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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第7章

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114:【閑話】ルシルの倉庫実験

 港町シートンマスから帰還して数日。

 あるお休みの日の午前中、私が翌日の仕込みなどしていると、厨房にラテがやって来た。


『ルシル。ちょっと来い』


「ん、何? って、ぎゃああぁ!」


 ラテはネズミを口にくわえていた。彼は念話で喋るので口がふさがっていても関係ない。

 ネズミはまだ生きていてジタバタしている。


「なにそれ! なにそれ! ペッしなさい!」


『うるさい。このネズミは厨房をうろついていたから捕まえておいたのだ。いいから来い』


 ラテは私をジロリと睨むと、割れ鍋亭の中庭へ向かった。

 仕方ないのでついていく。

 ラテは中庭に着くとネズミを口から離して、前足でしっかりと押さえつけた。


『このネズミを倉庫に入れてみろ』


「え? う、うん。いいけど……」


 普通の倉庫能力、小や中であれば、基本的に生き物は入れられない。

 しかし私の絶対倉庫は規格外である。前にもシジミやらを格納したことがある。


 ――ヒュン。

 小さな音とともにネズミは無事、倉庫に格納された。

 倉庫内部に意識を向けてみれば、ネズミは時間停止してカチコチに凍っている。でも生きているのは分かった。


『ふむ。ネズミ程度であればいけるか』


「何の話?」


『次は森まで行くぞ』


「だから何の話!?」


 しかしラテは答えず、割れ鍋亭の出口へ向かった。

 出口近くにはクラウスが待機している。


『頼んだぞ、クラウス』


「任せろ」


 私の知らないところで話が進んでいる。

 釈然としない気持ちを抱えたまま、私たちは王都郊外の森へと向かった。





 ラテとクラウスは森に着いてからも歩き続けて、少し深いところまで来た。


「では行ってくる」


『うむ』


 クラウスはさっと走り始める。素早く動いて、あっという間に木々の奥へと姿を消した。

 少しすると森の奥の方からドドドド……と地響きがした。


『来たか』


 音の方を見る。森の木々と下草の間に真っ赤な毛皮が見えた。

 あれはイノシシの魔物のレッドボアだ!

 レッドボアは森に住む魔物としてはかなり強い方で、大きな体と凶暴な気質を持っている。


「ラテ、あれはまずいよ。逃げよう!」


『馬鹿を言うな。倉庫の準備をしろ』


「へ?」


 見ればレッドボアはクラウスを追いかけていた。イノシシの魔物は突進力があり足が速い。

 しかしクラウスはそれ以上の速度で、動きに緩急をつけて魔物を翻弄している。


『ルシル。あれを格納しろ』


「ええっ! 無茶でしょ!」


『いいからやってみろ』


 仕方ない。私は走り回るレッドボアに狙いをつけて、倉庫に格納しようとした。

 だが。

 ――バチン!

 静電気が弾けたような感覚が走り、私は思わず一歩下がった。


「無理みたい。弾かれた」


『ふむ、そうか。……クラウス! もう良いぞ、仕留めろ』


「承知した」


 それまで回避に徹していたクラウスが、魔物に背を向けたまま剣を抜いた。

 きらり、木漏れ日を反射して刃が光る。

 次の瞬間、彼は手近な木の幹を蹴った。空中で鮮やかに回転し、そのままの勢いで魔物の首に剣を叩きつける。

 ぱっと血しぶきが飛ぶ。

 レッドボアは叫ばなかった。無言のままどうと地面に倒れ伏す。叫ぶ間もない即死だった。


『よし。ルシル、あの死体を格納しろ』


「え? うん、やってみる」


 横たわるレッドボアを格納してみる。生きている時と違い、今度はスムーズに倉庫に入った。


「今夜の晩飯は猪肉のステーキだな」


 クラウスは頷いている。


『これで分かったな』


「何が?」


 ラテは私を呆れた目で見た。


『おぬしの倉庫は、格納の可否に魔力が関係するということだ。ネズミ程度の魔力が弱い生き物であれば、生きていても格納できる。しかしこのイノシシの魔物クラスになれば、生きている時は不可能。死ねば体内魔力は霧散するからな。死体が問題なく格納できるのは、やはり魔力量の問題だ』


「ほへぇ~」


 ラテの言い分は相変わらず難しい。思わず阿呆みたいな声が出てしまった。


 倉庫の中に意識を向ける。レッドボアの死体はもう魔力を感じない。ただの処理前のお肉だ。

 本体と切り離されてなお魔力を放っていたクラーケンは、やはり規格外だったのだ。


『人間は恐らく不可能だろうな。人間は個体差が大きいが、どいつもそれなりに魔力がある』


「可能不可能はともかく、人間で実験するのは怖いから嫌だよ」


 いくらネズミが生きているとはいえ、人間を倉庫に入れるのは抵抗がある。万が一死なせてしまったら怖すぎるもの。


『今後は魔力を意識して倉庫の能力を運用してみるといい。おぬしの絶対倉庫は既に強力だが、伸びしろがあるかもしれんからな』


「えー? 今のままでも別に困っていないし、いいんじゃない?」


『……はぁ』


 ラテはやれやれといった雰囲気でため息をついた。


「それより早く帰ろうよ。明日の仕込みがまだ残っているし、このレッドボアのお肉も捌きたいし!」


「ステーキにしてくれ」


 クラウスが注文をつけてくる。彼が仕留めたお肉だから、希望を聞いてあげなくては。


「オッケーですよ。ステーキだったらどの部位がいいかな。贅沢にフィレかな~」


 大きな魔物だったから、食べ応えがありそうだ。

 ケバブサンドやガレットの特別メニューで、イノシシ肉を出してもいいな。


『吾輩はカツレツがいい』


「……俺にもそれを追加してくれ」


「はいはい」


 カツだったらロースもいいな。

 大きな魔物をなるべく美味しく食べるため、私はわくわくしながら割れ鍋亭へ帰る。

 途中の道すがら、ネズミは逃がしてやった。


 雇い人たちとギルが、中庭にどんと出したレッドボアの巨体に度肝を抜かれたのは言うまでもない。





+++

以前限定ノートで公開していたお話を少し手直ししました。


裏設定的には、ルシルの倉庫に入れられる物は魔力量に依存する。

魔力が高すぎるものは入れられない。

また、生きている生き物はマイナスの補正がかかる。

ネズミやシジミ程度であれば、マイナス補正がかかっても入れられる。


クラーケンの足を格納できたのは、足が本体と切り離されて「生き物」判定を外れたためが一つ。

もう一つはルシルが食材だと認識したためにプラスの補正がかかった、ためでした。



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