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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
だい87
16/178

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 自分がいつの間にか眠っていた事に気がついて、エグザイルはハッとする。

 ここは一般病棟、病室の中には自分と、そして恐ろしいほど静かな寝息を立てて眠るコイツしかいない。


ダ―クハート、不死の探偵。


 モニターに映る心音は一定のリズムを刻んで安定している。そう、結局丸一昼夜をかけて苦しんだダ―クハートもようやく落ち着きを取り戻し、件の部屋からこの病室へと移されたばかりだった。

 ここに来てから一度、ドクター・ヤンことエリクサ―は様子を見に来たが、去り際に「もう大丈夫だから、あとは起きるだけ」と言い残すと、忙しいからとさっさとまたどこかへ行ってしまった。



 あの無音の部屋から彼が出てきた時のことを思い出す。

 運び出された時、部屋の中は床も壁も血まみれで、そのところどころに”なにか”あまり知りたくないようなモノがこびりついていた。なにより、2人がかりで引っ張り出されたダ―クハート自身が全身血にまみれていて、本当は死んでいるのではないかとちょっと心配もした。

 だが結局のところそれは心配のしすぎと言うやつで、シャワーで汚れを落とすとそこにはいつもの寝こけた探偵が傷一つない姿でいるだけだった。



 窓を開けると、少しだけ温い風がエグザイルの髪を揺らす。

(そろそろ帰ろうか)

 ふと、自分の店のことを思い出してそんなことを考えてみるが、その通りにするつもりが今の自分にまったくないのはわかっていた。ベットに横になっているダ―クハートの顔に、あの時の無残に破壊されつくした傷跡はない。

 それを思い出すと、なんだか無性に腹が立ってきた。


「…ったく、いつもいつも無茶は御免だ。俺はタフだ。なんて気取っちゃってサ。その癖コロッと殺されたりなんかして、とことんマゾなんだから」


 相手に変化はないが、そのせいもあってボソボソと口に出すと勢いがついてくる。


「毎回毎回、馬鹿ばっかして!初めて会った時も俺は死なない、とかカッコつけておいてコロッと死んでさ。その後でゾンビみたいになってあらわれて。ああいうのが苦手になっちゃったのはあんたのせいなんだからね!

 このぅ、考えたら頭来たっ。

 それを知っている癖に、毎年毎年誕生日プレゼントだと言ってくっだらないゾンビ映画持ってきて。ビデオテープだから、

LDだから、DVDだから?それがなによっ、去年はブルーレイでBOXですって!?

 なーにが、映画会社はよく考えている、よ。ハリウッド映画はクソだってあんなにいう癖に。

 言っときますけどね、あんなふざけたモノ。貰った当日の内に全部叩き売ってるんだから」


 ここでようやく怒りが収まったのか、はたまた冷静さを取り戻したのかわからないがエグザイルは黙る。そして小さくため息をひとつ吐くと


「せめて死ぬなら綺麗な顔でお願いっていってるのに。今回はあの時くらいひどかったんだから。あの、なんだっけ?…ナントカいう湖の魔人相手に、お互いの体をブツ切りにしあったアレよ。湖を血で染め上げて、それでも岸辺でお互い刃物を持って切り刻んでた。アレは恐怖と滑稽が一回転してひどいもんだったんだから……」


 そう言って声が小さくなると、エグザイルは黙って足早に病室を後にした。




 ロビーへと向かうと、まずブッカーマンにあった。

 この執事の老人はこちらを見ると、なにもいわずにポケットからハンカチを取り出して差し出す。


「必要でしたらこれを、ちゃんとアイロンも掛けて綺麗にしておりますから」


 その言葉でピンと来た。


「ありがと、大丈夫だから……わかったの?なおしたはずだけど、化粧がはげてる?」

「いえいえ、お嬢さんはいつだってお美しいですよ。しかし、男の中には女性の涙をみると見過ごせないというさがもあるのです。隠すのでしたら、お気をもっとしっかり持って」


