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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Samurai Girl & BLACK MEN
26/178

男と少女(1)

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 自慢の車の中にあって、運転中のブラックサンはこの時、正直少しばかり後悔のようなものを感じていた。

 友人でもある彼女と彼の前で、ついついやらなくてもよい【いい顔】をしてしまった。片方は「どんな考えがあってそんなことをいいだしたのやら」と訝しがっていたし、もう片方はこちらの様子を見透かしたように「プロだろ」とたしなめてきた。

 まぁ、だからこそサチコの手を取って無理矢理でてきてしまったわけだが。

(しまった。やりすぎだったか)

 店内から外に出ると、それまでフワフワしていた気持ちが落ち着くと、一気に冷静さを取り戻してしまったのだ。


 銭ゲバなどと陰口を叩かれる彼だが、貯めこむことに執心しているというわけではない。

 身につける者と使う備品が高いだけで、趣味は持っていてもそれに金をかけるようなことはしなかった。それに、彼の場合は情報を自分でも集めるが、他からも手に入れることでいち早く先回りして手を打つ必要があった。自由になる金がないと動けない、では困る時があるのだ。

 それでも完全に思い通りになるわけではない。今朝のなにものかのストリートギャング襲撃は、一歩出遅れてしまった。


「…あ…聞こ…かっ?」

 とはいえ、可愛らしい少女だからと”無料”働きはやはりきつい。なんだか自分のやっていること、信条を自分で否定してしまっている気がする。

「おー…ちょっ…大きい…!」

 自虐?自虐的になっているのか?常に紳士の如く冷静な振る舞いは依頼人に安心感を与え、例えビルの爆破に巻き込まれようと、列車が半壊して吹っ飛ぶ中、さっそうと脱出したらタイを直し服の皺を取れば、そこにはいつも冷静な私がいる。それこそがこのブラックサンではなかったか?


 ぽんぽん、と肩に衝撃があってようやく気がついた。

 助手席に座った彼女がこちらを見て口をパクパクさせていたのだ。慌てて、車を路肩に寄せて止めるとエンジンを切った。


「す、すまない。なにかな?」


 じぶんのうかつさにこの時点で頭を抱えてしまいたかった。彼女を連れだしておいて、車中では勝手に自省を始めてしまった。そのせいで口数も少なかった、彼女にしてみれば連れ出した男が車中で無言とは不気味に感じたことだろう。いや、ひょっとしたら恐怖したかもしれない。

 紳士に、交渉人にあるまじき大失態であった。


「いえ、この車。エンジンがうるさくって。声が出ないものですから」


 ありがたいことに、というか彼女の特質なのか、気にしてないのかわからないが。屈託のない笑顔でそう言ってくれた。正直ほっとしながらも


「そうだったね。つい、いつもは1人だから気がつかなかった。こんな単純なことだったのに、このアスト……外車はエンジンが凄くても、でもパワーがあるから」


 今の自分はさすがにマヌケではなかったか?

 さらに自己嫌悪に浸らぬよう、振り切るようにカーナビの画面を前面に引っ張り出して操作し始める。


「おほんっ……それで…キミのこの町で引受人の家族の話だったね。どうしようか、いくつか考えたよ。こっちのオフィス街や工業地帯はさけて…ここだ。文化施設なんかが集まったこのエリアに行こうと思う」

「……あの、さっきのビジネス街って。ビルがたくさんあるところですよね?」

「ん?そうだね」

「わたし列車の窓から見上げて、うわーって思って。すっごい面白い形をしたビルが集まっているんだなって」

「ああ、そうかもね。フォックス・シティビルとかね。ビジターの所も頭がどうかしているというくらい、ひどいデザイン…じゃなかった、芸術的なものがあるね」

「へぇ」


 それを聞いて好奇心に目を輝かせる彼女の顔を見ていると、ついつい「それならそこの高級ブティックでものぞいていこうか」などといいそうになっている自分に気がつく。いけない、どうも調子がよくない。

 どうも緊張感が決定的に足りない。無料働きのせいだろうか?私は少女とデートするのではなく、少女の引受人を見つけて彼等から黒い人なる存在に何を頼むつもりであったか聞きださねば。

 空港や港もあるから、などと誤魔化すかのように彼女の輝く目を見ないふりをして場所を入力すると、カーナビはいつもの無機質で不愛想な声で知らせてくれた。


『目的地、マデ。今ノ時間帯ナラバ、30分デス』



▼▼▼▼▼



 少し小奇麗な石畳の上を、重低音のきかせたエンジン音を響かせバイクがゆっくりと停車した。

 その上から降りてきたのは、驚いたことにクラシック バイカースタイルのブッカーマンであった。


 落ち着いているというよりも、むしろ冷酷さを感じさせるこの執事の老人は、まずポケットから何かを取り出すとそっと耳にはめこんだ。イヤホンとそこから伸びるマイクである。

