ROUND 1
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明るい日差しが照りつける昼下がり、外回りをしていた獣人にして警官のアインは休憩しようと目についた公園へと足を踏み入れた。
今日は天気がいいこともあって、公園のあちこちで都会の中にある緑を楽しむ人々がいる。キャンバスを立て公園の風景を描く男、仲良く日向ぼっこをする老夫婦、ベンチに座る恋人達に芝生の上で犬と追いかっけこをする子供達。
平和な風景に満足しつつ、アインは近くに止まっていた屋台でブラックコーヒーを買うと、ベンチへと座る。
(こういう平和な日もないとね)
そんな彼の反対側、公園の並木道を考え事をしながらフラフラと歩き、ブツブツとつぶやく赤毛の男がいた。この男こそ、今回の主人公クエリー・マキシンである。
そう、物語はここからはじまる。
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クエリー・マキシンは、計画を練っていた。『偉大なる計画』、なんと素晴らしい響きか!
ここ数日、最高にイカしてるこの考えを纏めることに没頭していた彼は、自宅のすぐ側にあるこの公園へときていた。ここを散歩しながら考え事をすると、いいアイディアを思いつくことが多かったからである。
(何から手をつけるか、やはり名前… 偉大なる悪に相応しい名前が必要だ。
だがダラダラと長いのはダメだし、短くてアホでも覚えやすい名前がいい!例えば……以前この町を破壊しつくしてやると宣言した化物、ロードケイオスとか、あんな感じに。
だが、カッコつけすぎて名前負けするのも問題だ。
それに武器を始めとしたガジェット。自分に会ったイメージにあったシンボルも必要だ。
ああ、そうだった。見栄えのいいコスチュームも忘れちゃいけない。
どこに発注すればいいんだ?専門の業者でもいるのかな?やはり自分で作るしかないのだろうか?
あと、デビューは出来るだけ派手にしたいな。何事も最初のインパクトが大事だし)
とりとめのない妄想が翼を何度も広げるたびに、こうやって慌てて冷静になろうと自問自答へと戻ってくる。もう、こんなことを何度も繰り返しているのだ。
歩いていると、ふと目の前のベンチに座っていたカップルが、人目もはばからずに抱き合いだしたのが目に入り不快な気分になる。羞恥心の欠片も無いブタ共めっ!ブヒブヒ色気づきやがって!
侮蔑の視線を露骨にむけながら側をわざとらしく通り抜けてやる。が、逆にカップルはこちらのことなど全く興味を示さず自分達の世界から戻ってこようとしない。そのせいでかえってマキシンの行為だけが浮いてしまい、すごすごとその場からはなれていくしかなかった。
(ええっと、何だったか… そう、名前だ。偉業を成し遂げる者の名前が、クエリー・マキシンではなんとも普通すぎる。
もっと洗練された、聞くものに畏怖と敬意を抱かせる名前でなければ…。
リドル…クエスチョン…ううむ、なんだかダサいな。もっとそれらしい物はないものか!?
………アンサー。そう、アンサー!いいぞ、答えを知る者、答えを与える存在。それに言葉の響きも悪くない。しかし、これだけでは物足りない気もする。
ジ・アンサー… ううむ、TVショウみたいだな。ダーク……ナイトメア…ブラック…どれも取ってつけたようでイマイチだ。
だいたいにして、自分があのヒーロー共の真似をしてるみたいじゃないか!)
唸りながら歩いていたマキシンは、ふと公園の向かいに並んで立っている大きな看板に目をやる。いつもは目障りにしか思わなかったその看板の1つ、男性化粧品の広告に目が止まる。
『そこを行くミスターちょっと待って。男に磨きをかけろ。ライバルに差をつけろ』
印象的な大きな書体で書かれたその広告文。いつもなら鼻を鳴らし馬鹿にするその一文に、マキシンはなにか天啓のようなものを感じた。これは自分のことを指している、そうに違いない。
(男……ミスター…そう、これだ!ミスター(↑)・アンサー(↓)。素晴らしい響きだ。いいぞ、いいぞっ
『卓越した知能と戦術を操る怪人、ミスター・アンサー。この街のヒーロー共を畏れさせる驚異の男!』、うひひひ)
この思いつきに気を良くしたマキシンは、両拳を握りながらその場でガッツポーズを決める。すでにその脳裏では次々にアイディアが湧きだしている。そう、自分は今。とてもクリエイティブなのだ!
