ROUND 7
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「あなたのお掛けになった電話番号は現在使われておりません」
一度切る。もう一度で同じ番号を試してみる。
「あなたのお掛けになった電話番号は現在使われておりません」
無情にも同じ言葉が繰り返された。
「………」
受話器を戻すのに合わせ、後ろから声がかかる。
「97A413、どうやら電話は終わりのようだな。戻るぞ」
「……はい」
それ以外の言葉が他になにも出なかった。
ショックであった。
警察の取り調べでは散々に馬鹿にされ、胡散臭い弁護士が憐れみの目でこちらを見ながら「よろしく」、と握手を要求し。そして、せまくるしい牢獄の中に放り込まれた。裁判はあっという間で、始終がこちらを「愚か者」と罵られただけで終わってしまった。
まさか自分が捕まるとは思っておらず、こんな状況になるとは深く考えていなかったことに今さらながら気がついた。
で、なにかアドバイスというかアイデァがないかとポーカーフェイスに聞こうと思ったのである。結果はご覧の通り。教えられた番号は使えなくなっていた。
自分を留置場にブチ込んだ刑事も言っていたっけ。人死は出なかったが、お前のようなロクデナシは間違いなく50年はくらうはずだ、と。その言葉の実感が、いまだに持つことができずにいた。
(俺はなんのミスもおかしていない。あの無能なギャング共と組んだばっかりに… いや、それ以上に卑怯な手を使ってきたヒーロー共が悪いのだっ。)
いくら考えても失敗の原因がわかるはずもなく、マキシンは歯ぎしりをするばかりであった。
フォンブースから戻ってきたマキシンは、呆けたように座りこんだ。頼みの綱と思っていたポーカーフェイスに見捨てられたという事実が、こうして1人になると孤独感をいっそうに強める。
頭を掻きむしりながら、騙された!騙された!とブツブツと呟いていたマキシンは、しばらくすると無言で立ちあがった。その顔は、それまでと違い焦りや孤独に怒る男の姿ではなくなっていた。
(僕はなんてマヌケなんだ。あんな、よくわからん男に捨てられたぐらいで………落ち着け、そうだ心に余裕を持たなくてはいけないのだ。精神を集中させろ。
まずは、ここからどうやって出るか?それが重要だ………でもどうやって出たらいいんだろう?)
力強く立ち上がり、自分を叱咤してみせたものの。肝心の【脱獄】などというものをどうしたらいいのか、実のところさっぱり用意も知識もないからわからなかった。恐怖と混乱からか、他人が彼を見るとむすっと始終不満顔をしてピリピリしているように見えた。そして、こういうワルの集まる場所では彼のような態度はとても目立つのである。
さっそくその様子が広がり、そう言う新人を”可愛がる”のが大好きな連中の耳にも入って舌舐めづりをしていた。しかしこの時、彼には運だけはついていた。クエリーのそんな態度とここにブチ込まれた武勇伝を聞いて、何かを勝手に察してくれた一団が居たのである。
突然、仏頂面のクエリーの前に、怪しげな男がニヤニヤしながら近づいてくるとそっとつぶやいてきたのだ。
「よお、聞いたんだがアンタ、なかなか派手な仕事をしてココにブチ込まれたらしいな」
「まぁなっ、ちょっとした計算違いで警察に飼われてる超人共に屈してしまったが、まぁ見ていたまえ。すぐにここを出て今度こそ思い知らせてくれん」
「おい!わかったから。静かに言えよ」
慌てる相手の顔には大きな刃物傷があり、いかにも犯罪者といった風態の男だった。彼は調子よくフカシまくってみせたクエリーの様子になにやら満足そうにうなづいて見せると、続けて
「実は、外で大きな仕事があるんだが、1人欠員が出てしまってね。あんた、興味はあるかい?」
それはひょっとして?……片眉をピクリ、と反応させマキシンは途端に口元を手で隠すとわざとらしく。
「詳しい話、聞かせてもらおうか」
思わぬ形で向こうから脱獄のお誘いが来てくれたのだ。
(出られる)それしか考えてなかったので、マキシンは肝心の【仕事】がなんなのか、さっぱり聞いてはいなかった。やはり彼はどこかがまだ抜けていた。
そして48時間後…
マキシンは、刑務所の牢の中から、アークシティ中央に輝きそびえ建つアークタワー、その50階にあるテラスのふちへと立っている場所を移動していた。
自分を押しつぶそうとする灰色のコンクリートの個室の壁ではなく、そこから色とりどりのネオンに輝く町の風景を見下ろしていた。眼下には、警察車両が照らす赤い回転灯が無数にまたたき列をなしている。
今度は自分の背後を振り返ると、”仲間達”によって組み上げられた巨大な爆弾が設置されていて、その破壊力を発揮する瞬間を今か今かと待っている。
そして、信じたくはなかったが。クエリーの手の中にはこの爆弾の起爆装置がなぜかしっかりと握られていた。
なんでこんなことになったんだ?