 続いて、今いる通りに自分以外の人影がないことを、窓に人の気配がないことを確認しながら、両手の黒手袋の位置をなおしてみせた。


『ブッカ―か?』

「その通りでございます。いま、どこにいらっしゃるのですか?」

『海だ。海浜公園にいる。その……どうも車内ではうるさくて気が滅入るみたいでね』

「おやおや、ジェームズ・ボンドとボンド・ガールというわけにはなかなかいきませんな」

『…放っておけ』

「まぁまぁ、そうむくれないで。その娘さんはどうしているのですか?」

『スタンドでアイスクリームを選んでいるよ。とても嬉しそうだ』

「そうでございましょう。やはり若い娘であればそうであるほうが好ましいではないですか」


 イヤホンのむこうからブラックサンのフンと鼻で笑う音がした。どうやら少しどころではなく落ち込んでいるようである。このできる執事はたったこれだけで主人の様子を察してしまった。

 しかし、彼がしたことは別であった。

 手近な扉に近寄ると、素早くポストを確認すると、窓から室内をチラと覗く。


「それで、この後はどうするおつもりで?」

『”皇帝”に貸しがある。彼に聞けば私かあの探偵に近づこうとする東洋人の少女なんて怪しげな話を知っているかもしれない。そこから逆にたどろうと思う』

「速攻で解決、というわけですか。見事だとは思いますが、タダ働きにしては熱が入っておりますねぇ」


 そう皮肉を口にしながらも、老人は扉の前に戻ってくるとサッと腰を落とす。

 まさか、この体制は!?


『だが面倒はない。これが一番だと思う』

「文句を言っているのではありません。しかし、一番とは思えないのでこちらの計画プランに変更しませんか?」

『なんだ?』

「うちの”M"が面白いことを考えつきましてな。彼女の引受人を探し出す方法です」

『モネが、か?』


 ブラックサンの疑問を聞く間にもこの老人は、袖から吐き出すように出てきた器具を手早く鍵穴に差し込むとクイっとひねっただけでガチャリ、とあてはいけないおかしな音を立てさせる。


「そうです。実は私、すでに家を出てそのために動いていまして。しばらく時間をいただけましたら、結果をお知らせいたしますが」


 ブッカ―マンはそう言いながら素早く立ちあがると、扉を小さく開いて中に身体を滑り込ませた。

 イヤホンの向こうではブラックサンのふむふむ、と考え込む様子と、公園で遊んでいるであろう子供らの笑い声が聞こえてくる。それを聞いて、ようやくこのむ歩油状の老人の顔にも笑みが浮かぶが、その身のこなしはまるで暗殺者のように無駄がなく音を全く立てないものであった。


『わかった。もう動いてくれているなら、お前に頼もう』

「それはようございました。ここで帰れと言われましたら、さすがにどうしようかと思っておりました」

『……今、何をしているのか聞くのはやめることにしようか』


 ゆっくりと扉を薄く開けて中をのぞく。室内に人気がないのを確認すると、次へと移る。


「それが賢明かと。あ、そちらはこの後はどうなされますか?」

『ん?』

「少女を連れて公園で愛を語らうわけにもいかないでしょう。そうだ、その近くに遊園地があったと思います」

『ああ、あそこか…』

「数時間で終わります、そこで2人、待ち時間を少し遊んで気分転換をなされるのがよろしいでしょう」

『そうだな』


 今のは主人に向けていった言葉だが、どうやらむこうは執事が少女を気遣っていったと思っているらしい。それが愉快でますます口元の笑みが広がった。


『そうなると……問題は夕食か。ブッカ―の手料理とはいかないだろううな』

「それは諦めていただかないと」

『わかった、レストランの予約はとっておこう』

「お願いいたします。あ、白ワインはこだわっていただきたい」

『わかった。まかせておけ』

 主人との会話が終わると、老人は耳からイヤホンとマイクをはずしてポケットに戻す。


 続いて、次の部屋も確認。こちらも誰もいない。

(2階か)

 その視線の先に、目的の姿をはっきりと捕えて離さなかった。



 酒と女と薬で終わる毎日は。いつの間にか体調が悪くなるので酒を飲めず、女を抱こうにもナニが役に立たなくなって抱けず、錠剤の数をひたすら増やすだけのモノとなり果てていた。

 そんな男が、長椅子で横になって至福の時間の余韻にひたってウトウトしていると、蹴り上げられる衝撃が襲った。

なにがおこったのかわからないまま、長椅子から転げ落ちる。続いて、ずずっとつきつけられた銃口が目の前にピクリともぶれることなく男の頭に向けられていた。

 銃の向こう側に、窓から差し込む太陽の光を背にした老人が確認できた。


「我が主は、お前を使う理由はいくつかあった」


 影になってどんな表情をしているかわからないブッカーマンは、いつもと変わらぬ調子で続ける。


「野良犬が狼になろうともがくから、選ばれたのだ。だが、グレイスンに抱きこまれてお前の価値は無いも等しくなった」


 ガチャリ、銃身が鳴くと老執事の指がトリガーに触れる。


「今日が最後のご奉公だ。薬漬けの頭をかきむしっても一向に構わん。主の恩に報いるべく、頑張ってみるといい」



 一瞬の間があって、ズドンと散弾銃の発射音が室内から表に漏れ響いていった。

いろいろあるので、直前も含めてGW中の投稿は不定期となります。

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