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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
だい87
18/178

ブラックマン&ホワイトマン

よかったら読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。第1部は今回がラストになります。

 予知能力者を狙った連続殺人犯逮捕の報から1週間が過ぎた。

 その日はカラッと晴れていて、心地よい暖かさというよりもむしろ暑さを感じるくらいの気温である。

 サン・ナヴァ-ル病院の受付では、今まさに退院の手続きをとるダークハートとエグザイルの姿があった。

 この後、彼の恒例の退院の儀式を思ってわざわざ駈けつける医師や看護婦達が集まろうとしていた。


 エリクサ―は人の悪い笑顔のまま、次々と差し出す書類にサインするよう催促する。探偵は終わらないサイン攻勢にぶつくさと文句をつぶやき。そしてエグザイルはそんな男連中のコントになど興味がないようで、その傍らにいて退屈そうにしている。


「おい、クソ医者。何枚目のサインだ。多すぎるだろ」


 さすがに面倒くさくなったのか、文句を口にするダークハートに対し、エリクサ―も負けてはいなかった。


「何を言うか。今回君の貴重なデータは、この先も我が病院に記録され、長く生かされていくサンプルになったのだ。そこから出てくる新たな課題、問題、ヒントはすべからく人類のこれからに生かしてやる。君はただ、文句言わずにさっさとサインして、医学に少しは恩返ししろ」

「ケッ……いつかこの病院を訴えてやるからな。その時ゃ、ケツの毛一本残らずむしってくれる」


 悪態をつきながらも、中身を目を通すことなく次々と素直にサインを繰り返すダークハートの横に、その時スッと一枚の紙切れかなにかが置かれた。


「…?なんだこれ」

「それはうちのではないよ……探偵君」


 エリクサ―の少し緊張した声で、探偵は握っていたペンを置くと顔をあげた。




 やたらさわやかな笑顔を向けてくる、会ったこともない男がそこにいた。


「どうも、はじめまして。ミスター・ダークハート」

「あんた誰だ?」

「私はトーマス・ウィキンソンといいます。弁護士をやってます」

「へぇ、そうかい。それで、これは何かな?」


 差し出された紙を持ち上げ、ダークハートは弁護士の目の前でひらひらとさせてみる。


「見ていただければわかるはずですが、小切手ですよ」

「わかってる。なんだか知らんがやたらゼロが多く書かれてるな。なんのつもりだ」


 するとまるでダークハートの口からその言葉が出るのを待ってましたとばかりに、さらに一つ上のとびっきりの笑顔を向けると


「それは”今回の仕事”の報酬です。当然でしょう」

「今回は依頼は受けてないぜ。それがなんで報酬を頂けるのか知りたいね」

「それは簡単な話です。あなたがヒーローだからですよ、わたしの依頼人達にとってね」


 その言葉が終わらないうちに、ダークハートはチッチッと舌打ちを小さく漏らした。


「予知能力者どもか……」

「そうです。彼等は今回、あなたがしてくださった事を、骨を折ってくれたことに対し。是非なにがしか、力になりたいと考え、このように申し出たのです」

「ありがとよ、感謝の涙と握手はいいのか?それで、どこに花束を持った子供と、その後ろに待ち構えるカメラを持ったマスコミ人がいるんだ?ちょっと中指立てて挨拶してやる」


 無礼な探偵のその言葉にも、ちっとも気を悪くしてないと言うように首を振ると弁護士は言った。


「そう、トンがらないでください。あの数日間を、わたしの依頼人達がどんな気持ちでおびえて過ごしていたのか。あなたにだってわかるはずです。

 それに、これは悪い話ではない。彼等はあなたと出来るだけ関わり合いを持ちたいとこれまでも願っていました。今回がまさにそれです。この話を断ってしまっても、このままだと警察の感謝状がもらえるかどうか、それだって微妙でしょう?」


