メイヘム (2)
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アークシティ ナカトミビル ファイナルカウント
静かな大人の雰囲気漂うアークシティのビジネス街も、こんな物騒な夜では人通りがほとんどない。当然のことだ、現在テレビでは正体不明の騒動が起きていると盛んに報道しているし、警察も寄り道することなく騒ぎに巻き込まれないよう細心の注意を払って行動してほしいとメッセージを出している。
そして、多分そのおかげなのであろうが、ブラックサンはここまで誰かに邪魔されることなく入りこむことができた。
ドゴォォン!
巨大な衝突音を車内で聞くと、ブラックサンはそれがTWO-HANDの候補地のいくつかの方向であることはわかった。
その一分後には、ナカトミビルの入り口に、派手に突っこんだトラックの後部を見てとると車から降りて現場へと近づいていく。
焼けた鉄やコンクリートの匂いの横を通り過ぎた先で、ブラックサンは目にした。
町の明るい光と、申し訳程度の非常灯でもはっきりとわかった。黒服にサングラスをかけたニンジャ達が2階のフロア全域に横並びに立ち、そこから見下ろされた1階のロビーには悪臭を漂わせる不審なコンテナと、床にはぶちまけられた人ではない何かの血と肉。
そして、腹立たしいくらいにクールなふりをした漆黒の髑髏の探偵がなぜか立っていた。
「………」
とりあえず、無言で探偵の隣に行くとむこうは昼下がりの店内で偶然会った時と変わらぬ調子で声をかけてきた。
「よォ、遅かったな」
「……これでも色々と駆けまわっていたのでね」
本当は言ってやりたい事はたくさんあったが、それをこの場で口にするのはなんだかとてもカッコ悪いことだとわかっていたので”あえて”そういうだけで我慢することにした。
「そうか、こっちも色々あったさ。それで、見たのかあの娘?凄かったろう?」
「…サチコはどこだ?ここにはいないのか?」
探偵の空気を読まない質問を無視する。
「ここにはいた、さ。俺がここに”車で入ってくる”まではNipponの最新式のサイバネ技術と呪術で作られた化物を相手に大立ち回りをしていた」
「お前の話はどうでもいいのだが?」
「わかってるよ。彼女は正面に見えるだろ、あそこのエレベーターに乗り込んだ。安心しろ、直通の高速エレベーターではないから、いまもゆっくりと登っている最中だ」
「そうか…」
「ブラックサン、お前も先に行け。小娘とニンジャのボスを戦わせるな。多分、今の彼女では奴等は倒せない」
探偵の口から飛び出した言葉が、ブラックサンには信じられなかった。あの娘が勝てない相手がいる?驚くブラックサンにたたみかけるように探偵は続けていう。
「俺を信じろ、あの娘は勝てない。だが、お前が間に合えば負けることもないはずだ。この意味、わかるな?」
意味深な言い方をするダ―クハートの真意はすぐにわかった。同時にそれが腹正しくもあった。
「”覚悟”ならとっくに決めてきたさ。ここはまかせたぞ、露払いをよろしくな。探偵さん」
そう言うと、タイを直し、襟元をそろえ、髪をびしっと後ろに決めながら探偵を残してその場から悠々と立ち去っていく。
ブラックサンの意識はすでにこのビルの最上階へと一足先に向かっていた。
▼▼▼▼▼
探偵1人が立つフロアを見下ろし、2階からそれを見下ろす上忍達の中から声が飛ぶ。
「お前はなぜここに来た、探偵?」
「おいおいおい、そりゃないぜ。それを言うなら、なぜ俺の後をつけて襲撃した?あれがなけりゃ、俺だってお前らなんぞにこの町でわざわざ会いにこようとは思わなかったさ」
「とぼけるな、探偵。お前が動いていたのはわかっている。頭領はそれを見こして、お前も暗殺者たちを引き込む手引きをしていると判断された」
「とんだ被害妄想だったな。おかげでお前等のお仲間は、今頃邪悪な魔術師の材料にされちまったよ。ま、気にするな。どうせ下忍だろ?お前らだって日頃奴等は死んで当然と思って扱っているわけだしな」
上忍といえども感情はある。彼等の中に、静かな怒気が流れるのがわかった。
「どうしても立ち去らぬつもりか?」
「……いいか?俺は探偵だ。本当はこんなことだってしたくはないが、俺がここにいる理由をまず最初にお前達に教えてやる。だが、お前等はクソ野郎だ。だから天使のように清らかなこの俺が、素直に心をこめて訴えたとしても。さっきまでここにいた交渉人のように上手く伝わるわけがない」
「立ち去らぬのだな?」
「ほらな?だから聞く気になるようにしてやる。俺のやり方でな。馬鹿な中でも考えることができるらしいお前等の為に、な。ほら、さっさとよこせよ、さっきまで女の子にけしかけていた化け物たちはまだあるんだろ?」
不敵なその宣言は開始の合図となった。
オンオンオンォーン
再び立ち並ぶ上忍達がムニャムニャと唸り始めると、サチコに斬られ、叩き伏せられたままピクリとも動かなかった鬼共の体がぴくぴくと再び反応を始める。
そして、その体に埋め込まれたマシンからは電光を発し始めるとあの不気味な吠え声をあげて動きだす。
しかしダ―クハートはそれを面白くもなさそうに見ながら、ポケットからコーヒーキャンディーを取り出し、包みから出して口の中へと放り込む。
それをニンジャ達は不死者の余裕と取ったか?