 的確な老人のアドバイスにわたしは笑みを浮かべると


「ありがとう、忠告に感謝するわ。まだまだ修行が足りないみたい。あなたの主人にもわかっちゃうかな?」

「私の場合は年の功というやつですよ。あなたが笑顔を見せるだけで、あの方はコロッとだまされてしまいます。あなたの笑顔はそれほど輝いているのですから」


 その言葉に勇気づけられるようにわたしは笑いだすと、そこにブラックサンがカップを手に近づいて来た。


「コーヒーでも如何かな?」

「結構よ。もう飲み過ぎちゃって、カフェインもきかなくなりそう」


 そう答えると周囲を見回す、むこうで警部が厳しい顔で部下と話しているのが見える。


「なにかあったの?」

「ああ」


 渋い顔でそう答えると、カップの中の物を飲み干してからブラックサンは説明してくれた。




「例の連続殺人犯から犯行現場へお誘いの連絡があった。3人目の予知能力者だそうだよ」

「自分からかけてきたの!?」

「そうらしい。警部は決着をつけるつもりだ。警部補とアレックスには現場に向かわせ、ここにいる人員にも全員離れるように指示をだすらしい」

「それで大丈夫?}

「エグザイル、この病院はいってみれば超人仕様の警備能力のある特殊な場所だ。ヘンな医者が多いのが理由なようにね、わかるだろ?」


 ウィンクなどしていたずらっぽく語るブラックサンに、エグザイルは苦笑する。


「みんなでそいつをここにおびき出してハメようっていうのね」


 どうやらここにもう少しいれば、面白いものが見れそうだ。そう考えながら再び病室へと戻る。



 そこにいるべき患者の姿はなかった。



 エグザイルは一瞬、げんなりとした表情を見せるも手近にあった椅子にゆっくりと腰掛ける。

 そして病室の中を見回してみた。

 ものけの空となったベットには、病院服がぬぎすてられていた。窓は自分が開けたままの状態で、そしてこのトンチキ野郎のためにと用意した着替えと道具一式が姿を消していた。


フーッ


 深くため息をつく。こうなることはわかってはいたはずだったが。


「道具は気をきかせすぎたかなッ」


 そんな反省の言葉を言いながらも、ふと視線の先に風に揺られたメモを見つけていた。そこには走り書きしたへたくそな文字で『パーティには参加する』と書かれていた。

 どうやら思った通りやる気十分と言うことらしい。

 そのメモを手にすると、やれやれと思いながらもエグザイルはロビーへと再び向かった。



▼▼▼▼▼



 リベレーションがサン・ナヴァ-ル病院のロビーに姿をあらわしたのは、深夜をすぎて大分時間がたってのことであった。

 白いコートを着た彼の姿は、深夜の暗く、誰もいない病院のロビーではよく目立つ。

 そこに立ち、リベレーションは笑った。まさかね、こんなにうまくいくなんて、と。

 正面に位置するエレベーターの前へと進むと、ボタンを押そうとする。



 その時、ようやく気がついた。

 入口から入ったところからでは分からなかったが、このエレベーターの前から見える廊下の先に階段があった。夜なので誰かが足を踏み外さないためなのだろう、明りがついていたのだがその階段の下にパイプ椅子を置き、腕を組んで座る警官が1人だけいたのだ。


 リベレーションに緊張が走るが、それも一瞬のことだけだった。なにか様子がおかしい?

 それもそのはず、なんと警官はイビキをかいて舟を漕いでいたのだ。

(お粗末だね、それで警備のつもりかい?)

 余裕が生まれる中、ボタンを押してエレベータが降りてくるのを待つ。もちろん、その間も視線の先には警官をとらえていた。

(…殺そうか?)

