ROUND 9
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アークシティには中規模の空港が存在する。
その名をアークセントラル空港というのだが、ここには毎日多くの観光客が訪れる。そして、富裕層などが使うプライベートジェットなどの面倒も見ていた。
その日は特になにがあるでもなく、いつもどおりの火曜の朝を職員達はいつものように仕事に追われていた。ただ、少し言えばこの日の気温はいつもより高く、暑かったように思えた。
そんな日常は、突然掛かってきた一本の電話によって終わりを告げる。
「旅客機ノースイースト140便には爆弾が仕掛けてあるぞ」
たったその一言が、大きな混沌を生み出そうとしていた。
空港警察はさっそく警備を強化。
驚いたことに、いつの間にかハリボテではあったが、空港内のトイレを始めとした数か所から爆弾さえあればきちんと作動する装置が発見された。
(脅しだな)
そのことに皆がすぐに気がつく。
だが、白昼の空港はここで動きに戸惑いが出てしまう。
あの後も、数回にわたり連絡をしてきた犯人の要求というか、言動が意味不明でさっぱり理解できなかったのである。
2回目の連絡は「お前はTVをよく見るか?」だった。いきなりそんなことを言われて困惑してしまった空港職員はとっさに「はっ!?」と聞き返す。しかし、次の瞬間には電話は切られていた。
その後も何度か怪しげな電話があり、6回目にようやくでてきた要求が
「人気キャスターのネイティス・ヤングをすぐに呼べ」
であった。困惑顔の交渉人が「それは無理だ」と答えると今回も切ってしまった。
そして困惑する職員達の中で、たまたまここに居合わせていたリンダ・カッチーナ警部補だけは不思議な表情を浮かべていた。
「多分、ではありますが。犯人はこのクエリー・マキシンかと思われます」
ファイルのコピーを一同に配りながら、カッチーナ警部は続ける。
「反社会性が高く、この半年のあいだに犯罪を繰り返し、その内容も凶悪化していました。警察の記録では数ヶ月前、プロレスリングのTVショーに乱入事件を起こしたのが始まりです」
「ああ、それなら見た。面白い演出だと、当時はみんな見てて思わなかったんだよな。話題にもなった」
「そうです。その後、どういうわけか銀行強盗の一味に参加。ただ、本人は最後まで自分の行為を銀行強盗ではなく銀行爆破だったと主張し続けていました」
「…なんだ、そりゃ?」
「さぁ?とにかく、その事件の後は一気に凶悪化します。収監中に脱獄、続いてアーク・タワーを占拠する事件になぜか参加。これはアレックス・アークナイトの証言ですが、彼の手を逃れるとその後の足取りはつかめてません」
「今もどこかにいる、ということか」
「裁判では当初、弁護士の請求で精神鑑定が行われました。それによると、彼はある種の掲示欲にとりつかれている、ということだけは一致しています。
劇場型の犯罪を好み、できるだけ自分を派手に、大きく見せることで満足を得たいという願望です」
「…と、いうことは。今回の事件も?」
「そうです。きっと、自分の為のテレビショーと相手を用意しろ、ということだと思われます。ただ、どんな形の物を求めているのかは本人が中々言わないので何とも」
「なるほど、面倒だな……」
ファイルをめくる音だけとなった静寂が、事態の重さを告げていた。
「すいません、ちょっといいですか?」
そう声を上げたのは、空港警察が用意した今回の交渉人である。
「なんだ?」
「……こんなことを言いたくはなかったのですが、私を今回の交渉役から外していただきたいのですが」
「ちょっと待て、それは困るぞ。なんでそんなことを言い出すんだ?」
チーフ・エンジニアがそう声を上げると、同じような言葉があちこちからも上がる。だが、交渉人の表情を見ると、その考えを変える気は無いようだった。
「説明してくれ。そうでないとなんともいえない」
「わかりました」
視線を下に向け、唇を噛んでいた交渉人はそう言うとゆっくりと理由を述べはじめた。
