死者となり果て
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そんなこと、滅多にしないことだがBAR【カサンドラ】の女店主、エグザイルは呼び出された場所へと車に乗って急いでいた。昼間、あのダ―クハートの前でしていた詐欺まがいな小娘ファッションではなく、フォーマルなスーツ姿である。
光の騎士から不穏な話を聞くと、彼女は瞬時に服を分解、再構成すると客の一人の尻を蹴りあげ現場への足を確保したのだ。
現場に到着と同時に、複数のパトカーも到着した。
エグザイルが姿をあらわすと、パトカーからはいかついサンダーランド警部が部下と共に姿をあらわす。
「おい!なんでここにいる、店はどうした」
しかめっ面のサンダーランドを無視するとエグザイルは路地裏へと早足で駆けこんでいく。それに警部も続く。
言葉もなかった、壮絶な光景がそこには広がっていたのだ。
彼女達と入れ替わるように,、光の騎士は表通りへと出ていくと警官達を手伝って市民を近づけまいと通路をふさぐ。
「……大丈夫か?」
サンダーランド警部のことばでエグザイルはキッと警部の顔を睨むが口は開かなかった。そして物言わぬさっきまで憎まれ口をたたき合った相手の元へと進む。
本当にひどい姿だった。
まず、左腕が吹き飛んでいた。根元からないのである。
そして致命傷となった傷!そのひどさになんと言っていいのかわからない。
あの黒い髑髏の頭の顎から、まるで太い熱した鉄棒を乱暴に突っ込んでそのまま下方向に引き裂いていったように見える。どうやってそんなむごい事が出来たのかわからないが、ダ―クハートの身体の中身を焼き、えぐりだし、かきまわしたことになる。
真っ青な顔のまま、エグザイルは無残な身体の中に目を向ける。
自然、目が胃があったあたりにむくと思いだしてしまった。
(ああ、おばちゃんのパンケーキは最高だって言って……)
思わず鼻がツンとして、涙が溢れそうになるのと同時にのどの奥からわき上がる嘔吐感を手で押さえることでこらえる。
「レディ、どうすればいい?言ってくれ」
気がつかなかったが、アレックスが戻ってきていた。
彼の予感が腹立たしい事に的中する形になってしまったが、考えてみればそのおかげで”面倒”をかけなくて済むのだ。感謝しなくてはならないだろう。
エグザイルは立ちあがると、その隣に控えていたサンダーランド警部にむけて
「警部、”急がないとダメ”なのよ。まず急いで必要なお仕事をして。あと2つ、何か袋がない?おおきめの。あと左腕がここのどこかに残ってるかもしれない。急いで見つけて頂戴」
「わかった」
短く答えると警部は部下を呼ぶ。続いてエグザイルはアレックスに顔を向ける。
「あなたにはまずお礼を言わないと」
「いいさ。こうならなければいいと思ったが」
「あなたのせいじゃない。こいつ、なにもできないくせに頑丈だからとか寝惚けたことばっかいってたし。こうなるのは”運命”みたいなものだから」
「レディー、あとは僕がやってもいいが」
それは彼女を慮っての言葉だったのだろう。
「ダメ。ありがとう、でもダメだから。こいつについててやりたいの」
「わかった」
そこに警部が顔をしかめながら戻ってくる。
「腕、というかそれらしい残骸は見つけたよ。徹底的にやってるな、今朝の状況にそっくりだ」
「病院、サン・ナヴァ-ル病院でドクターはいるかしら?」
突然のエグザイルの発言に男2人、顔を見合わせた。
「レディー、君がドクターというならエリクサ―のことだろう。さっき僕は病院にいったが、いなかった。すぐには無理かもしれないぞ」
「困ったわ」
「そっちはうち(警察)が引き受けよう………おいっ、どうだ。終わったか?」
警部がそう近くでダークハートの残骸となった姿をカメラに写していた若い警官があと3分くださいと返事する。もう1人の警官が近づくと聞いてくる。
「警部、袋がいると聞きましたが。とりあえずこんなゴミ袋くらいしか…」
その手に握られたビニール袋を見て警部は眉をしかめる。どうやらお気に召さなかったらしい。
「もう少し大きいのはないか、これじゃあな」