サッと手を上げるとホールには何かを巻き上げるような機械音がして、虚空から再び、最初の落ちてきた4つのコンテナの上に2段新たにコンテナを積み上げる。
地獄の底からすくいあげたというそれをさらに8匹、追加したのである。立ち並ぶ上忍の中には、コレを見て「どうだ」といわんばかりの笑みをうかべるものもいるが、当然のことだろう。
あのサチコですら4体で苦戦したのだ。その3倍を相手に、ダ―クハートに勝ち目があるわけがない。
そして12体の地獄の化物が、この世界で再会できたと不死の探偵をその目に捕えていて離さない。
「まったくお前等。お前達Nippon人はわかってない。いいか?クソの上にクソをぶっかけても、それはただのクソの山だという単純な話でしかない。
俺を誰だと思っている?
地獄に落ちれば悪態をついて悪魔どもをブチ殺し。天国に放り投げられれば、おっぱいふるわせた天使を名乗るねーちゃん連中をひねり殺して戻ってくる。そんな罰当たりな不死者だぞ?今さらこんなのがちょこちょこ現れたからって……」
相変わらず危機感なく悦に入って話し続けるダ―クハートに、闇の者の一体がコンテナを利用して真上から食らいつこうとゆっくりと静かに近づいていく。しかし、あとわずかというところでダ―クハートの口の中のキャンディーが噛み砕かれるのに合わせて鳴り響いた轟音と共に、そいつの頭が”なくなった”のである。
表情をみせない上忍達だが、そのサングラスに隠された下では大きく目を開け驚きをあらわにしたに違いなかった。
轟音と共に独角鬼を吹き飛ばして見せたものは、ダ―クハートの手の中に握り締められていた。
それは、懐かしい海賊映画にでてくるフリントロック式拳銃のようなゴテゴテした装飾を施しながら、撃鉄がない銃のように見えた。しかしその銃口は火を噴き、みせた破壊力はショットガンのそれを思わせる。
「こいつは俺のもつ7つ道具の中でも飛びっきり凶悪な部類に入る品だ。
今撃ったのがトーチ・オブ・ディクティター。そしてもう一つはフランキー・ザ・ロブスター。2つ合わせてトーチ・アンド・ロブスターと名付けている。
これ、どちらもなかなかの名品なんだがとても使いにくくてね。なんせ呪いの品でもあるから暴れたがる。つまり手加減が全くできない。まぁ、今回みたいな場合ならぴったりなんだがね」
そこまで語ると、物陰から近づこうとしたもう一体に向け、再びトーチ・オブ・ディクティターは火を吹く。さらに、反対の手に握られたフランキー・ザ・ロブスター(どうみてもなにかの工作機械としかみえないそれ)と呼ばれる方も、剥き出しになっている複数の歯車がギリギリと音を立てて回転を始める。
最後に動きだした銃口にあたる部分の歯車が動きだすと、それはまるでガトリング砲のように続けて激しく火を噴きだしたのである。
(なんとっ!?)
