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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
TWO FACES
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面会

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 ”ジェーン”・シャオとの面会はライラの取り計らいですぐに行われた。

 僕にとっても刺激的な経験となるかも、と思っていたが、実際はその全く逆だった。

 とても荒んだ空気の中に、彼女は存在していた。そう表現するのが正しいと思う。

 昔どこかで見た、地獄の入口をうっかりのぞいて帰ってきてしまった人間の暗い目とは明らかに違う。その中に入っていって、さらになにかもっと悪い物を目にしてから戻ってきた。そんなどこか、正気ではない達観した冷たい目を彼女はしていた。


「やぁ、こんにちはフェムボット。君は、英語は出来るのかな?」


 後ろから、陽気に話しかけたマイケルの頭をライラが無言でいきなりパチンとはたく。ふざけるなということだろう。


「ふぇむ……?」

「ジョークが古かったかな。それともアジアじゃわからないか?ああ、気にしないでくれ」

「はい」

「少し、話しをさせてもらいたいんだ。僕はマイケル・ヘルムスリー。しがない片田舎の町にでっかいビルを立てて社長をしている」

「……そう、ですか」

「ああ……それで、”ジェーン”・シャオだったね?”ジェーン”と呼んだ方がいいのかな?」


 なぜだろうか、そういうと彼女の顔がわずかに不快感を感じるのか歪み。その理由は、後ろで見ていたライラが慌てて教えてくれた。


「違うの、マイケル。彼女の名前はシャオ。”ジェーン”はカプセルに書かれていただけで……」

「なるほど。”ジェーン・ドゥ(身元不明女性)”ということか。わかったよ」


 どうも、最初から調子が悪い。

 シャオが僕との会話はもう嫌だ、なんて終わり方にならないよう話す内容に気をつけなくてはならないのに、これではまずい。


「君は、記憶に関してあまり良い状態ではないと聞いているんだ。話してくれないか?」

「おじいちゃんと、2人で……川沿いの道を歩いていました。他に……カラスが」

「カラス?」


 聞くとシャオは頷くが、その様子がおかしい。

 この話題になると同時に彼女の表情が明らかに死んでいっているし、口元も上手く回っていないような直前とはまるで違う、話し方になっている。


「そしたらそこに……リーがいて。彼女……アドバイスを……」

「リーって?誰の事かな?」


 答えはない。完全に彼女の動きが止まってしまっているように見える。

 後ろのライラを見ると、彼女は首を左右に振る。リーと言う人物が誰か、彼女もわからないということらしい。これ以上はの追求をしても成果は得られないし、まずいかもしれない。


「わかった。もういいよ、記憶の事はここまでにしよう。シャオ」

「……はい」


 再び彼女の顔に生気が戻ってくる。落ちついた女性だ、今日はもう無理だが。感情的になったりなどしないのだろうか?


「ああ、最後に一枚。君の写真をいいかな?誰か、君の事を知っている人がいないかどうか。調べてみたいんだ」


 そう言うと、相手の意志を確認しないで素早く懐からスマートフォンをだし。パシャリと一枚撮ってから、礼を述べてさっさと僕は病室を退散した。



▼▼▼▼▼



 病室から出ると、すぐにライラが追いついてきて、抗議の声をあげる。


「ちょっと!なにやってんのよ」

「なにが?」

「どさくさに紛れて写真を一枚とか、ふざけているの?」

「ああ、そのことか。意味はちゃんとあるよ」

「そうでしょうね。そうじゃなくても、ここを出る時にちゃんとデータを消していってもらうわよ!」


 すっかりライラはヒステリーを起こしかけている。どうやら部屋まで戻ってから話すつもりだったが、そこまで待っていたらこっちの話を聞いてくれなくなるかもしれない。僕はライラの手を引くと