「といっても、これ以外となるともうアレしかないですけど」
アレ、というのが死体袋のことだと皆がわかったが、はっきりと口にはしなかった。
「いいわ、それで」
エグザイルをそう言うと警官から黒い袋をうけとると
「さぁ、時間よ!!皆でていってちょうだい」
そういうと、ダ―クハートの死体に彼女は手を振れる。すると触ったところからあれよあれよという間に粉状となると袋の中へと勢いよく吸い込まれていく。
▼▼▼▼▼
2時間後、サン・ナヴァ-ル病院の受付にあらわれたのはブラックサンと執事のブッカーマンである。
主人が受付嬢と話している間、その後ろ斜め45度にぴったりと位置するブッカーマンは院内をさっと目を通す。軽く見ただけでも、10人近い警察の関係者がこのフロアだけでもいるのがわかる。
「いこう、ブッカー。4階だそうだ」
そういいながらブラックサンは早くも歩き出した。
エレベーターを降りると、そこにはこの町の有名人達がいてわかりやすかった。
アレックス・アークナイト、サンダーランド警部、そしてエグザイルとエリクサ―ことドクター・ヤン。
あのハードボイルドを気取るガイコツの私立探偵がひどい状態で運び込まれた。もとい、死んだという話を聞いて彼は急いで捜査を切りあげるとこの病院へと向かったのだった。
挨拶もそこそこにエグザイルに話しかける。
「大変だったね」
顔色が悪いまま、エグザイルは顔を上げると
「ひどかった。あの馬鹿の顔半分から下が…滅茶苦茶になってて……」
そう言いながら掌を上下に何かを表現しようとするが、言葉も何も続かなかった。
ブラックサンは小さな声で、他にも話を聞いてくるよとだけ言うと肩に置いた手をはなして彼女から離れる。
「お揃いで。それで、ミスター・エリクサ―。患者の状態は?」
そう聞かれたドクター・ヤンは、一度だけフンと鼻を鳴らす。
彼こそエリクサ―の異名を持つ超人にして医師。この町一番の規模と警備施設で有名なサン・ナヴァ-ル病院の最高医との声がある。しかしその見かけは、黒縁めがねで160センチもない小男であった。そんな彼は、自分の本名を子そ誇りとしているため、エリクサ―と呼ばれるのを嫌っている。
「ミスター・ブラック。嫌みは聞きたくないね、ちなみに僕は今来たばかりだ。なにをするにもこれからさ。だが、この病院のスタッフは優秀だ。僕がいなくとも、この2時間ほど運び込まれた探偵の処置は進めてくれていた。
それで、患者の状態だったな。ずばり、”死亡”だ。
あれで生きてたら、それこそ驚きだがね。どうやら相手は酷い奴だったようだな、この僕から見ても実に吐き気を催すやり方をしていてたよ。とにかく、準備はまだだ。それではスタッフの様子を見てくる、失礼」
てきぱきそれだけ言うと看護婦をひきつれて離れていく。
続いて、今度はサンダーランド警部の方から話しかけてきた。
「来たか」
「ええ、あの頑丈な男を無理やり”ひらき”にしようとした奴が出たと聞いて。飛んできたんです、どういうことですか?」
アレックスと警部は顔を見合わせると、ブラックサン達に事情を話しだした。
「………すると、あなたはたまたま事件に絡んだ。そういうことですか」
ブラックサンの言葉にアレックス・アークナイトは顔を曇らせてうなづく
「そうだ、事件にもっと興味を持っていたらな。もっとなにかできたかもしれないが」
その言葉にうなづいてはみせたものの、内心ではちっとも同意してはいなかった。この光の騎士をあの探偵は「お坊ちゃん」などとわざと言ってたくらい、この人は清廉な人物だ。だが、反面少し抜けたところも多々見受けられる。そんな、変わったとは思えない。
それに、彼の強大なパワーは存在するだけで脅威なのだ。むしろ今回は、実に運よく現場に居合わせてくれたと言うべきだろう。
彼がいなければ、この同じ病院に入っている3人目の犠牲者だと思われたスリムは、本当に”2回”殺される可能性の方が高かったのだから。
「そっちはどうだったんだ?」
警部の問いに、肩をすくめながらこの黒ずくめの男は皮肉な笑みを浮かべる。
「あなたと同じですよ。犠牲者の背後を洗う、なにも出てこない。その繰り返し。
