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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Samurai Girl & BLACK MEN
20/178

少女、シティに立つ

今回から第2部開始です。

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 いきなりあらわれ、大地に炸裂した一撃でもって引き起こしたThe Crashと呼ばれる大地震は、世界を激変させた。


 特にAsiaと呼ばれる東洋各国に起きた事も、その後を見ればはっきりする。

 大陸と呼ばれる雄大で広大な大地を誇るChaina(中国)をはじめとしたいくつかの国々は。それぞれが特徴を持った違いがありながら、そのどれもを評するに”魔界”という言葉がぴったりだったというのは皮肉である。


 それはこの国、Nippon(日本)においても同様の話であった。

 The Crashにおける変化により、この国の大地は一夜にして煮えたぎる巨大な鍋の底と化した。独特の体系を持つ呪術と、サイバー技術が次々とその姿をあらわしていく。

 それは、いつしかその決して交わるとは思えない両者をいびつながらも交えさせ、この国に住む人々の生活と、その精神を汚染していってしまった。 そしてそのような変化を、彼の国の国民達はあっさりと受け入れてしまったのだ。そのために必要だと思われる、社会をグロテスクに変容させてまでも。

 同じ魔界と呼ぶ他のAsiaの国の中でも、この国ほどその両者が高いレベルで組み合わさっているのは、他にはないと断言できるのはそのせいである。




 その時、人通り少なく魔の影が潜み、どこからともなく流れる呪詛の声達が響く、このセンダイ・シティの奥深く。

 薄暗くした研究施設と思しき部屋の中で、白衣を着た2人の男が深刻な表情で顔を突き合わせていた。


「どうだ、どうなっている?」


 眼鏡をかけた方の神経質な問いに、戻ってきた方の少し体格の良い男は顔をしかめながら首を横に振る。


「くそっ」


 メガネの男が放つその言葉は、どちらかというと怒りと言うよりも焦りから出た言葉のようだった。


「仕方がないだろう。ネットワークはズタズタにされているのが確認されたのは11時間前。警察も、これが機会だと見たのか。今も向こうと手を組んだかのような動きを見せている。

 カンパニー”ヒノモト”はそれを受け、いっそう激しく攻撃を加えてきているそうだ。支部もいくつか襲撃され、逃げ遅れた連中は皆、殺されたという話が入ってきている。

 本部も例の緊急時の暗号『準備セヨ』とメッセージを残してから連絡を絶った。たぶん、念のためだろうが移動しているのだろう」

「本部が次に連絡してくるのは?ネットワークの復旧はどうなると思う?」

「そのどちらも現象としては同義だ。本部が復活すれば、ネットワークは活動を再開するだろう。だが、あと最低でも1週間はこのままだと思う」


 眼鏡の男は、もう一度今度は小さな声でクソっと呟くと、眼鏡をはずして神経質そうに磨きはじめる。2人しかいない、この秘密の研究施設では、ネットワークの切断はただ孤立してしまったの一言では済まない。

 この場所の情報がもし、もしもどこかで漏れてしまったら。”ヒノモト”はためらいなくここへと精強な兵を送りこんでくるだろう。そう、この我々が開発している”最後”の兵器を目指して。


 2人の思いは同じであったか、互いに目の前に並ぶカプセルの中に浮かぶサイバーボディを見上げる。


 最終兵器忍者 シラヌイ と ビャクヤ


 それぞれの名前がカプセルの上部に刻印されていた。

 最新の呪術と技術で開発中のこの兵器は、完成すればあの憎っくき”ヒノモト”の土台を揺り動かすどころか破壊し尽くし。我らカウンター・ヒノモトである”旭”の最後にして最大の攻撃、つまり天罰となるはずであった。

