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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
だい87
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決戦

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 リベレーションはちらりと、未だに自分達を見下ろし続けているアークナイトの様子を横目で見て確認する。この場に手出しをするつもりが無いことを、あらためて確認しておく。

 だが、そうはいってもそれがどれだけ慰めになるというのだろうか?


 今、この殺人鬼は追い詰められていた。

 それも、最高に最悪の相手。死を受け入れることのない復讐者リベンジャーが彼の前に立ちふさがっているのである。さらにこの病院の階下にも強敵達はいる。彼等は今頃こっちへ向かっていることだろう。

 彼等全員を相手に立ちまわるのはさすがに無理なことは、いくらなんでもこの殺人鬼にも分かっている。ならばこの数分間で脱出するチャンスを作らねばらない。


 その事実におかしな話だが今、リベレーションは密かに感動していた。

 

 これから先、自分はこの町の住人の中でも最高レベルの敵達に囲まれている。これを出し抜いてこそ、いやこの難しい状況をくぐり抜けることこそ”神の試練”ではなかろうか?

 ならば、与えられたこの試練。使徒として見事打ち破ってこそ、自らの任務への忠誠を示せるというものだろう。



 町の光を背景に深い沈黙が支配していた。

 ただ、聞こえてくるのはこの病院の空調施設の音と、町に住む人々の生活音、そして時々楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 だが、この場にいる3人の超人は互いの敵を見たまま無言であった。



「そういえば、ひとつ質問をいいですかね?」


 リベレーションは突然、構えをやめると意外なことを言い出した。


「下にいたあなたの友人達と、再会したあなたを見て、本当に不死者(イモ―タル)なのだと理解しましたよ。でも、そうなると逆に疑問が生まれます。」


 問いかける相手をむけられた赤い光を放つ目に揺らぐものはなく、もしかしたらそもそもこの話自体も聞いていないのかもしれない。だが、リベレーションはそれを確認することもなく自分の話を勝手に続ける。


「噂では、あなたは復活まで時間がかかると言う話だった。有名なト―ウィング爆破事件では、半年近く死んだ”まま”だったとね。

 あなたに止めを刺した時、たしかに楽しまなかった、といえばウソになります。しかし、わたしの頭にはもしもの時を考えてあなたの、特に中身の方をカリカリのベーコンのようにしておいたのですよ。心臓など、綺麗に焼き尽くしてやりました。

 なのにあなたは今ここにいる。

 ちょっと早すぎやしませんかねぇ?」


 挑発を含めたその言いようは、多分本人にしても返事を期待して口にしたわけではなかったはずだ。

 しかし、この時初めてダ―クハートは視線をリベレーションから外すと、口を開いたのだ。


「アレックス、今から言う言葉は聞かないでくれ」

「わかった」


 短い言葉だったが即答すると、驚いたことにこの光の騎士は自分の手で自分の耳をふさいでみせた。その子供のごとき素直な反応にも驚くが。その友人を見ただけで、ダ―クハートは信じたらしく、視線を再びリベレーションへと戻す。


「貴様にだけは、教えてやろう」


 吐き捨てる言葉に込められた憎悪の色は一層の濃さを感じさせ、リベレーションの心に恐怖の鎖となって縛りあげようとする。それがわかったから、リベレーションの顔にも冷たい汗がにじみ出る。


「お前の言うとおり俺は死ぬ事はない。だが、死なないわけではない。

 おれにもほかの連中のように死は与えられる。だが、死後の世界はいつだって俺の遊び場でしかない。”死に続ける”ことができないわけだからな。

 そんな時、俺はどうしていると思う? 

