ROUND 8
よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。
その日、ここ聖ルグイエン教会でアーダン神父は、いつもそうするように告解室へ赴くと扉を開けて中へと入っていった。いつもは週末前など、人の集まり具合を見てこの部屋に入る神父であったが今日は違う。
ある少女にどうしてもと乞われたのでこうして時間を設定して待つことにしたのだ。
この明るく輝ける町、アークシティにあっても貧困を始めとした人々の苦しみに変化はない。ここを訪れる人の多くは、日々の生活に疲れ、悩み、救いを切に願っているのだ。そして信仰は未だにその力を失うことなく、ここにある。
教会で受けた神の教えを胸に、祈りと感謝を持って負の感情にとらわれない生活をしてほしい、それが神父にとっての願いなのだ。
だが、一方で悪意はその形を変えてきていることも理解している。
先日も、自らを神の使徒と名乗る殺人鬼が暴れ回り、この教会にもあの事件の責任を取れだのと嫌がらせや、ひどい悪戯が続いている。
怒りと憎しみに捕えられてはならない。それはわかっている。
だが、この一時期の盛況さをうしなった工業地帯の中では弱さをみせると、そこに群がって叩こうとする者が現れる。そしてその行為が無意味(金にならない)だとわかると、今度は顔に笑顔をはりつけ、こちらに悪意を送りつけてくる。
それが結果としてどれほど多くの人々を苦しめることになっても、構わないと思っているのだ。
バタン、と大扉が閉まる音が聞こえた。
ここに来る間に確認したが、今は誰も教会を訪れてはいない。
相手が望んだとおり、自分と2人きりである。きっと喜んでくれるだろう。
眼を閉じて集中する。
隣の部屋に人が入ってきて、準備ができるまでそれが続くとゆっくりと目を開いた。そして、いつものように出来る限り感情をこめないで言葉を紡いでいく。
▼▼▼▼▼
「神父様、私は罪を告白しにきました。先日、その……人が酷い目にあっているのを見たのです。ええ、私の目の前でのことです。それが、その……こんなことを言っても仕方ないのですが、なにも自分はできなくて。そして、ああ…お許しください、心の中ではそうなったことに暗い喜びを感じていたのです」
わかりますよ、落ち着いて。ちゃんと全て聞いていますから。
彼女の声は張り詰めていて、何かの拍子に切れてしまいそうで、心配だった。落ち着かせなくてはならない。
相手は誰なのか、神父にはもうわかっていた。
屁理屈ばかりの憎まれ口を叩くグレンダ婆さんの孫のキャロルだ。年齢は13歳だったか。彼女は祖母と同じように信心深く、よく教会でおこなわれるボランティアに参加してくれる心優しい娘だ。
少しためらったが、キャロルは僅かに身じろぎし、咳払いをするとようやく話しはじめた。
「神父様、私は罪を告白しにきました。お許しを。
あれは先週再開されたこの教会でのことなのです」
フゥ、思わずアーダン神父は溜息をついてしまった。
彼女が、なんのことを言っているのか大体の予想がついた。先週からようやく再開された、この教会で数日おきに開かれていた食べ物の配給のことであろう。
ここで行われる配給は、強い信仰心を持つ信者達の好意によって手作りのサンドイッチを配っていた。
パンに挟まれているのはハム、チーズ、ウィンナーといった辺りで、それを山と積み。さらに教会が用意した塩とベーコンのスープがセットで配られていた。
日々の暮らしもままならない、貧困にあえぐ人々の為にとやってきたことであったが、問題が起きた。
公式には、持ち寄られた食材が悪いものであったためとされたが、それを口にした者達が病院に担ぎ込まれる騒ぎが起こったのである。犯人を探し出せ、との声は根強かったが神父はそれを拒否した。
信者の間に疑惑と恐怖を撒き散らして、罪人を引きずり出すような真似はしたくなかったからである。
そのかわり、政府によって停止されていた配給を再開できるようにすることだけに力を注いだ。そんな教会の考えを否定的に受け取って理解を示さない人々は、再犯の可能性ありゆえ再開は不可能。再犯の可能性を絶てばすぐに許可と新婦に繰り返し圧力をかけてきた。
しかし、それもようやくなんとか。一部には評判がよくないとされる市長が力になってくれたことによって解決することができ、先週から再開されたのだ。
これまでの所、特に大きな事件も起こらないことから大丈夫だろうとようやく楽観していたのであるが……。
配給の時のことですね?
