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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Knights of round Vol.1 Runaway
54/178

計画実行

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 ディアナが自室に入ると、入り口の正面でディスプレイに向かって仕事をしていた母がジロリと一瞬目を上げてこっちを確認してきた。


「ただいま」

「おかえり」


 短い、帰宅する娘との会話。

 ディアナはそのままPCに向かっている母の横をすり抜け、自分に与えられた個室の中へと入っていく。

 そんな娘の後ろ姿を、母は凍えるような冷たい眼差しで扉の向こうに消えるまで見つめていた。 


 小さな部屋だった。ベットがあって、あとは箪笥があるだけ。年頃の少女の部屋と言うにはあまりにも殺伐としている。

 だが、それも無理はない。ディアナはこの部屋を寝泊りと着替えにしか使っていなかった。そして、他の友人達もだいたい似たような生活をしていた。

 かれらが”この場所”でくつろぐことができるのは、皆がいるあの子供部屋だけなのである。

 ディアナはベットに腰かけて横になると、今日のことを振り返る。


 子供部屋では今日、”5人”で2on2のミニバスケットボールを楽しんだ。

 ヴィクターは半月前、ごねる両親の要望により11日間のリハビリを経て退院していた。それからは彼のリハビリの延長戦と言う事で子供達は毎日、このゲームを楽しんでいた。

 今はメガンとディアナが組み、相手はヴィクターはトニーの対戦だ。

 しばらく楽しそうにプレイしていると、見物していたルーベンが声をかけてきた。


「もういいぞ。全部無力化した」


 何を言っているのかわからないその言葉だが、子供達はゲームをやめてしまう。


「メガン達の勝ちだね」


 息を弾ませつつも嬉しそうな少女の言葉に、ヴィクターとトニーはげんなりした顔で返す。


「そうだねー」

「ぶっちゃけ勝てる気がしねぇ」

「情けないなー」


 くたくたでもう嫌、そんな諦め顔の年上の男達に対してはなたれたメガンの無慈悲な一言にムッとしたのか、男共は抗議する。


「いや、本当のことだから。ルンを入れても、メガンには勝てないと本気で思うね」

「そうそう、俺達もパワー全開オッケーでないと。勝負にならない」

「そんなことないよー。こっちはディー(ディアナ)と一緒だし、自分も小さいし」

「だから、さ。超人として肉体のパラメーターがゲージを振り切ってるメガンの相手は無理」

「そうそう、例えるなら。NBAのアレン・アイバーソン相手に素人の俺等がケチョンケチョンにされてるってところかな」

「それってメガンのことだよね?褒めてるよね?」


 そう言いながら、皆は気持ちを切り替えてルーベンの方を向く。

 静かにゲームを座って見学していた彼だが、どうやら他にもなにやらやっていたらしい。

 彼の体の表面の全てが鋼鉄へと変化しているだけではなく、その末端からは液状となって流れるように細く長くのびて部屋の中を糸か配線のように這ってまわっていた。


「この部屋につけられた盗聴器が6個、カメラは10確認した。これで全部だろう」


 それはこの子供部屋に仕掛けられた機器について、親達が子供らを監視するために用意したものについて言っていた。

 ルーベンはここにいる子供達の中ではひと際変わった能力を持っている。【スチールスキン】と呼んでいるのだが、体を瞬時に鋼鉄化させ、さらにその上代から肉体の一部を液状化させて職種のように伸ばし。そこから情報端末に強制アクセスすることができる。

 彼はそれを見学している最中にそっとわからないように実行していたのである。


「ルン(ルーベン)はそのままお願いね。それじゃ、確認するよ?

