BLACK MEN
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アークシティ PM00:26
BAR【カサンドラ】は今日も平常運転。
夜と違ってまばらな客だが、酒を目当てにというより、ダイナー風の空気を楽しみに来る連中が多い。
実際、ここにもそれを楽しみに訪れたこの町でもっとも怪しい”交渉人”なる商売を開いているブラックサンがいるわけだが。今日の彼は少々ご機嫌がよろしくなかった。
と、いうのも。いつもならばこの時間はいるはずのないドギツイ漆黒の髑髏の頭がデーンとその存在感を発揮しているのを店内に入るなり見つけてしまったからである。
(ヤレヤレ、嫌なら近づかなければいいのに)
爺さん婆さん連中の中で、ケラケラと笑って世間話をしていたエグザイルは、視界の端に今、まさに並ばんとしているスーツ姿の2人の男の背中を ― 安物と高級が席を一つ開けて腰を下ろしているのを見ていた。
エグザイルの見る所、この2人は決して仲が悪いというわけではない。
どちらも口にすることは違うものの、そのやりようはどちらかといえばアレックス・アークナイト ― あの”光の騎士”とは違い、清濁併せ持つ、というかうさんくさいモノが両者には共通してある。
探偵はその看板にあるように、時におかしな依頼人や、あまり知り合いになりたいとは思わない商売をしている連中の為に動くこともあるし。
交渉人の方は、その情報網を駆使していち早く事件を嗅ぎつけると、【彼の技術】を売り込みに行くことを生業としている。
だが、彼等は互いに自分の主義信条に従い動く時、”光の騎士”のように天から見下ろし空気を切り裂いて飛びこんでいくのではなく。夜を、闇をわけ入ってそこに手を突っ込むと、光の下へとそいつらを引きずり出すのだ。
そう言う意味において考えると、彼等のような怪しい2人が、それでもヒーロー側に数えられるのは「こんな奴がいてもいいんじゃないか」という枠を、彼等自身が証明し続けているからだろうと思っている。
だが、それはそれで互いにリスペクトしているとしても、認めない部分があるのが男という生き物の面倒くさいところだ。
ガキみたいに押しつけるように互いにいたずらをしかけ(先日のバイク写真は、確かにウケたし。自分もいい写りをしていた)、この店においては一緒に来店することはこれまで”ほぼ”なかった。
というのも、これまでは探偵は夜から早朝に、交渉人は昼から夕方前までとはっきりと訪れる時間を分けていたからである。どうやらいろんな”楽しみ”の為に訪れるこの店にも、2人は勝手に互いにテリトリーを築いてしまったらしい。
それがブラックサンとダークハートである。
「やぁ」
「んん」
軽い挨拶が交わされる。
いつものように、探偵は特大のパンケーキにそびえ立つクリームとバニラムース、そしてチョコレートの飾り付けを攻略していた。
(この甘党がっ)
それを横目に、心の中で舌打ちするブラックサン。彼は別に甘い者が苦手なわけではない。しかし、だからといってこの目の前にそびえ立つ糖分のタワー群を目にして気分がいい、というわけにはいかなかった。
自分は席につくと、さっそく店の奥から料理が運ばれてくる。彼の場合、いつも訪れるきっちり10分前に店に連絡を入れて注文しているので、席につくと大抵すぐにこうして用意がされていた。
150グラムの熱々のステーキ、たっぷりの野菜とツナを挟んだバーガー。そして、今日は午前中に一稼ぎしてきたのでこの店オリジナルのBBQを追加してある。
彼は外見からすると意外なことだが、大食漢なのである。
エグザイルは老人達の席から離れて、次に移ろうとする際、ちらとこの2人の背中を見る。
お互いなぜか黙々と目の前のサラを攻略することに集中したフリをしているのを見て、可愛いねぇとおもいつつ。どこのガキだよと呆れもした。
「あ、チィーっす。今、ちょっとイイっすか?」
扉を開けるなり、軽い調子の挨拶をくれてきた侵入者に、ブラックサンとダークハートがジロリと見ると、相手はただそれだけで狼狽してしまう。彼は、警官の服を身につけた狼の顔と獣のような毛むくじゃらの体をしていた。
「あら、アインじゃない。いらっしゃい、っていいの?まだ勤務中にここ来たら、警部にブッ飛ばされるって」
「ああ、ええ、そうなんスけどね。別に遊びに来たけわけじゃなくて」
「ホント?」
「ホントっすよ。姐さんのチカラ、借りようと思ッて。なんか……マズかったっスカ?」