 ダークハートは黙ってしまうが、隣のエグザイルがボソッと


「犯人ボコボコにしちゃったカラネー」


 と呟く。それを彼は完全に無視した。


「ただ働きになってしまうくらいなら、わたしの依頼人達の感謝を受け取っても罰は当たりませんよ。そう考えてください。もっと軽い気持ちで、深刻な話じゃありませんよ」

「どうだかね。あんたの依頼人連中は、今回の被害者を含めて限りなくクロな奴が多いのも事実じゃないか。俺がこれを喜んで受け取ると思っているのか?」


 どうやら本気で怒りに火がついたらしく、ダ―クハートは自然と低い声になる。しかし、相手はまるで気にしないようで、さきほどと変わらぬ明るい調子で


「私の今日の仕事は、それをあなたに渡し。彼等のメッセージをあなたに伝えることです。ただ、それだけです」

「それじゃ、突き返してもいいってことだよな?」


 間髪いれずに言い放つが、トーマスと名乗るこの弁護士は口元に勝ち誇った笑みを浮かべる。


「いやぁ、すでにそういうわけにはいかないんじゃないですかね」

「なんだと?」

「実は、これとは別に今日はあなたの退院だそうで。依頼人達はそれも大層喜んでましてね。この報酬の他にも色々とお世話したんですよ。

 まず、そちらの美人のお店のツケ。全額清算しておきました。あとは、あなたの借りている事務所の大家さんには向こう3年分の家賃を払ってあります」

「ハァッ!?どういうことだっ」

「もちろん、半分は受け取っても、もう半分は突き返したいと言うなら。それであなたの気がすむと言うなら、構いませんが。それで自分は誰からも礼を受け取らなかったといいはるつもりならば、ちょっと都合がよすぎるんじゃないですかね?」


 押し黙るダークハートに、それでは失礼というと弁護士トーマス・ウィキンソンは立ち去ろうとする。その背中に、最後の抵抗とばかりに探偵の声がかかる。


「あんた、一つ聞きたい事がある」

「…なんでしょう?」

「あんたの依頼人は俺が受け取ると言ったのか?」


 暗い声に弁護士は苦笑するだけでなかなか答えようとしない。我慢できずに続けて質問する。


「依頼人とは誰だ?名前は?」

「ミスター、質問はひとつだと言ったでしょう。わかりました、ひとつだけ本当のことを教えます。あの人は言いましたよ。依頼人の名前さえ言わなければ、貴方は決して突き返したりはしない、とね」

「ゴードンか?ミシェル?」


 しかし、結局彼は自身の言葉通り。依頼人の名を告げないまま病院を出ていってしまった。




 ダ―クハートは受付にもたれかかると、大きなため息をつく。その次に視線をエグザイルに向け「おい、裏切り者」と不機嫌になった声で言い放つ。その視線を避けるように、関係ない方向を見ているその美しい横顔に、ダ―クハートはポンポンと呪いにも似た言葉をぶつけ始めた。


「裏切り者め。どういうことだ?大家のババァは帰ったら首絞めて殺してやる。だが、まずはお前だ。ツケだと?あれはそもそも………」

「待って、待ってって!

