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[完結しました!]【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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22-7

「隊長というのは部隊を指揮するうえで一番重要なポジションだ。それゆえに最後まで生き残らなければならない。隊員たちより先に死ぬなど、責任を投げ出したと責められても仕方がない行為だ。よほど無責任な隊長だったのだな。お前の兄は」


 予想はしていた。カナタの事は何かしら言ってくるに違いないと思っていた。麻木が言ったことも想定の範囲内ではある。


 ただ、最後に付け加えられた言葉。お前の兄はという言葉にヒナタの頭は真っ白になった。麻木は知っていたのだ。ヒナタとの関係もカナタがどうなったのかも……その上で今の言葉を投げつけてきたのだ。

 そう思った瞬間、覚悟していたはずの心を壊して湧き上がってきたものがあった。


 ガタッ!


 麻木の両隣りに座っていた男性たちが、椅子から腰を浮かせた。後ろでは銃を動かす音が聞こえたから、今頃向けられているのかもしれない。


 ただ……ヒナタはピクリとも動いていない。声すら上げていない。それでもヒナタの体から発せられたものは周囲の人間をこれだけ動かした。動いていないのは麻木と、隣に座っている喰代博士と美鈴の三人だけだ。

 机の両側に座っている研究員らしき男たちなどは、動くこともできずに今にも失神してしまいそうな顔になっていた。


 一瞬で部屋にいるすべての者に叩きつけられたのは、怒気とか殺気とかいうものが優しく感じるものだった。まるで実際に白刃を喉元に突き付けられたような、命の危険を感じてしまうものだった。


 あえて言葉にするなら刀気とでも言おうか。ヒナタの隣で喰代博士は冷たい汗が背中を流れるのを感じながら、逃避気味にそう考えていた。他の人間よりましなのは、矛先が向いていないだけ……それでも余波で手と足の震えが止まらないほどだった。


「わかった……。前言を撤回しよう。気をしずめたまえ」


 このままでは話にならないと思ったのか、目を閉じて一つ息をついた麻木がそう言った。喰代博士は震える手を持ち上げ、ヒナタの手に重ねる。ゾッとするほど冷たいその手が、逆にヒナタの怒りの深さを示しているようで、座っていながら腰を抜かしてしまいそうになるが、何とかこらえて語りかけた。


「……ヒナタちゃん。落ち着こうか、あの男が言葉を翻すなんて事は恐らく前代未聞だよ。君はカナタ君の誇りを、微塵も動かずに守ったんだ。落ち着いて……後は私に任せてくれないかい?」


 穏やかにそう話しかけると、ヒナタの目から二筋の涙が流れる。そして、我に返ったのか蒼白な顔をして……それでも頷いて見せた。それに微笑んで返した喰代博士は、この戦い何が何でも負けられないと改めて強く感じた。

 この少女とその兄、そしてその仲間たちを目の前のハイエナどもに貶めさせるわけにはいかない。そしてヒナタが抑えてくれた気持ちを無駄にできない。


 未だ動揺の残る男たちを見据えて喰代博士は口を開いた。


「本土から生きて帰って来る事の大変さをかけらでも理解してもらえたかな?こんな彼女でも多大な犠牲を払いながら帰って来たんだ。そこまでして得たものを、ちっぽけなものと引き換えに要求するなんて虫が良すぎる事を十分に理解してもらえたと思う。その上でこちらから伝える返事は……。情報は渡そう。そのほかの要求はすべてノーだ。これは覆らない。これ以上を要求するならどちらかが死ぬまで争うことになるだろうねぇ。ああ!念のために言っておくけど、彼女はこれ以上怒らせない方がいいよ」


 そう言った喰代博士の言葉に、初めて麻木が渋い顔をした。さすがに堪えたらしい。周りの男たちの動揺も影響しているかもしれない。


 麻木はハンカチで大量に噴き出てくる汗を必死に拭っている隣の男を侮蔑の目で見ると、大きくため息をついた。


「分かった。武器については諦めよう。情報について話す前にそこの感染者の事を確認したい。我々はこの四国の中から感染者を追い払うために苦心した事は知っているはずだ。それを知って感染者を中に入れる危険性についてどう考える?」


 どうやら攻め口を変えたらしい麻木の言葉に、喰代博士は心中でほくそ笑んだ。そういう流れであれば自分の方が優位なのだ。それでも多くは語らず簡潔に言った。


「研究のためだね」


「パンデミックの危険性をおしてまでかね?」


 間髪入れずにそう返した麻木に喰代博士は微笑んで見せる。


「私は感染者研究センターの所長だよ?その私が感染者についてより深く理解することができる。そのメリットの大きさを理解できないとは思えないけどねぇ。それに彼女は自分の意志で行動できる。これまでだって、誰からも束縛されずに共に旅をして来たそれに……」