 しかし遠い。その完成にはまだまだ山があり、谷があり、遠い遠いひたすら先の話である。




「もう、だめなのではないか」


 それは男にとって不意に出た弱気であったのかもしれない。しかし、それをきくなり相棒の眼鏡はキッと睨みつけると激しく抗議の声をあげる。


「何を言うかっ。最終兵器と銘打ったこの開発に、無駄なことなど一つもない。現に、ここの結果で生み出されていった強者達がどれほどいると思っている」

「我々の開発が、無駄な行為だというつもりはないさ」

「ならなんだっ。はっきり言え。ここでぶちまけてみろよ!」

「………」


 めずらしくない2人の間の喧嘩だが、この時は状況が状況だけにいつもにくらべると重い雰囲気があった。続いて眼鏡の男が涙を流さんばかりに語りだす。


「私にはわかっていることがある。シラヌイとビャクヤが完成した暁には、あのヒノモトを、あの悪魔のような一族に必ず我々のながした血の涙の報いを味あわせてやるのだ、と。それはお前も同じはずだ」

「言うな、わかっている」

「いや、わかっていない!ならなぜそんなことを言う!?

 シラヌイは確かに完成にはまだ遠い。だが、行き詰ったとしても我々2人の力でどうにか進めてきたし。そのカイゼンは組織に利益を、力を与えてきた。はっきりとはしていないが、前進しているのは確実だ。

 組織もそれがあるからこそ、これまでも我々の研究を支持してきた」

「わかっている、わかっているよ」

「ならばなんだ!?なにがダメなのだ」


 2人の男の間にしばし沈黙が流れる。




 シラヌイと名前を書かれたカプセルの中には、頭と胸部、そして右腕の半分までがはっきりと形を認識できる程度にあるだけで、人の形すらとれていなかった。


「シラヌイは。シラヌイについては私もちゃんと理解しているさ。彼は最強の存在になりうることを、完璧が必要だということもね。ちゃんとわかっている」

「ならばなんだ?」

「シラヌイを言っていたわけではないんだ。私が言いたかったのは、ビャクヤの方だ」

「………そうか、わかったよ。新機人事部のことを言いたかったのか」

 

 カウンターカンパニー旭の新機人事部とは、正式名称【新 機動歩兵選抜人事部】のことである。

 これについて語るには、シラヌイの隣にあるビャクヤと呼ばれるもの。シラヌイに比べ、いくぶんかしっかりと人の形をした、女性の体をデザインされた兵器との関係に触れねばならない。

 かの部署の目的とは、若く才能のあるつわものを選び、育て。来るべき日にシラヌイと共に出撃するはずのこのビャクヤという”器”の中身となれる力をつけさせるために作られた組織だ。

 開発に難航しているこちらと違い、むこうの結果は良く出ていることで組織内での評判もよいことでも知られていた。


 だが、近年かの部署の存在はこの組織の大きな問題になりつつあった。

 ”裏切り者”の存在である。

 いつからであろうか、若者たちの中からよりにもよって育ての親である我らの組織に対して猛然と牙をむく、そんな恩知らず達があらわれるようになってしまった。

 今回の攻撃もそれだ。

 かの部に所属する若者達が、突如反旗を翻して逃走。慌てて追手を放つと、その先には”ヒノモト”の部隊がしっかりと待ち構えていたのだ。そして、その若者たちの口からもたらされたであろう情報から、こうして”旭”は憎むべき敵の手によって引き裂かれつつあった。


「ビャクヤには魂がない。それゆえにこの体を器として別に”中身”を用意する必要があった。

 それは、シラヌイを助けるというだけのことではない。強大な敵、ヒノモトとの困難に満ちた戦いにおいて、シラヌイと我らの組織の意志を統一させるという役目もある」

「ああ」

「だからこそ、中身は慎重に、選ばれた存在にしか任せられない。そういうものだったはずじゃないか。

 ところがどうだ。最近まで、連中はわたし達と違い兵を適度に、効率よく練土をあげると褒められていたあそこは。今やただ、我々の組織に牙をむく狼を生みだし始めている」

「そう、かもな」

「私が言いたいのはこうだ。ビャクヤはシラヌイとは違う。もし、中身が用意されれば半年後には完成できるくらいまで進んでいる。だが、むこうは兵をそろえているとは言っても、肝心のビャクヤにふさわしい者を未だに用意できていない」

「その気持ちはわかる。しかし、それは必要なことだ。わかっているだろう?いまさらシラヌイと同じ存在に作り変えるといっても、そこにはさらに大きなリスクが生まれる。組織はそれを受け入れはしない」

「だからだよ。私はダメではないかと思う。我らと違い、毎年のように誕生する彼等のサンプル達。選ばれた彼等は自分の頭で考えた、などと屁理屈を口にして我らの大義を踏みにじろうとするばかり。

 正直思っていた、人事部の連中はもっと前にこの問題に気がついていて、それをあえて黙っていたのではないかってね」

「それは……少し公平に欠けるのではないか?」

「そうだろうか?