 一瞬、そんな雑念がわくがすぐにそれを否定した。

 自分がここに来たのは警察と遊ぶためではない、目的はハッキリとしている。あの目撃者に会いに来たのだと。



 だが、神ならぬリベレーションは気がつかなかった。

 彼がエレベーターに乗って扉が閉まるのと同時に、舟を漕いでいたはずの警官は突然しゃっきりと背筋を伸ばして目をぱっちりとさせると、通信機へと手を伸ばす。


「こちら灯台00(ゼロゼロ)、特等席。犯人を確認。港へと登った、繰り返す。港へと登った」

『了解、灯台班は全員持ち場を離脱せよ。外で合流後はアミを守れ、繰り返す。アミを守れ』

 その指示に了解とだけつぶやくと、彼は足早に隣にある外への非常口の扉に手をかけた。

 病院の外では警部の指示で、すでに次々と警官が集まってここを取り囲むように配置がなされていた。命令があればこの巨大な網をせばめて封じる作戦である。



 リベレーションは4階へと到着した。

 前もって中の情報については調べてある。この階のどこにいるのかもあるていど把握してあったが、さすがにここからは戦闘は避けられないであろう、そうも考えていた。

 だから、彼が降り立つとそこに警官の姿が1人もいないことに、流石に少しギョッとしてしまった。

(警官ばかりか、看護婦も医師もいない………いや、おかしい話ではない。今は深夜だ。いないことに不思議はない)

 自分はビビっているのだろうか?それともこれは罠?そんな疑問を必死に否定しながらも、足を進める。


 4階のロビーには、警官も看護婦も、医師の姿もなかったが受付に寄りかかるようにして立つ髪の長い美人がおもしろくなさげに立っていた。

 その隣を足早にリベレーションが通り過ぎようとした時だった。


「ちょっと」


 いきなり自分が声を掛けられたことに気がつき、リベレーションは笑みを顔に張り付かせて振り向いた。無視したいところであったが、こう人っ子ひとりいないのでは知らないふりをして誤魔化せなかった。


「なんでしょう、綺麗なお譲さん?」

「その綺麗なのが、こんな深夜に悩ましげにしているのに、その横をただ通り過ぎて声もかけないわけ?」

「……申し訳ない。知人がここに運ばれたと連絡を受けましてね。とても心配なのです」

「あら、ご家族?」

「いや、ですから知人ですよ……」


 表情には出さなかったが、内心の苛立ちは急上昇で上がりつづけ。はやくもこの女を八つ裂きにしてやろうか、とさえ考えていた。



 バチン!!


 ひと際大きい音がした。

 その後も小さくなにかがはじけるような音が低く、小さく、だが激しくする。

 この階に来て、はじめて警官服を着た巨漢が廊下の角から姿をあらわす。ただし、その全身には激しくはじける雷を纏わせていた。


サンダーランド警部


 このアークシティの警官にして怒れる雷人は、警官服の上にプレストプレートをつけていることでも有名だ。そのため彼の姿を見れば誰なのか、この町の住人ならすぐにわかる。

(やはりいたな)リベレーションはそう思った。ここに来れば、この相手がでてくることはあらかじめ想定していた。

 警部はのしのしと歩きながらにらみつけると


「リベレーションだな?お前を逮捕する、大人しくしろ」


 と、声をかけてくる。それにニッコリと笑顔を向けると、リベレーションは懐からカミソリを素早く取り出し受付の女性に向かって手を伸ばし掴みかかろうとして ― そして、大きく2歩下がった。



▼▼▼▼▼


「あら、ずいぶんと勘がいいのね」


 別段驚くわけでもなくエグザイルが声を上げた。その声を聞きながら、リベレーションは手元のカミソリをじっと見つめていた。剃刀は刃が半分以上失われている。もう、使い物にはならなくなってしまった。

 それは僅か一瞬のことだった。エグザイルの長い髪を掴んで抱き寄せると、その首筋にこのカミソリの刃を押しあてようとした。

 だが、振りあげた刃先が変化したことに気がついて慌てて彼は飛びずさったのだった。

 それでもこのザマである。


「もうちょっとこっちに寄ってきてくれたら、その体を半分蒸発させてあげたのに」

「恐ろしいお嬢さんですね。あやうく腕が根元から失うところでしたよ」

(2人、か)

 少し厄介だと思った。なにをしたのかは分からなかったが、この女性と先ほどからスパークしている警部を相手にするのは少し不利な気がした。


「2人で私の相手をしてくれるのですかね?」


 それはどちらかというと確認と言うよりも時間稼ぎのものであったが、意外な効果があった。

 エグザイルが不満そうな顔をすると、警部に向かって口をとがらせたのだ。


「あら、やだ。わたしも人数に入っているの?警部」


 その言葉に警部は眉を片方だけ引き上げて面白い表情を作ると


「冗談ではない。市民の協力は歓迎だが、凶悪犯の逮捕をまかせるつもりはないぞ」

「なら、私の相手はあなただけでいい。そういうことですか、警部?」


 それに答えないまま、エグザイルの横を通り過ぎて警部は前へと出てくる。

(勝てるか、これなら)

