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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第7章

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112/124

112:原点の場所

 それからのことを話そう。

 アルフォンスとシルヴェスターが教えてくれた内容である。


 ヴェロニカは再度捕縛されて、地下牢へ逆戻り。調べた結果、彼女が泉に食材を投げ入れているのを目撃した証言が複数集まった。

 よって脱獄の罪と泉を汚した罪が上乗せされ、かなりの重罪となった。


 宰相サイラスへ繋がる証拠は出なかった。

 ヴェロニカはサイラスの手引きで脱獄したと言い張ったが、証拠は何もない。

 彼女は手紙を受け取ったというけれど、それもなかった。

 彼女の言い分を信じるのなら、脱獄の手伝いをした人間に渡したということだ。サイラスが証拠を残さないようにしたのだと推測された。


 とはいえサイラスは、港町の代官バルダスの事件で憲兵の調査を受けている身。

 経済基盤の食料ギルドを失い、権力はかなり削がれた。

 今回の竜の泉の件で神殿に介入する口実も失った。

 当分大人しくしているしかないとは、アルフォンスの見立てである。


 ヴェロニカは、貴族籍と修道女の身分を剥奪の上、最北の修道院に下女として送られることとなった。

 鉱山や開拓地での重労働刑に比べればいくらかマシだが、厳しい生活が待っていることだろう。


 なお、竜の泉から回収したドングリは改めて天日干しにして粉に。

 腐った野菜くずは王都近くの農家さんに肥料として渡しておいた。コンポスト的な肥料になるようで、喜ばれた。


 私は今回、冤罪を着せられることもなく、聖女を支えて立つ修道女という謎の立場になってしまった。

 神殿からは神官待遇(シスターよりも身分が上になる)で、聖女エレオノーラの補佐を打診された。

 が、断った。


 だって私は料理人だもの。私のホームグラウンドは割れ鍋亭と旅するキッチン。家族はラテ、フィンとミア。

 エレオノーラは大事な友人なので、これからも小麦除去食を届けたいと思っている。それで補佐は勘弁してもらった。


 私の名声が爆上がりしたことで、割れ鍋亭と旅するキッチンは王都どころか王国中で有名になってしまった。

 毎日たくさんのお客さんが行列を作り、嬉しい悲鳴を上げている。

 またもや人手不足に陥ってしまったので、私は一計を案じた。





「孤児院を買い取る、ですか?」


 ある夏も終わりの日の午後。私は懐かしの修道院まで足を運んでいた。

 修道院の臨時の院長室にいるのは、ナタリーだ。


「うん。これまでのお店の売上で、かなりお金が貯まったから。孤児院を買い取って、子供たちに簡単な仕事をお願いしたいの。ドングリ拾いとか、兵糧丸作りとかね。もちろんお給料出すよ」


「そうですか……。あの子たちはルシルちゃんのためなら、喜んで働くと思います。でも、子供たちにお給料を持たせるのはどうでしょうか。喧嘩になったり、悪い大人に取られてしまうかもしれません」


「なら普段はお小遣いだけ渡して、一人ひとりの帳簿をつけておこう。大人になった時に精算して渡すの。どう?」


「それならいいですね!」


 ナタリーはにっこり微笑んだ。


「雇い人たちもずいぶん料理上手になったからさ。孤児院の子たちにもまかない飯、出すよ。もちろんシスターたちにもお裾分けする」


「うふふ、それは嬉しいです。みんなルシルちゃんの差し入れを楽しみにしているんですよ」


 調べた結果、ここの孤児院はある貴族の所有ということになっていると判明している。

 ずいぶん昔に修道院に入った貴族の娘が、実家を頼って孤児院を併設したのだそうだ。

 しばらくはその貴族が運営していたのだが、代替わりしてうやむやに。

 アルフォンス経由で買取りの話を持っていったら、二つ返事で了解してくれた。どうも持て余していたらしい。


 というわけで、所有権的にもお金的にも問題はない。

 私とナタリーは連れ立って、子供たちにこの話をしに行った。


「……というわけで、みんなには割れ鍋亭の仕事をしてもらいたいの。最初はドングリ拾いと簡単なお料理を。年齢が上の子で、慣れてきたらもう少し難しいお料理をお願いしたいけど、どうだろう?」


「やる! わたし、はたらく!」


「おれも!」


「おこづかいもらえるの? すげー!」


「まかない、たべたい!」


 みんな目をキラキラさせて、やる気満々だった。

 私は釘を刺す。


「ただし! シスターから習う勉強は今まで通りね。字の読み書きと計算は、お店の仕事でも、大人になってからも役に立つから」


「えーっ」


 シスターの中には、貴族出身者も少なくない。何らかの事情で修道院入りした女たちだ。

 彼女らは教養があるため、孤児に勉強を教えている。

 基礎の勉強は大人になった時、必ず役に立つ。だから嫌でも頑張ってもらおう。


「よし、それじゃあ、早速ドングリ拾いに行きましょうか。そろそろ今年のドングリが落ち始める頃だもの」


「はーい!」


 ドングリのガレットは「聖王女様のお墨付き」として人気のメニューだ。たくさん使うので、ドングリ粉の在庫が心もとなくなっている。

 子供たちは張り切って、森へと出かけていった。付き添いはナタリーと数人のシスターたちだ。


「よろしくお願いします。私は美味しい食事を作って待っていますから」


「楽しみです」


 彼らを見送って、私は早速孤児院の厨房に立つ。


(……懐かしいなぁ)


 半年前まで、私は毎日ここで料理を作っていた。

 それがヴェロニカに濡れ衣を着せられて追放されて、冬の寒さの中で死にかけたんだっけ。

 それから絶対倉庫の能力に目覚め、ラテに出会った。フィンとミアと家族になって、クラウスやアルフォンス、ギルと出会った。

 エレオノーラの病を治し、食料ギルドとヴェロニカの陰謀を叩き潰した。

 港町ではバーバラや漁師たちと出会い、クラーケンと友だちになった。

 実に色んなことがあった。


 私の原点はこの厨房。立場は変わってしまったけれど、子供たちのために料理を作るのは変わらない。


「さて、今日は何を作ろうかな」


 私はレシピをあれこれと思い浮かべる。


「よし。山盛りの唐揚げと野菜たっぷり具だくさん味噌汁にしよう!」


 子供たちはお腹を減らして帰ってくるだろう。まだ夏だから汗もかく。栄養と塩分をしっかり補給しなければ。


 鍋に揚げ油を満たし、加熱する。タレに漬け込んだ肉に衣をつけて油に放り込めば、ジュゥゥゥ――ッと食欲をそそる音が響いた。

 同時に各種の野菜を一口大に切る。人参、じゃがいも、大根、玉ねぎ、キャベツ。人参は苦手な子もいるが、柔らかく煮込んでおけば大丈夫かな?


 そういえば、お豆腐がないんだよなぁ。ラテのおかげで醤油や味噌は再現できたが、まだ足りないものも多い。

 これからも工夫して作っていこう。


 大鍋で揚げ物と味噌汁を作っていると、時間がどんどん経過していく。

 やがて玄関が賑やかになった。みんなが帰ってきたのだ。


 原点の孤児院で、満面の笑みを浮かべて私は振り返る。


「おかえり、みんな! ごはんできてるよ!」


「わあい!」


 子供たちの大きな歓声が響いた。


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