「ん、こいつらの事?いーのよ、2人とも飯食いに来ただけなんだから、放っておいて。かまわなくていいから」
「は、はぁ」
そういいながらも、アインという名の警官は早くも視線は下に行き、尻から飛び出ているふさふさの尻尾は股の間をぷらぷらと微妙に落ち着くことなく揺れている。正直、この店で会える凄い超人が、しかも滅多にそろうところを見ない2人が一緒に皿を突いているところに自分が出くわすとは思っていなかったのだろう。
「ほら、いいからこっち。それで、力を貸してくれっていってたじゃない。なに?」
空いている席に座ると、親しげに来い来いと手を振られるのに誘われるようにアインの足は動くが、黒い男達の後ろを通り過ぎる時は「ど、ドモ、失礼シマス」といって恐縮する。
「それで、なに?今なら丁度、他人のトラブルで飯食ってるのがいるし」
「お、怒られないッスか?」
「大丈夫だから。ほれ、話しなさい」
エグザイルにこうまでいわれ、ようやくアインも話す気になったようだった。
この警官、アイン・グラント はまだまだルーキーの警官ではあるが、見てくれの通り獣の力を持った肉体強化タイプの超人である。どうにも軽い学生時代のノリの口調がいら立たせるが、新人の警官の中では群を抜いて優秀だと言われている。
百戦錬磨のツワモノぞろいで知られるアークシティの警察にあって、はやくも次次代のエースになるのでは、と言うものもいた。
そんなアインは、このエグザイルに惚れ……もとい、なついており。一時期は、それこそ入り浸っていたところを、あのサンダーランド警部に見つかり、怒りの鉄拳で店の中から大通りを2転、3転して転がされたエピソードは今でも有名である。
以来、公私の分別はついたようだが、自分の外回りの際は必ず【カサンドラ】の店の前を通るのは、なんとしても秘密にしておきたい事であった。
さて、そんなアインが今日ここへと来た理由だが。
彼が巡回中、ロベルト = トレント記念ホール駅の駅員より通報があったのだという。
10代と思しき東洋人の少女が1人、この町に降りてきたのだが、どうも保護者がついてないし、迎えもないようだった。もしかしたら家出少女かもしれないので保護して貰いたい、というものだった。
連絡を受け、アインはすぐに駅に向かったのだが、すぐに少女は見つかった。
長身で、セーラーカラーの学生服を着た彼女は荷物を持ったままえらい早足でズンズンとどこかに向かって歩いていた。
「ふーん、それで保護したの?}
「ええ、まぁ。最近はホラ、ドミニオンとかいう奴とかアークナイトのおかげでミュータント問題とかは収まってましたけど。あそこは観光客も多いから目を光らせておかないとマズイんで。あと、もうすぐフェスもあるじゃナイっすか―」
「フェス?ああ、来月のフェスティバルのこと」
「デス。そのせいか。最近風紀課がフル稼働寸前でして。グレイスンのところの手引きで売春婦が流れ込んできているらしくて、とくに異国の少女なんていうのはトラブルの可能性が大ってわけでして」
「なるほどね、大変だ。警察官」
「ウへへ、褒めないでクダサイヨー。まぁ、そんなわけで話、聞いたんスヨ。そうしたら、一応誰かに会いに来たってことらしくて……あ、待ってクダサイ。別に探すの面倒くさいからここ、来たわけじゃないッスから。ここからが困ってるんデス。
その娘、どうもその相手の名前をド忘れしちまったらしくて」
「ええっ!?」
「いや、自分もビックリですよ。でも、そうらしくて。町中を歩いて話を聞いて回るつもりだ、とかいうんデス」
「……ちょっと待ちなさい。もしかして、その娘連れてきているんじゃない?」
「え、ハイ。外で待っててもらって……」
「馬鹿っ!早くはいってもらいなさいよっ」
珍しく怒鳴られて泡を食ってアインはドアへと向かった。
「あ、エト。その娘です。名前はアサギリ アチコ……」
「サチコ!アサギリ サチコです。はじめまして」
元気に大きな声でそう言うと、ぴょこんとお辞儀をする。ポニーテールに束ねられた後ろ髪がぴょこんとしたのが印象である。すると店内の客がそれをみてなぜかテンションをあげる。
「おおー、スゲー」「あれ、オジギっていうんだろ!?」「ヘイ、ゲイシャガール今夜つきあわなーい」
次々と上がる声にどう反応していいのかわからないのか、サチコの顔には笑顔が張り付いたままだった。
「コラっ、少女に何を言っているのよ!仕事ある奴はさっさと金払って出てけっ」