 なにもない虚無の世界を漂う時もある。

 地獄とお前等が呼ぶ場所を這いずり回り、悪魔だと名乗るクソ共にも会ったこともある。

 天国と皆が夢見る場所を吐き気をこらえながら見て見ぬふりをし、神だと名乗る奴とも話したことはあった。

 奴らは一様に口をそろえて俺にいう、お前に興味がない、と。満足に死ねない、手に入ることのない俺の魂になど意味がないと。いつも思う、ふざけやがって」

「それはそれは、お気の毒です」

「黙れ、お前には言われたくない。俺が許せんのは、お前等のごとき間抜けな奴隷根性の連中が、自己陶酔の極みの中で楽しく奴等の代理人を気取る事だ。お前は馬鹿だ、そしてただのマヌケだ。そしてそれを正しく理解しなくていい。お前はどうせ後には戻れない」

「ふっ、戻りませんよ。当然でしょ」


 思わずリベレーションは鼻で笑ってしまう。なぜ自分があの無力な存在に戻らなくてはならないのか、そんな考えがあったのは間違いない。


「ならば覚えておけ、法からお前が逃れることができたとしても、これから先。太陽の下で顔を隠し、夜の闇の中で息をひそめようとも。どこにも安住の地はない。お前の魂が地上にあっても、あの世とやらにいっても。俺からは逃れることはできない。必ず見つけ出し、報いを受けさせてやる。

 暗闇に近づけば、そこに俺は悪夢となっていつでもそこで待っている」


 リベレーションの唇が渇き、ツバをのどを鳴らして飲み込む。


「どうやら思った以上に、わたし達の間には因縁があるようだ。でもそんな暑苦しくて気持ち悪い告白をされても、わたしがそれに答えることはありませんよ」


 そういうと唇をぺろりと舐める。会話の時間は終わりを告げたのだ。



「あなたが本当に不死者だと聞いてね。少し残念、いやはっきりいって失望しましたよ」


 そう口にしながら、リベレーションは最後の確認をする。時間は僅かしかなく、敵は強大。こちらは使い慣れたカミソリを失い、手足も心許ない。いつもなら、近い場所で相手を切り刻み、せまる死の恐怖におびえるのを楽しむ彼だったが、この相手には意味の無いこと。不満もあったが、だからといってそれに固執するつもりなどなかった。


「不死者と言っても、所詮思いっきり殺しにかかればちゃんとそのつど死んでくれるんだってね。それがはっきりとわかってしまって本当にがっかりですよ。つまりですね……」


 言葉を区切ると、懐へと手を伸ばす。


「そういうことなら、この現代社会。やりようはいくらでもあるということです!」


 そう言って取り出したのは、銃であった。


 MAC10 マシンピストル

 長さ30センチ前後、約3キロのそれは銃口をしっかりと黒い髑髏へと定めるとトリガーを引く。弾倉にはいった32発の弾は、わずか2秒で撃ち尽くされ、ダークハートへと襲いかかった。

 それに対してダークハートがしたことと言えば、身を隠そうともせず。銃口が火を噴く直前に自らの左腕を前に突き出す、ただそれだけだった。


 しかし、その結果は思いもよらない異様なものとなった。


 なんとダークハートにむかって直進していた弾はあとわずかと言うところで、突然その方向を左右にきっちり90度で変えてしまう。もし、今の瞬間をどこかの物好きな学者が高機能カメラで撮影していたならば、弾がきっちり進行方向を直角に変えたことを証明してくれたことだろう。

 方向を変更されてしまった弾丸達は、探偵ではなく、たとえば床のコンクリートに、たとえば病院の外にと飛んでいってしまう。

 それを見て、いままで律義に耳をふさいでいた見学していたアレックスがたまらず耳をふさぐてをおろすと非難の声を上げた。


「おい、ダークハート!?」

「すまない、アレックス。だが、起きてすぐにハチの巣にされるのはごめんなんでね」


 そう返されては、なんと言っていいかわからず押し黙るしかない。確かに自分のように鋼の肉体と、さらにエネルギーフィールドで守ることのできないこの探偵には、銃口から身を守るというならばアレくらいしかないのだろうが…。

 とにかく、よそでけが人が出ないことを祈るしかない。

 一方で、空になったマガジンをはずすと予備をそこに突っこんでいるリベレーションの顔は引きつっていた。


「なんですか、あなた。そんな反則技まで使うとは聞いてませんでしたが」

「なに、これは俺の仕事道具の一つだ。この町で愛国者を名乗る変人がいてね、そいつの力に近い効果がこのメダルにはある。ただ、アレに比べると幾分か性能が劣っているので使い方は難しい。だが……」