(この街の、マスコミを騒がせる目立ちたがり屋のヒーロー共をこの俺の頭脳で翻弄してやろう。
出し抜き、歯噛みする姿をさらさせて嘲笑ってやるんだ!そして、数々の伝説をうちたてる。犯罪史に永遠に残る名前が…刻まれるわけさ……。
ミスター・アンサーの伝説は、この瞬間から…ぐぼらばぁっ!?)
公園の中道で立ち止まり、ニヤニヤとほくそ笑んでいたマキシンは突然後頭部に軽い衝撃を受け、勢いそのままに前につんのめる。。
「あ、やべっ」
後頭部に受けた衝撃より、その後でこけた痛みにごろごろと転げて回るマキシンのすぐ側で声がする。
そこにはボールを拾い上げる子供と、その足元に荒く息をついて嬉しそうにしている子犬が立っていた。
「ぼ、僕にボールをぶつけたのは貴様等かっ、どういうつもりだ!」
「どうって、道の真ん中でボケッと突っ立ってる、おっさんが悪いんじゃん」
「おっさん!?お兄さんと呼べ、まだ20代だぞ」
「やっぱ、おっさんじゃん」
「………オノレェ」
無礼極まりないもの言いに、マキシンの怒りは燃えあがった。この小僧は絶対に許さん!絶対に許さん!泣かしちゃる!そう頭の中で吠えていると、子供の友人らしい2人組も駆けよってきた。
「ジェイ、なにしてんだよ。早くボールもってこいよ~」
「わかってるよ、けど変なおっさんが絡んできてさ」
「そんな奴、ほっとけよ」
「いや、駄目だろ。ちゃんと謝ったのかよ?」
「あ、忘れてた」
「おーい」
「ダメじゃないか―」
「えーっと、それじゃ。お兄さん、悪かったよ。ごめんね」
「ジェイ、なんかエラソー」
「駄目だな―、ジェイ」
「なんだよ!?お前等がぶつけたボールなんだぞ!」
この会話で、他のガキ共も同罪だとマキシンは判断した。見てるがいい…
周囲を素早く観察し、このクソガキ共にどのような復讐をおこなうのが一番効果的かを考えてみる。数通りの方法をまたたくまに考えだしたマキシンは、その中の1つ、もっとも子供が嫌がりそうな手段を取ることにした。
彼の考えた作戦、それはすなわち『人質』である。
マキシンは後ろから来た仲間達に気を取られてる隙をついて、子供の足元で尻尾をふっている子犬をさっと抱き上げた。
「んんん~、可愛い犬じゃあないかぁ?」
「あっ」
「テリーに何するんだよっ」
「別に、酷いことをするつもりはない。今はなぁ…だがっ、俺は犬を食う友人を持つ男だ。こうして近くでよく見ると、なんだかとっても美味そうに見えてくる」
「や、やめろよ。テリーは関係ないだろ!」
「そうだぞ、おっさん。大人げねーぞ」
「うるさいっ、お前らには世間の厳しさというモノを叩き込んでやる。お前等全員、今すぐ謝れ。そうしないと、どうなると思う?」
犬を高々と抱え上げ、マキシンは嫌らしい笑みを浮かべる。
だが、それを見ても子供達は泣き叫ぶことなく、ポカンと口を開けたままになる。なんだ?その顔は、
「さあさあ、どうするのだ?」
「あー、オッサン。それ、やめたほうがいいよ」
「そうだよ。そんなことしてると……」
「やかましいっ、それよりこっちの話をちゃんと聞いている……んんっ!?」
子供達を怒鳴りつけようとした瞬間、ソレはおこった。
突如、子犬がプルプルと震えだしたかと思うと、力んだ顔になり、そして尻から”なにか”が発射した。
もちろん、マキシンは犬を高く掲げたままだったので、発射された物体は無慈悲に落下し、マキシンの靴の上へと次々と着弾していく。
ぼとぼとぼと
靴の上に尻から出た茶色の”ソレ”が降り注いでいる、だと?
どうやらいいものを口にしているらしく、ひとつふたつ遅れるようにして鼻にツンとした刺激臭が立ち上ってきた。
これはクソだ。ああっ、クソッ!!
信じられない、なんて犬だ!なんてガキ共だ!
