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[完結しました!]【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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23-EP1

「本当だ!嘘はついていない!」


 救護室に突然乱入してきた見覚えのない少女二人によって、護衛も含め、十人以上いた守備隊員があっという間に無力化されるのを見て、その救護班の男に逆らう意思も度胸も残されていなかった。


 都市の外から来たという老人。上からは助かるなら助けて拘束しておけ、とだけ指示がきていた。

 しかし、少し診ただけで手の施しようがないほど、その体は衰弱していた。

 一体どんな動きをしたらそうなるのかわからないほど、筋肉は疲弊していたし、全ての臓器もまともに活動していなかった。


「お師匠さま……」


 遺体を入れる袋に雑に入れられた惟信を見て、ヒナタはようやく思いっきり泣く事ができた。そして、ヒナタが泣き止むまで、ゆずは一言も話しかけることはしなかった……


「ぐす……ごめんね、ゆずちゃん」


「ヒナタが何について謝っているかわからない。ヒナタは人として当然の反応をした。平気でこんな事をするここの奴らが異常なだけ」


「ん……ありがと」


 涙を拭きながら、少しだけ微笑んで礼を言うヒナタに、ゆずは手を差し出した。


「気が済むまで泣いたら、次は?」


 ヒナタはその手を見てクスリと笑うと、手を取って言う。


「敵討ちだね」


 ◆◆ ◆◆


「麻木さん!どうしたんですか?」


 砦の指揮官用の部屋に入った男は驚きの声を張り上げた。扉を開ければ、麻木が荷物をまとめていたからだ。


 まるでここから夜逃げでもしようとしているように……


「見てわからんのか?お前は報告を聞いていないのか?」


 男の方を見ようともせず、麻木は荷造りの手を止めずに言った。


「報告といいますと?」


 男の惚けた回答に、小さく舌打ちをした麻木が答えた。


「刺客として送った部隊からの定時連絡が途絶えて何分たった?二番隊の強い者から順に選んで編成した部隊だぞ。連絡がないという事は、異常事態が起きたという事だ」


 そう言うと麻木は荷造りに戻る。男は心の中で指揮官である麻木も意外と小心者なんだなと、心の中でバカにしていた。

 ただそんな考えはおくびにも出さない。それが出世のコツだからだ。


「たかだか五分遅れたくらいで大袈裟ですよ。ちょっとしたトラブルなんぞいくらでもありますよ」


 男が両手を広げて余裕の表情を見せても麻木は荷造りの手を止めない。


「はぁ。弱腰のNo.4に佐久間にズタズタにされたNo.3。No.1は不法滞在者による治安悪化で、外に回す戦力もない。我がNo.2の一人勝ちじゃないですか。仮に事が露見していたとしても……この砦には密かに編成してきたNo.2の誇る部隊が五十人近く駐留しているんですよ?ネズミ一匹入り込む事もできませんよ」