 ごめん、悪かったわ。話すのは退院して落ちついてから、と思ってたのよ。どうせ今みたいにカンカンになるだろうからさ。

 実はあんたが入院してからこっちに顔出すようになって店で新しい娘を雇ったのよ。

 うちの独自の事情とかまだ教える暇がなくてさ。そしたらあの連中、あの娘一人の時に来てうまいこといってツケの分きっちりと置いていっちゃったのよ」

「そんなの返してこいよ!」

「怒鳴らないで。それに、どこに返しに行けばいいのよ。こっちだって相手の名前は知らないんだから」


 ブツブツと呪いの言葉を吐き続ける探偵を、エグザイルとエリクサ―は仕様がないなと顔を見合わせる。そして、とりあえず当座の問題を解決させてやることにした。


「それで、この小切手。どうするの?」

「知るかよ、クソがっ。そうだ、ドクター入院費はどうなってる。寄付も欲しいだろ?」


 すると微妙な顔をしたエリクサ―がオホンとひとつ咳払いを入れると答えた。


「先ほどの弁護士君は言わなかったけどね。実はもう支払いは終わっている。実は数日前に、君のかわりに是非支払いたいと言う人物があらわれてね」

「ハッ、そつなくやってのけたってか?そうはいくか、おいドクター。そいつの名前を教えてくれよ、ちょっとどういうつもりか大佐の真似してバット持って今から聞いてくる」


 火山を噴火させられない、そんなイライラを感じさせる早口でまくしたてるダークハートに対し、エリクサ―は続けて


「それはダメだ」


とつれない返事を返す。


「どうしてだ?なぜだ?」

「実はね、探偵君。その人物はその際、当病院に多額の寄付を申し出てくれたのだよ。その条件は、君の支払いを黙って受け取る事と自分の名前を絶対に出さない事」

「おいおい、それを許していいのかよ?病院が寄付に目がくらんで患者に不義理をするのか?」

「まぁまぁ、落ち着いて。探偵君、君のいうとおりだ。だから、君には声をあげて異議を唱えることはできるし、その時は友人としても力になりたいとも思う。だがね、そうなると医院長の元に直談判しなくてはいけなくなる。

 君、それでもやる気に揺らぎはないといいきれるかい?」


 ここの医院長に会いに行って、直談判をするだと?それをこの俺が?

 それを聞いてダークハートは天を仰ぎ見る。この1週間の間、多くの医者達の後ろにあって不気味に目を輝かせ、二マニマと笑っていたあのイカレドクターからようやくこうして解放されたのに。わざわざこっちから会いに行くだと?

 いつの間にか、諦めるという選択肢以外なくなっていることを理解した。どことなく退院で浮かれていた気持ちが、敗北感でいっぱいになって重く沈んでいくのを感じる。


「ね、これどうする?」


 凄い数字が書かれた小切手をひらひらさせるエグザイルにダークハートは吐き捨てるように言う。


「知らん。お前にやる!!」

「そ、ありがと。もらっとくね」


 素早くそう言うと、エグザイルは涼しい顔で悪びれもせずにさっとそれをバッグの中へと放り込んでしまった。

 探偵はもう一度、クソっと悪態をついた。



▼▼▼▼▼



「なんだ、せっかくの退院の日にどうした」


 そう声をかけてきたのは、警部と光の騎士、そして交渉人であった。

 医師と看護婦達に見送られ、エグザイルに腕をひかれながらブーたれて病院から出てきた探偵を見て苦笑する。


「いいだろ、別に………それに、わざわざくること、なかったんだぜ?」


 友人達の顔を見て少し機嫌が戻ったのか、なんだか照れたように探偵は言った。

 すると3人は、1人をのぞいてなぜかとても嬉しそうな顔をすると「いやいや、そんなことはないぞ」と言い合う。それがなんだか不気味で、ダ―クハートも先ほどまでのことを今は忘れてこの後に何かあるのではないかと疑い始める。


「怪しいな、なんかあるのか?」

「いやいやそんなに身構えるなって。おお、そうだった。署を代表してお前に退院祝いがある。受け取ってくれ」


 そういうと警部はプレゼントは差し出した。

 それは薄い包装のされたもので、中身が何なのかわからない。

 ダ―クハートは礼を述べながら受け取ると、特に怪しむでもなくさっそく封を開けて…固まった。


「あら」


 横からひょいとのぞきこんだエグザイルもそれを見てにやりと笑う。



 それは一冊のコミックブックであった。


「おい、警部」

「ん?」

「これはなんだ?」

「本だぞ」

「なぜこれだ?」

「ああ、そういうことか。なに、お前の退院祝いはどうしようと頭をひねったよ。公務員だから給料も安いしな。そしたらたまたま入った本屋コミックショップで見つけたんだ。どうだ?親近感があるだろう?それにこの絵も迫力があっていい!」


 確かに迫力があったが、書かれていた絵が問題であった。


 燃える骸骨頭の男が、鎖を片手に持ちライダースーツを着てバイクにまたがっていた。


「なんだ、これ?」

「俺も詳しくないがな。20年以上連載されている人気のコミックヒーローだそうだ。どうだ、カッコイイだろ?お前もいつまでもハードボイルドとかいってないで、イメージを変えたらどうだ。なんなら、これの真似してみるとか?コスプレってやつだよ」