あなた達に放り出された時にカーネルの面倒も押しつけられましたしね。といっても、アレはアレで使いようがあります。彼を連れ歩くことで違うところをつついていました。
そろそろあのポーカーフェイスを始めとした面倒な連中を当たるしかないのではないかと思ってたところです」
「ん?そういえばあのイカレタ愛国者はどうしたんだ」
「どうやら、誰かと組む時は相手を選ぶようで。やけに大人しいと思ったら、あっという間に姿を消しました。ま、警部も想像はしていたでしょ」
その言葉に、サンダーランド警部は低い唸り声で返した。
「ではどうするんだ、警部、ブラックサン。犯人はそのままか?」
曇る表情を見せる光りの騎士に対し、2人は顔を見合わせると。
「そうじゃないさ。だが今は待ち、だ。3人目の犠牲者は生きていた。まだ弱っていて面会も許されていないが、エリクサ―も戻ったし。彼の力があれば面会できるようになるまでそんなには時間はかからないだろう」
警部の言葉にブラックサンも同意を示す。
「同感です。我々はあまりにも情報が足りない。ここのドクター達の力で、なんらかの回答が得られるはずですよ」
「ではただ待つだけなのか?」
思わず声を上げる相手を見て、暗い目をしたブッカーマンがようやくここで主人の後ろから出てきて口を開いた。
「光の騎士、アレックス・アークナイト様。焦る必要はございません。ホームレスの方を襲ったということは、ここにあらわれる可能性があると言うことです。聞けばとても正気とは思えぬ相手とか、気を抜いては出し抜かれてしまいます」
執事の言葉をさらに主人が引き継ぐ
「情報がいるのですよ、今はね。だが姿はわかったのです、狩りにあせりは禁物」
そう口にはするものの、彼等の心の中ではあせりがあり、動くに動けない今の状況に怒りすら感じていた。
そしてブラックサンは彼女の姿を自然と探してしまう。人がせわしなく通り過ぎる中、椅子に座るエグザイルを遠目に捕えることができた。決して取り乱さない彼女を見ていると、ついつい言葉が口から流れ出てしまう。
「むしろその度胸が我々にもあるか、彼女を見ているとわたしはそのことで不安になる」
驚いたことに、この不遜な交渉人の目にはめったにない不安と恐怖が本当に浮かんでいた。
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自分にもあったことだ。
この世に生まれ落ちて、未熟で、怖いものがなくて、どうしようもなくて。そんな時にはわからなかったことがある。
「そろそろお別れの時間だ。少しばかり、気に食わないことがあって君を嬲るような真似をしてしまった。そのことは、先に謝っておくね」
そう言いながらも、その顔はそれまでと違ったに焼けた笑みがだらしなく浮かんでくる。わかっている、間抜けな事をした時必ずこういう目にあうのだから。
最初に感じたのは苦痛ではなく、異様な衝撃からだった。
自分の顔のなにかが”削られていく”のがわかると、遅れて焼けつく痛みが優しい母の手のように、ふわりと覆いかぶさるようにして襲ってくる。
恐怖は一瞬で、あとはただ見るという行為だけが続くが、視界はガクガクと乱暴に振り回され、そしてブラックアウト。
おしまい、さ。
つらつらとこれを考えるわけではない。
ただ、あるがままをうけいれるからそうなるだけ。
迷いも、ためらいも、恐怖も、いやそもそも感情はもう、ない。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚このすべてが途絶えた時、必要なものなど”人”には何もなくjなるのだ。
意味をなくすことは消滅と同義だ。
だが、それだけがこの肉体と魂にはいつも足りない。
死という概念が与えられないことは、常人より優れていることなのか?劣っているからなのか?
それとも、これは贈り物なのか?ただの呪いなのか?
ここにくるといつもそう囁く。
だが、それを悩み、判断し、理解することはいつだって許されることはないのだ。
だからいつも同じことをする。”なにか”が”終わる”その時まで繰り返す。
俺の名はダ―クハート
もう、この名前しか、残っていない。