「しょうがないな。なら、こっちにきて」

「なによ!?私はこれでも人妻なんだけど?物陰にこいとか、頭おかしいんじゃないの!?」

「君こそ少し冷静になれよ。僕は別にケダモノじゃない。いきなり盛ったから君を抱きたいなんて、いつ言った?」


 相手の滅茶苦茶な言いように呆れつつ、ポケットから先程のスマートフォンをとりだす。


「これを見てくれ、さっきの彼女の一枚だ」

「これ、消してもらうからね」

「それはわかった。だが、これを見ろ。わかるかい?」


 そこには無愛想にも見える、沈んだ空気の彼女が少しだけ微笑んでいる姿が写っている。


「ふん……いい笑顔じゃない。それがなに?」

「そうじゃないよ。いや、確かに笑顔はいいが。そういうことじゃない」

「だからなに!?」

「怒るなよ、落ちつけ。

 彼女の笑顔だが見て御覧。感情の起伏が乏しいせいだろう、目に力はあまりない。しかし、この口元と目元を見てくれ。ちゃんと、笑顔に反応して皮膚が横に引っ張られている。筋肉が正常に笑顔にしろという指示を伝えているんだ」

「なるほど……たしかにそうかも」

「だが、こっちはどうだ?」


 ボタンを押すと、今度はビデオが流れる。

 そこにうつっているのは、シャオが自分の過去を問いかけられておかしな答えをしはじめた一連の姿が写っていた。


「ちょっと!なんでこれがあるの?あの時は別にこれで映像をとっていなかったのに!どこかにカメラがあるのね?!油断ならない奴!」

「それはもう聞いた。わかったから、後でちゃんと消すからさ。見て、これを……話しながらまず表情が無くなっていく。次に、目もとに力が完全になくなると、ほら……口が回らなくなっていっている」

「ふむ……どういうこと?」

「それはつまり…………また、明日ということだよ」

「はぁ!?」


 ライラはマイケルのおかしな答えに、素っ頓狂な声をあげてしまうが。マイケルのそれに構わずに勝手にべらべらと自分の事をはなし始める。


「いやね。今日ついたばかりでさ。時差がきついのなんのって。さらに、僕はここに休暇に来ているんだよ」

「時差?休暇だァ?」

「そうだ。当然だろ?昔の知り合いに呼び出されて、研究協力しに行くなんて今のうちの幹部に伝えたら。彼ら怒りだして説教を始めるよ。40も近い男が、餓鬼みたいに扱われるのは嫌だからね。

 で、休暇さ。

 有難いことに、実は最近の僕は一連の騒ぎ以降良く眠れなくてね。会社の事が不安で不安でたまらなくてさ。だから、このさいアジアの常夏の島で、ジュースを飲みながら美女との出会いを探す。そんな休暇を楽しむことにしたんだよ」

「……マイケル、あんたって奴は」

「ああ、わかってるよ。頭のストレッチ代わりに、君の問題も一緒に解いてあげるさ。だが、あくまでも僕がここにいる理由は休暇だ。君のは、ついでの用事。

 だからこっちのプライベートも尊重して貰うよ?今日はホテルに帰る。次は明日の昼過ぎだ。久しぶりに朝寝坊を楽しむ予定だからね。

 ああ、よかったら。シャオのデータなんかを僕の所に送ってくれ。この名刺に書かれたサーバーにアップしておけばいい。大丈夫、うちの最新のセキュリティで守られているし。君との約束通り、最後には全部消去するよ。

 それじゃライラ。今日は君も家に帰って、旦那と食事でもしてゆっくり眠るといい。じゃ、さよなら。また明日」


 一気にそれだけ言うと、早足で勝手に歩きだしていってしまう。

 そのマイケルの後ろ姿を見送ってからしばらくたって、ようやくライラは我にかえる事が出来た。そして、一番疑問に思ったことをまず口にした。


「あの人、この研究所の構造を知っているのかしら?出口まで迷子にならずに行けばいいんだけど」



▼▼▼▼▼



 ホテルのスイートルームに戻ってくると、マイケルはまっすぐに寝室に置かれている荷物のところへやってくる。

 そして、中から二つの物を取り出した。

 ひとつは……ふざけているわけではないのだろうが、時計と一体にした3等身のドミニオンの人形で、それをベットの脇に置く。目覚まし時計がわりなのだろうか?