呆然としながら、マキシンは首を捻る。まるで、B級アクション映画の悪党にでもなった気分だった。
だが、現実に彼はいま、この塔を爆破するため人質を取って立てこの塔に立て篭もっているのである。
全ては、時間をさかのぼること2日前のこと。
マキシンは刑務所の中でいかにも荒っぽそうな男に一緒に仕事をしないかと持ちかけられた。その内容を要約すると、脱獄して外で一発仕事をしよーぜ!といった単純なものに聞こえた。
ちょうど、なにも考えがなくて途方にくれていたマキシンにとっても渡りに船な話だったので、相手の素状や仕事の内容を確認することなく飛びついた。
細々とした途中をはしょって12時間後には、見事脱獄に成功したのである。が、その後が問題だった。
外での大きな仕事と聞いてマキシンは当初はてっきり銀行を襲うとか、まぁそんなことをするのだろうと思っていた。なにせ、自分は銀行強盗の容疑で捕まったのだから。
それがまったく別の、他の仕事だとは全然思っていなかった。こうなったのには理由があるにはあるのだが、それについては後述しよう。
とにかく、あれよあれよと言う間に脱獄した先で、男の仲間達と名乗る集団に銃やらやたらに重いリュックやらを渡され、ついて来いと言われる。この辺で逃げるチャンスがあればそうしたかったが、彼等はやけに隙の無い連中で、クエリーが集団からソロっと離れようと思っても、必ずそれを見つけるものが居てそれはできなかった。
で、アークタワーにトラックで突入したあたりで、ようやく自分が何かとんでもないことに関わっているのだと気がついたのだが、その時にはもう手遅れであった。
警備員達を蹴散らしつつ50階にたどり着き、そこでそれぞれ背負っていたリュックから取りだされた部品で爆弾が組み上げられるのを目の当たりにして、いよいよもってのっぴきならない状況に身を置いていることを理解した。
この一団のリーダー格の男はコールマンと呼ばれていたが、痩せたハゲ頭の彼は機材を組み立て終わると全員を集めるて演説を始めた。
いわく!かの悪名高いミュータント論は虐げられる超人達を次々と生み出し。弱者を気取る愚か者達によって搾取され続けている。そんな彼等を苦しみから救うため、彼等に与するこの町の”王の城”を焼き尽くすことで、この国の腐敗の象徴を粉々にしてやるぞ!というのだ。
回りもそれに同調して意気揚々とする中でたった1人、クエリー・マキシンだけは眼を剥いて驚きと恐れから来る震えを感じていた。
(これ……これはっ……これは、ミュータントテロではないですかっ!?)
冗談じゃない。ということはここにいる連中は全員が超人と言うことである、そして自分は人間なのだ。言えるはずがないではないか、言えば間違いなく彼等は自分をテラスから投げ捨てるはずである。と言うか、どうして自分を超人だと思ったんだ、コイツ等は…。
さて、ではなぜこんな愉快なことにクエリー・マキシンは巻き込まれてしまったのか。
実は刑務所の中でもTVは見ることができる。あの銀行での一件は、刑務所の中の連中にとっても楽しい”イベント”として見ていたわけだが、次々と明かされていくミスター・アンサーことクエリー・マキシンの情報から彼等は違う印象を持ってしまったのだ。
そう、公式には【銀行強盗】のはずのクエリーの罪状を、中の連中だけはあれは【銀行爆破】だと理解してしまったのである。
なんともこれが奇妙な話で、一般人には決して理解されなかった変人の目的は、犯罪者達の目から見るとしっかりと理解されていたことになる。
そして、このテロリスト達はそんな【爆破】好きな彼を、臨時の仲間として欲した、ということなのだろう。
先程からタワーを取り囲んでいる警察が叫んでいる声に負けじと、コールマンが声を張り上げ続けている。
「超人は、そうだ!超人はミュータントなどではない!