 そういうとリベレーションが手にもつ銃を顎で示し


「そのおもちゃを使う奴には最高に役に立つ。”こいつの正面から強いエネルギーを伴って近づくと全力でそらす”という魔法のアイテムさ。クソババァの魔女から買いとった。怪しい商品だが、これでも高かったんだぜ?」


 そういうと、左の掌に握られた大きなメダルをポケットにしまいこむ。


「とことんオカルトな人ですね、あなた」


 そう言いながら、リベレーションは頭の中で次の作戦を必死ではじきだそうとする。


「あきらめるかい?」

「いえ、まさか。それなら次はこれですよ」


 そういうと、目立つ白いコートをひるがえす。中には多くの手榴弾がつるされていた。


「これを使うなら、あなたのそれは役に立たないんじゃないですか?」

「ああ、そうだな」

「教えてくれてありがとうございます。なかなか高かったんですよ。これだってね」


 そう言いながら一気にピンを複数取ると、ダークハートの方へ放り出した。

 手榴弾は普通、すぐには爆発はしない。だが、だからといって自分の周りにそれが複数飛び込んできたら、普通の人間であればわかっていても慌てずにはいられないはずである。

 しかし、ダ―クハートは落ち着いていた。それどころか、軽いステップをまじえつつ次々と自分から遠くに手榴弾を蹴飛ばしてみせた。

 最後の1個など、あきらかに狙ってリベレーションの方へ(それでもだいぶ左にそれではいたが)蹴りだしたのだ。

 その直後、次々と炸裂音が鳴り響く中で探偵は平然と立っていたが、リベレーションの方はというと爆風から逃れようと必死になってに中に身を躍らせるしかなかった。




 複数の爆発音が病院側から聞こえ、思わず大通りを歩いていた人々は足を止める?

 はて、なんの音であろうか?

 そして病院を見て思い出すのだ。ああ、そういえばあそこはサン・ナヴァ-ル病院じゃなかったっけ、と。そこまでいくと、誰ももう疑問を感じることはなく。再び歩き出すのであった。




「殺す気ですか?」


 リベレーションの口から苦々しくその言葉が出るが、ダ―クハートに変化はなく涼しい顔をして言い返す。


「ここれは病院だ。優秀な医師にかかれば腕がなくなった、くらいでは死ねないさ」


 などと口にする。

 ありがたいことにリベレーションの腕はまだついているが、頭と左腕からは血を流していた。

(死にはしない、ですか。滅茶苦茶ですね)

 相手は、ヒーローのくせに逃がさないためならやり過ぎてもかまわない。そう考えていることをはっきりと宣言して見せたことで、背筋に冷たいものが走る。

 そしてほんの少し公開した。自分はこんなに面倒くさい奴の恨みを買ってしまったのか、と。

 

 ダークハートは一歩足を踏み出す。

 ついに決着をつけにくるつもりだ、すぐにピンと来た。

 こうなっては仕方なかった。自分が用意した手段は、彼等にとっては想定の範囲内過ぎてしまった。この後を思うと、無駄弾を撃ち続けることと、手榴弾を使い続けることは時間を無駄にするだけでしかない。

 やはり再び、あの路地裏でやってみせたように自分の力で相手を焼き尽くすしかない。

 そう覚悟を決めていると、そんなリベレーションを見つめながらダ―クハートの口が開いた。


「お前の能力は十分に味あわせてもらった」

「…なに?」

「リベレーション、お前の力はいってしまえば電子レンジに近い。たぶん、それよりも別のルールがあるのだろうがな。能力の発動と共に、自分の周りにマイクロ波のようなものが作るフィールドを作っている。

 どこまで正しいかはわからない。しかし、はっきりしている。

 お前はその力に目覚めたばかり、使いこなしてるとはとても言い難い。違うかなルーキー(新人)?」

「ハッ、ずいぶんと見え透いたブラフじゃないですか。それでこっちは真っ青になってやればいいのですか?」

「なにもしなくていい。ただ、いまから決着をつけてやる」


 交わされる会話の間にも、互いの距離はみるみるうちに縮んでいく。



 そして、2人の手が互いの体に届く範囲に入った。



 最初に手を出したのはリベレーションだった。

 接近戦に不利を感じていたとはいえ、だからこそ相手よりもわずかにでも早く手を出さないわけには行かなかったのだろう。それに事実、彼は見事な当て身のスピードと力をみせていた。