「はい、そうなのです。これはその時でくわした事件に関係しています」
あの日は、この教会から少し離れた場所でバザーが開いていたんです。ご存知でしたか?
私は家族の許しも出たので、夕方の教会の前にあそこで友達と一緒にいって覗いてきたんです。
たまたまやっていたクレープ屋とか、あとフライ返し!
なんか引っ越しされる方が出していたんですけど、かわいらしいフライ返しがあって。見て回るだけのつもりだったけど、あれだけはどうしても欲しくて。
思わず安いからって買ってしまったんです。
でも、そのあとは教会でしょ?
そこにわざわざフライ返しを持っていくのもどうかと思って、それにもしかしたらなくしてしまうかもと不安もあって。一度家に戻ったんです。
それで教会に向かったのですが、残り時間がだいぶ少なくなっていて。
遅刻をしたくないなって思ったら、自然と足があそこへ………はい、そうなんです。教会の裏道を走っていったんです。
少女のその言葉に、アーダン神父は思わずうめき声をあげそうになってしまった。
この教会へ続く裏道と言うと、それは廃棄された工場跡のなかをはしっていったということになる。それも、日が沈みかける中で。とても褒められた話ではなかった。
ああした場所には、おおよそマトモとは言い難い連中が住み着いていることが多い。
それでなくても若い子供とはいえ女性が、そこに足を踏み入れるのは危険だ。アーダン神父は普段なら決して口にはしたくないが、あのような日ならば教会を目指していた浮浪者もいたかもしれない。
もし、そいつらに眼をつけられたりでもしていたら………。
頭を振って集中する。
とにかく、今は集中だ。注意するなら後でもいいだろう。とにかく彼女の話を聞かなくては。
200メートルほど走ったさきで角を曲がるとすぐに教会の裏道にでます。そう彼女が言うと、新婦の脳内でその様子が綺麗に夕焼けの中で再現される。
「それで……そこで…出会ってしまったんです。とても、とてもおかしな格好をした、変な人とばったりと」
クエリー・マキシンことミスター・アンサーはその時、本当に驚いていた。
誰にも見られずにこのまま教会へと進入する計画であったが、こんなところでいきなり少女と出くわしてしまったのである。
地味な服ではあったが、顔を見ればその目の輝き、健康さで廃工場をねぐらにしている【負け犬】共ではないとことが一目でわかる。つまり、この少女はクエリーの計画実行前に会ってはいけないタイプの人間なのだ。
(クソッ!結局、こんなことになってしまうのか!?)
そして、驚いたのは少女の方も同じであった。
なんせいきなり目の前に、全身黒タイツ着て、顔にも黒のマスクしている。でも胸にはクエスチョンマークの変な模様を確認していた。
「きゃっ」
それは小さな声だったが、確かに少女の悲鳴であった。
そして、それを耳にするとクエリーは慌ててごそごそと背負っていたバックパックの中に片腕を突っ込むと中をかきまわしはじめた。
「違う、違う!…これ…これじゃない……こでもない。爆弾じゃない、これもっ」
(爆弾!?)
少女の方も自分がどうしていいかわからず、ついつい棒立ちであったが。クエリーの洩らした聞き逃せない言葉に、眉をひそめた。
(逃げた方がいいかしら?っていうか、あの脇を通って逃げられるかな?)
