転回
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アークシティの工業地区から見て町の反対に位置するオフィス街には、多くのビルが立ち並ぶ。その近くには富裕層が住むための高級アパートメントがひしめきあっている。
その中に日系企業が数多く入っているナカトミ・ビルがあった。このビルの最上階、そこには不思議な空間が存在していた。
ジンザエモンがエレベーターを降りると、フロアの床はガラス張りなのだろうか?透明な床の向こう側は水中になっていて、そこには海に暮らす魚達が優雅に泳いでいる。まぁ、多少気になることといえばサメだのエイなど少し物騒なのが目につくぐらいか。
そのフロアに足を踏み出して進むと、ジンザエモンの向かう先にはガラス張りの上に、人工的に幾何学的に盛られた土台とそこの上にまるで当然のごとく立てられた日本式の解放感たっぷりの母屋がドーム状のビル最上階の中に存在していた。
そしてそこにいるのだ、ニンジャ部隊TWO-HAND最強の存在。
ウコンとサモンジと呼ばれるニンジャマスター達。
「頭領達。ジンザエモンが報告します」
軒先で楽にしている主達の前にかしこまると、ジンザエモンは淡々とした声で先ほどの一件について報告を始める。任務受領から、ポップコーンヘッズと呼ばれるゴロツキ共をまたたく間に地獄に叩き落としてやったことを。指示に従い、任務終了後は見事な引き際で現場に殺到してきた警察の目を逃れて撤退したことを。
東洋人独特の、年齢不詳の20代の若者にしか見えない同じ顔をした2人のマスターは部下が報告する間、それを顔色一つ変えず、声もかけずに聞いていた。まるでそんなことには興味ないとでも言うかのように。
だが……。
「任務ご苦労。ジンザエモン、結果を聞こう」
突然、サモンジが部下にそう声をかける。特になんでもない、まるで明日の天気はどうだろうという程度の質問の仕方であったはずなのに、ジンザエモンの体にサッと緊張が走る。
「……ターゲットは33名。全員を始末しました。以上です」
「それだけか?どういうことだ?」
重ねて問われ、ジンザエモンの口の中が渇き、舌が凍りつく。
着流し姿のサモンジは体をおこすと、懐から扇子を取り出し、かしこまる部下の元に近づきながらもう一度同じ言葉を繰り返した。それに必死に絞り出すような声で部下が答えようとする。
「…まことに、遺憾なことでありますが。標的の中にボスと十数名の顔がありませんでした」
「ふむ、留守だった、と?」
「不明です。我らの姿を見て、全員が武器を手にしましたので……」
「確認を怠ったか…それでは、任務完了とは言わんのではないか」
抑揚なく部下の言葉を切り捨てながら、サモンジの手にした扇子がゆっくりと部下の首に向かって伸びていく。
「わかった。任務ご苦労」
それは突然かけられたもう一うの声であった。
言葉がかかったことで、ジンザエモンはほっとしたらしく体の力は抜け。サモンジは無表情ながら、振り向いて声の主である同じ顔のもう1人のマスターを見やる。
「それでいいのか、ウコン?」
「かまわんよ、サモンジ」
そう返事をしながら、ようやくこの時ウコンは2人に視線を向ける。
「もともと、この話はグレイスンからのもの。それも、かの地にいる者を殲滅せよというものだ。むこうはしょせんゴロツキなのだ。情報は向こうが用意したものだし、我等は約錠に従い遂行した」
「グレイスンはそれでよしとするか?」
「ボスの首がないと騒いでも、ボスがいない時間を指定したのは奴らだ。ボスの首よりも警察に見られないことを強調したのもな。それに、グレイスンの長兄はこのことをたいして問題だとは考えはしない」
「なぜだ?」
「今が彼等にとって必要な重要な時期だからだ。
わかるだろ?彼等は”普通の人間”だ。超人ではない。だが、そのせいで超人どもを組織に取りこむ国や、彼等に協力する超人達におされて力が足りなくなっている」
「ふむ、足をすくわれたくないということか」
「そうだ。彼等に力を与えることは、今回の我々の目的とも一致する。むしろ、もう片方のビジネスの方をこそ気をつけねばならないだろう」
サモンジはウコンの言葉に同意したのだろう。口にはしなかったが、頭を垂れるジンザエモンから離れていく。
「……それでは、我等はこの後。どういたしましょうか?」
許されたとの安堵からであろうが、それでも幾分か無理をして平静を務める声にサモンジが答える。
「我等は次の動きがあるが、そちらはもう十分だ。本来ならば休暇といいたいが、グレイスンが何か言ってくるかもしれん。しばらくは待機せよ。手空きの班を回すので、次があれば協力して事にあたれ」
ジンザエモンはその言葉を聞くと、顔が表情がこわばり、サッと顔色も朱がかかる。頭領の真意か読めず、その言葉から自分達が”侮辱された”と、そう感じたからであった。
「驕るなよ、下忍!」
鋭い声がウコンの口から発せられた。