 ここから脱出するのに5人全員で行く。これで本当にいいの?これは大事なこと、自分達のことだからちゃんと考えて決めて。残るからって怒ったりしないし、説得もナシ。

 そのかわり、行くなら覚悟が必要になる。親達は絶対に追ってくるだろうし、捕まった時はただじゃ済まないわ。最悪、殺されたっておかしくないんだから。

 残るならちゃんと言って。でも、その時は脱走計画について口外しないと誓ってくれるだけでいいから。どう?」


 代表としてディアナが全員を見回して聞くと、まずトニーが口火を切った。


「俺が言いだしたことだからな。当然行くよ。残ると言っても、恨みはしないぜ」


 次にメガンが口を開いた。


「行くから。置いて行っちゃ嫌だからね。それに、きっとメガンは役に立つよ」

「わかってる。メガンがそうしたいなら、あたしたちも歓迎するから。心配しないで」


 やさしくディアナはそう言うと、全員が残るヴィクターを見た。彼がどう決断したのか、この時に話してくれることになっていた。


「……いろいろこれでも迷ったんだよ。うちの親は凶悪だし、それに僕はこれでもちょっと前に退院したばかりだし。足を引っ張ることになるかもしれないからさ」

「ヴィクター……」

「でも、トニーの話じゃ。自分がいかないと計画も立てられない馬鹿ばっかりだと嘆くし。それに考えてみたら、昔からイタズラは嫌いじゃなかった。

 ここでする”悪いこと”なら僕が断る理由はないね」

「そうこなくっちゃ、兄弟」


 ヴィクターの肩を強くバンバンと嬉しそうにトニーは叩き、やられたほうは「痛いだろ、馬鹿」といって嫌がってみせたがそれは彼の照れなのかもしれない。

 とにかく、子供達は安堵した。出来ることなら、ここにいる全員で行きたかった。その望みはかなったのだ。


「ルンも賛成、つまり全員で決定ね。それじゃ、計画を確認しましょう」



▼▼▼▼▼



 ディアナは両親と一緒の夕食の席についていた。”計画通り”にいくなら、これが家族でする最後の食事と言うことになる。だが、それを隠しておかなくてはいけなかった。

 彼女は中国人の父と、カナダ人の母の間に生まれた

 父はスぺクターという名で呼ばれるほど”高名で邪悪”な魔術師で、母はコンピューターを使う犯罪者で知られている。

 その父、イゴー・バーンはチラと娘を見て話しかけてきた。


「今日はどうだった?勉強は?魔法は使えるようになったか?」


 ディアナは動かしていた手が止まる。いつもの質問だ。そしてつまらない答えしか出来ないし、それを強要されている。


「元気よ、パパ。勉強はソコソコ。論文については聞かないで。今日もちゃんと”パパの教えてくれた魔法”の基礎練習はやったわ」

「そうか」


 ふざけた話だった。父はこの言葉が聞きたくて毎日彼女に問いただしてくる。

 父は彼女に出来る限り魔法を教えようとはしなかったし、そのことをこの娘はきちんと”理解”していた。


 基礎の魔法をのぞけば数えるほどしかこの悪い魔法使いは娘に魔法の知識を与えようとはしなかった。

 それが不満で、何度か黙って父の魔法の文書をのぞこうと試みたこともあったが、一度として成功したことは無く、その後に待っていた仕置きは強烈だった。

 その彼が娘に最後に教えたことは数年前の子供部屋が燃えた事件の後。めずらしいことに、彼女にこれを使えば便利だろうなどと言って短い距離を瞬時に移動できるゲートの呪文を教えたくらいだろう。

 そんなまるでなにも教えようとはしないのに、それ以上を求めている”ふり”をするこの父が何を考えているのか。ディアナにはもうまったく理解を超えた事で、諦めていた。

 母はその毎日繰り返す親子の儀礼を無言で見つめたまま、皿を娘の方に差し出す。それがまるで親としての自分の義務だと思っているかのように。その手は手袋で隠されていたが、不自然な形状をしているのは、誰の目で見ても明らかである。ディアナの母は自分の手を機械に変えていた。それが情報端末をいじるのに役に立つから、というただそれだけの理由で。


 父が望む母と子、母が望む家族の形、それらはディアナが欲しいと考える家族とはまったく合わさることの無く、妥協できる点も少ないものだった。

 寒々しい空気の中、家族の最後の時間だけが過ぎていく。



▼▼▼▼▼



 ディアナはパチリ目を開けると時計を確認する。

 深夜1時30分、成功だ。

 この時間、すでに計画は実行されているはずである。ルーベンはメガンを迎えに行き、トニーとヴィクターはここの施設のあちこちで”イケナイ物”をたっぷり仕掛けて回っているはずだ。