騒ぐ客にむかって毒づくエグザイルをおもしろうそうに見ると、そこでようやく2人の黒い男は少女を見た。
「ほう、これはこれは」
と口にしたのはブラックサン。
「むむ、むーん」
と口の中で唸り声をあげたのはダ―クハートである。
それぞれはどんな感想をへてそうしたのか興味がある。
「よしと、ごめんねサチコ。馬鹿な客ばっかりで」
「いえ、そんなことないです。楽しいお店ですね」
「ありがと。それで、と………アイン。わかったわ。なにをすればいいのかしら?」
「ウっス。それでなんですが、人捜す(マンサーチ)が得意でボランティアしてくれる人、いないかなって」
「あら、無料なの?」
「う、すいません。この子の話だと、外国でも補導されると学校に連絡行くらしくて。厳シイところなんだそうです。このままだと署にきてもらって、色々と連絡することになるんで」
「うーん、それはわかるんだけどねぇ」
とはいえ、いくらこの町の住人といっても無料働きを喜んで引き受けるのはなかなかいるはずもなかった。
「なぁ、ちょっと。その話、我々にも聞かせてもらおうか」
突然、口元をぬぐうとブラックサンが声をあげる。
「……引き受けるの?」
エグザイルの顔はこの交渉人が、なぜかやる気になりかけている事に疑がっていた。なにせ、この男。とにかく金に関しては褒められたものでないことは周知の事実である。それが、突然ボランディアに興味を示し始めたわけで…。
「まだだよ。まだ、決めてない。
しかしね。どうも話を聞くと人捜し、それもできるならプロを必要としているそうじゃないか。そういうことならば、ここに丁度いいのがいるじゃないか」
怪しげな言い方が、自分の事を指していると思ったのか途端にダークハートは不機嫌そうな声をあげ
「おい、俺は別にボランティアはするつもりはないぞ。巻き込むんじゃねぇ」
「そう言うな、友よ。話を聞くだけならいいじゃないか」
「よくないね。全然よくない。だいたい、俺はお前と違って……」
「そうだ!私と違い、君は先日さる御大尽の依頼を”叶えて”大金を手に入れたばかりじゃないか」
「誰が叶えたんだよ。それに俺は大金なんて受け取ってないぞ」
「それは嘘だ。家賃は数年先まで一括払い、その上聞くところによれば、新車を買ったそうじゃないか」
「ああ、新型バイクを”洒落のわからない友人”から貰ったんだ。買ったわけじゃないし、おかげで駐車料金とガス代を払う必要が出てきちまった。正直、そいつの顔を潰してバイクを売りはらおうか、今も考えていたところだ」
「友情に厚い君がそんなひどい事をするとは思えないね。それよりも、君は今仕事がない。暇だってことだ」
「暇とかいうなよ。仕事はないが、暇じゃねぇ。だいたい、それならお前だってそうだろう。今朝はニンジャ騒動で随分と儲けたと聞いたぜ。お前が変わりに力になってやれよ」
それは、ダークハートの考えではブラックサンの口をふさぐための口実であった。ところが、彼はそれを聞くとにっこりと共に笑顔を向けた後で
「なら、わたし達2人が聞こう。話を聞いたら、協力するのかどうか返事をするから」
どうやら、なにがあっても最初から探偵を逃がすつもりはなかったようだ。
「それではお譲さん、私の名前はブラックサン。そして、この隣のガイコツが剥き出しになっているのがダークハート。よろしく」
「は、はぁ。変わったお名前なんですね」
ダークハートの頭を見て、姿ですね、と言わなかったのは褒めてもいい事だろう。
「驚かせてしまったかな。しかし、我々のようなこの町で生きていくのに本名が邪魔になってしまう、そんな連中もいるのだ。深く考えないでほしい」
「あ、ハイ」
「それで、どうやら君は訪問する相手の名前を忘れてしまったとか。他に手掛かりはないのかな?」
笑顔で少女に話しかけるブラックサンを、アインはやってもらえるかもと思ってホッとし、エグザイルは「まさか少女を相手によからぬことを?」と疑いの目を向け、ダークハートはやってられんとコップの中の水をあおった。
「そ、それがですね。手がかりって言えますかどうか」
顔を赤くしてうつむくサチコにブラックサンは優しく声をかける。
「大丈夫だよ。さ、いってごらん。力になれるかもしれないだろう」
少しの間、モジモジしたあとでサチコは思いきったらしく大きな声でいった。
「あのっ、このアークシティに住む。”有名な黒い人”に会いに来たんですっ」
この瞬間、BAR【カサンドラ】の中でだけ時間がとまった気がした。
アークシティで”有名な黒い人”だって!?
