ROUND 5
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アークシティには2つのスタジアムがあるのだが、そのひとつ。アークナイト・メモリアル・センターでは今夜、大きなイベントが開催されていた。
老若男女に愛されるそのスポーツは、今夜の大会を生中継で配信。そのせいであろうか、大通りもいつものこの時間に比べて人の量が少なかった。
そう、この瞬間。多くの人がTVの前で釘づけになっていた。
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W . E . W!!(音声:ワールド・エンターテインメント・レスリング)
やかましい音と共に、男のよく通る声がそう高らかに叫ぶ中、画面には様々な試合のフィニッシュシーンが次々とながされていく。
カメラが切り替わると、放送席に座る2人の男が映し出される。
片方はむすっとした顔をした実況で、もう片方はサングラスをかけ、やたらテンションの高い解説者のようである。
「皆さんこんばんは。今夜はここ、アークシティのアークナイト・メモリアル・センターから世紀の一戦をお送りいたします」
「ああ、そうさ!今夜はこのやたらチカチカまぶしいだけの町、電力を垂れ流すことが自慢の田舎町で、エル$サンチャゴが揺るがない断崖と言われる王者のボビー・ディクスンと勝負するんだ!こりゃ、もうたまんないねっ」
「あなた、今アークシティの悪口言ってましたよ?
しかし、その通りです。
あの悪逆非道、もっとも狡猾な王者と言われたボビー・ディクスンに対し。この町の英雄、エル$サンチャゴが今夜挑戦を表明。これは激しい戦いになると予想されます」
「おいおいおい!なにをいっているんだ?つい最近まで、あのエル$サンチャゴはとんだブタ野郎で裏切り者と叫んでいたのは、嘘だって言うのかい?」
「それは、あなた……」
「3か月前の大会で、あいつは乱入したと思ったら子供たちに人気のブースト・ガイを襲撃!救急車にブチ込んで病院のベットへ叩き込んだ。まさに満身創痍だったブースト・ガイに止めを刺して、あいつはブースト(押し上げる)してやったっていうのに」
「確かにそうです。彼はブースト・ガイに対してひどい仕打ちをしました。しかし、今日の戦いに彼はヒーローとしてリングに立ちます。全ては3週間前、ボビーのWEWタイトルを5度目の防衛が終えたところから始まります」
実況がそう言い切るのと同時に、映像がさし変わる。
そこにはマッチョでちょっと悪そうな顔をした男が自分の名前であるボビー・ディクスンを連呼する音声を背景にベルトを掲げ、時に相手を激しくリングから放り出すさまが映される。さらに5度の防衛という文字がかぶさっていくと、マイクを握ったボビー・ディクスンが勝利宣言をする映像へと移っていく。
3人の仲間を前に、自分の強さ、偉大さを交えながら1人1人を紹介し、その働きをねぎらう。
だが、最後の1人だけは無視した。
それがエル$サンチャゴであり、彼は当然のようにこの”悪友”の態度に抗議の声を上げる。すると突然、表情を変えたボビーがエルのいくつかの過去のミスを上げながら口汚くののしり始め、映像にもそのシーンがフラッシュバックで次々と流されていく。
「…俺が、俺があんたに力を貸したことが。そんなに邪魔だったとは知らなかった、許して欲しい」
「許す?許して欲しいだと?
駄目だ、そんなわけにはいかん。間抜けな役立たずには許しよりもしつけてやることの方が大事だ。
俺は犬を、アイリッシュウルフハウンドを飼っている。知っているか?
奴等は闘犬だ、ガッツがある、恐れを知らない!
だがな、中には脳味噌空っぽの、噛みつけばそれで褒めてもらえると思ってる間抜けた馬鹿な奴もいる。頭に血が上り、大切な場面でしくじり、勝利の女神を相手に差し出すようなことをする奴のことだ。
そう!お前みたいな奴のことだよサンチャゴ!」
「だから、それは…」
「黙れ!黙って俺の話を聞け!間抜け野郎!
あれは忘れもしない、3度目の防衛の時だ。お前はトンチキにもこのおれを椅子で滅多打ち、おかげで俺はあのオカマ野郎にあやうくこのベルトを。この王者の証を渡すところだったんだぞ?