居並ぶ上忍達が注ぎ込む精により、猛り、操られる12体の化物達は、探偵の持つ武器の砲火にさらされるといとも簡単に吹き飛ばされていく。すでに説明したが、この化物達は重火器をもってようやくその効果が目に見られるとデータは語っている。それがこうもあっさりとやられているのは、あの探偵の持つ武器もまた”魔具”であるに相違なかった。
こうなれば力づくでやるしかなかった。
数で圧倒しているはずなのに、取り出したアイテムだけで圧倒しようとする不死者をなんとかしなくてはならない。
だがそれは、ニンジャ達が奴等12体に続けて力を注ぎこむ状態になることを意味しており、それはこれまで想定していなかったことであった。
そうだ、もしこの探偵よりも先に自分達が力尽きたら?
そんなことは考えられなかった。いや、認めるわけにはいかなかった。
可能な限り多くで一斉に攻撃を仕掛けようとするが、轟音と刻む連続音の奏でるハーモニーが探偵の体に傷一つどころか触れることすらままならなかった。
(馬鹿な、こんな馬鹿なッ!?やられはせん、やられはせんぞ!)
上忍達の顔にはすでにあせりと、そして疲労がはやくも浮かんでいる。
しかし、彼等の勝利にかける執念は本物であった。ついに、穴だらけにされ吹き飛ばされた3体の影から飛び出した闇の者の爪が、ダ―クハートのうなじに向かって伸びようとする。
それは触れれば必殺の一撃となって探偵の首を落とすことだって不可能ではないだろう。
だがしかし。
ダ―クハートの髪の無い襟元からなにか黒くて小さいものが素早く飛び出ると、それは糸(?)を引いたまま闇の者へと飛んでいく。そして、探偵の首にようやく爪をとどかすことができると喜びの笑顔を間抜けにも浮かべていた鬼の口の中へと飛び込んでいった。
ダ―クハートは、つんつんと襟元に違和感を感じて後ろを振り向く。そこには、ダ―クハートから伸びた黒い糸を口の中へと魚のように加えたままのたうちまわって苦しむ独角鬼がいる。
「フィーっシュ(釣れた)」
皮肉めいた言葉を口にすると、ダ―クハートは再び上忍達に向かって語りだす。
「そうだ、そうだった。今日はお前等に襲われた意趣返しに”7つ道具”をもう一個持ってきたんだった。
こいつはパイクン(刺突)、そのまんまの名前だが、こいつはお前等の使う連中の親戚みたいなもの。魔法生物さ。
地獄に遊びに行った時に会ってね。最悪の奴だった。
何が最悪って、こいつは相手の口から入るとケツの穴までいって裏返すのが大好きでね。俺も危うく”裏返し”にされかけたのさ。噛みちぎって、そのまま胃の中でゆっくり消化してクソにしてやろうと思っていたんだけどね。
こっちに戻ってきたら口から出てきやがった。それ以来、俺が飼ってやってるんだが趣味の悪さだけは治らない」
そう言っている間も、沖に引き上げられた魚のように必死な様子で苦しむ仲間に。残る11体はとうとう襲うのをやめて物陰から様子をうかがいだしてしまった。
しかし、これはあまりな光景を目にしたことで上忍達が気を緩めてしまったことが原因であろう。
パイクンを飲み込んで苦しんでいる方も、次第にその動きが弱ってくると手足に痙攣が見られるようになる。そして…。
バシュッ!
おおおう、と感情をめったに表さないはずの上忍達の間からうめき声が漏れ、中には見ていられないと目をそむける奴もいた。文字通り、”裏返し”にされてしまったのを見て、動揺したのである。
一方で、その中から飛び出す黒い糸の先端部分から、ピギャーと不快な音を立てるものがあった。ダ―クハートは、襟元から伸びる黒い糸を引っ張るとそれを手元に引き寄せる。
どうやらパイクンと呼ばれる魔法生物は、探偵の手元を見る限りでは中国の武器、鏢に似ているらしく。握り部分には薄気味悪い人面が浮かんでいて、先程から続く不快な声を上げて笑っていた。
探偵は未だに会心の喜びに震えているパイクンにかまわず、襟元に再び放り込む。
「さて、お前等のいう地獄の底。冥府魔道の戦いってのはここからが本番だぜ。さぁ、殺してやる。何度も、何十回でも、何百でもかまわない。戦え、この俺と!!」
不死の探偵は、次なる挑戦者を求め一歩踏み出す。さながら地獄の魔王のようなその禍々しさに圧倒され、ニンジャ達は一歩も動くことができなかった。