 もう1つはマイク付きのイヤホンで、それを耳に装着すると、すぐに呼び出しを始める。


「ギグス。ギグス、聞こえるか?」

『おはようございます、マイケル。感度良好、きっちりお声が聞こえております』

「寝室に時計に偽装したドミニオン・コロニ―を置いておいた。この部屋のサーチは終わっているな?」

『はい、マイケル。すでに7ヶ所から盗聴器が発見されていますが、全て無効化しております』

「それと、例の疑似サーバーの中をのぞいてみてくれ。友人から、資料が送られてるかもしれない」

『それでしたら、5分前に受け取っております。メッセージ付きで』

「へぇ、なんだって?」

『ここまでして裏切ったら殺す、ライラ。だそうです。女性に激しい感情を持たれることがお上手ですね』

「彼女は人妻だ。その旦那とは友人でもある。そんなことはないよ。検査は終わったか?」

『はい、いつでもいけます』


「よし、では次はこいつを試そうか。ヴァーチャル・HUDヘッドアップディスプレイ展開させてみろ」


 マイケルの言葉に合わせ、次々と目の前に光で書かれたデータが映し出されると。凄い速さで整理されていく。

 それは、あのドミニオンのマスクの下から見える風景にそっくりであった。


「はやいな、これは凄い」

『最新のレーザー通信技術を使っての、衛星回線です。誤差については……』

「ギグス。今はバカンス中だ、そういったデータは帰ってから教えてくれ。今は送られてきた資料が見たい」

『わかりました。では、せっかくのバカンスに水を差さないよう。しっかりとレポートにまとめて用意して置きます』

「……お前、言い方が人間臭くなってきたなぁ」


 そう言いながら、映し出される文章や、グラフを次々と目を通していく。


「なるほどね。確かに”ジェーン”だ。闇マーケットで売買契約、それなりに状態がよかったので5つ購入。なるほど、これはばれたくなかっただろうな」

『あまり色気のないデータに見えます』

「お前はこの通信が安定することに気をつければいい。いや、待て……僕のスマートフォンに入っている映像が2つある。それをこっちでも見れるようにしてくれ」

『わかりました』


 当たり前であるが、それはあのシャオを撮影したビデオと写真である。

 ライラに言ったことは本当ではあるけれども、手を貸している間はこっちにもある程度自由にさせてもらおう。そう思い、こうやって悪い事をやっている。


「分かっているのは血液型ぐらいか。性能の信頼性がほとんどない生体電子機で肉体を完全に復元したとか、確かに信じられないよなぁ。

 あとは本人のものかどうかは分からないが、シャオと言う名前のみ。これだけでも厳しいが、あのChainaとなると訳ありになった時点で、どう戸籍を処理しているか。死亡者も含めて調べるしかないのかな」

『随分と、楽しそうですね』

「ま、捜査の真似事と事象についての知的推理ってとこかな。いい頭の体操になりそうだ」

『それはよかった』


 次に開発中の生体電子機器についてのインフォメーションと、シャオにどのような処置をしたか。さらにその経過報告が表示されると、流石にマイケルの顔に皺が寄ってくる。


「これでは情報の公開が多すぎる。ナノテクノロジーについても、ぶっちゃけてしまっているじゃないか。僕はあくまでも部外者だ、こんな物まで見せられても困るのだが……」


 そう言いながらも、目は次々と表示される情報に目を通していく。


『それについては、私に一つ推論がございます』

「なんだ?」

『Dr.・ライラのジャング・シエナ研究所は、以前にデュポン社に対して援助して欲しいとの申し出をしております』

「そうだったか?」

『はい、2年前になりますが。その時は生物学のフィールドワークについての援助。というものでした。ちなみに、あなたはこれを無情にも拒否されております』

「ああ、思い出したよ。そのころすでに随分とマキシマに投資していたからね。CEOが友人ばかりごり押しで優遇するのは、好ましくないと言って断ったんだった。思いっきり罵られた記憶がある」