まだだ!まだ終わりじゃない。
あの時この2人がいなければ、おれは病院で目を覚まし。味方に殴られ、ベルトを失い、仲間と信じたお前に背後からどつかれて目をまわしたオカマ野郎と言われる寸前だったんだぞ!?」
「………」
「そんなお前に朗報があるんだ、サンチャゴ。実は1ヶ月後に、お前の生まれた田舎町に行くと聞いた。俺達は仲間だ、だからお前の凱旋を祝福してやる。そう、馬鹿で間抜けなお前が、ちゃーんとご主人様の命令を理解できる奴だとお前の故郷の連中に見せてやる!」
「おい!それはっ」
「なんだ!?お前の愛するあの田舎町を悪く言われたのはそんなに腹が立つか?フン、なにがアークシティだ。荒野のど真ん中でピカピカ発電するだけの、電球だらけのみすばらしい田舎町じゃないか」
次の瞬間、エルは怒号と共に仲間達に襲いかかる様が流され、打ちのめすと同時にガラスが割れるエフェクトが何度も繰り返される。そんな中、感情たっぷりにエル$サンチャゴの声が響く。
「確かに俺はいい奴ではなかった。だが、そんな俺でも許せない事がある。
おまえにわかるか?ボビー、おまえにわかるか?
お前はやってはいけないことをしてしまったんだ。俺は国を、あの町を愛している。それがどんな意味を待つのか、お前が1人でリングに上がれるよう舞台は整えてやる。だから、あの町に来た時は、偉大なチャンピオンよ。立った1人で、リングに上がってみせてみろ。そこからさきは”しつけ”てやるぜ!」
画面が変わり、再び実況席の2人がうつる。
「御覧のように、王者へ挑戦状をたたきつけるのと同時にエル$サンチャゴは変わりました。愛するアークシティの為に闘うと宣言したのです」
「あいつは変わっただって?正気とは思えないぜ。あいつがこれまでやったことはひどいことだらけで、しかもこの3週にわたってやってみせたことは最悪だ。偉大な王者とかつての仲間達に対して、襲撃を繰り返したんだぞ?」
「その通り。その襲撃によってかつての仲間2人を先週は、とうとう病院送りにしてしまいました」
「それが正しいってあんたはいうのかい?」
「偉大な王者が1人で戦えないから舞台を用意すると彼は言いました。彼はただ自分の言葉を実行しただけですよ」
「おおぅ、信じられないよ」
「それでは、運命の一戦。いよいよCMの後です、お見逃しなく!」
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自分の望みを改めて考える。
ひとつ、メディアの前に、カメラの前にたつこと
ひとつ、超人をそこで知的に倒して見せること
ひとつ、とにかく今は確実に勝利が必要だということ
これらをすべて解決する方法が必要だった。だが、ソレは別に問題でも何でもなかった。
町の大通りをちょいと横向くと、そこに巨大な看板がある。プロレスのタイトルマッチが行われるというのだ。
完璧である。
そこにはTVカメラがあり、馬鹿な大衆はそれを見て喜び、そしてそこにでてくるマッチョな馬鹿共はどうせて異能ばっかりだ。
舞台は整っているのは明らかである。
迷うことなく、次のターゲットは決まった!