 ディアナはここで準備をしたら、30分後に子供部屋へ向かえばいい。彼女の出番はその後に用意されている。

 身体を起こすと、明日の為にとベッドの上に用意しておいた一番お気に入りの服に静かに着替え始める。



 施設の中を動く警備網はすでにディアナとルンが用意したウイルスによって無力化されていた。 ロボット達は毎日するように巡回して見張っているが、言ってみればそれは動いているだけで例え異物を”彼等の目”に捕えても通報することができないようになっていた。

 とはいえ、見られれば記録に残る。

 ディアナは細心の注意を払って、視覚の外を移動しながら子供部屋をめざす。




「ディー、こっちだよ」


 子供部屋の中へと身体を滑り込ませたが、あいにくと中は真っ暗で明かりの外から移動してきたディアナの目では何も見えない。そんな真っ暗な部屋の中でメガンの声がして、ディアナの手を誰かが握って引っぱってくる。


「助かるよ、メガン」

「ここまでは大丈夫そうだ、順調に進行している。向うの2人もあちこちで暴れ回っているはずさ。余計なことまでしているかも、恐れ入るよ……ディー、スカートできたのか?」


 ルーベンの驚きの声に、ディアナはため息をつく。言い訳というのはわかっていても出来ればしたくないものだ。


「しょうがなかったの。メガンと違って、あたしは普段からほとんどスカートしか履かないから。o親がこっそりチェックしてうっかり怪しまれても困るしね。これなら少しは時間稼ぎになると思ったのよ」

「……そうだな」


 ルーベンはあっさりと理解を示してくれた。よかった、これならトニーはぐちゃぐちゃいうかもしれないがヴィクターも納得させてくれるだろう。


 この家出に一番のリスクを背負っているのは間違いなくルーベンとディアナであった。

 両者の年齢は16と15である。どちらも子供というには微妙な年齢だ。もし、今回の計画が失敗すれば、多分2人には2度目の脱出はないだろう。それは、わかっていた。


「2人が戻ってくるまで、あと30分ある。ディーはそのままで待機だ。こっちはまだ”作業が残ってる”。メガン、彼女の代わりに皆の荷物を出しておいてくれ。2人が戻ってきたらすぐに出発できるようにしよう」

「わかった」


 元気な返事がして闇の中で、ごそごそと動かす音と、カチャカチャとなにかの機械をいじる小さな音がする。

 すでに着替えを始めとした最低限の荷物はこの部屋に持ち込んで人数分を用意していた。だが、ルーベンはなにをしているのだろうか?


「ルン、作業って何?機械を弄ってるみたいだけど」

「……ディー、実は君にだけ話していなかったんだ。僕が言いだしたことだよ。君はきっと反対するだろうとヴィクターもいったのでね」

「どういうこと?」

「あちこちに仕掛けを残すと言ったろ?これもその一つだ。爆弾だよ。この部屋を吹き飛ばせるだけの爆薬を用意しておいた。こっそりとね」

「っ!?」

「卑怯だとは思ったけど、メガンにも了解はもらった。この場所を、このまま残しては行きたくはないんだ。それに……」

「いい、わかった。続けて」


 怒ってないわけではなかった。だが、ルーベンが何を言うつもりなのかはわかった。

 彼はこういうつもりだったのだ、『どうせ親に捕まって連れ戻されれば、僕らの前でこの部屋は破壊つくされるだろうから』と。

 この救いの無い自分達の人生の中で、この子供部屋はとても大切な場所だった。

 寝起きするだけの無機質な自分達の部屋と違う。壁には色々な落書きしてあり、その中には自分達のささやかな夢がこっそりと書かれていた。祝い事も全部ここでみんなでやっていたのだ。

 そんな自分達の聖地を、あの親共に残して汚されたくはないということなのだろう。



 20分ほどしただろうか、ディアナは用意を終えたメガンと並んで暗闇の中じっと座っていると、扉が開いてヴィクター達が入ってきた。暗いから顔は見えないが、トニーは入ってくるなり低くかすれた声で「終わった」とだけ告げた。

 ルーベンがそんな2人に「渡してくれ」とつぶやくと、ごそごそと何か渡されたようで10秒ほどまたカチャカチャと機械をいじる音と、メガンが渡しているであろう荷物を背負う2人の衣擦れの音だけが部屋の中に響く。

(これでこことも最後か)

 ディアナはそんなことをふと思ってしまった。

 いけないことだ、感情的になることは魔法使いにとっては厳禁なのだ。自分はこの後に出番があることを思うと、センチに浸っている場合などではない。


 ピッという電子音と共に、闇の中で赤い数字の0が並ぶ。


「設定終わったぞ。準備完了だ」


 ルーベンの低い声に、ヴィクターが重ねるように続ける。


「よし、ここまでは上手くいってる。警備網に仕掛けたウイルスはあと30分ほどで自壊する、その後は警告なしでシステムの異常を感じて再インストールがされるはずだ。このことは親達がシステムをゼロから見まわさないとたぶんバレないはずだ。

 荷物は持ったね?