「お前と仲間は任務を果たした。だが正しく中忍であるなら、上の者が指揮をとれば結果は違ったはずだ。己の何が足りなかったのか、自問し、精進せよ」
多分、納得はしていないのであろうが、それでもジンザエモンは頭を深々と下げたのち、退室していった。
「随分と優しいのだな、ウコン」
ややからかうように相棒に声をかけると
「お前は物事を割り切りたがるな、サモンジ」
それをたしなめて返す。
「下忍ごときに精進せよ、とはね」
「ジンザエモンは中忍への昇格希望を出しているし、推薦もある。性急に過ぎた面もあるが、いつもとは組まない連中を指揮してよく働いた。見込みがあるということだ」
「ふむ、そういうものか」
「さらに卑しい者どもから選んで奴につけるのだ。あれが見所のあるまま成長するための血肉とさせるのだ」
「おやおや、怖いことを言う」
それだけ語ると、2人は互いの興味を失せたのだろうか。再びボゥと目を宙へとさまよわせだした。
すでに明かされていることだが、このTWO HANDと呼ばれるニンジャ組織は。そもそも日本の財閥、ヒノモトを経営する一族の直属部隊である。
そもそも、この組織の歴史自体は浅く百年にも満たない。
前世界大戦の末期、中国の上海でおこった熱い夜の殺戮の中で彼等は産声を上げたとされる。
その設立の経緯は深く秘密にされ明らかになっていないけれども、荒ぶる神がThe Crashを引き起こした時にはすでにヒノモトは誕生してその力を日々増大させていた。
そしてNipponが、その国民が変化していく自らの住む場所を”魔界”のまま受け入れ始めるのと同時にその活動を国外へと広げる。
当然のように、活動に参加する人種も多様になっていくが、それでは彼等に大きな変化は生まれなかった。
なぜならば誕生とともにこの組織に加わるのは異形の忍者達が生きる、そんな場所だったからであろうと推察される。
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ブラックハートは無言で椅子に座っていた。
当たり前の話だが、頭部がガイコツとなっている彼に表情の変化を読み取れと他人に要求するのはなかなか難度の高い者があった。しかし、エグザイルから見れば、今の彼がどんな顔をしているかなど一目瞭然であった。
「まだ怒ってるの?少しは頭を冷やしなよ」
「………」
「はい、これ。コーヒー」
「……おい、おれはブラックでは飲まないぞ」
「知ってる。その調子で話してくれるなら、これあげるけど」
そういうと、エグザイルは手の中に隠していた小型カップにはいったミルクを2個取り出して見せる。それを無言で手を伸ばすと、両方の蓋をあけて中身を全部放り込む。
「あいつ、別に俺のいうことを聞けとは言わないが。相手の言葉を全部鵜呑みにするような真似しやがって」
「聞いてくれなかったのが寂しい?」
「そういうことじゃない!自分からトラブルに巻き込まれてどうするってことだ」
「…あんたの口から出て、これほど説得力の無い言葉はないと思うけど」
「俺の話じゃない。あいつのことだ」
「つまり似ているってことじゃないの?」
「………」
しまった、つい言い過ぎてしまった。こうやって黙ると、その後で怒りをこみあげさせてしまう。
「それにさ、彼があんたの言葉を聞かなかった理由。わかるけどなぁ?」
「…なんだよ?」
「自分の胸に手を当てて考えてみたら?あんたがこれまでの”貫習”を破って昼間に来たから、だとは思わない?」
「そんなことで、か?食いに来ただけだぞ?」
「よく言うわよ。彼が夜にどうしてもと言って訪ねてきた時は、散々罵っていたくせに!」
「むぅ」
「あんたがやたらに警戒しているのを見て、それできっと後に引けなくなっちゃったのよ。自分のせいだとちゃんと反省するべきだと思うけど」
「俺のせいかよ……」
「そうよ、きっとね。そう」
エグザイルはそう言いながら、じっとダ―クハートの顔を見ていた。
しばらくの間は無言だったが、何かを決めたらしく。ダ―クハートはいきなり冷め始めていたコーヒーを一気飲みすると席を立つ。そしてエグザイルに
「なぁ、あのクソ餓鬼…じゃなかった、あの警官の番号は知ってるよな?」
「アイン君のこと?ええ、いらないと言ったのに。自分の番号を押しつけていったから」
「なら1時間後に。いや、30分後に電話してさっきの少女の実家とやらに連絡入れさせろ。ついでにしっかりと背後を洗っておけってな。気合い入れてけ、夕方には俺がいくからってことも伝えてくれ」
「いいけどさ……」
「あと、怪しいところがあったら徹底的に調べろと言え。なにかありそうなら警部か、警部補に話すのも忘れるなって」
「なによ、それ。自分で連絡入れたらいいじゃない」
エグザイルは不満を言うが、すでにダ―クハートは見向きもしないで出口へと向かっていた。
「ちょっと!今夜は店に来るの!?」
後ろから掛かる声を振りきると、扉を抜けた頃にはダ―クハートの足は駆け足から走るに変わっていた。
長い1日が始まろうとしていた。