遺伝子が生み出した、哀れなフランケンシュタインなどではない。
神が導いてあらわした、進化の道ではない。
そうだ!そんなものでは断じてないのだ。
超人とは、我々とは神なのである。力を与えられ、言葉を与えられ、それを敬う者達に恵みを与える存在なのだ。ふんぞり返った弱者や、それを認めずに力など無かったふりをする愚か者達などに我々の当然の権利を!当然の力を否定させてはならない!
そういう意味においては、このタワーこそ、なによりも虚飾にまみれた忌まわしい建造物だ!」
コールマンのそうした演説を、彼の率いる一団は子守唄のように鋭く左右に目を光らせながら聞き、人質達は恐怖におびえて視線を落とし、クエリーは必死の演技で平静を心がけようとしているのだが、その目はカクカクと先ほどから泳いでいて落ち着かない様子であった。
「私の家を勝手に占拠したあげく、スタッフを人質にするのは感心しないね。
一般開放しているとはいえ、これでも招く客は選んでいるんだコールマン。君等には即刻出ていってもらおうか」
突如、テラスに声が響き渡った。招かれざる客と言われた連中は、声の主を探そうとする。
彼は、塔より幾分高い位置にいた。
”光の騎士”アレックス・アークナイト。
鍛え上げられた筋肉質の体には見なれた戦闘服と、ヘッドガードの出で立ち。戦いが始まればその肉体は鋼と化し、あふれ出るエネルギーで鎧やビームを放つ。その底知れぬ力は、世界レベルの力を持っていると誰もが認めるこの町の守護神。
その彼が、ついに自分の”城”を、塔を奪還すべく帰ってきたのであった。
「撃て!」
コールマンの第一声に弾かれたように武器が火と轟音を発しはじめるが、アレックスは微動だにしなかった。
それも当然のことか。彼の会社、財団の開発した戦闘服と彼自身の力によって鋼と化した肉体に、ただの銃器などたいした威力にはならなかった。
それに、見た目以上に彼等の間には距離があり、風の抵抗もあって一斉に撃った弾のほとんどは外れていたのである。
意識していないのだろうが、アレックスの目が冷たく光り敵を見下ろしている。
コールマンもそれに気がついたか、自分の部隊に向かって叫んだ。
「ブレイズ!攻撃で時間を稼げ!」
その声に弾かれたように並んだ列から前にでてきた6人の男女がいたが、彼等は様々な変化の後で一斉にその体が火に包まれた。
「ふん。火炎能力者を集めたのか」
特に感情の無い声でアークナイトはそう呟く。
だが、事はそう単純ではなく、楽ではない。光を始めとしたエネルギーに相性の良いアレックスではあるが、火炎を始めとした属性攻撃だと鋼の肉体だけで耐えられるかと言うと難しいものがある。
それを見越してのコールマンの指示であろう、さっそく燃える体となった彼等、ブレイズの面々は手をつきだすと、そこから炎を吹き出させる。
6つの炎は1つの柱となってアレックスを一瞬だけ飲み込むが、その体には結局触れることはできなかったようだ。
湧きあがるように、アレックスの体の中からエネルギーがあふれ出ると。それはCGで書いた全身鎧の形をした、半透明な赤いエネルギーフィールドを発生させていた。
無尽蔵とも思えるアレックスの力は、鋼鉄の肉体だけではなく、この鉄壁のエネルギーフィールドをも発生させることができる。これをなんとかするのは容易いことではない。
(こんなの、無理だァ)
声には出せなかったので、そっとクエリーは自分の本音を心の中でだけ漏らしてみる。
なんということだろうか、これほどまでに頭の先から足の先まで、自分と言う存在を否定してくる場所に自分が立っていることに、居心地の悪さを感じていた。
ブレイズと呼ばれた火炎能力者達の半分はすでに大空へと飛び立っており(どうやら全員が飛べるわけではなかった模様)、あとの者たちもコールマンの激に答えるように手に持った銃やバズーカをアレックスにむけて狂ったように撃ちまくっている。
