表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第8章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/123

117:彼女の話

 ステラが呆然と竜を見上げていると、竜は開いていた両のまぶたをゆるゆると閉じた。

 その動作はひどく気だるげで、たったそれだけで疲れ果てているように見えた。

 光を放つ瞳が半ば閉じられたことで、辺りは薄闇に包まれる。


『……少女よ』


 と。

 ステラの脳裏に不思議な声が響いた。ひび割れてしわがれた老人のような声。


『お前は誰だ? どうしてこのような場所に来た』


「エルドランド、様……?」


『いかにも。我が名はエルドランド。建国王エリオットに付き従う者』


 ステラは立ち上がり、竜の頭の正面と思われる方に立った。

 覚えたての淑女の礼を取る。


「お初にお目にかかかります。私はステラ。ステラ・カートリー、カートリー侯爵家の長女でございます。王宮の庭を散策していた所、大きな樫の古木の根本から地下に落ちて、ここにたどり着きました」


『そうか……。それは災難だったな。では、お前を地上に送り届けてやらねばなるまい。……離れていろ』


 竜は再び双眸を開いた。

 大きな頭がゆっくりと持ち上がり、顎が地面を離れる。

 体を支える前足の鉤爪がミシリと鳴った。


『本当は、お前を背に乗せて地上まで飛べばいいのだが。我に最早そのような力は残されていない。すまないことだ……』


「お体が悪いのですか?」


『いや。この身は食を断つこと既に五百年。あと数年もすれば死ぬはずだった』


 竜はひどく緩慢に、しかし傍目に見ても分かるほどに必死に体を起こそうとしている。

 ゼイゼイと喘鳴めいた荒い息がステラの灰色の髪を揺らす。


 そうして時間をかけて、竜は立ち上がった。

 暗い地下の空間の中、弱りきった竜はそれでも神々しく見えた。

 白金の鱗がわずかな光を反射して、きらきらと無数の星のように輝いている。見開かれた瞳は金色で、夜空の月のように暗闇を照らしていた。


 太い手足で地面を踏みしめて、竜は大きく息を吸った。


「――オオオオオォォォォォッ!!!」


 開かれた口から、空気を震わせるような咆哮が迸った。

 びりびりとした衝撃を受けて、ステラは思わず後ずさる。

 竜の咆哮は地下空間に反響し、長い尾を残して響いていく。


『ぐ……』


 咆哮を終えた竜は、力尽きたように崩れ落ちた。大きな体が地面に落ちて、どう、と音がする。


「エルドランド様!」


『心配するな。大事ない』


 地面に身を横たえた竜は、そのままの姿勢でステラに語りかけた。


『あの声が聞こえれば、王宮の者たちが探しに来るだろう。この空間に人が立ち入らなくなって久しいが、以前は王族が出入りしていた。助けは来るはずだ……』


「はい。私、信じて待ちます」


 ステラは頷いて、大きな竜の口元に腰をおろした。

 彼女が身にまとっているのは、お茶会用の美しいドレス。

 けれど木の根元の穴に落ち、地下を探検したせいですっかり汚れてしまっていた。


『それまで、お前の話を聞かせてくれないか。人間に出会ったのは久方ぶりだ。今のアステリア王国がどうなったのか、教えてほしい』


「はい、お任せください。アステリア王国は、平和ですよ。長いこと戦争もなくて、民たちはしっかりと暮らしています……」


 そうして竜と少女は、様々な話をした。


『お前はどこか懐かしい気配がする。王家の血を引いているのか?』


「よく分かりましたね。何代か前に王女様が降嫁して、我が家は王家の傍系になりました」


『やはり、そうか。エリオットの――建国王の血を引く者は、我にとって守るべきもの。我はアステリア王国の守護者。だが個人的な誓いとして、エリオットの子孫を守ると決めている』


「ふふっ。聖竜エルドランド様に守ってもらえるなんて、光栄です」


『今となっては、死にかけの老いぼれだがな……』


 地下の時間は曖昧に過ぎていく。

 ステラは竜とのお喋りに夢中になっていた。


 だが、地上からの助けはいつまで待っても来なかった。





 どれほどの時間が過ぎたことだろう。

 地下には当然、食べ物などない。

 ところどころの床に水が染み出して、小さな水たまりを作っているだけだ。


 ステラは床に膝をつき、水たまりの水を手ですくって飲んだ。

 ぐう、とお腹が鳴る。


(お腹が減ったなあ……。お茶会のお菓子を持ってくればよかった。そうしたら今食べられたし、エルドランド様にも分けてあげられたのに)


『まさか誰も来ないとは……』


 エルドランドが暗い声で言った。


『この場は我が安眠の場所。エリオットが死んで百年ほどは、王家の者たちが出入りして我の世話を焼いてくれた。いつしか人足が絶えたが、我は死ぬばかりの身。それでいいと思っていたのに、このようなことになろうとは』


 ステラは首を振った。


「私、まだ諦めていません。地上の人たちは、場所が分からなくて探しているのかも。……エルドランド様、ここの入口はどこですか? 私、探検に行ってみます」


『入口はあちらだ。ただ、地下はあちこち崩れている様子。気をつけてくれ』


「はい」


 ステラが指し示された場所へと向かうと、そこは扉になっていた。青銅製の立派で大きな扉である。建国王と竜のレリーフが施されていた。


 ステラは取手に手をやり、押してみた。……びくともしない。

 引いてみても、やはり動く気配がない。

 扉の周辺に出入りできる場所はないかと探してみたが、石造りの壁が続くばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