23-EP2
「つまり、マザーとそのコロニーを構成している群体とその他の感染者は明確に分けられるという事です」
会場内からどよめきがあがる。No.1にある公会堂。そこで喰代博士は約束通り、本土から持ち帰った情報に榊原の研究成果、そこに自分なりの解釈を加えて発表していた。
この講演もすでに十回を超えている。
それがもたらすものは大きい。何もわからなかった相手の事が少しでもわかるようになる。
そして、地球側の免疫機構と思われるマザー。今は人で言う自己免疫疾患状態であると仮定した上で、それを修正する事ができたら……再び人類に対して、地球が母なる存在となってくれたら……。
その時はマザーとそのコロニーは、感染体の根絶にのりだすだろう。人類と共に……
まだ夢物語の域を出ない話だ。しかし微かでもそこに希望があるかないかで未来は大きく変わると喰代は見ている。
さらに研究によって美鈴の遺伝子を実験、培養してすでに感染に対して一定の効果がある試薬が出来上がっている。
その発表も、ここに来た人達に大きな希望を与えた。今までの入手困難なマザーの遺伝子から作った試薬ではなく、自分の意思で遺伝子を提供してくれる美鈴の存在は大きく、一部の人達からまるで神のようにあがめられて、美鈴は過去を思い出したのだろう。とても嫌な顔をしている。
四国の外との交流網もできつつある。ヒナタ達の拠点はトップシークレットだが、備前長船の刀剣博物館や自衛隊駐屯地それから明石大橋の道の駅などは、交流の中継地点として大きな役割を果たしてくれている。
「もう何年たったのかな?時間の概念がなくなっちゃうね」
講演を終えた喰代博士が、控え室から出てくるとその周りにさっと付き添う人達がいる。
「ご苦労様!」
その人達……喰代博士の護衛を専属でやってくれている。No.4の筆頭部隊。第十一番隊だ。
「博士は今や都市の最重要人物ですから」
そう言ってくれるのは、最近めっきり大人っぽくなった花音だ。
ヒナタとゆずが都市を出て行った時、花音もついて行くかと思われていたのだが、花音は残る事を選んだ。
花音にとってカナタが作った「十一番隊」を守る事が大切だったのだ。
あの時の事件以来、No.2は勢いをなくし従順になった。まるで叱られた子供のようにNo.4に従属に近い同盟を申し入れてきた。
No.3の代表である藤堂伊織ともいい関係にあるNo.4は、いまやNo.都市の中心と言えるようになっている。
まだまだ課題は多い。でもあの子達がここまでお膳立てしてくれたものを大人が活かせないでどうすると、松柴も奮起している。
「喰代博士?」
考え事をしていて、つい立ち止まっていたようだ。
「ごめんごめん!つい考え事をね?そんな事より、今日も寄っていくだろう?美鈴ちゃん、首を長くして待ってるよ?」
もうすっかり親しい間柄の花音にそう言うと、花音は嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「はい!」
――カナタくん。見てるかな?君が助けて……君を見て育った少女は今や都市に敵う者がいないくらいの達人になったよ。
時々こっそり帰ってくるヒナタちゃんやゆずちゃんも舌を巻くくらいにね。
今もふらりと現れた十体程の感染者の群れに対し、花音の凛とした声の指示が飛んでいる。
クロスボウを新たな武器としている由良は、花音の声と同時に矢を放ち、一番近い感染者の喉を射抜いた。
正面から感染体を貫かれ、感染者が崩れ落ちる。
その由良の前で、意外にも大きな盾を手にしているのは、アスカだ。
ダイゴに盾の扱いを学んだアスカは、今や十一番隊の盾と言ってもいいほどになっている。
また、盾だけにこだわらず拳銃や槍などの長柄武器も使いこなし、マルチスタイルな中衛として、十一番隊の芯としてどっしりとした存在感を見せている。
槍に持ち替えたアスカが、槍を突き出し、続けて払うと二体の感染者が倒れた。
そして……ダーンと重い銃声が響いて、二体の感染者をまとめて貫いた。
かつてのゆずの愛銃、ヘカートⅡを受け継いだのは、ようやくゆずくらいの体格になったリョータだった。
その間に次の矢を装填した由良がまた一体倒している。
インカムからリョータの快活な声が聞こえる。
『残り三体。隊長!お願いします』
それに手を上げて応じるのは花音。
そして深く腰を落として、腰の「桜花」の鯉口を切った。
安心して守られている喰代博士は感慨深く花音の背中を見て、微笑んだ。
……カナタくん。君に見せたいなぁ。花音ちゃんの得意な居合はねえ……。
君にそっくりなんだ。
bio defence 2 本土動乱編 完
これまでお付き合い頂きありがとうございました!