 君も聞いたことがあるだろう。”ヒノモト”にはいくつかの実行部隊があるが。その中でも最大最強、ヒノモトの幹部一族直属の部隊があることを」

「ニンジャ部隊のことだな」

「そうだ。ウコン、サモンジと呼ばれるコードネームのボスに率いられ、精強で知られる彼等はこの国にはいないにもかかわらず。いや、呼び戻させることも出来ずに最近の我が組織は自分の手で自分の体を傷つけ続けている。情けないと思わないか?」

「むむ、む」


 言葉が段々と少なくなっていってしまった。




「だが、今は我々の考えだけで物事は進められない。そうだろう?」

「そうだな」


 ため息をつきつつ、眼鏡に同意を示すと。ふと思い出したことがあったらしい。


「ああ、そういえば。さっきヘンな話を耳にしたんだ」

「ん?」

「このセンダイの部隊からの噂だけどね……人事の連中。さすがに今回の件を重大な過失と判断してか、最大の報復に打って出る作戦を立てているそうだ」

「この状況で?本部は了承しているのか?」

「わからない。だが本気だろうと言っていたよ」

「それこそ訳がわからない。このNipponは今やヒノモトの勢いに飲まれんばかりだ。そんな劫火の中で、彼等はどんな、どれほどの報復ができるというんだ。わたしでもそれは不可能だとわかるんだぞ」

 眉をひそめ、話を聞いて呆れかえったと態度をあらわにする眼鏡に対し。相棒は目を光らせると口を開いた。


「それだよ、確かに君の言う通りなんだ。だからこそ私にはわかったよ」

「?」

「彼等のいう、報復の相手のことだ。まちがいないだろう」


 そしてこの東洋の町、センダイ・シティの奥底で遠い異国の町の名が飛び出した。


 ターゲット ヒノモト最大最強のニンジャ部隊 TWO - HAND

 敵はアークシティにいる、と。





▼▼▼▼▼



 アークシティ AM10:21

 ロベルト = トレント記念ホール駅のホームには、旅客列車がとまっていて、数多くの旅行客がホームへと降りていた。

 その中に、1人の東洋人の少女がいた。

 大きいスポーツバッグに大きめのリュックとなかなか大変そうな荷物を抱えたまま。


「おおー、これが話に聞いたシティかー」


  屈託のない笑顔を浮かべて楽しそうだ。



 ここ、ロベルト = トレント記念ホール駅はその名の通り、ホールを訪れる客に合わせてすこし凝ったつくりをしていた。柱は穴があいてうねるように天井へとのびており、その先は開閉式のドームになっている。

 そんなわけで、ホールに負けず劣らずこの駅もランドマークとしての存在感は十分に備えていた。


 ドームから差し込む光は、構内に入ると淡いブルーとグリーンの色が混じることで不思議な空間を演出する。

それがまた嬉しくて、少女は天井を見上げて「うわー」と声をあげる。

 その周囲を、足を止めることなく他の客達が通り過ぎていった。


 ドサッ、それはただ少女が手に持っていたスポーツバッグを床に下ろしただけのことであったが、それにしてはかなりの重量を感じさせる嫌な音であった。

 それを先程から遠目でじっと見ていた駅員が見て近寄ってきた。

 列車から降りてくるなり田舎者丸出しで喜ぶその姿を目を細くして見ていた駅員であったが、彼女がどうやら家族と一緒ではない1人旅ではないかという疑念がわいてからは、ヒヤヒヤしながらもどうしたものかと頭を抱えていたのだった。