 そこまで行って言葉を止めた喰代博士を麻木は訝しむように見る。喰代博士はニヤッと笑って言った。


「これ以上は話せないねぇ。この先は君たちがあっと驚いてひっくり返る内容だ。武器だけじゃなく美鈴くんに手を出さない事の確約を頂けない事には話せない」


 そう言った喰代博士に麻木は苦虫をかみつぶしたような顔になる。それはこの交渉が喰代博士の方が優位に進んでいるという何よりの証でもあった。


「……それほどの物であるという証拠は?お前がただのハッタリを言ってるだけではないという証拠でもない限り……「証拠になるかどうか分からないけど……」


 麻木の言葉にかぶせるように喰代博士は声高に言う。


「そこの研究員は知ってるだろう。佐久間と榊原という博士の名を。この二人は一時期共同で研究をしていた。そしてある結論にたどり着いた。いいかい?その結論とは感染者とマザーの由来だ。そして私はその榊原博士の研究成果を引き継いでいる。どうかな?感染者の根源に迫る結論だ」


 麻木は両端にいる研究員たちに視線を飛ばす。佐久間と榊原の名前が出て唖然としていただけではなく、その後の話で完全に開いた口を塞ぐのも忘れてしまっている。つまりはそれほどの内容だという事だ。


 その様子を見て、満足げに微笑んだ喰代博士はとどめとばかりに声を張り上げた。


「理解していただけたところで、今度は私から条件を出させて頂こう。こちらの要求はさっき言った通り十一番隊の人、物資から武器に至るまで指一本触れずに№4の元に戻す事。この美鈴君の処遇を私に一任する事。そしてさっき言った情報は、公の場で発表する事!」


 そう言った瞬間、一気に場が騒然となった。そんな馬鹿な事とか、ふざけるな!などといった罵声が飛び交う。その中涼しい顔をして立っている喰代博士に麻木が疲れたように話しかける。


 「その言葉に嘘はないんだな?それだけの価値があると、そう言うんだな?」


 麻木が喰代博士の言葉を認めるような事を口にした事で、飛び交うヤジや罵声が消え去り静寂が訪れる。そんな中、喰代博士は自信満々に言った。


「もちろんさ!」


 にこやかに答えた喰代博士を麻木は一瞬だけ睨んだが、すぐに平静を取り戻して今度は美鈴を見る。


 「喰代博士はこう言うが本当なのか?本当であればお前は自分の意志で話せるはずだ。自分の価値を語ってもらおうか」


 嫌らしい男だ、喰代博士は心の中で毒づいた。この中でいちばんおどおどしている少女にこんな雰囲気の中で話せなどと……。何とか撤回させようと考えていたが、それを美鈴の小さな声が遮った。


「わたし……は、確かに感染者です」


 自らを感染者という前代未聞の言葉に、麻木以外の男たちがわずかにどよめく。


「しかも一度は、妹の絢香と体をくっつけられ……化け物として自我をなくしていた事もあります」


 そう言うとおとなしい美鈴がキッと大人たちを睨んだ。その手にはしっかりと花音がくれたお守りが握られている。


「価値というのであれば、私の存在……私の体自体が価値があると思います。感染者でありながら自我もある。こんな理想的な実験台がいますか?」


 自らを「実験台」と称した美鈴に麻木以外の大人たちは圧倒されている。


「さらに言うなら……佐久間という男に私は改造されました。妹の絢香と肉体をくっつけて……両面宿儺として。なぜできたか。私が生まれつき感染しない体質だからです!」


 美鈴の言葉にどよめきが大きくなる。


「その私からは、もしかしたら……もしかしたら感染者に対する特効薬が作れる可能性は感じませんか?」


 そう言った瞬間、部屋の中は水を打ったように静まり返る。驚きの顔で固まる大人たちと、苦い顔をした麻木、そして苦笑いをした喰代博士。


「や、困るなぁ美鈴ちゃん。私の交渉材料の一つを簡単に暴露されちゃあ」


「あ!ごめ……」


 謝ろうとした美鈴を手を振って喰代博士は止めた。大丈夫だよと。そして見てごらんと。

 

 偉そうな男たちはおどおどと周りを見たり、麻木の様子を窺ったりしている。さっきまでの余裕に満ちた雰囲気などどこにもない小物さがにじみ出ている。それを麻木がにらみつけると一様に視線を落として黙ってしまう。それは美鈴の言葉が引き出した動揺で、決定打でもあった。


 そして深いため息をついた後、麻木は小さな声で言った。「わかった……」と。



 

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