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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
だい87
12/178

影(3)

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 光の騎士が飛び去った路地裏には、闇がねっとりと辺りを包んでいたが、その中に2つの人影が対峙していた。


 ゴボゴボと音を立てて排水管を立てて震え、どこか近くで工事が行われているのか一定のリズムで鉄骨を叩く音が響き渡る。突如として始まった超人達の激突は、両者が思ってもみなかった流れから膠着状態になっていた。


 リベレーションは表面こそ穏やかであったが、その心の内に沸き立つような怒りを感じていた。奪ったはずの命を刈りなおす、それは今日この場所この時間に実行されなければならない運命だったのだ。

 だからこそ、ポーカーフェイ――あの傍観者を標榜する傲慢な男が公園での会見のあとに電話をしてきて、さも今はじめて知ったかのような口ぶりで『そういえば目撃者のホームレス、アイツはまだ死んでおらんようです』などと露骨な真似をしてきても、たいして気にも留めず、こうしてやってきたのに。

 だが、この場に到着するやいなや光の騎士が現れ、そして今は髑髏の男が自分の行く手を阻んでいる。この一連の出来事は偶然などではなく間違いなくあの男の差しがねに違いない。

 ホームレスは騎士が連れていってしまった以上、今さら追いかけても追いつくことはできないだろう。自分には、まだ成すべき責務があるのだ。このような不本意な流れで時間を無駄にしたことが、それ以上にこの場を演出したあの男の思惑通りに足をすくわれつつあることが腹立たしかった。


 ダークハートとしてもこの状況は予想したものではなかった。彼がこの現場に居合わせたのはある男からのタレコミを聞いたからだ。自分自身をコントロールできずに人生を棒にふりかけ、薬と酒に溺れるだけの奴。その支離滅裂な言動のほとんどは狂人の戯言でしかなく信用に値するものではない。だが、そいつが言った『死にかけのホームレス』という単語と、アレックス・アークナイトがこの情報に興味を示したことが気になったのだ。

 ダークハートとしては情報の成否はともかく、”光の騎士”なら何か自分の知らない情報を持っているかもしれない。そう考え、来てみたところ思いもよらずにこの場へと行きあってしまったのであった。


「まさかね、いきなり思い人に会えるとは思わなかった」


 軽いジョークを口にした、ダ―クハート。

それはそうだろう、尋常ならざる雰囲気になったと慌てて駆け付けたら、犯人が被害者の前で再度犯行に及ぼうとして、そこに光の騎士が立ちふさがっていたのだから。

 だが、とりあえずホームレスは助けられた。アレックスならきちんと病院へ連れて行くだろうし、弱っているようだったが助かるかもしれない。


「それで。お前さんはどうする?といっても、俺としてはこのまま仲良く警察へ行くってなら一緒についていってやる」


 無言で路地裏から青い空を見上げていたリベレーションは、この時ようやくダ―クハートの方へと向く。


「どうだい、兄ちゃん?」


 あくまでも軽い口調で話しているが、どうも相手を観察するにこのまま事件解決とはいきそうになかった。相手は体に力が入ってなかったが、その目だけは爛々と憎悪と怒りに燃えていた。


「とりあえず、俺としては昨夜の事件。2件のな、あんたがやった殺人だ。それについて説明してくれると嬉しいね」


 たったそれだけしか言わなかったが、最後の”嬉しい”のところで相手の目が一段と凶悪な光を放つ。

(くるか?)

 お互い距離を取ったまま、それでも用心しているダ―クハートの想像と違い。リベレーションは突然口を開くと、何の感情もない声で語りだす。


「昨夜ですか。10時過ぎでしたかね、ギヴ・ファインズが本人の事務所から出たところで声をかけましたよ。いい人でねぇ、わたしをわざわざ鍵を閉めた事務所の中に招き入れてくれたんです」