「かわいいお嬢さん、おひとりですか?」


 できるだけ自然に話しかけてみると、むこう一瞬きょとんとした顔をした後で顔をほころばせると


「はい!」


 と、元気よく返事をする。ああ、それは大変でしょうと続けながら内心ではこの娘をどうしたものかと考えていた。このアークシティではその華やかさの裏でたびたび凶悪事件が起こることで有名である。

 そんな場所にこのような未成年の少女が1人で………いや、それを言うならば。そもそもこんな異国の地にこのような娘をたった1人で行かせる親がこの世にいるということ自体が驚きであった。


「改札口ですよね?荷物を持ちましょう、重そうだ」


 駅の構内では十分に目を光らせてあるからなかったが、ひったくりは今でも健在である。床に置かれたあの重そうなスポーツバッグに手を伸ばすと、ひょいと肩に担ごうとして……思わずよろけてしまいそうになった。単純にいって、10キロ20キロの重さではない、30キロを僅かに超える重さだと感じた。

(この娘、エベレストにでも登頂するつもりか?)

 慌てて態勢を立て直すことができたのは、趣味で肉体改造を楽しんでいたおかげだと言えるだろう。礼儀正しく、ありがとうございますと口にした彼女の言葉で気がついた。この娘、Nippon人なのか、と。

 しかし重い、本当に重い。


「こ、これを担いで町の中を歩くの?」

「いえ、まさかぁ。駅のロッカーに預けておこうと思って」

「ああ、なるほど」


 それなら少しは安心だ、自分の足腰もそこまでだったらもつだろう。

 足元の階段に注意して降りながら、目の端で遠くに見えてきたロッカー群を追いつつ、会話を続ける。


「それで観光はどこを?ホール以外にも、色々とこの町にはあるんですよ」

「へぇー、でも今回は観光じゃないんです。人に会いに来たんで」

「ああ、家族の人とか?」

「そういうのではないんですけどー、”運命の人”に会いに来たって感じかな」

「はぁ」


 よくわからなかったが、このような少女の年齢なら口走りそうな表現なのでしつこく聞くことでもないだろう、そう思った。



 ロッカーの前に行くと、たまらずにズポーツバッグを下ろしてしまった。

 情けない話だが限界である。なんとか情けない姿を見せないよう、ここまではなんとかなったが、すでに足腰はガクガク震えてしまっていた。


「助かりました」


 そう言うと彼女は日本人らしく深々と頭を下げる。

(おお、これが生でみる礼というやつかっ)

などと心の中で呟きつつも、いやいや大丈夫ですよと余裕を見せておく。


 その少女の笑顔が、表をあげるのと同時に冷たく目が輝きだす。


 彼女の視線は、おかしなこと自分の皿に後ろに向かって注がれているようだった。すると


「わーはっはっはっは。諸君、今日はこのロベルト = トレント記念ホール駅へようこそ!」


 間抜けに聞こえてしまうほど、脳天気な笑い声が響くのを聞いて駅員はああ、と呟いた。


「驚きましたか?あれね、いまやっているキャンペーンのマスコットなんですよ」


 その言葉を聞くと、異様な輝きを始めたその目が、途端に元の純朴な少女のそれへと変化した。


「マスコット?」

「ええ。ああやってね、構内での防犯意識を高めようというパフォーマンスをおこなっているんです」


 そう言いながら自分も振り返った。

 その先には、ロビーの客達の注目を一身に浴びた全身ピチピチタイツを履いたヘンなヒーローが、なぜか電光掲示板の上で偉そうに胸を張っていた。


「ああやってね、日に何回かやってもらうんですよ。わざわざそれぞれの駅に、飛行能力を持つ超人の役者達を配置してね。去年夏もやってましてね、あれって子供たちも喜ぶからまたやってくれって人気なんですよ」