「交渉とは、常に相手に圧力をかけ、時に折れて見せることでこちらの希望を受け入れさせることです。そして時には、嘘の情報を流すことで相手に隙を作らせる。そういうものなんです。
彼のファイルを見ました。確かに、今回の犯人像に近いという印象を受けます。
ただ、そうなると少し問題があるのです。
これまでの8回のコンタクトは、そのどれもが意味をなしてませんし。なにより会話にすらなっていません。つまり、私はただ向こうの言葉を聞いているだけの状態なんです。
私以外に変わりはいない、やってくれというならやります。これまではできなかった会話も成立するよう、資料を最大限に生かすことで相手との意思の疎通を図らせようとも思ってます。
ただ、話してみた感じとても不安定なモノがあります。それにどうも彼はいわゆる”超人思想”を持っているのではないかという節が見られます。人間の私が相手では、地雷を踏みかねない危険があります」
「地雷を踏まない、という方法ならいいんじゃないか?」
「それでは駄目です。
多分、今の調子でいくと長期化しますよ。あのたった一言を聞きだすまでに数回かかった。こっちはある程度相手のことが分かっていても、それをむこうに知らせないのなら必ずそうなります。しかも、言いだすまではこちらはひたすら向こうの言葉を聞くだけになる。
危険です、あの機はあとどれだけ空中を飛んでいられるんですか?」
「数時間は問題ない、だが……」
全員が押し黙ってしまう。
「うちの……空港警察では彼が最高だ。そうなると市警の力を借りるしかない。あちらには確か、超人の交渉人がいたな。凄腕だと聞くが………」
すがるような目が自分に集まるのを感じて、カッチーナ警部補は途端に肩に重しが乗った気がした。
「確かに、ブラックサンなら彼と以前にも話しています。彼も凄腕で知られる交渉人ですから、言えばすぐに来てくれるでしょう。でも……」
「そうだな、市警とは管轄が違う。いろいろと話を通しておかないと、直前で邪魔をされてしまう、か」
「はい」
同じ警察業務の仲だからいいだろう、では済まない事がある。宮仕えする者達の苦しい事情というものだった。
▼▼▼▼▼
空港警察の署長がこの会議室に現れたとき、彼は僅かな時間のあいだに深く憔悴していた。4時間ほど前、「自分達が何とかしなくてはいけないだろう」とだけ力強く言い残すと出ていった男と同一人物だということが信じられないくらいに、酷い顔をしていた。
そして、その原因は共にあらわれた2人の存在が原因であることは明らかであった。
アークシティ、現市長のカルロス・アレン・エステベス。
そしてもう1人は、マスク・ド・ドミニオンである。
「しょ、署長。どういうことなんですか?」
震える声でそう問う事が出来たのは、この管理センターの中でただ1人。チーフだけだった。
「………我々にできることは、もうないということだ」
まるで通夜の席に並ぶ遺族のような憔悴しきった署長の声に、あの時の力強さはどこにも無かった。
「そ、それでは140便の運命は…?」
そこから先を続けることは、チーフには出来なかった。いや、ここにいる全員が認めたくないことだっただろう
恐ろしい想像が部屋を支配し空気を重くする。そんな異様な雰囲気を無視し異質な存在の片割れが口を開いた。
「ちょっといいかね?私の話を聞いてほしい」
市長はそう言うと、トレードマークともいえる自信に満ち溢れた笑顔を浮かべながら話しだした。
「皆が暗い気持ちになるのはわかるよ。
私だって、数時間前に市庁舎でこの話を聞いた時はブッ飛んだものさ。しかも、話によれば脱獄した凶悪犯罪者で、精神異常の疑いもあるらしいじゃないか。おっと、これは口が滑ってしまったね。だが、あえて今回は言わせてもらおう。
精神異常者ってのはね、もう例えるなら人間じゃないよ。危険さだけなら超人と同義と言っていいだろう。まぁ、そんなことはいい。
今は事件の解決が一番大事だ。空港所長の話は聞いたよ。そこで私達は決断するべきだと思ったんだ。そう、この市の”正当な守護者”である彼。マスク・ド・ドミニオンのことさ。
それではドミニオン。後は君に任せよう」