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試合開始から40分、会場は湧き続けていた。
いつもは悪党の下っ端としてこすくていら立つことしかしない男が、今日は町の英雄として立派に1人で闘っている姿に会場は彼の名を叫んで応援する。
エル$サンチャゴ!エル$サンチャゴ!、と。
お互いが一歩も引かずに進んだ戦いも、25分を過ぎてからの場外乱闘からの椅子攻撃で最高潮へと達した。
32分過ぎからはお互いの必殺技を繰り出してからのカウント2.8を連発。
後少し、あと少しと手を握る観客の前で、遂に決着の時を迎えた。
試合開始から40分と31秒。
振り向きざまに叩き込んだパンチでボビーの下半身がガクガクと震えだした。
それを見て興奮する観客達の声に後押しされるように、サンチャゴの猛ラッシュと続き。最後に大きなモーションを入れてからの一撃で相手を倒す。
「やってみせる!」
その瞬間、サンチャゴは観客席へとそう叫んだ。いつもならここで「やってみろよ」と挑発するが、今日は違った。そのまま走りだすと、ロープへと飛ぶ、最上段でピョンと曲芸のように尻もちをついてからリングに戻るとクルクルとバレエのように回転してから振りあげた腕の肘をつき落とす。
『ドミネイタ―』と名付けられたその技は、このエル$サンチャゴの必殺のフォール技である。そして、それが決まった瞬間、カウントが3つはいる。
ついに新チャンピオンの誕生が告げられた。
湧きあがる会場と違い、舞台裏ではその瞬間、問題が起こっていた。
このまま予定では、番組終了間際に控えていた”ストーリー上、入院してしまった”ことになっている2人の仲間が乱入。番組ラストに、彼等にぼこられるサンチャゴの姿をうつし。リング上ではロープによりかかって立ち上がりかけたボビーがうすら笑いを浮かべている様をアップにするところで終わる手筈になっていた。
ショーのラストシーンは来週以降の視聴率のためにも大事なことだ。
ところがそんな大仕事を前にして襲撃するはずの2人が消えていたのである。
いつもの試合用のタイツを履いているのは何人も見ていたし、荷物も残っていることからトラブルに巻き込まれた可能性がすぐに持ちあがる。だが、それにしてもこのままではまずかった。
関係者がそんな焦りを覚えて2人を探し回る中、無情にも告げられる声がある。
「残り、3分40秒!」
とてもどうにかできそうにない。
突如、会場の電気が一瞬だけ消え、悲鳴が上がる。
だがすぐに灯りが戻ると、リングの上になぜか新しいキャラクターがたっていた。そいつはなぜかボビー・ディクスンが使うはずだったマイクを手にしており、それのスイッチを入れると高らかに叫んだのである。
「ヒーロー、逃げかえることは私が許さない。さあ、今度はこの私と勝負をするのだ!!」
会場はざわついていた。ショーはもう終わりの時間である。
番組は今も生放送なのに、こんな演出などあり得るだろうか?舞台裏の混乱が、とうとう表に出てきた形になった。呼びとめられたエル$サンチャゴ自身も、よくわからなかったが。演技でどういうことだと、アピールして見せる。
「お前が今夜のアークシティのヒーローだというなら、いいだろう。ならばこの私と勝負だ!
私はミスター・アンサー。もっとも知的で、もっとも狡猾で、そしてもっとも偉大な未来の大犯罪者である。
お前の手にしたその王者の証とか言うモノが、どれだけツマラナイものか。すぐにわからせてくれるっ!」
(やったぞ!今度は大丈夫だった、カメラはオッケー。相手は…まぁ、レスラーだけど間違ってはいないからよし。なによりも全てがこの僕の支配下で進んでいる)
満足を感じつつ話を続ける。
なにもしないまま連敗を続けていた彼にとって、今日と言う日は記念すべき最初のモノとなるだろう。ただし、このまま思い通りの結果になれば、の話だが。
「この私の手に握られたリモコン。これには3つのスイッチがある。ひとつはこの会場に仕掛けた爆弾が、そしてもうひとつがこれだっ!」
勢いに任せて間髪いれずに中央のボタンを押すと、リングの4隅からボンボンと花火が勢いよく吹き上がる。この為だけに仕掛けたのだ、脅しのための演出である。もっとも、派手なこのショーではそんなに映えない勢いではあったが。
「お前達、騒ぐんじゃない!これは行ってみれば保険、私の今夜の目的ではないのだ。そう!今日の私の標的。それはお前だ、エル$サンチャゴ!お前はクズであった癖に、恩人に対して失礼を働いたあげく、そのベルトを奪い去ろうとしている。そんなこと、許せるものかっ!」
本人を指差しながら熱く語ってみせる。
「お前は堕落した。お前はいい子になった。それが許せん。だから今度は私と勝負しろ、このミスター・アンサーと知力で勝負だ!もし、やらないというなら、ひどいことになるぞ」
「なんだなんだ!?お前、何ができるというんだ?」
突然隠し持っていたマイクを取り出しそう聞きかえしてくる今夜のヒーローに対し、優越感をタップリを味わいながらアンサーは叫んで見せる。
「ベルトだよ!お前がその誇らしげに持っているベルトを爆破する。そのチンケな飾りのついたベルトを粉々にして、お前のやったことの無意味さを教えてやる」
なんだって!?