『それはあなたではありません。Dr.ジェームズにやらせたのです』

「…………忘れたな」


 その間にも、画面上部に文字が流れていき。唐突に『OK?』の文字が出る。

 そこまでで全部だったのだ。


「なるほど。確かにこれは驚きだ。これが本当なら、あのシャオと言う女性は人類で初めて生み出したサイボーグってことになるのか?まさに現実に600万ドルの男やらバイオミック・ジェニーの誕生と言うわけだ。

 なのに問題なのは、研究所は別に本気で彼女を治療をしようと思って”何かをした”わけではないというのは本当だったから。

 そして、当然彼女意外には効果なし。それが彼女だけに可能だったというのはどういう事だ?」


 マイケルの目から見ても、たしかのあの研究所がいきなりこの技術を完成させてしまったとは思えない記録がそこにあった。また、そこで不気味な回復力をあのシャオが示しているのもまた事実だった。


「まずは大きな視点で眺めてみよう。気になるところが何か所もあった。後でわかりやすいようにチェックを入れておいてくれないか?」

『わかりました。どこでしょう?』

「最初は彼女をカプセルから出したあたりだ。

 当初のナノマシンの安定的活動には難があったとある。皮膚と肉がにくっついて硬化し、鉱石のようになってゴツゴツとしていた、と。

 これはその後のシャオという女性の体の復元ではなく、この時期は明らかに別のモノに変化しようとしていた。内臓から飛び出したそれは、明らかに人の形ではない。見た目でそれがわかる」

『チェックを入れました』

「あとは彼等の開発した電子機器の方だ。テストを兼ねているんだろうが、明らかに余計な要素を多く盛り込んでいるな」

『技術屋とは皆同じことをしてしまうのでは?あなたとDr・ジェームズもドミニオンの最初の1台を作る時、随分と無駄な要素を詰め込んでいたように思われますが』

「ふっ、比べるなよ」

『あなたはあれもこれもと言って、Dr.ジェームズはそれもこれも無理だと言いながら。結局、どちらも一緒になって詰め込んでいました。おかげで、第1回試験であなたは危うく墜落死するはめになって大騒ぎとなりました』


 大騒ぎしたあの日の情景が、マイケルの瞼の裏に浮かんでは消えていく…………。


「…………」

『マイケル、次はどうしましょう?』

「ああ……そうだな。とりあえずこれでいいだろう。今日はもうやめ。今からは遊ぶ時間だ!」


 そういうと、インターフェイスを閉じてしまい。寝室に戻っていく。

 着替えたらプールサイドで、日が沈むまでお昼寝だ。



▼▼▼▼▼



「なぁ、そこでちょっと下りていいかな?」

「なんだよ、ションベンか?」

「ちげーよ、タバコ。頼むよ、切れちゃってさ」

「俺のでいいなら……」

「いや、どうせ一本とかもらってもしょうがね―し。買った方が早いんだわ」

「ちっ、わかったよ。早くしろ」


 車を止めさせると、業者の1人が車から降りる。

 近くの大型店の中に入るが、彼が向かったのは奥のトイレの方角。そこですわっていた、スーツ姿の男の横に座ってしまう。


「来たぞ、なんだ?」


 小さな声でその男が言うと、スーツの方も同じくらいの大きさの声で返す。


「本国から指令だ。今日、今からやってもらう?」

「今?これからってことか?」

「そうだ、急な呼び出しはそのせいだ。わかるな?」

「……なにをすればいい?」

「特にはなにも。車に戻ったら、後は普通にやってくれればいい。あと、荷物がひとつ増えている。そいつについては車内にいる相棒がそれをどうするか、わかっているし彼がやってくれる。お前はただ、見て見ぬふりをするだけでいい」

「……わかった。それだけか?」


 スーツは懐から封筒を取り出すと、それを渡してきた。


「そいつの中に、鍵が入っている。お前の取り分だ。

 あと、今日は戻ったら何か理由をつけて明日は休め。忠告しておくぞ。明日はなんとしても休め」

「明日だけか?他は?」


 スーツは嫌な笑みを浮かべると一度だけ男の顔を見て言う。


「ああ、そうだ。明後日には、あのジャング・シエナ研究所はなくなっているはずだ」

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