(なんという無駄なことを……)
自分の手に握られているライフルは、一発も撃つことはなかったし、そうしようとも思わなかった。そもそも、知力対決によってヒーローを倒すのが目的(その知が残念ながらこれまで発揮されてるとは言い難いが)のミスター・アンサーことクエリー・マキシンにとって、力と力を真っ向からぶつけてくる超人と戦うというのは、なんというか【出来ぬ相談】であった。
(それに相手はあの”光の騎士”だぞ?まともな方法で勝てるわけがないだろっ)
自分のアイデンティティーを全否定するこの戦場にあって、ただ1人情けなく口を歪めているだけしか出来ないクエリーは、早くも”仲間達”がアレックスの力に押されはじめるのを見ながら心の中でぶっちゃけてみる。
そもそもこの作戦は、”光の騎士”が居留守の間に、その居城であるタワーを爆弾で持って薙ぎ倒すというものではなかったか?
それが、警察に気づかれた辺りから連中ときたらすっかりここで”光の騎士”を迎え撃つつもりになっていたようにも見える。完全なミスだ。
ふと、なぜか決断を下していたコールマンではなく、自分の手に握られた起爆装置のスイッチを見下ろす。
今、これを押せばタワーは崩れることにはなるだろう。だが、当たり前の話だがコールマン達を含めた自分も助かることはないだろう。
だが、このままでは負けるのは明らかなので、そう言うことを含めて考えると押した方がいいのかもしれない。
でもそれだと、どうなる?
彼等はいいだろう。一命を賭けて、この任務を果たしたと報じられるのだから。
だが、自分は違う。ここにクエリー・マキシンの名が、ミスター・アンサーの名前が加わるのはどうなのだ?
超人として”最強”と呼んでいい存在に対し、自分達の怒りを吐き出すことで満足している彼等に自分が同調するのはやっぱりおかしいのではないか?
自分は暴力馬鹿を嘲笑う存在になりたかったのではないのか?
それがコールマンがやけを起こし、こちらに向かって「今だ、スイッチを!」と言ってきた時、それに応じるのか?いや、応じるべきなのだろう、と言うかやれるわけがない。
自分はヒーローと戦って死にたいのではない、勝ちたいのである。なのに自分の名前が人々の記憶に残る理由がテロ活動の、それも後に続くテロリスト達の宣伝に、自分自身の名が使われるのはどうしても我慢がならない。
(…もう、ここから逃げだしたい)
そんな泣きごとを言っている間も戦闘は続いている。
エネルギーフィールドで作られた鎧を身にまとい”光の騎士”は、ついに自らの邸宅に突撃すると、武器を使い迎撃するテロリスト達の中へと突っ込み、手当たり次第に鋼の拳でぶん殴っていく。
それはもう見事なパンチで、それを食らった連中は次々と倒れ、気絶していった。
圧倒的なその力を見せられ、やけを起こしたのかもしれない。バズーカを抱えた太っちょが雄たけびを上げながら突進すると、アレックスの至近から直接砲火を浴びせようとする。ゴウと火を噴き音を立て、衝撃が空気を震わせたものの、それだけだった。
何も言わずにその直撃に耐えてみせたアレックスは無言のまま自身の左腕を横に薙ぎ払う。
(………!?見てられないよ)
実際、その通り、見られたものではなかった。アレックスはついにエネルギーを放出する。攻撃にパワーを使いだしたのだ。
それは、遠巻きに攻撃しようとしていた連中にむけられた。
腕を一振りするとカッター状に、ときには大きな波となり、拳を突き出せばビームが走り、巻き上げる仕草で竜巻が起こる。
まさに神とその力を前に翻弄されるだけの”人間”、それ以外に評しようの無い一方的な戦いであった。
もはや、この戦いに勝利の女神がテロリスト達に微笑むことなどないだろう。どうにもならないほどの力の差があることは、誰の目にも明らかであった。
コールマンは遂に叫ぶ。
「ブレイズ、攻撃!攻撃を加えろ、奴をかく乱して身動きを取らせないようにするんだ!……おい!早くボタンを押せ。時間は貴重だ、爆破しろ!」