 そう言うと男は、貴重品となった葉巻に火をつけて、うまそうに燻らし始めた。


「おい……」


 ここでタバコを吸うな。そう言おうとした麻木の言葉が止まった。


 火をつけたばかりの葉巻の先端が唇の僅か先で切り落とされて、男がガタガタ震えていたからだ。


 ――さっきまでの威勢はどうした……


 麻木は頭を抱えたくなったが、そうもいかないようだ。


「どうも先日は」


「ヒナタが世話になった。その礼のためにちょっと寄った」


 No.2の部隊が襲って、殺すかあわよくば捕える予定だった少女達が立っていた。


「……ここに来るまでに相当な警備が敷いてあったはずだが?」


 内心の動揺を悟られないように、麻木が言った。


「きっとみんな疲れてる。廊下で寝るくらい」


 資料では狙撃手と書いてあった少女が短めの支給刀を持って、睨みつけていた。


「今回は色々と我慢したからねー。最後くらいはパーっとやっとかないとストレスでお肌に悪そうだし?」


 口調とは裏腹に冷めた視線を向ける少女……No.4の十一番隊の隊長とやらがいる。


 二人が麻木に向かっている間、ガタガタと震えていた男は、今がチャンスと見たのか、脱兎のごとく部屋から逃げ出そうとした。


 ヒナタもゆずもそれには目も向けない。なぜならば……


「ひっ……ひい!」


 ドアを開けたすぐの廊下には、見事に意識を刈り取られた男達が何人も転がっていたからだ。


 中には激しく抵抗したのか、腕や足が変な方向に曲がっている者もいる。男はそれを見て無様な悲鳴をあげたのだろう。


「小物はどうでもいい。お前は私たちの逆鱗に触れた」


 そう言ってゆずが支給刀を麻木に向けた。


 そこに僅かな勝機を麻木は見た。隊長であり、かなりの使い手と資料にもあったヒナタが先頭で来ると思っていたからだ。

 麻木もそれなりに戦闘技術には自信がある。

 後衛の狙撃手になど遅れはとらない。


「所詮小娘の狙撃手……。今お前はそう思った」


 突然そう言ったゆずの言葉に、そこまでは思っていなかったが大筋は合っているので麻木は何も言わなかった。


「お前はヒナタを傷つけただけではなく、カナタくんまで侮辱したと聞いた。お前がふざけた事をしなかったら惟信さんも死なずにすんで、ヒナタも悲しまなかった」


 ゆずが麻木の前の机に足をかける。


 ――来る。


 麻木は素早く下がってハンドガンを抜いた。ゆずほどではないが、鮮やかな動きだった。相手に向けた時にはもうセーフティも解除されて、コッキングもしてあった。


 しかし、そのハンドガンの引き金を引く事はなかった。――できなかった。


 ゆずの刀が麻木の人差し指だけを斬っていたからだ。


「ぐうっ!」


 しかし麻木もそれで終わりはしない。ハンドガンを向けつつ左手ではもう支給刀を抜いていた。


 が……それも及ばない。


 カランと音を立てて、麻木が抜いた支給刀は床に落ちていた。


 左手の肘が斬られている。神経を断ち切ったのか、もう動かせもしない。


「……お前達、こんな事をしてタダで済むと思っているのか?今No.2に拮抗できる戦力はどの都市にもない。その上ネメシスや友愛とも手を結んでいる。お前達に勝ち目はないんだよ」


 そう言うと、噛んでいたガムをゆず目掛けて吐き出した。

 ゆずは反射的にそれを腕で払った。


 その一瞬の隙を使って、麻木はまだ自由に動く足で机の下を蹴っていた。


 その途端激しい音が砦中に鳴り響く。机の下に非常ベルのスイッチがあったらしい。

 砦中に激しく鳴り響く警報の音。それを聞いても、ヒナタもゆずも、周到なことだ。と思っただけだった。


「ははは……これで貴様らも終わりだ。この場面を見れば、誰が見ても逆恨みして襲ってきたにしか見えん。そして私は捕らえたお前達を使って、喰代ともNo.4とも優位に交渉ができるというわけだ。一時の感情に振り回されて墓穴をほったな!」


 そう言うと愉快そうに笑った。


「ふっふっふ……はあっはっは…………あ?」


 どう考えても窮地だというのに、ヒナタもゆずも顔色一つ変えていない。少しも慌てる素振りもない。


 警報を聞いて砦の中が騒がしくなっているのに全く焦った様子がない。


「だから?」


 ヒナタが短く言った。


「あ?」


「だから何?私達はもうNo.4とは関係ない。都市にはもう戻らない。私たちね?うんざりなの。あなた達みたいな奴に振り回されるのは」


「ば、バカな事を……何を言っている。都市に戻らないなどと……他に安全な場所などないというのに……」


 麻木がようやく焦った顔を見せた事に、ヒナタは密かに溜飲を下げていた。

 ただ、隣にはそれで終わらない人物がいる。


「それはお前には関係ない。関係ないついでに少し話をする。私はカナタくんから刀を使った戦闘を禁止されていた」


 今頃何を言い出すのかと、麻木は訝しげな表情をしている。

狙撃手が近接戦をしないのは当たり前ではないか……

 そう言いたげな麻木にゆずは話を続けた。

 

「なぜならば……。私は小柄で力も弱い。それだけに私は効率的に人の体を壊す事を得意としていた……。でもそれは、痛みに動じない感染者相手には危険だと言って禁止された」


 話の意図が掴めず、様子を窺っている麻木にゆずは獰猛な笑みを向けた。


「つまり普通の人間にならば効果はあるという事」


 ようやくゆずの言う意味がわかった麻木は、まだなんとか動く右手を前に出して、ゆずを止めようとした。


 待て!