 それは慢心であったかもしれない。



 次の瞬間、警部の手から放たれた雷撃はリベレーションの体を襲い、身体中を勢いよく這いまわる。電流に体を波立たせながら耐えるリベレーションは、正直驚いていた。

 この男の能力はあらかじめ調べて会った。こういうこともするのはわかっていた。だが、ここは病院なのだ。治療に電子機器を使うここで、彼がいきなり躊躇なく電気を放つことはないだろう、そんな風に思っていた。どうやら甘かったらしい。

 その強烈な体験に、リベレーションは言葉もなく立ちすくむだけであったが。ようやく雷撃が収まってきたかと思った時には、目の前にサンダーランド警部が拳を固く握りしめてすぐそこまで迫っていた。



ガンッ!



 自分の横っ面に拳がめり込むのを感じると、激しく体が吹っ飛ぶんで今度は宙でのたくるのを感じる。

 そのたった一発のパンチは強烈で、リベレーションの世界だけが一回転した気がする。転がった先で慌ててフラフラと立ちあがりかける中、自分がどこにいるのか気づいて驚愕した。

 なんと廊下の端から反対側の端を越え、階段の踊り場の壁に手をついていたからだ。

(これは参りましたね。まさかこれほど力の差があるなんて)

 逃げる、その言葉がはっきりとリベレーションの頭の中に浮かんできた。


「君を逃がすわけにはいかない」


 聞きなれない声に頭を向ける。上の階段の踊り場にはブラックサンとその後方にはライフルをリベレーションに向けしっかりと構えているブッカーマンが立っていた。


「っ!?」

≪お前は動くな≫


 自らの能力が発動するよりも早く、リベレーションの体に重圧がかかり動きが制限される。

 動けない身体、向けられた銃口、これまで傍若無人にふるまっていた連続殺人犯の恐怖心を刺激するのは十分である。もはや躊躇はなかった。


 ヴンッ!!


 力の限りを尽くしたリベレーションの力は、病院の壁を、床を、階段をみるみるうちに削り取って穴をあけていく。


「いけません、退避しましょう」


 ブッカーマンの声と共に、ブラックサン達は上階へと駆けのぼっていく。反対に追ってきていたサンダーランド警部の手から再び雷撃が飛ぶが、それはわずかに狙いがそれて病院の壁に炸裂して散った。

 そして、リベレーションは外壁に人が外に出れる程度の大穴をあけると必死の表情で体のバランスを崩すことでそこに飛び込もうとする。

 その姿は無様であった、滑稽ですらあった、だがそこにはなんとしても捕まるものかという激しい執念があった。


 暗く光の無い裏道へと落ちていく中、リベレーションはこの後の計画をすばやく立てる。

(最悪だ。しかし、これも想定の範囲内だ。用意した逃走経路のひとつには逃がし屋も用意してある。そこに行きさえすれば…)

 まだ、この時までは希望があったかもしれない。


ドウンッ!


 落ち続ける中で、リベレーションの耳になにかが恐ろしい速さで風を切る音がした。それは以前、路地裏で1度聞いたことのある音だった。

 次の瞬間には落下しているはずのリベレーションの体が、重力に反して上昇する。なぜそうなったのかわからないまま、何かに激しく突き上げられ、視界にはそれまで離れていっていた光景が逆回しになって次々と自分の後ろへと流れていく。


