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[完結しました!]【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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21-1.代償

「まぁまぁ面白い見ものだったが……ここまでか」


 少し離れた所から戦いの様子を見ていた男が呟いた。男の視線の先には、周りを白づくめ達に囲まれ死闘を演じるカナタ達と、そこから離れた場所で筋肉が肥大化した感染者に周りを囲まれて、狂ったように哄笑している阿賀部の姿が見える。


「ふん……。あの狂人にくれてやるには惜しい……か。」


 そう言うと男は歩き出した。戦場の方に。

 


 カナタはまた一人、二人と白づくめを退けていたが、その動きは少しずつ鈍っていた。


 ――く……。体が思うように動かない。さっき噛まれた瞬間、背筋に怖気が走った。これは少し……まずったかな?


 チラリとヒナタを見ると、蒼白だった顔はだいぶ色を取り戻している。カナタの事があって集中を取り戻したのか、今の所は動きも危うげな所はない。それを見て、カナタは満足したように微笑む。


「……元々ロスタイムみたいな命だったしな。ヒナタを守れたんならよかった。後は何とか今を切り抜ける事が出来たら……」


 そう呟きながら、何か方法が無いかと視線を上げた時、それと目が合った。こちらを観察するような目。よく見ると頭の半分がいびつな形になっている。それはカナタと目が合うと面白くなさそうに言った。


「ふん。お前らとはつくづく縁があるようだ。もうこれっきりにしてほしいものだな」


 ややうんざりしたように白衣を着たその男はカナタ達を見渡した。


「お前っ!佐久間!」


 男を見て、ゆずが激しく反応した。目の前に白づくめがいなかったら突っ込んで行ったか、リョータに預けた銃を乱射した事だろう。激しく憎悪のこもった眼差しを向けられても佐久間は全く動じていない。


「あ……嫌、来ないで……」


 そして激しい反応を見せた人物はもう一人いた。佐久間の姿を見た途端、ガタガタと震えだしたのは美鈴だ。


「美鈴ちゃん!」


 それを見た花音が美鈴の視線を遮るように抱きかかえるが、美鈴は小さく縮こまるように花音にしがみついている。その美鈴と花音を守るように周りを固めたカナタ達が揃って佐久間を睨みつける。その視線を一身に浴びた佐久間は……つまらなそうに鼻を鳴らしただけだった。


「ふん。まあ仕方あるまい。無理やり捕まえられて身ぐるみはがされた揚げ句、体をいじくりまわされて化け物にされたんだからな。トラウマにもなるだろうよ」


 まるで他人事のように言う佐久間に、ハルカが叫んだ。


「あなた!人の尊厳を踏みにじっておいて……よくそんな事が言えるわね!ここまで来なさいよ、切り刻んであげるわ!」


「やれやれ、狂暴なお嬢さんだ。しかし当然ながら、私が君たちに合わせてやる義理は無いな。私がそこに行く事は無い」


 ハルカの叫びにも全く動じず、冷静な様子でそこまで言うと佐久間は一旦口を閉じた。そして、意味ありげな目線をカナタに向けた。


「な、なんだ?」


 明らかに何か言いたげな視線を向けられてカナタが気味悪そうに佐久間を見る。すると佐久間は初めて、薄く笑って……言った。


「私がそこに行く事はないな。()()()()()()()()はあってもな。分かるな?死にたくないなら分かるはずだ」


 そう言うと、まるで高みの見物をするように佐久間はそばにあったブロックに腰かけると、手を組んでカナタ達を見ている。それはまるで、これから始まる事を見物するような雰囲気だった。


「……ふざけないで!訳の分からないことで……え?」


 佐久間に対して言葉をぶつけていたハルカが信じられない物を見たように動きを止めた。


「うう……っ!」


 佐久間におびえる美鈴も、息を飲む。そして佐久間が姿を現してからも、関係なく襲ってくる白づくめたちを近づけないように奮闘しているヒナタやゆずも……そして、今も一人の白づくめに致命傷となる一撃を加え、後ろにステップしたカナタもそれを見て、一瞬言葉をなくした。


 バックステップして、斬った白づくめと離れた瞬間、カナタの胸から刀が生えてきた。


「は?」


 一瞬間抜けな声を出したカナタだったが、それを刀で刺されたものだと自覚する前に、再び不快な感覚に襲われた。……それは、ヒナタをかばって感染者から傷を受けた時に感じた強烈な悪寒だった。


 刺された刀が引き抜かれ、同時にカナタの全身を強烈な悪寒が駆け巡り、膝から力が抜けていく。なんとか倒れまいとこらえるカナタの耳に、カランという何かが地面に落ちる音と場違いに軽い調子の声が聞こえてきた。