この言葉に舞台裏では早くも大騒ぎである。
今日の試合で使ったベルトは実はイミテーションのベルトである。プロレスというのは旅芸人のようなものでショーとショーの間は長い距離を移動することが多い。その移動中に手違いでもベルトを失う危険は冒せない。
だから本物は本部にあるわけで、実際は傷つけられても痛くもかゆくもないが。生放送中に爆破などされてはたまらないのだ。最悪、今のベルトを作りなおさなくてはならなくなる。
不安と焦りで何とかしなくてはならないのにとは思うが、放送時間はもうすぐ1分を切ろうとしていた。
「よし、もう一度確認するぞ?お前とのなぞなぞ勝負に勝てば、いいんだな?」
リングに戻ってきてそう問うエル$サンチャゴに対し大仰にうなづいて見せながらミスター・アンサーは返事をする。
「そうだ。その通りだ。準備はいいかな?筋肉君」
ソレはとても自信にあふれ、同時に相手を完全に見下したものいいであった。
「いいや、ちょっと待ってもらおうか………その前にひとつ聞いてほしい事がある」
「?」
そう言いながら、サンチャゴはなぜかゆっくりと一歩一歩足を進めていく。向き合う2人が、一時も離すことなくお互いの目を見てはなさないので自然に緊張感がでてくる。
と、突然ミスター・アンサーの胸元が爆発した。…ような気がした。自分の首から下が消し飛んでしまったかのような錯覚を覚えたのである。
が、実際はなんのことはなかった。ただ、ノーモーションで放たれたサンチャゴの放ったバックハンド・チョップがミスター・アンサーの胸に炸裂したのだ。しかしたったそれだけのことで、全ては終わってしまったのである。
いきなり呼吸ができなくなったことを自覚するも、どうすることもできないまま今度は感覚がスゥと遠くなっていく。
ミスター・アンサーことクエリー・マキシンの細い体がうなぎのようにくねらせながらリング上でのたうちまわる。
カメラは無情にもその一部始終をとらえていた。
一撃を貰った瞬間、ミスター・アンサーの顔は真っ赤に染まり。口は魚のようにパクパクと必死に開閉を繰り返すことで酸素を求めている。だが、思うようにできず、すぐにのけぞるようにして喉をかきむしる。
持っていた起爆装置は、当然のようにミスター・アンサーの手から落ちていたのでさっさと取り上げられ。準備していたのだろう。待機していたと思われる2名の屈強な警備員がリングサイドからミスター・アンサーを場外へと引きずり下ろしてしまう。
そしてリングの上では、勝者となったエル$サンチャゴがただ1人、大観衆のあげる歓声の嵐の中を手を突き上げそれに答えていた。
もちろん、彼の肩には今夜手に入れた輝くばかりに見事な新王者の証であるベルトがかけられていた。
「凄い、これは凄いぞ!まさにヒーロー。ヒーロー誕生の瞬間であります。試合後、突如あらわれたおかしな挑戦者を今夜リングで誕生したばかりの新王者が一撃で倒してしまいました!」
「こりゃすげーよ。マジで驚きだ!王者就任と同時にもう最初の防衛したってことさ、信じられないよ!」
「この会場の熱気、わかりますでしょうか?それではみなさん、また次回!」
そう言って締めくくる実況席の2人の背後では、大喜びで声を上げる観客の歓声が鳴り響いており、番組は意外な形ではあったが無事にその放送時間を終えることができた。
(おのれ、おのれっ!紙一重、そうだ紙一重の勝負だったのだ!)
まったく力が入らず、担架に乗せられ酸素マスクをつけられる一方で、その腕にはとうとう手錠という名の鉄の輪がはめられていた。
たった一発のチョップで、呼吸ができなくなって力が入らなってしまった。勝負の場をせっかく作ったのに、相手はそれに従うつもりなど全然なかったのだ。リングから転げ落ち、悶絶した彼は今は警備員付きで救急車の中へと運び込まれている最中である。
念願であったカメラの前でヒーローと対決するという夢はかなったものの、まったく喜びはなかった。
(まさか、まさかっ。ヒーローがあんな”ルール破りをする”なんて。いや、きっと筋肉馬鹿だから負けるのが嫌で、無理矢理暴力に訴えたに違いない。あんな卑怯者とはおもわなかった!許せん、許さんぞヒーローめ!!)
5戦して現在5連敗、勝利の道はまだまだ限りなく先のように思えた。