 これからディーに、可能な最長距離で連続8回のジャンプゲートを開いてもらう。そこにとびむことで僕らは基地の外に出られる。そうだよね、ディー?」


 すかさず、ディアナは口を挟んだ。


「連続はきついけど、大丈夫よ。すでに先週、こっそりメガンと一緒に試してみたからね。

 ただ、これをやるとしばらく私は動けなくなるわ。もともと、あたしが使うこのゲート魔法は連続で使うものではないし、ちょっとした距離を素早く移動するためのもの。だからできるだけ”遠く”に、”連続”で使用すると、どうしても自分の体に負担をかけてしまう」

「大丈夫だよ。ゲートを抜けたら、ディーはメガンが背負って移動する。それだけならすぐに疲れたりしないよな、メガン?」

「うん、全力のパンチとかすると疲れて眠くなるけど。ディーをおぶることくらいなら朝までだって大丈夫だよ」

「とにかく、朝までが最初の難関だ。ここから先はピンチの連続かもしれないけど、頑張ろう」


 暗闇の中で、皆がうなづくのを感じた。



 ディアナは立ちあがる。集中は十分、準備は完了していた。


「我が力よ、形となって顕現せよ。我が力よ、形となって……」


 2度めを唱える前にそれは宙より現れた。

 1メートル50センチほどの棒というか、杖というか、槍のようなそれである。

 ”魔杖”、それはそう呼ばれている。なんのことはない、映画や本に出てくる魔法使いがもつあの杖だと思ってくれていい。

 だが、ディアナのそれは少し変わっていた。片方にある杖の装飾は大きな金の作る円とその中にあるいくつか細かいアンクが形作られ。その反対側にはまるで槍だといわんばかりに穂先に長く刃をむき出しにしていた。


 それを手に取る。自分が今、絶好調なのがわかる。


「みんな、始めるからね」


 ディアナはそう宣言すると念じながら2度、杖で床を突いた。闇の中にぽっかりと輝く円が出現し、その向こう側に別の風景がまっている。すると、そこにもまた同じような輝く縁がすがたをあらわし、鏡の中のように次々と円が姿をあらわしていく。するとそこにむかって、子供たちは次々と中へ体を躍らせていった。



▼▼▼▼▼



「丁度、今が深夜3時。痕跡は全部、消されたはずだ」


 山道を歩く集団の先頭を歩いていたルーベンはボソッとそういうと足を止めてしばし来た道を振り返る。

 あれからディアナの開いたジャンプゲートをくぐりぬけて子供達は外の世界に脱出すると、彼女はその場で昏倒した。

 彼女とその手に握られた杖は、今は小さなメガンに背負われている。杖はディアナの体の一部であるらしいし、それは魔力を強く発するそうなのでその場に残しておくわけにはいかなかった。

 だが、その魔杖をもとのように虚空へと隠すこともできずに動けなくなってしまったのである。


「もうあそこに戻ることはない。せいせいしたぜ」


 トニーが吐き捨てるように言った。それはもしかしたら強がりなのかもしれない。

 背中に杖とディアナを荷物ごと背負っていたメガンが少し悲しそうな顔で言った。


「子供部屋、どうなるのかな?」

「大丈夫だよ。あの部屋はあのままさ。戻ることはできなくなったけど、記憶の中でちゃんと残っているからね」


 そう少女に答えるヴィクトールは、「さぁ、いこう。ぐずぐずはしていられない」と言って皆を促す。彼等は再び、出てきた”あの場所”に背を向けると歩き出す。

 まだ太陽が昇る気配のない空は、まだ夜ではあったけれど。薄く白が混ざりはじめていて、むしろ地面に伸びる彼等の影の方が黒いくらいであった。、

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