元来た道はさすがにもう一度戻りたくはない。そうなると教会を目指すべきだが、それにはミスター・アンサーとなったクエリーの横を通り過ぎなくてはならなかった。
「あった!」
ついに探していたものを見つけたらしい。ほっとした声を上げると何かを取り出した。
「あっ!?」
少女が声を上げたの、クエリーが取りだしたのが銃で、それを自分に向けていることが分かったからだ。
「爆弾と言うのは設置が大切なんだよ。準備には時間がかかるし。騒がれても困るわけ、だ」
自分はもしかして撃たれるのだろうか?ふっとそう思うが、同時に心のどこかではこの目の前にたつおかしな格好をした頼りなさげな男が、自分を殺すことなど出来ないんじゃないかとも思った。
クエリーのトリガーにかけた指に力がかかる。
だが”ソレ”ができたかどうかは分からなかった。
「何をしてる」
ぶっきらぼうな声だった。機嫌の悪い声だった。
それが突然、緊張して見合う2人に声をかけてきた。
彼は壁の上に立ち、いつからそこにいたのかわからないが、静かに見下ろしていた。
キング・ロゴス、老人の名を知る者はその名前を言う時。懐かしさと、寂しさを同時に感じるという。
アークシティの誕生から活躍したかつてのヒーロー。
よれよれになった鋲打ちの皮ジャンにレザーパンツ。そして、派手派手しい柄のTシャツ。今の時代にパンクロッカーのような風体はどうなんだとおもわないではないが。ボサボサに伸ばした髪や口ひげは白く、顔に刻まれた皺は、この男の生きてきた戦士としての年月を感じさせるのに十分だ。
そんな彼は現役から退いた後、このあたりの地域に隠れるようにして住んでいるというのは公然の秘密であった。
その伝説のヒーローがクエリーことミスター・アンサーに再び問いかける。
「何をしてるんだ?」
「なんなんだ、爺さん!」
ロゴスの目の前でそう叫ぶおかしな若者の態度は十分に想像ができるものだった。慣れてないのだ、暴力に。
こういうやつは嫌と言うほど叩きつぶした記憶がある。身体中に余計な力が入りすぎ、ガチガチになっているからいちいちオーバーアクションになっている。
こういう奴はいつだっている。自分が手にした武器がおもちゃでないことがわかっていると口では言うのに、それを自分が持ったらどういうことになるのかわからないガキ達。そいつらは例外なくこの剛腕で叩きつぶされ、その後に警官達に引きずられながら蹴りをいれられてようやく現実を理解する。
そんなのに付き合うのは、もうごめんだった。
だが、そんな気が失せたのには、理由がある。
タイツ姿の変人が、少女と老人を前に、なんでいるんだとか、こんな時に限ってとかグチャグチャ言ったが、そんなことはどうでもよかった。
壁の上からひょいと飛び降りると、びっくりしたタイツ男はこちらに銃口を向けてきた。
(…消音器がついているな)
向けられた拳銃を横目で素早く確認すると、なぜだろう。胸がチクリと痛んだ。
何をするつもりだったかは知らないが、こんな手間のかかる道具を用意をするとは、どうやら頭は悪くないつもりらしい。
「動くんじゃない!なんで飛び降りた!?動くなと言ったのが聞こえないのか!?」
ヒステリックに叫ぶタイツ男の声は不快なだけだった。だから申し訳程度に両腕を上げているように見せかけ、相手の方へと体を向ける。
「いいか!?やるなといったらやるな!僕はこれから大事な用事があるんだ!お前達はその邪魔を……あっ」
人を撃ったことの無い奴は動きでわかる。
さっとその手から銃を取り上げると、弾と弾装をぬいてまず後ろを流れるドブ川に放り込む。さらにそれをボーゼンとみつめている変人の前で、ひとつずつ弾を抜いていくとそれも川に放り投げて捨ててやった。
あっさりしたものだ。
「……っ!?お前っ、お前は超人なんだなっ!?」
その瞬間、クエリーのその声と顔を見ていたキング・ロゴスの表情が変わる。
自分を見て「超人だろう」と言う奴は過去にも大勢いた。
だが、いつからだろうか。その言葉の響きの中に、奴等の持つ狂気が混ざりはじめたのは。