「へェ、そりゃいい奴だ。噂だけでクソ野郎と言ってた俺が悪かったかな」

「そんなことありませんよ。実際の所、あいつはクソ野郎でしたから。話をして、終わったから今度は6ブロックほど離れにいたビック・ヒット・ボブに会いに行ったんです」

「ほう、まるで最初から訪問する予定でもあったみたいに聞こえる」

「ありましたよ、彼は2番目だった。彼はギヴとは違って怒ってたかな。顔をしかめてこのオカマ野郎とか言われましたよ。話があると言ったけど、なかなか聞きたがらなくてね。だからこっちも必死に食い下がったんですよ」

「そうみたいだな。警察の調書を見たよ。あのデブをどうやったのか、お前さんは彼の部屋の外。路地裏まで吹っ飛ばした。そこまで派手にやらなくてもよかったろうに」

「そうでもないですよ。こっちもいい加減イライラしてたし」

「それで、ホームレスに見られたってわけか。間抜けな話だな」


 再び、目の前の白いコートの男は黙る。

 俺にはもうわかっていた、こいつがこんなペラペラ話しているのはこの俺と一戦やる気なのだ、と。それにアレックスのこともある。彼が戻ってくるまで、こいつはここで待つわけがないのだ。



「まったくこの町には、ヒーロー様が何人いるのやら。こんな昼間の路地裏に2人も駆けつけるなんてね」

「同感だ、見栄えのいいコスチューム着て派手に光って飛ぶだけのボンボンにも困ったものさ」


 するとそこで彼は俺に殺意のこもった視線を向けながら


「あんたはどうなのさ。まさか、自分は違うとは言わないよね?」


 思った通り、お怒りのようだ。そこであえて茶化すように肩をすくめながら答えてみせる。


「まさか。俺はただの市民だ。見ろよ、あんたと同じ。ドクロがここにのっかっているだろ」


 挑発するように、わざと自分の頭を ― 漆黒の頭を指差して見せる。


「そうかいコメディアン。だから舞台から降ろされるのさ。このリベレーションの手に寄ってね」


 それは静かなゴングであり、死闘の開始の合図であった。



 リベレーションが距離を縮めようと駆けだすのに合わせて、ダ―クハートも動きだす。

 その手は軽く握り、腰が少し落とされる。いつ相手の攻撃があってもそれに対処できるよう、そのための構えである。

 反対にリベレーションは再びその手にカミソリを握りしめている。


ひゅ ひゅひゅ シュッ!


 繰り出される4度の白刃の閃きをダ―クハートは見事に皮一枚でかわしきったが、それでも後ろに下がってしまう。

それを口元に笑顔を浮かべるリベレーションがさらに踏み込んでくる。


ガッ!


次の攻撃は一気に距離を潰したリベレーションの必殺の一撃であったが、ダ―クハートはそれを今度は構えた片腕を突きだすことで受け止めると、体を入れ替えつつ拳を突き出していく。


 シュッ、一瞬の交錯から2人は再び距離をとる。

ダークハートの一撃は結局、リベレーションを捕えきることはできなかったのだ。最初の激突は引き分けに終わったかに見える2人だったが、やはり武器を持たないダ―クハートの方が不利に思えた。

 すると、さっと脇のゴミの山にすばやく手を突っ込むとそこから鉄パイプを引きずり出した。手に持つと軽くブンと反対の掌に振りおろして具合を確かめる。


「あれあれ?ヒーローがそんなものを使うのかい」

「あいにくと目からビームを撃てないんでね」

「へェ、その骸骨はこけおどしってわけ?幻滅だなぁ」


 そう言いながらも、お互い次の瞬間が来るのはいつか探るように目を話さない。



(参ったね、上手くいかないものだ)

 俺は心の中で少しばかりため息をついた。

 理由はいくつかある。今のゴミからパイプを引っ張り出した時に、ちょいと手間取ってみせたがむこうは動かなかったこと。

 その前の一瞬拳を出した時、俺は相手がかなり”やる”奴だと悟った。だから逆に攻めやすいようにと隙を作ってみせたが、むこうは無理に距離を詰めに来なかった。それが考えがあってのものか、たまたまだったのかはわからない。

 次に、実は俺は相手の攻撃をよく見ようとしていた。

 よくわからなかったが、直前にアレックスとの戦闘で奴は確かに一瞬。なにかをした。あいつを表の車道まで吹っ飛ばしてみせた。

 なにをやったのか?俺はそれが知りたい。

 現場の2人の写真から、奴がなにかの能力を使う超人であることは分かっている。あのホームレスが死んだと思われた状況も尋常なものではなかった。

(ではどうする?)