TVで発言したら支持率が暴落しかねないことを平然と言い放ち、この善良という触れ込みで当選したはずの市長は、勝手に話を進めた。
紹介を受けたドミニオンは、周囲の愕然とした表情など見えていないのか、なんでもない風に一歩前に出ると挨拶をする。
「ありがとう、市長。私もアークシティ公認のヒーローとしてこの事件には全力であたるつもりでいる。
さしあたっては、この4時間の情報を聞かせてもらいたい。犯人からの連絡はどうなっている?」
ドミニオンの問いに飛びあがるようにして交渉人が答えた。
「え、えと。20回ほどありました。どれも4秒以内、一言だけで連絡を切ってしまいます。彼の台詞の一部始終はここに……」
「必要ない。140便はあと何時間飛び続けることができる?」
「チーフ・エンジニアをやっているクリスです。機は後5時間ほどで墜落すると思われます」
「わかった、しばらくは皆。現状を維持、次の犯人からの連絡を待って私が行動する」
そう言って一方的に話を打ち切ったドミニオンの姿に、カッチーナ警部補は我慢できず怒りの声を上げようとした、だが。
「外部から電話が来ました!」
オペレーターのあげた大きな声で、全員の動きが一瞬止まる。
「こりゃ幸先がいいじゃないか、ドミニオン。さっそく頼むよ」
「任せてください。市長」
そう答えると、ドミニオンはのしのしと電話まで行き受話器を手に取る。そして
「私はマスク・ド・ドミニオン。アークシティを守ることを許された唯一の存在だ」
会議室の中が瞬時に凍りついた。なんと、ドミニオンはいきなり相手の話も聞かずそう名乗ったのである。
「お前の名前は知っているぞ。クエリー・マキシン、このチンピラめ。この騒ぎは何を目的としている?」
皆が凍りついていた。無茶すぎるドミニオンの問いに驚いただけではない、彼が名乗るのを聞いて、相手はすぐに電話を切らなかったのだ。そのことに周りは驚きを隠せなかった。
若干の沈黙の後、くぐもった返事が返ってくる。
「お、お前と。お前を、倒す……」
苦しそうにそう答える相手に、ドミニオンはさらに容赦の無い言葉をブン投げる。
「お前が私を倒す、だと?無理だな。そこで見ているがいい、臆病者。そう時を待たずして、私がお前に勝利したことをTVがしっかりと報じてくれるだろう。それを見て敗北を噛みしめるがいい」
そう吐き捨てるように言うと、ガチャンと受話器を置いてしまった。
「なにしてんだ、あんた!?」
チーフの悲鳴のような声を無視し、市長に対して「では行ってきます」というと、管制室からドミニオンはさっさと出て行ってしまう。
「ちょっと待ちなさい、マスク・ド・ドミニオン!」
怒りに燃えあがる戦の女神のように会議室を飛び出したカッチーナ警部補は、廊下を歩き外へと向かうヒーローを呼びとめようとした。
「なにかな、カッチーナ警部補?」
「あら、今日はリンダとは呼んでくれないのね。中には誰が入っているのかしら?教えてもらえる?」
「……私は私だ。警部補、ドミニオンに変わりはない」
「いつもそれなのね。それでいつもこっちは黙ってろっていうの?ふざけんじゃないわよ」
そう言いながら、ドミニオンが入るエレベーターに自分も乗り込む。
「問題が?」
「ええ、あったわよ。さっきのあれは何?敗北を噛みしめろ、ですって?あんた正気なの!?」
「よくわからないな」
「とぼけないでよ。中身はマシンだとでも今さら言いだすつもり?飛んでいる飛行機に爆弾が積まれているかもしれないのよ?それをいつやるかわからない危険な相手を挑発するなんて!」
「君はわかっていない」
「へぇ!!あんたにはわかっているっていうの?」
「もちろんだ」
そう答えてエレベーターを出る。その後ろに警部補は続く。
「あのような奴らには2つしかいない。愚か者か、腰ぬけか。それだけだ」
「随分と世界をシンプルにとらえているのね。以前に聞いた話とだいぶ違う価値観をいつの間に身につけたのかしら?」
「ドミニオンの目的に変化はない、それが重要なことだ」
「それ、誰に言っているの?私?それとも自分にかしら?」
外に出る。目の前は一面、夜の滑走路が広がっている。