戦う相手のことが分からなくなっていき、理解できないことが多くなった。だが、そんな自分とは逆にそいつらを”理解する”連中も出てきた。「時代が変わっただけさ」不死の男はそういってなんでもないという。そんなことはない、そんなわけがないのだ。
結局、自分の居場所がなくなった、それはそれで構わない。
自分を常に「正気でいるよな?」と疑問を持ちながら、犯罪とむきあって戦うことは不器用な自分にはできない相談だからだ。
だが、トゲが残っている。なぜ、こんなことになってしまったのだろうという割り切れないトゲが。
この若い奴の声を聞き、その目の輝きを見た時。そのトゲの痛みを思い出した。
コイツは、コイツのような奴等が、自分の居場所をなくしたのだ。
銃を奪ったのに、そいつはなぜかむしろ嬉々とした様子で一歩飛ぶようにして距離を取ると、バッグの中からなにやら取り出した。
「これがわかるか!?超人よっ」
…わかるわけがなかった。なにやら大きな文字盤があって、キューブのような形をしているのは見てわかる。
「あっ…それが爆弾…?」
爆弾だと?ボー然とした顔の少女がなぜかそんな言葉を漏らす、それをきくと変人は大喜びで語りだした。
「ふはははは、そうだ。その通り。
これはミスター・アンサー手作りによる【リドル・ボム】である。今から出す質問の答えを、この【リドル・ボム】を使って答えてもらおうかっ。
くくくくく……、正直言うが。舞台も規模も全然満足できないが、お前が超人で、私が居るならそれでいい!
さぁ、この勝負。受けるよな!?そこの餓鬼の命にもかかわるからなァ。どう答えるのが正しいか、わかっているな!?」
キング・ロゴスは、何気なく隣に立つ少女を見て、それから変人の目を見た。
弱い者がする、縋るような、助けを求める眼があった。全てが終われば、これは喜びと崇拝に満ちたものとなるのは分かっている。
続いてみた変人の目を見ると、再び胸の傷がうずく。経験が足りないだけで、その狂気は成長を続けていて、災厄を振りまいて嘆く者達をみると涙を流して喜ぶクズ共を思い出す。こいつらに敗北はない。あるのは常に勝利か、死かの2つしかないのだ。
しかも、成長を止めるために死を与えても、その時は世界に種を必ず飛ばしていく。根絶やしはできず、下手をすればその心の闇にこちらがひきずりこまれてしまう。
そんなのはごめんだ。
そんなことに付き合わなくてもいいじゃないか。
なにやらクイズの問題を言ったらしい。気がつくと、キング・ロゴスにむかって【リドル・ボム】なる爆弾を放り投げてきた。
リドル……ね。
くだらないことだ。悪い冗談にもほどがある。
顔を上げると、変人の目を見る。ギラギラと輝いていた、完全にまともじゃない。
「どうしたっ、答えて見ろ超人!」
「………うるせぇよ」
それで十分だった。
突然、キング・ロゴスは【リドル・ボム】蹴飛ばしたのである。
本当に驚きました、そう少女は言った。
蹴飛ばした爆弾は見る見るうちに空の彼方に飛んでいってしまって、見えなくなったと少女は言った。
アーダン神父は黙って聞いていた。
それからでした。
突然、相手の人がなにか大声をあげてお爺さんに飛びかかっていったんです。とっさにわたし、とめようとして体を割り込ませようとしたんですけど、お爺さんはそんな私を押しのけて。
キング・ロゴスは問答無用で突撃してきたマキシンの顔を跳ね上げると、口を開け、仰向けのままその場に大の字になって倒れこむ。
しかし、それで終わらすことなく無言のまま無防備にさらされた腹にきつい一撃を入れ、そこからさらに両の拳を何度もこの男に向かって振り下ろしだした。
そうなんです、何度も何度も。
相手の人もすっかり黙ってしまっていて、私も怖くて何も言えなかった。
だけどその人は拳をふるうのをやめようとしなくて、本当に殺してしまうんじゃないかと………。
本気だったのは、最初だけだ。
こいつらがどういう”生き物”なのかは自分がよく知っている。
自分が何をして、どうやって止められたのかなんて気にはしない。ただただ、流れた血で感じる熱に浮かされるように闘争本能だけが全ての基準になってしまっているのだ。自分が見ているものが何か、少しでもまわりを見ればすぐにわかることなのに。