 その間も、タイツヒーローは怪我に注意しろだの、困ったことがあったら駅員に聞けだのをもっともらしく口にしている。


「そう…なん……ですか」


 少女はそう口にするものの、視線には幾分かまだ疑念の光が宿っていた。


「それでは諸君!そういうわけだから怪我なく、トラブルなく、この町を楽しんでいってほしい」


 そう語るヒーローの言葉に、見上げて喜んでいた子供達が「はーい」と大声で返す。


「うむ、いい返事だ!それでは今日はこの辺で」


 そういうと両手をシャキシャキと振りまわした後でビシッとポーズを決め


「皆の旅行が笑顔で終わりますように。願うは私、安全と平和の使者、グリーンランタンッ!」


 そう叫ぶと同時に電光掲示板から床に向かって飛びこむように体を投げ出すと、子供達の口から悲鳴が上がる。しかし、本人は涼しい顔でスイースイーっと宙に浮遊する。そして子供達の歓声を背になかなかのスピードで駅の構内を軽やかに飛んでいってしまった。



 駅員がそれではお気をつけて、と言って離れると少女はもう一度、あの変なヒーローが飛んでいった方向へと油断なく目を向ける。確かに、言われた通りただのショーの一部であったようだ。

(サチコ、ダメだぞ。まだなにも始まってないのに)

 そうやって自分を叱咤すると、プニッと頬を自分でつねってみせる。ほのかに痛かった。

 それからロッカーの前で、彼女は背負っていたリュックをも下ろす。

”準備”をはじめなくてはならないからだ。



▼▼▼▼▼




”最終試験”の疲れもあって、ぶっ倒れるようにイビキを描いて寝ていたサチコをおこす声があった。


「おい、おい、いつまで寝ているんだ。寝ぼすけ」


 いつも”みんな”にそう声をかけて回って起こすじいちゃんの声で、いつものようにサチコも目を覚ます。

 だが目を覚ましたそこはいつもの滝の近くの修練場ではなく、やかましいプロペラとエンジン音が響く飛行機の中であった。


「おう、起きたな。サチコ」

「おはよう、じいちゃん」


 じいちゃん

 サチコにとって師であり、育ての親であり、彼女の唯一の家族であり、そして今回のサチコの初任務ではリーダーを務めることになっていた。

 そういえば、サチコはじいちゃんの本名を知らない。

 しかし、その付き合いはもう十数年にもわたることから、それを不自由に感じたり、そのことに疑問を感じたりすることはなかった。


「飯だぞ、食うよな?」


 ニッコリと笑みを向けて聞いてくるじいちゃんに、まだちょっと寝惚けまなこのサチコは小さく子供のようにうなづくと


「まったく、こんなにうるさいんだもの。眠れな方よ、じいちゃん」


 そう言って愚痴ると、ゲラゲラ笑われて


「なーにいってる、今まで自分が何していたと思っているんだ?いつもの調子だったじゃないか」


 そんなことを言われてしまう。サチコはただ、おっさんのようにジャージのそでに手を突っ込むとポリポリと掻いているだけだった。


 水は貴重だからぜいたくに使うなと言われていたので、ちょいちょいと顔を濡らすような感じで洗って戻ってくると、じいちゃんは荷物から取り出した缶の蓋を次々と開け、床に並べていた。


「おかず、だけ?」

「いやいや、それじゃお前。足らんとか言うだろう」


 そういうと、ひものついた長方体の箱を3つ取り出すと、次々にひもを引っ張っていく


「ご飯はこれだ、3分待つんだぞ」

「うひひっ、3ついいの?」

「…なにをいっているんだ?2つで我慢しろ」


 まぁ、当然と言えば当然の話であったが。サチコは内心では(いつもなら米櫃ひとつ食うのにさ)とこっそり嘆いて見せる。

 だがどうもそれは表情に出てしまったようで、じいちゃんはため息をひとつすると


「まったく、よく食う奴だな。ま、その体なら仕方ないか」


その言葉にサチコはエヘヘと照れて見せる。


 身長は174センチ、体重は…乙女なので勘弁して貰うとしても、肩幅しっかりとして並みの男と並んでもそうひけはとらない迫力がある。

胸のサイズは、まぁあまり気にしたことはないが人並程度にはふくらみがあったし。尻については、よくヘンな視線を向けてくる男共が「安産型だな」と言われるくらい。

 その笑顔は屈託ない笑みを浮かべ、陽気な笑い声はそれを聞く物を笑顔にする。

そんな彼女

彼女の名前はアサギリ サチコ

彼女はこの度、所属する組織。カウンター・ヒノモトこと”旭”の命により、アークシティで活動する敵対組織の壊滅、もしくはその頭領の暗殺任務を受けた部隊にじいちゃんと2人で参加することになったのだった。