「勘違いせんといてな?別に隊長さんに思う所はないねん。ただな?やっぱりうちは死にたくないんや」


 それを聞きながら、カナタは膝をつく。


「お兄ちゃん!」 「カナタ君!」


 ヒナタやゆずの悲鳴に交じって、タタタッと走り去る足音が遠ざかっていった。


 ◆◆◆◆


 激しい喧騒に包まれながら、夏芽は拳を握りしめた。佐久間が姿を見せた時、その時が迫っている事を理解していたからだ。夏芽はパニックが起きた時、それを最前列で見ていた。ふらふらと歩く男、誘われて食事に行こうとしていた男が噛まれて血まみれになった時、夏芽の頭は真っ白になりその場から逃げ出した。

 その後も必死に逃げ回っていると、見たのだ。夏芽の目の前で噛まれた男が、何事もなければ共に食事に行っていたであろう男が血まみれになりながら人を襲う方になっているのを……


 その時から、夏芽の頭の中にはその光景が消えなくなった。そして思うのだ。死にたくない、そして、ああなりたくない。と……


「死ぬほど恨まれるんやろうなぁ……」


「でも……ごめんな。どうしても無理やねん……」


最後にそう呟いた夏芽は、震える膝を叱咤して動き出した。


そして思い出す。佐久間からの伝言が書いてあった紙片の言葉を……


--お前はじきに発症するだろう。そうなりたくなければ手土産を持って私の所に戻れ--


 そう記してあった。


 

 護衛されながら、喰代博士はその一部始終を見ていた。激しい混戦になってしまい自らもナイフを握って周りを警戒していた時、佐久間が現れた。何人かの意識は佐久間に向き、それ以外の人たちがそれをカバーするように白づくめをけん制しだす。

 喰代も慣れないながらナイフを振り回して何回かは白づくめを斬り付けている。致命傷には程遠い攻撃だが、一瞬足を止めれば他の誰かが倒してくれる。


「ん?夏芽ちゃん……」


 喰代の視界に不自然な動きをする夏芽が映った。普段死にたくないと公言している夏芽は積極的に動かない。周りを完全に囲まれ喰代ですらナイフを振り回す事態になっても自分から動こうとはしていなかった。そんな夏芽が白づくめが殺到しているカナタ達の方に動いている。


「何を……夏芽ちゃん?」


 訝しんでそう声をかけた喰代を少しだけ振り返り、力のない笑みを浮かべた夏芽を見た時、先ほど佐久間が言った意味不明の言葉と夏芽との関連が頭の中で結びついた。しかし、止める暇などなかった。夏芽はカナタに向かって走った。そして致命傷を負って地面に倒れている白づくめの一人が、最後の力を振り絞って夏芽に短めの刀を差しだした。その刀を取った夏芽は、渡して力尽きた白づくめを踏みながらカナタに走り寄り……


 背中から刺し貫いた。


 ◆◆◆◆



「ぐぅっ!」


 片膝をついたまま、何とか倒れるのをこらえたカナタの目に、佐久間の所に行った夏芽が何かを注射されるのを見た。


 ――人であることを捨ててまで、生きたい、のか?


 心の中で問うがそれに答えは帰ってこない。それどころか、強烈な悪寒は変わらずカナタの体を蝕んでいる。力の入らない体を何とか動かそうとしていると両脇から抱え上げられ、どこかに連れていかれようとしている。顔を動かすと、カナタの両脇を必死の形相で抱えるスバルとダイゴの顔がある。


「ダメ、だ。陣形を……崩す、な」


 何とか声を絞り出すが、二人の友人は聞き入れようとしない。そうして……抱えられて移動しているうちに、体中をめぐっていた悪寒が背中に集まり、カッと熱を帯びた気がした。そして、スッと身体が楽になる。


 その感じは、症状が良くなって楽になったというよりも、最後までの猶予の時間であると……なぜかそうはっきりと感じた。それと同時に朦朧としていた意識がだんだんとはっきりしていった。


「……スバル、ダイゴ。悪い、自分で動ける。」


 幾分はっきりとした声に、二人はカナタの顔を見る。――先ほどよりも目に力があるのがわかる。スバルとダイゴは顔を見合わせると少しだけカナタを抱えていた手の力を緩めた。


「うっ……」


「おい!無理すんな。やっぱり掴まれ!」


 自分の足で立った瞬間、ふらついて倒れようとしたカナタにスバルが手を伸ばした。しかしカナタはそれを断り、なんとか自分の足で走る。走りながら刺された傷を見ると、血はもう止まっていて泡のようなものが傷から出てきているのが見える。


 それを見て、カナタの頭がスッと冷えた。それは感染者が急所以外に傷を受けた時に見せる反応だった。


 


 

 

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