 全てが取り払われ、雲ひとつない夜空だけになった時。リベレーションの上昇は止まった。


 コンクリートの上に投げ出され、そのおかげかどうかは分からないが自分を縛っていた呪縛は解けたが、変わりに衝撃で息が詰まる。

 それでも、頭の中はしっかりとしていたからこの敵地でいつまでも弱っているわけにはいかなかった。

 震える手でなんとか体をおこすと、自分をここまで押し上げた存在を確認する。その相手は、意外なようでいて、なぜか納得のできる相手でもあった。


 光の騎士、アレックス・アークナイト


 この町を色々な意味で象徴する彼は、宙空に浮かび、犯罪者を見下ろす彼の目は冷たく輝いていた。


「まいりましたね、あなた。もう、戻ってきちゃったんですか?」


 震える声をかけるが、相手は口を開かない。ただ、見下ろしてくるだけだった。


「どうやら、有名人をいろいろと呼び集めてしまったようですね。なめてましたよ、正直。反省しています」


 ゆっくりと立ち上がりながら、そんな事を言いながらも、リベレーションは油断なく体の調子を確かめている。

 足、腕、共に動くがやはりダメージで全力には程遠い。しかし、反対に自分の力の方はこの屈辱的な状況の中にあってさらに勢いを増しているのがわかる。なんなら、ここで1人くらいほふってみせることだって不可能じゃない…。


「どうしました?わざわざこんな舞台まで押し上げてくれたのに、なにもしないのですか?」


 相変わらず相手はなにも言わない、こちらをただただ見下ろすだけだ。

 そう、見下みおろしている。見下みくだしているのだ、このリベレーションを。神の使者を!


 その瞬間、湧き上がる激情のまま、それまで涼しげな表情と余裕を見せていたリベレーションの表情が醜くゆがみ、怒りと憎悪にまみれたクソのような言葉を口から吐き捨てる。


「タイツを履いた変態のお子ちゃま野郎がっ。ヒーローごっこを楽しんでるだけの金持ちのゴク潰しが、この私をそんな目で見ていいと思っているのかっ!?」


 それは、あらゆる意味において敗北者のねたみのこもった呪いの言葉であった。



▼▼▼▼▼



 この時代の夜に、どこまでも続く闇はない。空には星があり、月は太陽の光を反射して大地を照らす。そして、大地には人が用意した灯が闇の濃い霧を薄くさせるからだ。

 それはこのサン・ナヴァ-ル病院の屋上にあっても変わらない。ここから見える周囲の夜景が物語っている。


 だが、しかし。この屋上の一角に完璧な闇が存在していた。


 漆黒の中で、それはその瞬間が来るのをじっと待っていた。深く胸に刻まれた、己が考えているよりも深い憎悪の炎をたぎらせながら、ただ一度の復讐ではない。あらゆることの復讐の時を、待っていた。


「お前は俺が倒す」


 短い言葉だった、だがそこに込められた憎悪の深さは聞くものにただそれだけで毛を逆立てて危険を知らせるに十分なモノがあった。


「いい加減、このパターンは飽きたんですけどね」


 声を聞いたことで、再び余裕の仮面をつけて無駄口を叩くリベレーションは新たな声のする方へ、闇がいちだんと濃い方へと注目する。


 それは真っ赤な2つのビー玉に見えた。


 宙に浮かんだそれは、なぜか靴音響かせ揺れ動いている。

 次にそれは漏れる光に暴かれるように、真っ赤な目を光らせた漆黒の髑髏を浮かび上がらせた。

 そして、彼はとうとう敵の前へ、復讐者となって舞い戻ってきた。


「おやおや、これは驚きましたね。私の知る顔によく似た人のようだ」


 リベレーションそうは言ったが、その声は無意識におびえと恐怖をにじませていた。


「残念だが俺は本人だ。戻ってきた、そして会いたかったぞ」


 低く告げるその声は、殺意となってリベレーションの肌を舐めまわす。その不快感に顔をゆがめながら、リベレーションは歯を食いしばる。


「黒い髑髏は不死の証、でしたか。そいつとは絶対に敵対するな。もし敵となればこちらを滅ぼすまで決して終わらぬ悪夢となる。まさか、本当の話だったとは」

「看板に偽りがあっては、この商売やりにくくなる」

「そうでしょうね。あんなにあっさり殺されてくれるものですから。それでも念入りに”処置”しておいたんですがね?」

「悪いが”氷漬け”にでもならないと、俺は止まらない」

「それはいいアイデアです。今後のために覚えておきましょう」


 こうして天使を自称する白いコートの殺人鬼と、地獄からよみがえった漆黒の心臓をもつ探偵は再び対峙する。


ダ―クハートvsリベレーション。


 第2ラウンドのゴングは、その時鳴ったのだ。

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