 そろそろアレックスも戻ってくる可能性が出てくる。このまま時間を稼ぐか?

 それとも危険はあるが、腕力でねじ伏せて捕まえるか?

(時間稼ぎだよな、ここは。一人で背負うこともないさ)

 そう結論づけた。


  だが。皮肉なことが起きる。

  対峙する2人が再び動くと、交差した瞬間のことだ。


カン!


 乾いた音だった。リベレーションの手に握られていたはずのカミソリがアスファルトの上を刎ねる。それに慌てたように白いコートは背中を向け逃げだすそぶりを見せると、たまらずダ―クハートは追いかける。

 それが失敗であった。

 突然、目の前に広がるその白い背中から、”目には見えない何か”がふくれあがる。それに気がついた時には、ダ―クハートは思わず逃がすまいと伸ばした左腕がグシャリと音を立ててもぎとれると地面にこぼれ落ちていた!

 


 腕を失った痛みに苦痛が口から洩れ、数歩だが後ろに下がりつつよろける。

 なんてことだ、わかっていたことなのに。

自分が相手に逆に誘いこまれた上で攻撃を受けたことを悟った。奴はこっちの考えていることを全部予想したうえであんなミスを演出してみせたのだ。

 馬鹿だった。ほんの少しでも自分がちょっとばかり”頑丈”だからと強気でいたのか?

(やめろ、とにかくどうする!?)

 後悔に埋め尽くされそうな心を無理やり怒鳴りつける。とはいえ、この後やれることはない。逃げるか、やられるかしか残っていない。

 だが、失った左腕のせいで体の左半身がうまくバランスをとれない。あせるほど、力を込めようとするほど動きがおかしくなってしまう。正確には、腕の付け根から後方上にむかって伸びあがるようにしか動かせなくなった。これではまともに歩くことすらできない。


「ふふふふふふ、逃がさないからね」


 地面に落ちたカミソリを拾ってゆっくり戻ってきたリベレーションのその言葉が終わらないうちに次の衝撃がダ―クハートの体を吹き飛ばした。


 「ゴフッ」


 赤いというよりも黒い血が腕からだけでなく口からもあふれ出てくる。

 アレックスを襲ったあの一撃に比べれば弱い力であったが、壁にブッ飛ばされるとダ―クハートはズルズルと背中に感じる壁に沿って座り込んでしまう。

(じ、時間を、稼ぐんだ)


「ブフォ……なかなかきついな。あんたの手品」


 せき込んだが何とか言葉が出た。


「僕の手品はなかなか悪くないだろう?」

「ああ、それで予知能力者達をヤッたんだな?」

「そうだよ。これから君も死ぬことになる」

「なぜ…彼等を……ネラウ?」


 ぐはっ、再びダ―クハートの口から血の塊が吐き出される。リベレーションは白いコートを汚されたくなかったのか、数歩離れた場所で腰を落とすと座りこむダークハートと同じ高さの視線になる。


「時間稼ぎをしたいんだね?だけど、それはこっちが困る。すまないが質問はあと一つ。それでいいね?」


 見下ろす冷たい目はそのままに、突然表情がサッと消える。


「ずっと、ずっと我慢がならなかったんだよ。世界は病んでいて、まともなことなど何一つない。それなのに、超人と称する連中は自分達の欲望を満たすことしかしない」

「お、おいおい。俺達…ヒーローを……いっているのか?」

「君等を含めて全部、さ。いいかい?人間は自分の事は手一杯だ。歴史を見れば誰でもわかる。皆で仲良く、そんな3歳のガキの時分に習うことを大人になる間にできなくなってしまう。彼等はそれを物事が、社会が複雑なったからとかいう。

 嘘だね。自分がもっといい目にあいたいからそういうのさ。いつだってね。

 それは超人も一緒さ。

彼等も結局、その力をなんだかんだと理由をつけて”自分のため”以上に使おうとしない。いつまでも子供のままの人間と一緒になって、子供のふりをし続ける。茶番さ」

「…手厳しいね」

「そうかい?そんなことはないさ。君等のような”ヒーローごっこ”している連中を評価した時期が自分にもあったさ。全く愚かなことだ。わかるかい?