「カッチーナ警部補、ちょうどいい。ひとつ頼まれてくれないか?」
「なによ?」
「これより15分後、デュポン社から今回の救出計画が送られてくる。この後のことはそれに沿ってやってほしい」
「…あんたはどうするつもり?」
「私か?」
そう言うと、はじめてドミニオンはカッチーナの顔を見た。マスク越しで見えないその顔は、なぜか笑っているように思えた。
「もちろん、私は現場へ向かう。この町のヒーローなのだから」
次の瞬間、凄まじい音と共にドミニオンは宙へ飛び立っていった。
▼▼▼▼▼
「こちらドミニオン、視界に140便をとらえた。管制塔、聞こえるか?」
「この大馬鹿野郎!!」
「警部補、どうした?怒っているようだが」
「当たり前じゃないの!なによこの計画。無茶苦茶よ!?」
「そうでもない。計算では十分な余裕があると出ている」
「…どうやら、中身はポンコツマシンだと思った方がいいみたい」
「そんなことはない。すでに140便の後方に3機の戦闘機、デュポン社のロングホーンとナイトバードが待機している。私の合図ですぐにとりかかれるはずだ。機長には伝えたのか?」
「命令だからね。むこうも正気かと卒倒しかけてる」
「指示通り、客の移動を徹底させておけ。他に手はない」
「だからっ、こんな曲芸じみたことをっ!?」
「機体をスキャン、爆発物の位置を確定させる。状況から鑑みて、後部尾翼部、左右両翼の可能性が高い。ロングホーン2機で船体を強制的につるしあげる。同時に、両翼のエンジン、後部の一部を切断。
直後に切断面を特殊ゴムで接着する。これがベストだ」
「ふざけないでっ!?こっちじゃエンジニアが全員目を剥いてるわっ!?」
「確かに、最も安全なのはナイトバードに空中で乗客を全員移動させることだ。しかし、それでは時間がかかるし。犯人の気が変われば爆破の危険がある。しかし、この方法なら5分で決着がつく。向こうが気がついた時には終わっている」
「空中に投げだされるということはないの?」
「ありえる。保証などない。だが、シュミレートの結果。この方法なら被害は10人以下で済むとある。これがベストだ」
「この石頭っ!デュポン社に抗議するわ!」
「ならば急いだ方がいい、こちらは探査を終了。予想通り、尾翼部に反応があり。2分以内に作戦を実行する」
管制室に、ドミニオンが言い放つ「作戦を実行する」という冷酷な宣言が鳴り響く。誰もがこの後におこる悲劇を想い、神に祈るしかなかった。
「作戦開始」
短くそう指示しただけで、140便の後部にぴったりとついた3機の戦闘機がそれぞれ動きを見せ始めた。
ロングホーン及ばれる2機の機体は左右に展開し、なんとそこから互いに向かって特殊な材質のワイヤーで結ぶと、140便に向かっても同じくワイヤーを射出する。
3機がワイヤーで繋がり3角形を作る中、ナイトバードは彼等の上へとゆっくりと移動していく。
「減速と共に、姿勢を安定させる。やれ」
指示と共にロングホーンの噴射音がひと際大きくなる。と同時に、ゆっくりと140便が後ろへとゆっくり引っ張られ始めるのがわかる。
「ターゲットシステム、オンライン。まずは両翼を両手のブラストでパージする。バランスに注意」
失速からかゆっくりと機首を下にさげつつある140便の両翼に対し、ドミニオンが両手のブラストを叩きつける。
そのせいだろうか、すぐさまメリメリと音を立てて翼は船体からもげ落ちていこうとする。
「ロングホーン。出力最大、バランスをとることを最大限に」
1分後、羽を失った哀れな旅客機が2機の戦闘機に完全に吊るされていた。
「続いて次のシークエンスへ移行。高度はこのまま、ナイトバードは準備」
そう言いながら、ドミニオンは吊り下げられた船体の後部へと近づいていく。
「これよりオペを開始。後部を切断してパージ、ナイトバードは傷口を搭載の特殊軟化ゴムでふさげ。乗客の安全が第一だが、この作業には危険が伴う。しかし、最大限の命を守れ。投げ出された人間には構うな」
そういうと、再び手のブラストで今度は船体を輪切りにしようとする。
「進行度は45%、60を越えたところで一気にパージが始まる」