 さっそくゲラゲラ笑いながらいう警部に、額に青筋立てながら再び礼を言うと


「だが残念だ、警部。俺はバイクを持っていない、つまりコスプレのチャンスは絶対にないな」


 笑ってろよ、そんなんじゃまだまださ。そんな余裕がこの時のダ―クハートにもまだあった。

 するとそこにブラックサンがなれなれしく肩など抱いてきて


「いやいや、そんな言いきってはいけない、友よ。そういうことはよく考えてから言った方がいい。ああ、そうだ。私の退院祝いだが、あれなのだ」


 そういって何気に誘導された先にある物を見て、さすがにげんなりする。

そこにはハーレーダビットソンのバイグが1台。新品の本物が無造作に置いてあったのだ。


「おい、ヒドイ洒落だな」

「そうか?」

「あれ、高いだろ。すぐに返してこいよ。お前ならまだ返品できるだろ?」

「値段など、気にしなくていい。実は前々から、そう、いつか我が家を飾って世間に見せびらかしてくれた礼をちゃーんとしてやりたいと思っていたんだ」

「そうかい……」

「それに警部に聞いて初めて知ったよ。君は車の免許はないが、バイクは持っているんだそうじゃないか」

「ああ、クソったれ!」

「受け取ってくれ、我々の友情のためにも。あ、これ。キーね」


 そういうと無理やりその掌に鍵を押し付けてきた。




 光の騎士、アレックス・アークナイトは困っていた。

 彼はその人柄を窺わせるように、この場には手ぶらで来てしまったことに後ろめたい気持ちをもっていた。


「すまない、皆。それにダークハート。まさか、こんなサプライズを用意しているとは思わなかったんだ」

「ああ、凄いサプライズだ」


 そう答える探偵の声は見事に暗く苦いが、彼はそのことに気がついていなかった。


「だがわたしだけ何もないというのは…ああ、そうだ。エグザイル、今夜は君の店で彼の退院祝いをやると聞いた」

「ええ、そうよ」


 先程から口元を必死に隠して笑いをこらえていたエグザイルは笑いながら答えると、パッと明るい表情で自分の新しいアイデアを披露した。


「ならその席に持っていくとしよう。そうだな…なら、僕も2人を見習って。そこの絵に描かれたものがいいか。とびっきり頑丈な鎖と、そしてライダースーツを……」

「そんなものいるかっ!!」


 激しく嫌がるその大声の後には、皆の笑い声が続いた。




「ほら、乗ってみせてよ」


 むくれたままの探偵にエグザイルはそういうが、まだ抵抗があるらしい。腕を組んだまま唸っている。


「免許を持ってないんだぞ。乗れないだろ」

「いや、大丈夫だぞ。俺の命令で、今日だけはお前を見ても見なかったことにしろと署の連中にはいっておいてある」

「さすが警部、ぬかりないですね」

「もちろんだ。こいつがあのクソ野郎をボコボコにしたせいで、俺は大目玉をくらったんだ。これくらい、お手のものさ」

「職権乱用だ」

「なんなら、次はうち(警察署)の交通課をそいつに乗って体験してみるか?」

「フン、だれがするか」


 そう言いながらも、覚悟がついたのかようやくまたがって見せる。するとその後ろにサッとエグザイルも乗ってしまう。


「おいっ」

「いいじゃない。今日はあんたは見えないことになってるって警部もいってたし。2人乗りでも問題ないわよ」


 警部はそれを見て、さらにツボにはまったのか、ひーひー言って笑っていたが、反対にブラックサンはしまったーという顔をしていた。

(そういえばアイツ、敵に塩は送らない、とかいってたな。俺も同感だ)

 そう考えると、これもそう悪い物とも思えなくなってきた。

 エンジンをかけると、忘れかけていた感覚を思い出そうとするようにゆっくりと走りだす。

 友人達は笑ってその後ろ姿を見送りながら、おもむろに懐から取り出したカメラをむけるとシャッターを切った。


 その時、アークシティにはしばしの平和が確かにあった。

 そして数日後、アークシティのタブロイド紙の一面を飾る愉快な写真は、こうして撮られたものである。



▼▼▼▼▼



 格子の中では、耳をふさいでも、毛布を頭からかぶっても、辺りに響き渡る意味不明な奇声と、精神を不安定にさせる小さな声がやむことはない。

 なぜ、自分のような人間がこんな所に居続けなければいけないのか。彼にはさっぱり理解できなかった。

 だがここに来たのには必ず理由がある、なぜなら自分の未来に用意されているものは、それすなわちすべてが用意された試練であり、戦いの道だからだ。

 なのに、自分はその最初の一歩を失敗してしまった。

 用意された試練は難しく、成功する道は確かに厳しいものがあった。だが、選ばれた自分ならばそこに至る事ができたはず。いや、あと少し、あとわずかに手が届かなかったのだ。