 ダークハートはそれをいなしながらも、自身の握り締めた拳を振るい続ける。


 バチバチバチバチバチ


 途切れることのない互いの肉体をうつ音がして、凄い速さで互いの腕が振り回され続ける。

 涼しい顔をしていたリベレーションの顔から余裕は消え、変わりにみるみるうちに頬が、目が、赤くはれ上がりはじめる。それはダークハートも同じで、漆黒の髑髏が何度か上に左右にとハネ上げられた。

 なんと皮肉な話であろうか?

 銃が魔法で無効化された先に、自分達の超人としての力を振るう前に。

 まさか接近して互いの肉体が激しくぶつかり合うことになろうとは。

 まさに総力戦である。時間がなく、用意したすべての手を無効化されてしまったリベレーションにとって、この先に能力を発動して再びダ―クハートを殺さねばならない。そして、そのことはダ―クハート本人にもわかっていることだった。




 その瞬間を、チャンスをリベレーションは待っていた。

 ダークハートから突きだされた手が、彼の顔をかすめるのに合わせ。ここが勝負だと必死に命令を下してお互いの距離をさらに一歩、縮めて見せた。

 おかしなはなしだが、それは見ているほうからするとダークハートの胸にリベレーションが飛び込んでいくように写った。

(勝った!!)

 湧き上がる喜びに確信があり、この状況になるためにあえて接近を許したことに満足した。

 リベレーションの体から目に見えない何かが勢いよく吹き上がる。

 それは同時に、目前のダ―クハートに影響を与えるはず。

 彼の脳裏には、すでにあの時と同じように。無様に左腕を砕け散りさせながら吹っ飛んでいく探偵の姿がよみがえっていた。


 だが、そんな期待は裏切られ、同じ光景にはならなかった。


 まるで抱き合う形まで近づいた2人は離れることはなかった。いや、ダ―クハートの手がリベレーションの腕を力強く掴んでいた。

 攻撃から耐えている?

 いや、そうではないのだ。

 今度こそ、リベレーションは驚愕に目を大きく開け丸くする。恐怖が今度こそはっきりと、この殺人鬼の心にうえつけられていく。


 ダ―クハートは、ただ立っているだけではなかった。

 その顔は燃えていた。漆黒の髑髏は燃え上がり。目玉がないのに目からは水分が蒸発する音をさせつつ、そこからボウボウと火が飛び出すように噴き出している。

 その体に着ていた服はみるみるうちに焼けおちて素肌をさらす。


なのに、なのに、おお、なんという光景か!?


 ガイコツとなった頭部から下は普通の人間の体であった。いや、そう見えた。

 だが、その皮膚は次々と焼けても、筋肉が、血管が沸騰するかとみせた時。恐ろしい速度でその部分が回復を始める。

 つまり、赤くはれ上がり、皮膚が焼けおち焦げ付きだしても。その瞬間から次々とその個所が修復されていっているのだ。

 それはまるでCGで皮膚をはがしたり戻したりするスライダーを弄って遊んでいるかのように現実離れしている光景であった。


 彼に回復の暴走をさせてはいけない。

エリクサ―ことドクター・ヤンが危険だとしたそれを、この瞬間のダ―クハートは平然と行っていた。

 そして決着の時は来る。

 ホラー映画かと言うほど不気味な破壊と再生を繰り返す燃える左手が、リベレーションの顔右半面にまず覆いかぶさる。

 それは別にこれから告白してキスするためにやったわけではない。”そうしないこと”にはそこに止めを刺すべき”相手の頭”があるのをわからなかったのだろう。

 熱かった、皮膚が、肉が焦げる不愉快な匂いが鼻を満たしてしまう。だが悲鳴は上げなかった、恐怖でしびれたように口が開かないのだ。


 そして天地がひっくり返った。


 それが、自分が倒されたのだと言うことに気がついたのは、いつの間にか自分に馬乗りになった燃え続ける探偵の振りあげられた左手が、星空に向かって突き上げられるのを見たからだった。


