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[完結しました!]【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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419/426

22-3

「ほっ」


 その場でくるりと回りながら相手の攻撃をいなした惟信が、青龍の技を絡めて相手に叩きつける。

 これほど技を繰り出したのはいつぶりだろうか。小柄な老人という見た目に油断した相手に本気を出す事はないし、そもそも人と出会う事が少ない。


 血反吐を吐きながら白目を剥いた構成員が崩れ落ちる。その影に隠れるようにして、近づく別の構成員がいた。

 当然惟信も気づいていたが、そこにもう一つの影が飛び込んできた。


「はあ!」


 地面を抉るかと思うほどの踏み込み、力の伝播。目を見張る動きで飛び込んできたヒナタが鞘に納めた梅雪を突き出した。


 惟信が見せた捻勁だ。


 どむっ。と重い音をさせて、目を見開く構成員に後ろ回しをくらわせて突き放したヒナタが惟信を見てニカッと笑う。


「こう?」


 そう言ってドヤ顔をするヒナタに、惟信は何も言えなくなった。都市の不穏な気配を察知して、余所者の自分は最悪入れない可能性も考えて急遽始めた技の伝授。

 基礎的な訓練は共にいるうちに行っていたが、ちゃんとした技を見せるのは初めてだ。


 それを一度見てヒナタはほぼ完璧に再現してみせた。


「……これほど嬉しいことはない」


小さく惟信は呟いた。平和だった頃に数人いた弟子は全ていなくなり、もはや自分の代で終わると諦めていた青龍の技を、こんな世界になってから伝えることができる。


 しかも相手は青龍の申し子と評しても決して過言ではないのだ。


「お師匠さま?」


 無言で見つめる惟信に、ヒナタが首を傾げる。


「おお、すまないね。いや、ほぼ完璧だったよ。あとは繰り返して練度と習熟度をあげていけばいい。ヒナタちゃんはすごいね」


 惟信がそう言うと、ヒナタは花が咲いたような笑顔を浮かべた。


 ――伝えたい。この子にワシの全てを……この子ならば


 諦めて心の底に埋めていた願望がむくむくと起き上がってくるのを惟信は感じた。

 そのためならば何も惜しくない。


「ヒナタちゃんや、次々といくからしっかりと見ていておくれ」


 優しい眼差しをヒナタに向けながら惟信が言うと、ヒナタもにっこりと笑って頷いた。


「うん!よろしくお願いします!」


 そう快活に返事をしたヒナタ。その二人の様子を歯噛みして見ている人物がいる。


「な……何をしてるんだ!ジジイとガキにいいように……。ネメシスの連中も不甲斐ない……ええい!お前らも行け!押し包んでそのまま後ろの奴らも始末してしまえ!」


 ギリギリと歯噛みする次原が、とうとう形だけ砦を警戒して見せていた構成員にも、戦いに加わるよう指示を出した。

 これで、友愛とNo.2との間に何かしらの話が通っている事が確実になった。


 そうでなければ、すぐそこの砦に対して無防備に背中を見せる事などあり得ないからだ。


「ほっほっほ……。向こうさんも本腰入れてきおった。それではよいかの?ヒナタちゃん」


 真剣な顔で頷くヒナタを見て、惟信は向かってくる大勢の構成員達の方に、まるで散歩にでも行くような足取りで近づいていく。


「さてさて……ワシの身体がどれだけ保つかじゃな」


 そう口にした惟信だったが、表情に翳りはない。むしろ晴れやかな顔をしていた。


「おらあっ!」


「くたばれ、ジジイ!」


 そこに構成員が襲いかかる。油断なく、周りを取り囲むような配置で……


「ふう……」


 静かに息を吐いた惟信は、静かに構えた。


「青龍流……颶風」


 大声でも気合いの入った声でもなく、静かに呟かれた言葉を聞いたヒナタは、すぐ後にその意味を理解できた。


 颶風……激しい風、つまり台風の意味だ。


 今、惟信を中心にまるで激しい風が吹き荒れている。そんなイメージを体現していた。


 ヒナタもよくやる、身体を回転されて攻撃を受け流したりする。惟信はさらに回転の遠心力を利用した攻撃や回し蹴りなどの技も交えて、二重の円を描いている。


 そして……ヒナタが見ている前で、惟信の動きはさらに大きくなっていく。

 足捌きを用いてその外側にもう一つの円を描いた。


 単純なパンチでも、助走というか勢いをつけた方が威力は増す。相手との距離は同じなら、直線よりも円周のほうが助走距離は長くなる。


 ヒナタは夢中で惟信の動きを追っていた。ただ円運動をしているわけではなく、所々にこれまで見せてくれた青龍の技が込められている。


 ザッ!


