっ」
ディアナのそれは別に何か意味があって口にしたわけではないだろう。だが、結果的にお互いがお互いを挑発し合うような形となってしまい、どちらも引けなくなっていた。
(これまでだな……)
黙ってうつむいていたルーベンは、ゆっくりと視線を上げると、ディアナを見つめる。ディアナはその視線に気がつき、受け止め、理解した。そうね、仕方がない。
ひとつため息をつくとそっと言った。
「そうね、やって頂戴」
ディアナの一言が引き金となった。
突然、ルーベンの体が銀色の輝く鋼へとかわっていき、少し遅れてメガンとディアナの体も、銀色の鋼の体へと変化していく。
この時、机の下がどうなっているのか誰かが見たら卒倒していたかもしれない。一番身長の高いルーベンの、彼の腰から下半分がなくなっているように見えているのだから。彼は自分の体を変化させ、さらにその体の一部を少女達の体の表面へと張り巡らせていったのだ。
「このガキッ!?」
女強盗が慌てて銃をディアナとルンの間を行き来して判断に迷う。その時点で決着はついたも同然であった。
「……」
ヴィクターが右手をかざした瞬間、女強盗を包むように、球状のフォースフィールドが張られる。その中に女強盗は閉じ込められただけではなく、体も宙に浮いてしまっている。
「ハニー!?なにがあった!」
異変に気がつき声をかけてきた男強盗に向かって、今度はトニーが掌をつきだしながら叫ぶ。
「お前はこれでも食らってろっ!」
言葉と共に掌から放たれた拳大の氷の塊が勢いよく飛び出し、男強盗の目の前で破裂した。
うわああああああ!!
机の上に立って怒鳴っていた男は、悲鳴を上げながらその勢いに吹き飛ばされ、後ろの窓ガラスに押し付けられる。つづいて爆裂したところからパキパキと音を立てて床に霜をふらし、冷気が彼の体に襲いかかる。
あっというまに強盗は窓に押し付けられ、そして辛うじて頭だけを出した状態で氷の塊となって拘束されていた。
「やったぜ。なぁっ!?」
「ああ」
トニーの歓声に、ヴィクターは暗い声で返しながらフォースフィールドの中に閉じ込めた女を乱暴に奥の壁に向かって投げつける。彼女は何も出来ないまま、空中に放り出されると壁に叩きつけられ机の上に派手な音を立てて転がり落ちた。
無防備な体制であれだけ勢いよく叩きつけられたせいだろう、床に伸びた女はうめき声を上げるが動けないのかゴロゴロと床で転がっているだけであった。
こうなってしまった以上、ぐずぐずしていないで急いでこの場を去らなければいけない。
「ルン、ディー。財布は?」
「取ったよ!」
すでにルンの能力は解除され、2人は袋の中をあさっていた。騒ぎになる前にこの場から去らなければならない。
「ほら、メガン。立てよ、いくぞ」
「うん」
せかされてゆっくりと立ち上がるメガンをヴィクターとトニーが両脇からしっかりと支えると、足早に店の外に向かう。
そんな子供達の様子を、まだ店の中にいる人達は何が起こっているのか理解できず。呆然と見ているだけだった。
(このまま黙っていてくれ)
そう願いながら、それでも仕方なくヴィクターは大声を張り上げた。
「それでは自分達は失礼します。急いでいるので。ああ、その人達の銃は取り上げといた方がいいですよ。警察が来たら渡してください。あと……そう、あとお礼はいりませんが、変わりに僕らの飲食代をおごっておいてください!」
なんでそんなことをいうんだろ、と自分でも思うが。とにかくそれだけ言うと、5人は店を飛び出していく。
「ああ!?うそっ、最悪っ」
店を出てまだ100メートルも進まないうちにディアナが怒りの声を上げたので、全員が驚いて振り向いた。
彼女は回収した財布の中身を確認していた。
「なんだ?」
「信じられない!……ゴメン、ヴィクターの財布持ってきてない。似た形のを間違って持って来ちゃった」
「っ!?」
「おいっ、どうするんだよ。やばいだろ!?」
「戻った方がいい?」
顔を歪めるディアナにヴィクターは即座に言い放った。
「ダメだ、諦めよう。今はここからすぐに離れないと」
とはいえ、どうする?
ここからの移動の足はまだ用意していない。食事の後に決めることになっていた。
だが、あそこでの騒ぎはすぐに警察に伝わるはずだ。それに発信機!そうだ、あれも使おうとしたから親達はこちらの位置を知ったかもしれない。便利かと思って持ってきたが、やはりあそこから持ち出してきた装備は危険だ。落ち着いたらさっさと捨てたほうがいいだろう。
この事態に慌てながらも子供達は途方に暮れてしまっていた。
それも突然だった。
「君達、そっちじゃないよ。こっち、こっち!」
いきなり若い女の声がして、子供達はギョッとして足を止める。辺りを見回すと、並ぶ家の壁際にサングラスをしたバックパッカー姿の少女がこちらにむけて大声で呼んでいた。
「おい、誰だよ。あいつ」
「知らん」
ヴィクターは無言だったが、なにか意を決したらしく。彼女の方に歩いていくと聞いてみた。
「何?」
「君達だよ。君達に話があるんだ」
「だから何?」
「そう身構えなくていいからさ。どうせ”君達もこの町から早く出たい”と思っているんでしょ?私、道を知ってる。こっちだよ、ついてきて」
それだけ言うと、すたすたと勝手に歩きだしてしまった。
おかしな女である。髪を後ろにまとめてポニーテールにしていたが、あんまり見たことの無いサングラスをかけて隠していた。おかげで若いということだけで、年齢がはっきりとはわからない。だが、さっきの声を聞くかぎり意外と自分達とそんなに年の差はないような気もする。
ヴィクターはみんなの方へと顔を向けた。どうしたらいい?、と。
ほとんどは彼と同じように、女の言葉に困惑していた。だが、ディアナだけはハッキリと目が訴えていた。ついていってみよう、と。
ヴィクターは駆け足で前を歩く女に追いつくと話しかけた。
「わかった、ついていく。ところで僕はヴィクトール。ヴィクトール・モリスン。ヴィクターって呼ばれてる。君はなんて呼べばいい?」
彼女はヴィクターの顔を見ることはなく、前を向いたまま返事をしてきた。
「よろしくね、ヴィクター。私はそうだな……うん、ホークガール。ホークガールと呼んで頂戴。それが”今の私の名前”なの」