客は皆、パカーンと口を開けていた。いや、客どころかアインも、エグザイルも驚きで口を開けていた。
驚くしかなかった、呆れるしかなかった。
そして、ブラックサンとダークハートはお互い、面白いくらいに顔を歪ませている。反応に困ったのだ。
先程、この2人の共通点について一ついわなかったことがあった。それは、どちらも身につけている服の値段は違うものの色を黒に統一されたスーツを身につけている、ということだ。
つまり、少女の目の前にはすでにこのアークシティで最も”有名な黒い人”達がそろって座っていた事になる。
これをどう考えればいいというのだろうか?
▼▼▼▼▼
エグザイルがサチコとアインを相手にしているのを離れたところでダークハートを見ていた。
「なんだい、突然。2人だけで話があるとは」
目の前に座るブラックサンは不服そうだ。
あの衝撃の告白を聞いた後、ダークハートは突然席を立つとブラックサンを離れた席まで連れてきたのだった。
「お前、ブッカ―に電話をしてたな。なんと言っていた?」
「別に、何も」
「あの少女が口にしたようなそんな話はどこからもなかった。違うか?」
ダークハートの問いにブラックサンは答えなかったが、それでは肯定しているのと同じ事であった。事実、ブラックサンはすぐに携帯電話を取り出すと、自宅にいる執事のブッカーマンと話したのだった。
「それで、まさか引き受ける気なのか?」
「それをいうなら、まさか引き受けないつもりなのかと聞きたいね」
厳しい視線がぶつかりあって火花を散らす。
「ブラックサン、こんなこと言いたくないが。プロは自分の技術を安売りしないものだぜ」
「趣味で探偵をしている男に、まさかプロのなんたるかを説教されるとは思わなかった。ところで知っているかい?君はたびたび私の事を守銭奴の冷酷なクソ野郎と罵っていたんだがね」
「ふざけるな、真面目な話だ。お前の方こそ、あのガキになにを思い入れしているんだ?」
追及をさせまいと煙に巻こうとするが、ダークハートはそれを許さなかった。しかし、ブラックサンは一向に自分の事は口にするつもりはないらしく、とぼけた姿勢を崩すようには見えなかった。
「わかった、話を変えよう。お前の動機はどうでもいい。だが、あの娘はトラブルになる。関わるな」
「なぜだい?」
「いいか?世の中には馬鹿な親がいて、馬鹿な娘が、馬鹿な女になる。そういう当たり前の話でしかない。何を考えてその気になっているのか知らないが、馬鹿に関わるのは嫌だろう?」
「ひどい言い草だね。まったく同意しかねる」
「あの娘が俺のいう馬鹿でないとするならば。それこそ問題でしかないぞ」
「…さっきから聞いていると、どうも君はあの娘になにか含むところがあるようだ」
「あるさ、当然だろ?
素直で礼儀正しい、そんな印象だが言ってる事がはじめから全部が滅茶苦茶だ。俺なら問答無用で警察ではなく病院に連れていくね………。
おい、おいっ!いーから、最後まで聞けって。
あの娘は人に会いにこの町に来たと言ったが、なぜ1人なのか言ってない。聞いてないから、とかいうなよ?どうせ聞いてもなんだかんだと誤魔化すだけさ。
それに、アインはパトロールに車は使わない。つまり、ロベルト = トレント記念ホールからここまで歩いて来たことになる。なのにどうだ、彼女は汗一つかいてない。歩きでもあいつについて来たのに、だ」
「スポーツ少女なんだろ」
「ひどい弁護だな。それも、あの娘が店内に入ってくるとき見せた、あの目線の動きを見ていてそう言うなら、どうかしてるとしか言葉がないぞ」
「………どうしろ、と?」
「なまっちょろいことを言っている警官をどやして、仕事をさせるだけだ。あの娘を署に連れて行き、彼女のいう保護者とやらに連絡を入れて迎えに来させろ。それで終わりだ」
それは、まったくの正論であり。反論の余地はないものであったはずだったが、なぜかブラックサンは一言も返してはこなかった。
2人は無言になってしまった。
次回は明後日以降となります。