(ああ、嘘だろ?本当に言ったよ、あいつ……)
クエリーはその言葉を聞いてなんかもう泣けてきて、いっそ泣きだしたら楽になれるんじゃないかとすら思えた。
アレックスはここに乗り込んできた時、当然だが犯人グループが武装したテロリスト達で(彼等とは色々と因縁が深い)、それを率いているのがコールマンで、爆発物をもってきているというのまでちゃんと知っていた。
だから、敗北を目前にして焦燥と怒りと屈辱にまみれたいつものあの表情を見せながら、決して自身の手には持とうとはしない起爆装置を、他人の手でボタンを押させることまで予想していた。
(進歩がないな、コールマン)
残っているのは、そのコールマンとブレイズと呼ばれる火炎能力者達。そして戦闘の開始からこっち、一度として手に持った銃を構えることも、トリガーを引くこともなく。何故かは知らないが、情けなさそうな顔をしてポカンと口を開けている青年が居るだけになった。
だが、そんな状況でもコールマンの指示に応えようとブレイズとよばれた能力者達の攻撃が激しくなる。
彼等はアレックスを取り囲むようにして移動しながら、炎の柱を叩きつけようとする。その炎の舌舐めずりは決して彼の肉体に触れることはなかったが、勢いが激しいだけに視界を奪う。こうなると相手をとらえにくくなり少し厄介であった。
「…何を躊躇っている、新人!?お前のガッツを見せてみろ!」
焦った様子で促すコールマンの声は、どうやら青年には届いていないらしい。先程から変わらぬ微妙な顔をしたままむこうはぴくりとも動かない。
だが、あの青年の思惑は別にしてこちらもブレイズなる集団の攻撃にいつまでもつきあう理由はないだろう。
「見事な連携だね。つかず、離れず、火勢は強く、連続して。これでは手こずるのも仕方がない。だがね、こういうやり方をしたら、君達はどうするつもりだったのかな?」
そう言うといたずらっぽく笑うアレックスの体が、突然膨張を始めたように見えた!
あれは、確か宇宙からモンスターが。いや、”怪獣”なる肉食獣が報復としてこの町に投下された時の話だ。
皆が本部に集まって「あんだけクソでかいとやっかいだ」と顔をしかめているのを見て、アレックス・アークナイトはその時、なんとなく思いついたのだ。
自分でもあまりにも単純で、子供の発想だと思ったが、”それ”が実際にはとても役に立つことが証明されるのを目の当たりにして、友人達はポカンと口を開けて呆れていたのが印象的だった。実際、自分も彼等の側ならそうやって言葉もなかっただろう。
それを見て、あのエミリア”ウィンド”マーべリックは自身の記事にこう書いた。
『光の巨人、怪獣をアークシティから叩きだす!』、と。
彼女は後でその記事を誇らしげに持ってきてみせると、呆れ顔の僕に「今後はタイタンモードって名付けてくれませんか?あ、もちろんこれは私のアイデアなんですけど。うちの社では今後そう書くことになりました!」といっていたっけ。
タイタンモード。まぁ、間違いではない。
いつもなら体の周囲にはるエネルギーフィールドは薄く表面にのばしているだけだったり、一回り体の大きい鎧の形にして出現させたりしている。それを、可能な限り大きく膨れ上がらせようとしただけだ。
そうすると、中心に超人が中に入っている”光の巨人”の完成となる。
経験からその大きさは20メートル前後はいけることは分かっているが、今回はその半分にも満たない大きさにした。自分の家の中でわざわざ巨人になって暴れて被害を大きくしたくはなかったのでね。
だが、効果は抜群だった。
こんなことになるとは思っていなかったのか、ブレイズのメンバーの連携は崩れ、巨体(?)にこれまでの火勢では視界を奪うには程遠かった。