 だが、とにかく失敗したのだ。我が主も、それに失望して自分を見捨てたのかもしれない。なら、こんな場所にいる羽目になったことも、わからないではない。


 そして夜が来る、恐ろしいことに。


 暗闇で目を覚ますと、必ずその眼前に2つの赤い光がある。それは目だ。こちらを見逃すまいとする、呪いであり憎悪に満ちた目だ。そして、それはいつも自分を見張っているのだ。


 彼はリベレーションと名乗る超人であり、かつてはモーガン・グレイという人であった。

 だが、今は何者でもない。何物にもなれなかったのだから仕方がない。

 闇は怖いが、光の下に顔を出すと狂人どもの奇声が頭から離れない。だから闇へとまた身を隠すのだ。例えそこに心休まる時がなかったとしても。



 今日も闇の中を絶叫と共に目を覚ます。直後に真っ赤な2つの目があらわれ、すぐに消えていく。”お前を見ているぞ”そういうことなのだろうか。彼の声に反応してか、どこかで再び昼間もあった奇声がまた聞こえてくる。しかし、この闇の中であれば、少しは冷静に聞いている事が出来る。


≪我が 使徒よ≫


 突然呼びかけてくる、その声にハッとした。

壁に目をやると、いつの間にかそこに怪しげな魔法陣が鈍く輝きながら浮かんでいた。

と、再び声が聞こえる、我が使徒よ、確かにそう言っている。

 おずおずと、寝床から数日ぶりに這い出ると。床を張って壁の前へと進む。寝床とトイレ、それぐらいしかない部屋だ。腕と足の痛みに顔をしかめるが、それほどの苦労はなかった。

 壁の陣に顔を近づけると、その向こうにこちらをのぞきこむ顔が見える。


 それは美であり、絶対の存在であり、万能の支配者のお顔であった。


「神よ、不明な私をお許しください。再びあなたの命令をお与えください」自然と許しを請う言葉が、希望を求める言葉が口から自然に飛び出てくる。

 それは向こう側に聞こえたのだろうか。主はひとつ頷くと、微笑みが彼に向けられた。ただ、それだけで彼の心の中に渦巻く黒い淀んだ沼と化した”なにか”が静まるのを感じる。

 これは自分に再度のチャンスを与えるという約束を頂いたのだ、ならば今はただ体を休めてその時を待つしかない。


 再び、主の言葉を世に広めるためにここを出ていく日が来る。使徒として、再び巨大な”敵”と戦うことになる。

 その時こそリベレーション(啓示)として優れた働きを示さねばならない。今度こそ、今度こそ、だ。

 だが、今は体を休めるのだ。再びベットに潜り込もうとする。

 床を這う片方の腕の痛みを縦とするなら、足をわずかに動かすだけで頭の中に鳴り響くざわざわする痛みは横と言えるだろう。動くたびに彼の頭の中では、2種類の激痛が激しく暴れて見せたが。

 この男の顔には、苦痛の表情などなかった。ただ、気持ち悪いほどやわらかな喜びの笑顔が浮かんでいた。



 彼は結局、今回も相手の正体に気がつくことはなかった。

 もしこの場に魔術の心得がある物がいれば、魔法陣を見て眉をひそめたことだろう。


ヘルゲート


 地獄と呼ばれる場所に通ずるその門の向こうには、悪鬼達の住む世界が広がっている。

 ならばなぜ、彼等はリベレーションに命令を下したのだ?その真の目的は?

 それらについて”人間”達が知るのは、まだしばらく先のことになる。

今回で第1部終了となります。


最後に色々と思いあまって”幽霊”ライダーなコスプレだのナニカをいれてしまったけど、後悔してない。むしろスッキリ(こ、これくらいならきっとOKなハズ)


ちなみにパート1の馬との並走シーンが大好きです。

ええ、まさかあの直後にあんなガッカリシーンになるとは思いもよらなかっただけに、ね。


それでは第2部の開始は来週、を予定。

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