 風を切り裂き、唸りをあげ拳が天から落ちてくる。流星のような一撃が、慌てて身を起こそうとしたリベレーションの顔面へとねじ込まれる。鈍い音が連続して響き、そのたびにリベレーションの頭は激しくコンクリートへと叩きつけられた。


 ひたすら続く嵐のような攻撃にリベレーションの戦意は消え失せていた。一撃ごとの衝撃は、リベレーションの体の中からプライド、怒り、殺意といったものを叩きだしていってしまう。かわりになんとかこの痛みから逃れたい。その一心で身をよじり打撃を防ごうとするだけ。

 だが、それも無駄だった。

 すでに鼻は潰れ、目は陥没し、口からのぞく前歯の何本かがなくなっていた。

 ダ―クハートはそんな相手の様子などおかまいなしに拳を振りおろし続ける。いつしか、その体を焼いていた炎は静まっていた。


 幾度めの打撃を叩き込んだだろうか、ぐしゃり、と粘っこい音を、力で引き剥がすと拳が振り上げられる。


「ダ―クハート。もういい。終わったよ」


 いつの間にかアレックスはダ―クハートのすぐ後ろに立っていた。

 その言葉があっても振り下ろされた拳は、直撃する手前でようやく動きを止める。

 本人は気がつかなかったが、この時。しっかりと終始、離さなかった右手はリベレーションの腕を握りつぶしかけていた。

 まずその握りつぶそうとしていた手を離す。次にしっかり握られたままの拳を、ダ―クハートは自分の目の前に持っていき、ゆっくりと力を込めて開こうとする。

 パキパキと嫌な音を立て、焼けただれてくっついた皮膚と、手の平の肉がはがれていった。

 

 そして、この夜。ダ―クハートは何度目かになるであろう咆哮の雄叫びを上げた。

 それは勝利の喜びにしては、どこか悲しさがあり。

 暴力の末に終わったことへのむなしさと言うには、暗い喜びが潜み。

 むしろそれは、苦痛を与えられる側でいながら、苦痛を返し続けたことへの………。




▼▼▼▼▼



 屋上の扉がガチャリと音を立てて開くと、サンダーランド警部を先頭にブラックサンとブッカーマンが続く。

 彼等は早速、辺りに漂う火薬を始めとした様々な不穏なにおいに眉をひそめる。


「おい!!殺していないだろうなぁ」


 そう警部が口にするのも、無理はなかった。光の騎士と裸の骸骨探偵の前に横になるリベレーションは、ピクリとも動いていなかったからだ。

 こんな馬鹿な事をするんじゃなかったと口で繰り返しながら、部下と医師に激を飛ばす警部をよそに、3人の超人は病院の屋上から見える夜景を見て、たぶん感傷に浸っていた。


「ポーカーフェイスが話したよ。いつもの調子だったから、全部ではないだろうけどね」


 アレックスがそう語る。


「リベレーション。本名はモーガン・グレイだそうだ。ここ最近、急におかしな振る舞いをしだして、良くない連中に近づいていったらしい。実際、それは本当のことらしく彼の過去の経歴は真っ白だったそうだよ」

「善人が悪人にダウングレードか、笑えんね」


 黒衣の交渉人はそういうと、彼の執事はうなづいてそれに同意を示す。だが探偵はそれを聞いてもただ無言であった。


「同感だよ。だが、まだいくつかよくわからない事もある。多分、それは警部達がちゃんと調べてくれるだろう」

「理由があればいいがね。どこかの物好きな学者先生が、心理の問題などと言い出すのはあきらかだ」


 今度は主人の言葉に続くように、ブッカーマンも口を開く。


「むしろそうなるでしょう。今回殺されたのはすべて予知能力者達です。

 彼等は超人として以上に、人々の怒りと恨み、妬みを羨望と憧れとおなじくらいにかっておりますから。そうした能力で富をむさぼる彼等を自らの手にかけた存在を、やたら都合良い解釈で持ち上げる輩もおりましょう」


