希望はあるか
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アークシティのビルの谷間を見下ろす男達がいる。
ビジネスマン風の格好をしたニンジャ達である。彼等はおのおのトランクを持ち、耳につけたイヤホンを抑えてそこから流れる声に集中していた。
声の主は、姿形の通りそっくりな声の彼等の頭領のどちらかのものであった。
「…しかるに、すでに号令は下された。
関係者と思しき者への攻撃はすでに実行中である。ここからは、全ての部隊による攻撃を命令する。繰り返す、ここからは全ての部隊に攻撃命令だ。
この町に、我らの町に我ら以外のニンジャはいらぬ。根をはることを許すな、潜ることを許すな、生かして町から出すことを許すな。そのこと如くを根絶やしにせよ」
熱く語るでもなく、冷静に話すでもなく、いつもの如く茫洋と話すもののその中身は苛烈極まる皆殺しの指示であった。
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アークシティ ロベルト = トレント記念ホール駅 PM09:30
ロッカーの並ぶ場所にできた、駅員たちの話の中からブッカーマンは出てくると懐から携帯を取り出して主人を呼びだそうとする。
『ブッカーか?どうだ、なにかわかったか?』
むこうから来る声は、この主人にしては珍しく感情的なものだった。一瞬、執事は不思議なデジャヴを感じたが、口調はいつものように
「ミスター、落ち着いて。運転ミスなどしては笑い話にしかなりません」
『…わかってるよ』
たしなめると、いささか面白いことに子供のような返事が返ってきた。
「すでに”M”がフル稼働しております。情報はそちらにもいっておりますでしょうか」
『ああ、だがまだ目ぼしいものはないな。そっちはどうだった?』
「ああ、大変残念なお知らせがあります。問い合わせができなかったので少女が下りた駅を割り出すのに”M"しか頼れず時間をかけ過ぎてしまいました。入れ違いだったようです。
彼女は降りた駅のロッカーに何かを預けたことを確認しました。そして、どうやらそれをすべて回収していったようです」
『それが何か分からないのか?』
「詳しいことは。でも、駅員の方が覚えておりました。アインという警官に通報された方だったようですね。これからエベレストにでも登るんじゃないかというくらいの重さのバックだったそうですよ」
『武器、兵器?わからんな』
「確かに。しかしいくら”M"でもこれ以上手を広げますと、役に立たなくなる恐れがあります。むしろ絞り込む必要があるかと思われます」
『……』
「…実はミスター、悪い報告もあります。それもとびっきり最悪のものが」
『なんだ?お前にしては珍しいな、ブッカ―』
向こう側で驚く主人に執事は表情を変化させない。
「死体です。彼女が荷物を入れたロッカーには、なぜかスーツ姿の東洋人が2人。無理やり詰め込まれておりました」
『……あの娘がやったのか』
「難しい所です。なにせ、無理矢理というのが尋常のレベルではありません。手足がもぎ取らんばかりにして入ってました。可憐な少女が、気まぐれをおこしたゴリラのように男共の体をあつかったとは考えたくないですね」
フゥと大きなため息が電話を通して伝わってくる。しかしブラックサンはすぐに立ち直ると
『ブッカ―、どうしたらいいと思う。なにか考えがあるなら聞かせてくれ』
どうやら2人の力だけでは限界のようであった。
「その前にいくつか確認させてください。警察は?」
『わからんよ。あの後、2人で現場を離れて以来、連絡をわざと絶った。確認したくないが、きっとあの怒れる雷人は今もこっちと連絡しようとしているだろうな。はぁ……』
「それでは、アレックス様、探偵様に連絡は?」
『こっちがでなければ一番にエグザイルに連絡が行く。この状況の為にわざわざ探偵に連絡を入れたりはしないが、わかればこっちに接触しようと当然するだろう。事情を話せばわかってもらえるかな?