中継が続く中、上部に位置していたナイトバードがおかしな動きを始めた。
垂直離着陸機のように、姿勢をゆっくりと変えていくのだが。それがよりにもよって機種を真下にする形になっている。
「分離進行度は64%を突破、いくぞっ!」
そう言うとひときわ強いブラストがドミニオンが放つ。次いで尾翼などがついた船尾部分が勢いよくすっぽりと海に向かって落ちていくのが見えた。
続いてナイトバードが何かを続けて発射すると、切り落とされた船尾部分にトリモチのようなものがぴったりとへばりつく。
作戦の終了である。
だが、その場にドミニオンの姿はなかった。その時、彼はひたすら地上を目指して急加速を続けていた。
「システム、再度確認せよ。投げ出されたのは何人だ?」
そう問いかけるマスク・ド・ドミニオンの前には、畿内から投げ出されてしまった4人の男女が絶望の声を張り上げ海面へと落下しているところであった。
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「作戦は終了。死者はゼロ」
管制室のその声が響くと、それまで葬式のように静まり返っていたそこは爆発したかのように喜びに沸き返った。
チーフ・エンジニアを含め、管制官もマイクでありがとうとドミニオンへの感謝の言葉を述べている。
そんな中、苦々しい表情で一連の出来事を見つめる一団があった。空港警察とカッチーナ警部補である。
「作戦の成功を祝って、このあと記者会見ですって?」
空港へと戻ってきたマスク・ド・ドミニオンをカッチーナは早速皮肉で迎える。
「その通りだ。この許されない事件が解決されたことを、市民に一刻も早く伝えておきたい」
「確かに死者はでなかった。でもね、けが人は大勢出てるのよ。重症の人だっていた!」
「だが死んではいない、海上にはデュポン社の病院船も待機している。問題はない」
「骨を折ろうが、心臓発作を起こそうが、死んでなければ自分は間違ってないってこと!?」
歯ぎしりせんばかりに怒りをあらわにする警部補にむかって、冷酷にドミニオンは言い放つ。
「当然だ。この結果のどこに不都合があるのだ、警部補?
多少の怪我はあっても、乗客に死人は出なかった。航空会社も、この結果に満足だろう。なにより、君達にとっても朗報のはずだ。機体の多くはそのまま回収した。わざわざサルベージする手間も省け、それは君達の仕事にとって役に立つだろう。違うかね?」
「どうかな?その怪我で、これから死人が出るかもしれない。整備不良で航空会社を訴える奴だって出るわよ。機体を回収したってね、犯人逮捕に役立つかわからないじゃない」
再び、ドミニオンはカッチーナの顔をしばし見る。そして言った。
「警部補、どうやら君は感情的になっているようだ。これ以上話しても意味はないだろう。
君は私の働きを認めないそうだが、その感想は皆の意見ではないことを理解するべきだ。これからの記者会見が終わった時、私の働きがどうであったか判断するのはこの町の市民だ。
私を称賛する声は決して小さくない、それはもうわかっている。そしてそれこそが私がこの町で唯一の『公認』をうけた理由なのだ。そう、私こそがこのアークシティの、いや、”人類の守護者”にふさわしい存在と言える。それを君が理解する日がいつか来るだろう、それではまた」
そう言ってマスク・ド・ドミニオンは歩き出した。彼を称賛する人々の中へと向かって、そしてもうカッチーナの方を振りむくことはなかった、一度も。
TVの放つ光だけの暗闇の中で、声がする。
それは泣き声、嗚咽する男の声であった。
クエリー・マキシンは今、闇の中で宣告された通りの敗北感に打ちのめされて泣いていたのだ。画面の中には、フラッシュが途切れることなくたかれる中に笑顔の空港関係者と共に取材に応じる市長とマスク・ド・ドミニオンの姿があった。
(勝てないのか、こんな思いをしてまでもまだ勝つ事が出来ないのか?)
くりかえされるこの問いに答える者はなく、雪のように闇の中で屈辱と一緒になにかに積りあがっていく。
クエリー・マキシン、ミスター・アンサーの戦績。9戦して9敗。




