表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/122

120:病の特定

「ルシル。何か分かるかい?」


 アルフォンスに問いかけられて、私は目を瞬かせた。

 治癒能力の効き方を聞いた限りでは、少なくとも感染症ではない。

 細胞や臓器の問題の可能性も低そうだ。


(生活習慣病?)


 そもそも暮らし方に問題があるなら、治癒が効いてもまた体を悪くしてしまうだろう。

 でもこの貴族の人は、「治癒を受けると一時的に良くなるが、すぐ元に戻る」と言った。

 高血圧とか糖尿病とかの生活習慣病であれば、一度治癒能力ですっかり良くすれば、「すぐ元に戻る」ということもない気がする。

 そりゃあまたそのうち悪くなってしまうだろうが、「すぐ」が引っかかる。


「ご病気の症状を詳しく聞かせていただけますか?」


「ええ。……最初は体のだるさに気づいたのが始まりでしたな。特に足がだるく、歩くのが大変になりました。だんだんと足が痺れるようになり、息切れもします。最近では治癒を受けなければ、手足に力が入らず、寝台から起き上がるのも苦労するありさまです」


 私は貴族男性を見た。

 やせ細って顔色は悪いのだが、妙にむくんでいる感じがする。


(うーん、まさか)


 私は可能性を一つ思いついた。

 私たち料理人に馴染みの深い病気、栄養不足だ。それも特定の栄養素が足りなくて、かかってしまう病気がある。


「もう一つ。お酒はお好きですか?」


 私が質問を重ねると、彼は頷いた。


「ええ。体が悪くなる前までは、ワインを良く飲んでおりました」


 なるほど。

 ますます疑いが濃くなる。


「すみません。小さな木槌はありますか?」


 私が言うと、貴族男性は戸惑った顔をした。


「木槌ですか? ……すぐに持ってくるように」


「はい」


 侍従に言いつける。


 しばらく待つと、木槌……ではなく金槌を持った侍従が戻ってきた。

 釘を打つようなハンディサイズの金槌である。


「すみません、シスター。木槌ではなく金槌しか見つからなかったのですが、よろしいでしょうか」


「はい、構いませんよ。ええと、そうですね。護衛さん、そこの椅子に座ってください」


「え、私ですか」


 護衛は少し困った表情になりながらも、空いていた一人用の椅子に腰掛けた。

 私は彼の前に立ち、膝の辺りをちょいちょいと触る。

 部屋の皆が見守る中、金槌をエイッと振り上げた。


「え、ちょっと、シスター! 何をするつもりですか!」


 護衛が椅子から立ち上がって逃げようとする。


「動かないでください。膝を叩くだけですから」


「金槌で!?」


 護衛はすっかり怯えて不審の表情である。失礼な。


「軽く叩くだけです。ほら、座って」


 護衛は渋々と椅子に座る。そんなに縮こまらんでも。

 私は金槌を軽く振り上げて、膝の下のくぼみをポンと叩いた。


 すると足がカクンと跳ね上がった。


「あれ……? 動かしたつもりはないのに」


 護衛は不思議そうに足をさすっている。


「ルシル、今のは?」


 アルフォンスに聞かれて、私は答えた。


「ナントカ反応という、体の自然な反応です」


『ナントカ……』


 ラテの呆れた声がする。

 ごめん、何反応だか忘れてしまった。まあ、専門用語はいいじゃない!