 そう言ったつもりが声がでない。ひゅうひゅうと風が抜けるような音がするばかりだ。

 目の前には刀を振り抜いた姿勢のゆず。


 声帯だけを斬ったと気づいたのは、ノドから大量の血が流れ始めてからだ。


「そんな戦い方だから……少し残酷。お前はそんな事はしなくていいって……カナタくんは言ってくれた」


 そこでようやく麻木は、彼女らの触れてはいけない部分に無造作に触れていた事を理解した。

 それが最も効果的だと思った。そしてそれは間違いなかった。

 効果の方向性を見誤っていただけで…………。


「隊長!」


 No.2の隊員たちが指揮官室にやってきた時、麻木は生きているだけだった。

 意識は鮮明だ。ただ、もう腕も足も……身じろぎさえできない状態だった。


 効率よく人の体を壊す事が得意。そう言ったゆずの手によって。

 たとえ傷は癒えても、二度と動かせるようにはならないように……。


 

「なんだお前達はあっ!」


「貴様なにぐお……」


 止めようとした扉を守っていた隊員をあっさりと沈めたヒナタとゆずは、再び風の吹き荒れる瀬戸大橋の上に立った。


 風に煽られる髪を手で押さえ、晴れ晴れとした表情でヒナタは言った。

 

「じゃ、行こっか?」


 ヒナタの言った言葉に、ゆずも笑顔で応じる。

 

「ん!」


 二人とも最低限の武装はしているが、都市の外に出るにはあまりにも貧相な装備しか身につけていない。


 支給刀と「梅雪」を腰に差したヒナタ。同じく短めの支給刀とハンドガンだけのゆず。

 そのほかには、砦から盗って……頂いてきたわずかばかりの食料しか持っていない。

 それでも……

 

 歩き出す二人を止める者はもういない。


 ◆◆ ◆◆


 よく晴れた朝だった。


 田嶋医院の二階の窓がガラリと開いた。


「んー!いい天気。今日も頑張りますか」


 そう言って朝の空気を吸って、一日を始めようとしていた前野は思い切り背筋を伸ばした。

 すっかり精力的に動くようになった避難民達のおかげで、食べ物も物資も余裕が出来てきた。


 それもあの少女のおかげ……


 そう考えて天を仰いだ前野の視界にヒラリと風に舞うスカートと、キレイな脚が見えた。


「え?」


 それを見るのは二回目。最初はもっと心が荒んでいた時だった。

 そして今は……。


 以前に比べて、スカートが翻らないように手で押さえながら隣の屋根に着地した。


「前野さん、おはようございます!」


 晴れやかな顔でそう挨拶してくる少女に、ポカンとしながら反射的に「お、おはよう」と挨拶を返す。


 そして、湧き上がる驚きと喜びと疑問に頭がごちゃごちゃになって、まず何を言えばいいのかわからなくなり、でた言葉は……


「おかえり、ヒナタさん」


 だった。


 朝の明るい日差しを体いっぱいに浴びて輝いているヒナタは、朝日に負けないくらい輝く笑顔で言った。


「ただいま!」


 

 田嶋医院の裏にある処方箋薬局。一階部分はシャッターが降りていて凶悪なトラップが仕掛けられている事は、最近有名になりつつある。


 そのシャッターに大きく書いてあるよく意味のわからない言葉。おそらく誰かの名前だろうと思われていた言葉に、新たな文字が増えていた。


『カナタとゆず   ヒナタもいるよ!』


 

エピローグその1になります。

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