 それは彼らでも容易に想像ができる憂鬱な未来の姿であった。




「変わらねぇよ」


 初めてブラックハートは口を開いた。3人の男達は驚いて彼を見る。


「変わらねぇ、そうだろ?」

「なにがだ?」

「どっちをむいても、厄介事か面倒事ばかり。クソみたいなこの世界で、理想郷ユートピアを夢見るなんてぜいたくな話なのさ。なら俺達がこの手で問題を終わらせることで、小さな一つ幸せを作り出せたなら、それはそれで勝ちってもんだろ」


 その言葉に誰も反応を示さなかったが、誰も否定は口にしなかった。




「ところで、君はいつまでその格好でいるつもりなんだ?」


 ブラックサンは素っ裸のままの探偵を見て眉をひそめる。言われた方も、どう反応していいのかわからないらしく


「そう言われてもなぁ。俺の服はあそこでひっくり返ってKOしているやつに塵にされちまったしなぁ」

「何を言っている。それならば、じっと病室にいればよかったのだ。入院で着替えがないのはわかっていただろうに」

「それは嫌だったんだ!しかし………そうだな。エリクサ―もいるし、看護婦さんに見られるのもな」

「まさか、その姿のままここを降りていくつもりか?」

「……お前、それでもいいが。お前の服のスペアないか?」

「ふざけるなっ!私が身につけるのはブランド品だ。下着もはかない君が着るようなものではないし、第一本当に支払えるかどうかわからないではないか」

「そうはいってもよ。このままだとアイツの前にこの格好は………」

「貴様っ!?彼女の前にそんな小汚い姿をさらすつもりかっ」


 いきなり仲良く喧嘩を始めた2人を見て、光の騎士はやれやれと苦笑すると離れて警部の元へと言ってしまった。


「ここは病院だぞ、町に出なくても着がえくらい、どっかに売ってるだろ?」

「それは当然だ。しかし、わたしがいっているのはそれを裸の君がどうやってするのだと聞いているんだ」

「そんなことはさぁ。あっ、アレックス……あれ?いっちまった」

「光の騎士に使いっ走りをさせるつもりか!?」

「だってお前は行ってくれないだろう?」

「それも当然だ。私は敵に塩を送るような真似はしない。せいぜい笑い物になるがいい」

「…やっぱ、エグザイルに頼むしかねーかー」

「やはりそのつもりだったんだな!?」


 楽しげに口論している2人の間に、ブッカーマンが割って入る。


「まぁまぁ。落ち着いてください」


 主人をそうたしなめると、ブラックハートをみて


「探偵様。事件解決、それに復活とよぉございました」

「あ、ああ。ありがとうブッカ―マン」

「それと先ほどから主人と仲良く口論なされた件について、私に用意がございます」


 その言葉に、ひとりはむっとし、ひとりは喜んだ。


「仲良く、とは心外だぞブッカ―」

「やぁ、流石は執事の鏡。助かるよ」


 そこに差し出されたのは病院服であった。


「これ…?」

「はい、これは元々あなた様が着て寝ていた時の物ですし。後ろからですと、お尻は見えてしまいますが。ま、それくらいなら我慢されるべきかと」


 はぁ、とため息をつきながらもそれを身につけようとするダークハートに追い打ちをかけるようにして


「それに、再入院されるわけですからこれが色々と都合がいいでしょう」


 その言葉に、今度はダークハートの眉が潜む(実際に眉はないが)


「どういう意味だ。それ」

「簡単なことだよ、友よ。ここの医院長とエリクサ―の、医師による決定と言う奴だ。君は今回最短記録で復活した。だが、あまりにも極端な速さで復活している。彼等に言わせるとそれは大変危険なことらしい」

「はぁっ!?回復能力者がパワーで復活したなら、それは全快にきまっているだろうが」

「それが違うらしい。こんなに凄い力が発揮されたのはどこかに問題があったからだ、というのが彼等の一致する考えだとか。皮膚の隅々まで、内蔵の影もくまなく調べあげてくれるそうだよ。よかったな」


 不死の探偵、ダークハートは最後に夜空を見上げる。

 星は綺麗に輝いていたが、それだけだった。

(まったく、こんなことなら死んでしまった方が楽だったんじゃないか)

 そんな不埒な事を考えた。


 もっとも、彼が死んで墓の下に入ることは決してないのだが。

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