 地面を強く踏み込み、惟信が動きを止めて構えを解く。


 その周りには大勢の構成員が倒れてうめいていた。


「すごーい!お師匠さま」


 ヒナタは思わず声を上げた。ヒナタの剣技を見た人は、まるで舞を舞っているようだと評するが、ヒナタの目には今の惟信の動きこそ、まるで一連の舞を舞ったように見えていた。


「……ほっほっ。年甲斐もなく張り切ってしもうたわ。年寄りには応えるの」


 ヒナタを振り向いて、微笑みをたたえそう言った惟信は……そのまま倒れてしまった。


「お師匠さま!」


 慌ててヒナタは駆け寄って、惟信の頭を抱え上げる。

 苦しそうだが息はある。ただ尋常でない汗と、鼓動の早さ。高すぎる体温がヒナタの腕に伝わってくる。


 おそらく、限界を超えて肉体を酷使していたのだろう。見た目は優雅に舞っているように見えても、その動きを支える肉体には多大な負荷がかかっていた。惟信の年齢による所も大きい。


「ヒナタ!惟信さん!」


 異変に気づき、ゆず達が駆け寄ってくる。ゆず達はヒナタを取り巻き、その代わりに一番隊の細田と熊谷が残った友愛の構成員達を牽制してくれていた。


「お師匠さま……」


「ほっほ……そんな顔しなさんな。ヒナタちゃんは朗らかに笑っていた方がかわいいのう。ワシはよいのじゃ。むしろこういう機会を与えてくれた事を感謝しておるくらいじゃよ」


 大粒の汗を流しながら惟信は無理に微笑む。身体が求める酸素を普通の呼吸ではうまく補給できないのか、息遣いもおかしくなってしまい、喋るのもままならない様子だったが、惟信は満足したように言葉を綴った。


「ヒナタちゃんのような、才の持ち主に出会えて本当に幸せじゃ。……ワシの代で潰えると思っておった、青龍の技を、こうして見せて伝える事ができた……。これ以上何を望もうか……」


 息も絶え絶えになりながら、そう言うと惟信は気を失った。その顔には微笑みをたたえたまま……。


「む、いかんな。機械で言うならオーバーヒートだ。安静にして落ち着けばいいが……。しかしこの状況ではな」


 様子を見ていた如月が、惟信の脈などを見て真剣な顔をして周りを見る。


 固く閉ざされた砦の門。何もない橋の上。道路に残されて朽ちた車両達。硬いアスファルト……。

 さらには、今は手をこまねいているが次原をはじめとした友愛の構成員と阿賀部を含む白づくめ達。


 まだそれぞれ十人以上の人数は残っている。


「そんな……やだよ。お師匠さままで……。もっと、もっと色んな事を教えて欲しい。お師匠さま?私ね、ほんとは少し悔しかったの。ずっと真面目に道場に通って、技を磨いて……段位も上がったのに、飛燕を使えるのはお兄ちゃんだった。……私には結局できなかった……。朱雀の技は私には使えなかったの……」


 初めて口にするヒナタの心の奥底に秘めた気持ちを、誰も遮る事はできずに息を殺していた。


「お兄ちゃんが朱雀の技を使える事は嬉しかったの……。でもどうして私じゃないの?って思う気持ちも……あったから。でも、でもね?お師匠さまの技を見て、これだって思った。お師匠さまも認めてくれた」


 いつの間にか、ヒナタは惟信の胸に顔をうずめていた。肩を震えさせながらヒナタの独白は続く。


「弟子にしてくれて嬉しかった。青龍の技は、まるで昔からやってきたみたいに、スッと馴染んで……だから、もっと知りたい。……もっと教えてよぉ!」


 涙声で叫んだヒナタの頭に優しく手が乗せられる。


「ほっほっ……嬉しいの。こんなに嬉しいのはマコトが産まれた時以来じゃの……」


 惟信は目を閉じたままそう呟く。知らない名を口にしている事も理解していないのかもしれない。


「……意識が錯乱している。あまり喋らせない方がいい」


 如月がそう言うと、惟信の体勢を変えて呼吸がしやすいようにした。

 少しだけ惟信の顔が楽になった気がする。


 それを見ながら、肩を震えさせていたヒナタは砦の門の方を睨んだ。


「こんなに……こんなに頑張ってるのに……なんで開けないのよぉっ!」


 いまだに固く閉ざされたままの門に向かって、放たれたヒナタの絶叫は橋の上に響き、波の音と強風にかき消されていった……。

 

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