それに加えて”光の巨人”となったアレックスの無慈悲な両腕が次々と彼等の上に一撃を加えていく。最後に残った飛行能力を持った能力者達も掴まれた後で叩きつけられるか。蚊や蠅のように両手によって叩きつぶされるようにして撃墜していく。
結局残ったのは、希望に涙して喜ぶ人質達、倒れて動かないテロリスト達、そしてコールマンとクエリー、アレックスだけとなった。
再び”光の騎士”へと大きさを変えたアレックスは、コールマンなど見向きもせずにクエリーに向かって歩き出す。
さすがのこの絶大な力をふるう超人がこっちに来るとわかると、本能で感じる恐怖からクエリーの足が数歩下がる。
「さぁ、君。その起爆装置を渡すんだ。君がこれまで残念な判断をしてこの場に彼等と一緒になってきてしまったが。これ以上無駄に怪我をしたり、いがみ合う必要はない。勝負はついている……」
そうやってクエリーに語りかけるアレックスだったが。
なぜであろうか。今度はクエリーの顔に怒りの表情がわきはじめていた。
(ふざけるなっ、私はミスター・アンサーだぞ!?お前達に暴れるだけの超人などと一緒にするな!)
なんとも奇妙な話だが、”光の騎士”に自分がこの哀れな超人達と同じテロリストだと思われることに彼は酷い侮辱を感じていたのである。
「そうはさせん!」
コールマンはついに焦れたか、自らアレックスへと飛びかかっていく。そしてもみあうなかでクエリーに対して必死に我らの戦いを、とか。根性見せろ、などと罵倒しはじめる。だが………。
「なにをやっている、この腰ぬけ!ボタンを押せ!」
「断る!!」
一瞬、驚きで全員がクエリーの顔を見てしまった。
それほど明快に、怒りを込めて彼は叫んだのであった。続いて出てきたのは衝撃の言葉となる。
「まったく!お前等超人共ときたら、毎回毎回がこれだ!殴って、撃って、爆破して、人死を出して戦争を楽しんでいる。なんて無能で創造性の無いバカばっかりなんだ!?
だいたい、この私。ミスター・アンサーはお前達化物ではない!正真正銘の人間様だぞっ」
アレックスに掴みかかっていたコールマンの顔にあらわれた驚きの表情は、すぐさま怒りのそれへと変わる。
「…駄目だ!やめろ、コールマン」
制止の言葉は当然のように耳に入らず、コールマンは自分の力を解放した。
コールドボム、それはそう名付けられた。
激しい衝撃波を生み出し、同時に生物がそれにさらされると氷漬けにされるのである。
効果範囲はなかなかのものだし、敵味方のくべつもしない。そんなやっかいな力を、こんな塔の50階のテラスでやればどんな惨事が起こるのか、考えるまでもなかった。
室内にいた人質達はガラスを浴びるだけで(いや、それも相当危険ではあったけど)すんだが、倒れていたテロリストの一団にはまずいことになった。
床に押し付けられるようにして凍っていた連中は運が良かった。テラスからはみ出してはいたが、爆風に翻弄された結果、折り重なることで地上へと投げ出されないまま凍った奴にも同じことが言えるだろう。
だが運が悪く、爆風と共に氷漬けにされて空中に投げ出された連中の数は少なくなかった。
そして、当然だが爆心地に最も近かったクエリー・マキシンもまた。微妙な表情を浮かべたまま氷漬けにされて宙へ投げ出されていた。
▼▼▼▼▼
「大変でしたね。さ、これをどうぞ」
ああ、酷く疲れた声でそう返事をしながら差し出された紙コップを受け取るアレックス。
事件は無事に解決したが、それは決して彼にとって満足できるようなものではなかった。
「…地上はどうだった?」
「別に、それほどたいした被害は。(ありません)むしろ、あなたが大丈夫かと皆が心配したんですよ?」
どうやら大丈夫だったらしい。少し安心してカップを傾けると、中の甘さに驚いた。
「……チョコレート?」
「そんなようなものですよ。こういう時は甘い物が欲しくなるんです、私」
リンダ・カッチーナ警部補はそういうとニヤリと”男らしい”笑顔を浮かべた。
「同感だ、レディ。僕も甘い物が好きでね、妹にはそれでよくからかわれたものだよ。この味で思い出した」