拳に痛みはない、だがトゲだけが胸の奥の痛みをうずかせるのだ。
つきあってやるのはこのくらいでいいだろう。
しばらくすると、ようやくやめてくれたんです。変な人はピクリともしませんでした。
お爺さんは私を見て……私、怖くて震えていたんです…「ワシやこんなのとお嬢さんはかかわっちゃいかん。さっさと行きなさい」って言ったんです。私、うなづくことはできたんですが足が動かなくて。
それを見たらお爺さん、突然足元の人を掴むと河の中へと放り投げてしまいました。あの人に意識があったのかどうかわからないけれど、まるで糸の切れた人形みたいにほうりなげられていて……。
「あっ」っていったら、「死にゃしないさ、安心しな」というと、また壁の上に登って乗り越えていってしまったんです。
私、怖くて。でも、あのお爺さんも大丈夫だって言ったからってその場から離れて。
その後、教会に来て普通に仕事をして、その日は帰りに御祈りをしたんです。あれから数日が経ちましたけど、不安なんです。新聞にもしかしたらあの人の写真が載っているかもしれないって思うと。
私、私がしたことは…………。
長々と少女は語り終える頃には、言葉を失って泣いていた。それは、あの時の自分の行動が正しかったのかどうか確信が持てず。過ちを犯したのではないかと言う不安に押しつぶされるように感じているのだろう。
アーダン神父はしばし黙ることで、少女に時間を与えた。そして救いを求めてやってきた、この信心深い少女にむけ口を開いた。
「話はわかりました。よく話してくれましたね。
本来ならば、ここで聖書の教えから引用して教え、諭すものですが、あなたの話を聞くとその必要はないことがよく分かりました。
あなたは事件の現場にいて、なにもできないまま罪を背負ったのではないかと思ってしまったのですね。
でも、大丈夫です。御安心なさい。そんなことはありませんよ、これは決して気休めに言っているわけではありません。
むしろ、私の見るところあなたは神の奇跡と呼べるものに出会ったのだと私は思いますよ?
もう一度振り返ってみましょうか?あなたはその時、罪を犯そうとする者の前に出てしまい。とても危険な状況にあった。
しかし、あなたを助ける存在が現れ。彼が罪を犯さぬよう…確かに、手荒だったのかもしれない。でも、教会にはなにも騒ぎはおこらなかったし、あなたも無事だった。その……名前を名乗らなかった老人が大丈夫と言うなら、信じておあげなさい。あなたを助けてくれた、善き人なのだから。
実際、あそこの川はこの時期は水かさがそれほどありません。むしろ溺れる方が難しいくらいです。
でも、いいでしょう。あなたがそれで落ち着くというなら、あとのことはこちらに任せてください。警察に連絡して、明日の朝にでも一応川底を攫ってみましょう。
なにも出ないと思いますがね、でも確かにそうします。
繰り返しますが、あなたが気にすることなどないのです。いいですね?全ては神の御意志のままに。さあ、一緒に祈りましょう………」
▼▼▼▼▼
少女が教会から出ていったらしい音を聞いてからもしばらく、神父は告解室の中でじっと動かずに物思いに沈んでいた。
部屋に戻って仕事を続けていたが、どこか上の空であった。
つい先日、この建物のそばでおきた意外な事件が今日、少女の告白で明らかになった。少女は名前を知らなかったが、その風体、その力、彼の態度を聞いたら自分にはわかる。
(キング・ロゴス……)
かつてこの町でキングの名前で愛された英雄。その時。彼は輝ける正義の象徴でもあった。
その場所には今、別の者が座っているが。
表舞台から姿を消してから、彼がここの近くにいるという話は神父も知っている。だが、その姿を見たことはない。
もし、会うことができたならば自分はかけなくてはならない言葉がある気がする。
自然、引き出しを開けると一枚の写真を取りだした。
酒瓶を片手に酷い酔い方をしている若くて元気そうなパンクロッカーな男と肩を組む、若い自分がそこに写っていた。
それは古い写真、古い友人との思い出の一枚であった。