そうそう、光の騎士にはメールで状況は送っておいた。多少はこちらの状況を理解してくれただろうし、便宜を図ってくれるかもしれない』
「なるほど、なかなかに厳しいですな」
ふむ、とつぶやくもここまででだいぶ多くの選択肢がないことが分かった。
最後に執事は主人に聞いた。
「ミスター、あなたはあの少女から手を引こうとは考えないのですね?」
『………』
ブラックサンの返事はすぐにはかえってはこなかった。
『ブッカ―、自分のこの気持ちを、どう口にしていいのかわからない。
だが、あの少女から手を引くかと聞かれたらそんなつもりはない、それしか答えられない。なんというか、実に理不尽なことだとはわかっている。だが、ここで手をこまねいては、あの少女と再び会うことはない気がする。
もちろんのことだが、これは恋などではないぞ。私はこれでも…』
「わかっておりますとも、ミスター。わかっております」
そう答えながらも、この執事にしてはめずらしい笑みを浮かべると、しどろもどろに考えながら話す主人に対し理解を示した。
「お若いというだけではないのです。それはあなたには必要な事なのです。いいでしょう、わかりました。
こうしましょう。私が今から警察の投降いたします。すぐには無理でしょうが、話せばわかってもらえるでしょう。しかし、ミスター。あなたはそのまま動いていてください。
私が警察や他に助けを求めている間、”M"をあなたにつけますので少女を追ってください。彼女の身に危険が迫っているのは明らかです。あとは、ご自分のなさりたいようにされるがよろしいと思います」
『……すまない、ブッカ―』
「いえいえ、そんなお気になさらないでください。これでも年寄りですからね。今から街の中を飛び回る、なんていうのは御免こうむりたいだけなのです。まぁ、美味くはないでしょうがコーヒーでも飲んで休ませてもらいます」
そう言うと連絡を切った。
ブラックサンはじっと手元の携帯を見つめた。
なんとも言えない気分であった。自分がこんな苦々しく感じるものが、半日一緒に行動したかどうかの少女に抱くことに違和感があった。とはいえ、考えは変わらない。
ブッカ―が引き受けてくれたことで、なんとか動きやすくもなるかもしれない。
頭を振って無理矢理切り替えを図る。時間はないのだ、急がなくては先を走る少女に追い付けなくなる。
さっそく”M"にむけて要望をメールで送りつける。
(警察への連絡傍受、死体の発見報告を中心に)
すると、数十秒の間があって後。画面に次々と情報がリストとなって追加されていく。それを運転を傍ら、ながしで確認していく。
(ん?)
ある場所でなにかに引っかかった。
それは駅から4ブロックほど離れたところでの騒ぎについて。突然、空から死体がふってきたというものであった。
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アークシティ ブビャーキン大魔術館内 PM09:32
ブビャ―キンの師弟はそれまで目を閉じ、じっとうごかなかったのだが。突然一斉に目を開けた。
それに気がついて、モノ言わずに黙って待っていたダ―クハートは席へと急いで戻る。
「じいさん、どうなった?」
黒ネコにそう聞くと、ひとつあくびと、体をおこしてのびをいれつつ
「ん…ふぁぁ……出たぞ。なんとかなりそうだ」
「本当か?」
これまで魔法使い達はただ目を閉じて寝ていたわけではない。
精神を交信させることで、意識の中で邪魔されることなく議論をし、考察を重ねていたのである。
「嘘をいってどうする。それに、東洋の技に負けては大魔法使いの名折れというもの。ただもうしばらく時間がいるぞ」
「わかった。なにをするんだ?」
「まぁ、間違ってはいないだろうが。念のため理論の再点検をおこないつつ、実行できる媒体への構築を行うことになる。これはイロナひとりでも出来ないわけではないが、急いでいるのだろ?」
「ああ、出来るだけ早く欲しい」
「ならば3人でやるさ。それなら1時間もかからん。ほとんどできてるしな。ただな、はっきりいうがこれ、高いぞ?」
「金の話か?」
「そうだ。お前さん、今回は無料働きだといってたろ?知恵を貸すぐらいなら割り引いてもいいが、こうなるとかなりの額になる。うちはお前さんに合わせてタダ働きはできん事になってる、わかってるはずだ」
「ああ、払うよ。最近、金持ちになりかけてね。ハードボイルドらしくないとイライラしてたんだ」
「そうか、ならいい。しかしお前、この時代にハードボイルドな人生とか……ん?」
何かを言いかけると、猫の大魔法使いはヒゲをふるわせる。
次の瞬間、4人を衝撃が襲った!