「ぬ、ぬおーっ」
「あーあ」
「だから言ったのに」
「うちのテリーはさ。そうやって抱き上げられると、なぜかウンコしちゃうんだよ。なかなか治らないんだよね、ソレ」
マキシンが靴の上の汚物を見て硬直していると、それぞれの感想を口にする子供達。さらに、なにやら怪しげな雰囲気になっているのではないかと様子をうかがっていた周囲の大人達も状況を理解して口元を隠して笑っている。
抱き上げた子犬のまさかの攻撃に、固まって必死に立ち直ろうとしたマキシンは周囲から聞こえてくる漏れ聞こえてくる小さな声にようやく気がつき、自分のこの姿を見て周りが笑っていることを知った。
次に来たのは、屈辱と怒りであった。
もう、絶対にこいつらを自分が許すつもりはなかった。
「あー、そこまでにしとくッスよ~」
突然、横合いから声がかかる。
離れで見ていたアインが、マキシンの考えを読んだか、ここでマキシンに声をかけてきた。だが、マキシンにしてみると突然現れた警官の姿に激しく動揺して、怒りも少し和らいでしまう。
「あー、ご愁傷さまッス」
「………………」
「いや~、なんとなく見てたんッスけどね。流石に止めないとマズイかなッて」
「な、なんだっ!?こっちはただ、このガキ共を…」
「あー、見れば何があったか、だいたいわかるッスよ。だからこそ、ここらで引いてもらわないと」
「っ!?こっちが収めろというのか?この犬とガキ共が悪いんだぞっ」
「まあ、素直に謝らなかったのは悪いとは思うッスけどね」
「ではなぜそんなことをいう!?」
「嫌、そりゃあんたのためでしょうヨ。このままだと執行妨害で引っ張ってもいいッスよ?」
「そうだよ、オッサン。テリーをおろせよな」
警官との言い合いに突然混ざってきてそう言い放つ子供の言葉に、マキシンは自分の中の感情のメーターが一気に振り切れたのを感じた。
そして奇声を上げるとマキシンは子犬を真上へと思いっきり放り投げる。
「ああっ!?」
大きく口を開けたガキ共の間抜けた顔がとても愉快だった。次にあのクソ犬が地面へと叩きつけられれば、こいつらは泣き叫ぶことになるはずである。
だが、そんなことはおこらなかった。
アインはパッと身を翻し、子犬が落ちてくる軌道を見定めると、サッとその懐に子犬を抱きとめたのだ。
「ほいっ、大丈夫ッスよー」
心配そうに集まってきた子供達にそう言って差し出すアインの手の中には、先程からずっと静かにしていた子犬が主人の手に渡るとその顔をぺろと舐め上げた。
「ありがとう、犬のおまわりさん!」
「…ええ、マァネ。ほら、ここはいいから。君等のお母さん達はむこうにいたッスよ。この辺で遊んでたら離れすぎっス」
「はーい」
微妙な表情で子供らを諭すと、素直な返事と共に子供達は駆けだしていった。
「ま、確かに犬顔ではあるんスけどネ」
そう呟きながらマキシンの方へとアインは顔を向ける。
「ちょっとアンタ!あれはなんスか?いい大人がやる事じゃないでショ。
まったく、なにもなかったから今日は勘弁してやるッスけどね。もし、なにかあったら無事じゃ済まなかったッスよ?親が来て騒いだら、あんた児童虐待で逮捕ッスよ?前科とか、嫌でショ?
大人なんだから、”賢く”いきましょうよ、ね?」
アインは最初は怒ったような声を出したが、最後の方は優しく諭すように。そう、”愚か者”に物事を教えるように優しくそう言った。
この後の出来事をマキシンはほとんど覚えていない。
一切反応を見せないマキシンに、その後もアインは人生色々なことがあるけど強く生きるッスなどと言われ気もしだが、そんな言葉が耳に入らないほどマキシンの腸は煮えくりかえっていた。
(おのれガキ共………おのれ警察……この僕を、ミスター・アンサーをコケにしてタダで済むと思うなよ)
マキシンのどこか妄想めいた想いは、今や決意と革新へとかわっていた。このままで済ませておくものか、見てろ必ず、必ず復讐してやるぞ。
だが、それはつまり。彼がはじめての敗北を味わった瞬間でもあった。
クエリー・マキシンの戦績、1戦して1敗。