「と、とにかく、健康な人であればこのように足が自然に上がります」


「私もやってもらっていいかい?」


 アルフォンスが好奇心に満ちた顔で言うので、私は頷いた。

 護衛の代わりに椅子に座ってもらい、膝の下をポンと叩く。


「おっと、本当だ。動かしていないのに足が上がるね」


 アルフォンスは興味深そうに自分の足を触った。


「次は貴方にお願いできますか?」


「はい」


 貴族男性に向かって言うと、彼は侍従の手を借りて立ち上がった。

 椅子に座り直した彼の膝を叩く。

 ……足は上がらない。


「やっぱり」


 私が言うと、貴族男性は不安そうな顔になった。


「やはり、私の体はもう助からないのでしょうか。治癒能力ですら効果のない、この体は」


 私は安心させるように笑みを浮かべた。


「いいえ。今の検査で原因が分かりました。治療できますよ」


「なんと!」


 彼は驚きに目を見開いた。

 私は続ける。


「貴方の病気は『脚気』です。ある栄養が足りないために起きてしまう病気ですよ」





 脚気は、前世日本では有名な病気だった。

 特に時代劇などを見ていると、脚気は不治の病として描かれている。

 昭和の時代くらいまでは、一般的にあった病気とのことだ。


 原因はズバリ、ビタミンB1の欠乏。

 精米された白米を主に食べていると、ビタミンB1が不足する。

 玄米や雑穀ごはんだとビタミンを補給できるので、江戸時代には江戸病とか金持ち病とか言われていたようだ。


 アステリア王国においても状況は似ている。

 貴族たちは庶民と違い、精製された上質な小麦から作った白パンを食べている。

 ふすま入りの全粒粉なんかだと栄養があるのだが、口触りが悪い。

 口当たりの良さと貴族としての見栄が入り混じった結果、ビタミン不足の食生活になってしまう。


 貴族男性は驚いたように叫んだ。


「栄養が足りなくてかかる病気!? では栄養さえ取れば治るのですか」


「ええ、そのとおり。病気の治療ができるレシピを、考えますね」


 ビタミンB1が豊富な食材といえば、豚肉や玄米、麦芽を落としていない麦類。あとは枝豆やウナギとか。

 ビタミンB1は単体だと吸収効率が悪いため、アリシンという栄養素と一緒に取ると効率が良い。

 アリシンは玉ねぎやニラ、ニンニク、ネギあたりにたくさん含まれている。


 普通に考えれば豚肉と玉ねぎの炒め物かな。

 今は急を要するから、とりあえずそれを作ろう。

 でも食事療法は気長な治療になる。同じメニューばかりでは飽きてしまう。バリエーションが必要だ。


「食材は豚肉と玉ねぎを中心に食べてください。パンは白パンではなく、ふすまの入ったものを食べてくだされば。具体的なメニューはこのお屋敷の料理人に伝えますね」


 別に凝ったメニューでなくていい。それこそ豚肉と玉ねぎの炒め物を基本に、後は飽きない程度のバリエーションがあればオッケー。


「は、はい。そのような普通のものでいいのですか。それでこのやっかいな病気が治ると?」


「治ります。お薬ではないので、多少時間はかかりますが。毎日根気よく、これらの料理とその他の食材をバランス良く食べてください。あ、もちろん、食べ過ぎは駄目ですよ」


 私が言い切ると、貴族男性は安心したのだろう。

 ほうっと息を吐き出して、椅子に深く座り直した。


「ありがとうございます、シスター。医師と薬師にさじを投げられ、治癒能力ですら効果が薄かった。このまま苦しんで死ぬばかりだと思っていたのに、何とお礼を言っていいものか」


「とんでもない。苦しむ人々を料理で助けるのは、私の喜びでもあります。貴方にどうかこれからも、聖竜エルドランドのご加護がありますように」


 これは私の本心だ。

 人助けができた、それも食の分野で……と思うと、自然と笑顔になる。


「シスターも、聖竜の護りがあらんことを」


 貴族男性と侍従は深々と頭を下げた。



+++


ここまでお読みくださりありがとうございます。

先日の新作は毎日投稿中です。


「転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます」

https://ncode.syosetu.com/n5835mb/


転生者の女の子が漢字の魔法を使いこなして、森でサバイバルしながら生きていくお話です。

序盤はサバイバルとバトル、中盤以降は商売などを始める予定です。

読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いします!


作品へのリンクは画面下部にありますー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