 どうやら自分でも思っていた以上に腹が減っていたらしい。イタダキマスと口にすると早速、米をひとかき口に放り込むと、あちこち缶には死を突っ込んで口に運ぶ。うら若き娘のその豪快な食べっぷりに、じいちゃんは頭を振って


「なんてぇ、食い方だよ……」


などと嘆いて見せるも、諦めているのか特に注意をすることはなかった。



「ねぇ、じいちゃん?」

「なんだ?口に物を入れながら話すな」

 勢いよく飲みこんでから再び幸子は口を開く。

「任務のことだけどさ。まだ話してくれないの?」

「ん?………そうだな、もういいかもな」


 そう口にすると、箸を置いて傍らの荷物からごそごそさせて資料をとりだしてきた。サチコの方はというと、再びは死と口を動かしそれを目をキラキラさせて待っていた。


「今回の任務では総勢6つの部隊が動く手はずになっている。お前とわしもその一つだ。あと数時間もすれば、むこうへ到着する。到着後はしばらくはお前はわしの孫という形で一緒に動くことになる」

「むふっ、今とあんま変わんないじゃん」

「こら、茶化すな…それで、と。中継地点まで移動。そこで全体の動きを一緒に合わせるのを待つ。位置についたら開始だ。そこからはわしもお前も1人で動くことになる」

「一緒はダメなの?」

「ダメだ。これは任務なんだぞ?その後はターゲットのいる町のそれぞれの駅から下車。行動開始の流れとなる」

「それだけ?相手の位置とかわかってるの?」

「いや、それは無理だ。なにせ相手は向こうで活動している。”チのリ”は向こうが圧倒的だ。全員がお互いの情報を交換させながら、あの町で戦うのでは分が悪い。向こうにも早速気づかれてしまうだろうし」

「ふーん。じゃ、どうするの?」

「まぁ、そのために色々手を打ってあるんだが。とりあえずお前は自分のことに集中しとけ。お前には1人、外部の協力者をつける」

「?」

「お前は若いし、わしの教えをよく学んでいる。あの町に詳しい者の手を借りて、相手を探すことになる」

「わかった!」

「まぁ…そんな……そんなところじゃな。流れとしては。細かい事は中継点についてからがっちり教えてやる」

「うん…でも、さ。それだとじいちゃんに会えるのはいつになるんだろ?」

「んー、そうだなぁ。任務の最終段階。いや、撤退の時になるか。その時は互いに連絡を取り合い、追手がかかる前に国を出なくちゃならん」

「カゼの如くってやつだね」

「そう、そうだ。風の如く立ち去る。そうでないと、ほれ。この首が胴からおとされてしまうわい」


 そういって舌を出し、眼球を上にしておどける老人を見て、サチコはゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。



▼▼▼▼▼


 本当はこのまま持って歩きたかったのだが、スポーツバッグの中には”みんな”が入っている。別れ際にもじいちゃんには「町に出る時は持ち歩くなよ」と念を押されてしまったので、仕方がない。

 誰の目にもとまらぬよう、中を開けるとそれまで一緒に入れていた”自分”をとりだした。


 中刀【夜叉丸】小太刀【ノバナ】


 どちらも彼女の愛用する武具である。

 それらを握りしめると、袋を閉じる前にそっと中に向かって小声で呟いてみせる


「それじゃね、ミンナ。いってくるからね」


 こんなところで感傷にひたっているわけにはいかない。ロッカーを閉じると鍵をかけながら素早く周囲を確認する。彼女に注目する視線はなかった。

 武器の入った筒を持ち上げる前に、床に置いていたリュックをもう一度背負う。

 



 駅の構内を出ると、熱い風が彼女のスカートをひらめかせて足元を抜けていく。

 照りつけるような太陽がまぶしい。


「さてと、どこにいるのかなー」


 サチコの最初の目標、それはじいちゃんもいっていた協力者に会うことであった。


 そう、このアークシティに住む”黒い人”に会って助けてもらわなくてはならないのだ。

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