 君等のような連中は、なにが正しくて何が間違っているのか。正しく導き、正しく更生させようとは決してしない。そういうことを口にすると、こんどは”やりすぎだ”とか”暴走”とかいって足を引っ張られて気まずくなる。称賛だけがほしい」

「それと、お前の犯罪にどんな意味がある?」

「………そうだね、ヒントを出そう。世界をよくしようと思ったら、どうしたらいい?街頭で、看板に『世界の終末』とでも書いて、聖書を手に人々とやらに語りかける?

 違うね。

 正しい力を使い方がわかる正しい超人達を集めることだ。

 彼等の力を借りて、あるべき”人間の姿”を取り戻す戦いを始めるのさ。だが、そんな彼等をどうやって集めたらいい?その方法は?」

「……それが殺す理由か?」

「さぁね。ヒントだよ。謎のままにしておきたいことだってある」


 そう言ってにっこり笑顔を浮かべると、リベレーションは腰を上げる。



「さて、ここでゆっくり話していたらあのやっかいな光の騎士が戻ってくるかもしれない。そして君を、あのホームレスみたいに生きてもらっては困るんだ。実際、ちょっとあんたは強そうだったしね」


 そういうと両の手を曲げて手術でもするかのようについと上にあげて見せる。


「そろそろお別れの時間だ。少しばかり、気に食わないことがあって君を嬲るような真似をしてしまった。そのことは、先に謝っておくね」


 骸骨の顔に表情はなかったが、ゆっくりと動けない自分に近づくリベレーションから視線を話さなかった。

 最期の時が来たのだ。

 2本の腕からバチバチと火花が散り、人肉が焦げる悪臭が辺りを漂う。

抵抗できないまま、ひたすら波のように襲いくる死の痛みに身体が痙攣する。

 そして勢いよく何かが壊れた破裂音が響くと、ダ―クハートの手は地に投げ出されて落ちた。



▼▼▼▼▼



 その時、アレックス・アークナイトはまだ病院のロビーにいた。

 すでに、運び込んだホームレスのスリムは手術室へと運び込まれている。あとは医師の力を信じるしかない。

受付の電話から警察に連絡すると、スリムの状況、保護をするよう伝えておいた。

 そしてそれが終わると病院から勢いよく飛び出していく。

(ダ―クハート。あの探偵は無事だろうか?)

 あの状況では仕方ない事だとは分かっていたが、犯人と探偵をあの場に残してきてしまったことをこの光の騎士は後悔していたし、不安も持っていた。

 ダ―クハートは決して弱い超人ではない。だが、彼は自分の能力のせいで自らの”頑丈”さにたより無茶をする傾向があった。

 自分もあのリベレーションという超人と少し手合わせしたが、あれがどのような類いの力かまではまだ分からない。あの探偵、まさかとは思うが。

(……………)

 光の騎士は無言で空を飛んでいた。あと数分で現場には到着する。だが、その前に、彼はぬぐい去れない不安からBAR【カサンドラ】に連絡をいれることにした。




 再びあの路地裏へと近づいていく。

 表通りには人だかりができているのが見える。

 きっと自分の連絡と入れ違いに、ここのことは警察にも知らされているはずだ。彼等の上を通って路地裏の中へと降りていく。


「あっ、光の騎士!」


誰かの声が人だかりの中から上がるが、無視する。

 先ほど離れた時にはなかった、嫌なにおいが鼻をつく。肉の焦げたにおい、クソと小便、そして焦げた血………。


「なんてことだ。まさかっ!?」


 それきりアレックス・アークナイトは言葉が出なかった。


 その目の先には、哀れな姿となり果てた探偵の残骸が、騎士の願いもむなしく無情にも壁にもたれかかるように絶命して横になっていた。

次回更新は週明けてからになります。

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