そういえってアレックスが笑顔を返すと、警部補は安心したのか離れていった。”自分のやったこと”の後片付けが残っているのだろう。ほろ苦さが、甘さの中で際立って感じてしまう。
コールドボムを発動したことが分かると、アレックスはコールマンをすぐさま振り払い、自分も宙へと飛び込んでいった。
投げ出され、落下していく凍りかけた”5人”をすぐに回収したが、そこでなんと助けに向かったことを知ったコールマンが再び襲ってきたのだ。
あいつは自分は飛べないとわかりつつ、50階から飛び降りてきたのだから、狂っているとしか言いようがない。
組み付き、首を絞めあげようとするコールマンに対し、なにもできないアレックスだったが、それは氷づけされかけた”5人”を抱えているからであって、自身が安全に直陸できるようにということにだけ集中していたので仕方がなかった。
だが、コールマンは甘くはなかった。
自分が絞殺すよりも先に地上に降りるのが先だと判断すると、そこで攻撃を切り替えた。
そう、再びコールドボムを発動させたのである。その結果は無残なものとなった。
警察の前にアレックスがゆっくりと降りてきた時、その手にはただひとり、狂ったような笑いを上げるコールマンただ1人が居るだけであった。
「信じられねぇよ。あいつ、仲間を殺しやがった」
後ろで誰かがそう言うのが聞こえて、顔を向けると。アレックスの丸まった背なかを見つけて再び狂ったように声を上げて笑っているコールマンが手錠姿で車の中へと押し込まれていくのが見えた。
(…助けられなかったか)
自分の手から滑り落ちていく5人分の質量が、コンクリートの上で砕け散るのを見たあの瞬間がまぶたの裏に蘇る。
そんな落ち込んでいたアレックスの元に驚くべき報告がもたらされたのはそのすぐ後のことであった。
あまりに信じられないその言葉の真偽を確かめたくて、あの砕け散った氷の破片が散らばれ場所へとやってきた。そこには警部補がすでにいて、同じように厳しい顔で待っていた。
「本当なのかい!?」
「…ええ、間違いありません。確認しました」
「そんな馬鹿な……」
「でも事実です。見つかった被害者の体は”4人”分です。今、事件の瞬間を写していたマスコミのカメラの映像を集めて確認して貰っていますが、確かに落ちたのは”5人”ですが、死体は”4人”だけです」
「テレポートとか、そういう力の超人だったのか?」
「わかりません。ですが、その可能性は低いかと。そもそも、そんな力があれば落下する前になんとかしたでしょうし」
そのまま誰も口を開けなくなってしまった。
アークタワー襲撃に、大きな謎がひとつ、残ってしまった。
▼▼▼▼▼
クエリー・マキシンは生きていた。
どうやって助かったかは分からないが生きていた。
だが、命があったことに多分彼は感謝することはなかっただろう。
耐えられないほどの臭気を放つ下水道を流れる水の中で”解凍”された彼は、もがき這いずって岸へと上がると、そこで体の内臓ごと吐き出すのではないかと言うくらい、長い事ゲーゲーえづいていた。
そして自身にまとわりつく匂いを嗅いで泣いていた。
何が悲しくて泣いたのか最初はわからなかったが、それが間抜けな自分がヒーローの手をすり抜けた証に新たな一敗を手渡されたのだという事実からだと考えた。
こんな思いをしたのに、こんな目にあったのにまた負けたのだ。
闇の中では、そんなクエリーを楽しげに見つめる目があった。
そいつは苦しみ、嘆き悲しむ彼を放っていたが。彼がそのどちらもやめて倒れて動かなくなると、ようやくゆっくりと近づいていってその襟元を掴んで引きずりだした。
気を失い引きずられるクエリーと、それを引きずる者はそうやって長く続く下水道の中を歩いていった。
、
クエリー・マキシン、ミスター・アンサーの戦績。7戦して7敗。いまだ勝負すらできず。




