21-2
「どっけえぇぇ〜っ!」
立ち塞がった白づくめにヒナタの怒声がぶつかる。
「ひっ……」
そのあまりの気迫に、気持ちで負けた白づくめは一瞬だけ怯んだ。
そして、次の瞬間ヒナタの刀が閃き、首から大量の血を流しながら膝から崩れ落ちる。その横をヒナタが……そして仲間達が駆け抜ける。
「ぐうっ……」
「おい、カナタ!しっかりしろ、気をしっかり持てよ!っざけんなよ、こんなとこで自分だけ死ねるなんて思うなよ!」
スバルが倒れ込みそうになったカナタの服を掴んで、怒鳴り散らす。
怒鳴り散らしながも、走れないカナタに回した手は離そうとしない。それはカナタの反対側を抱えるダイゴも同じだった。
タタタタタタ!
スバル達が走り抜けた後には、ゆずがMP5を構えて膝立ちで射撃している。もはや弾丸の節約や発砲音など、後の事などまるで考えていない射撃だ。
すぐに空になったマガジンを外すと、ポーチに……戻さない。その場に落ちるにまかせて次のマガジンを叩き込み、初弾を送り込むと全弾連射する。
ゆずの視界の中では、白地に赤い花がいくつも咲いて……溶けて流れていく。それは手持ちの弾薬がなくなるまで続き、最後まで撃ち尽くすと、それでも後から湧いて出てくる白づくめに向かって投げつけた。
「ちっ!」
舌打ちを一つ残して、ゆずは身を翻した。まだ仲間の背中は見えている。
そこまで脇目も振らずに走った。
「目標逃走!」
「逃すな、追え!弾もいつまでもあるわけではない、いつかは切れる。その時こそ我らが神をお迎えする時だ!今こそその試練の時と思え!」
隊長格らしい白づくめがそう叫んで、身振りで進むように伝えると、次々と同志達が姿を現し追跡を始める。
「ふぅふぅ……我らが神、救世主様をとりもどし……ふぅふぅ、神の眷属に加えていただくのだ……はぁはぁ。ん?これは……」
隊長格の男はゆずが走り去った方角に向けて、追撃をするように指示を出しながら、走る部下達が何度も足蹴にしながらこっちに転がってきた物を見た。
それはさっきまでゆずが使っていたMP5だ。特殊部隊仕様なのか、サプレッサーや折りたたみのストックもついているし、何か電子部品もついている。何より整備が行き届いているのか、土汚れこそついているが稼働部にはオイルがついている。
「ほほう。これは我が武器とさせてもらおう。ククク……弾が切れたからといって捨てていったか!」
ほくそ笑んで、残弾がないか確認するためにマガジンキャッチを押す。
しかしマガジンは落ちない。何度か振ってみても落ちない。
「ち……銃身が歪んでるのか?調整が必要かもしれんな」
そう呟きながら、直接掴むと力を込めた。やがて、ガリっという手応えと共にマガジンが取れた。同時にどこか押してしまったのか、ピピッという音がした。電子部品にもランプが点灯している。
「む?何かスイッチを触ってしまったか?……まあいい、この銃に合う弾なら十分にあったはずだ」
隊長格の男はいい物を拾ったと満足する。そして電子音が鳴ってきっかり五秒後、隊長格の男は閃光の中にいた。
「は……?」
ドオォン
爆発の音と振動を感じながらゆずが呟いた。
「また一匹……間抜けが釣れた。お仲間を巻き込んで……」
「ゆず!こっちだ!」
今の道より少し狭い道に入って、すぐに右側から声が聞こえる。
見るとこじんまりとしたスーパーの裏手にシャッターを半分おろして、ゆずを呼ぶスバルがいた。
後ろからは爆発に巻き込まれなかった白づくめの足音が聞こえている。
ゆずはそのシャッターに頭から飛び込む。同時にスバルががシャッターを下ろした。
はぁはぁ……
荒い息遣いが、いくつも聞こえる。本来ならここでしばらく息を潜める所だが……
すぐに手持ちのライトがかき集められて、その光が床に倒れるカナタを照らした。
「お兄ちゃん!」「カナタくん!」
ヒナタとゆずが飛びつくようにカナタのそばにしゃがみ込んだ。
「明かりをもっとくれ!ゆずくん、すまないが場所をあけてくれ!」
緊迫した口調で、自分の荷物を抱えて喰代博士がカナタのそばに座る。
そして荷物からガンシリンジを取り出すと、何も入っていないカートリッジを装填してカナタの腕に押し付けて引き金を引く。
プシュ
空気が抜けるような音と共に、カートリッジの中に血液が入ってくる。
しかし、いつもならこの場合、まず薬品を注入するはず。しかし、喰代博士はまずカナタの血液を抜いたようだ。
「……博士?」
訝しげにゆずが声をかけたが、目があった喰代博士を見て何も言えなくなる。
その顔には今までに見たことがないほどの焦燥感を感じた……。
喰代博士はカートリッジを取り出すと、別の瓶から薬品を注入した。
そして、カナタの血液のカートリッジを軽く振って、変化を見ている。
息が詰まるような数秒を経て……、喰代博士が深く息をついて、カートリッジを下ろした。
それを見てゆずは自分も息を止めていた事に気づき、何度も深呼吸をした。
「……博士」
ヒナタがすがるような視線を向ける。
喰代博士博士は、そんなヒナタをまっすぐに見つめてから、ゆっくりと首を振った……。
「そんな……」
震える手で口を覆ったヒナタは、目を見開いて喰代博士を見つめる。
「ヒナタ……」
我を忘れて叫び出しそうなヒナタを見て、ゆずが動こうとする。さっきから、すぐ近くを行き来する足音がひっきりなしに聞こえている。
シャッターが下りているのを見つければすぐに隠れている事がバレるだろうが、今大きな声を出すのはまずい。
「ひな……た」
まさに大声を出そうとしたヒナタの頭の上に、手のひらが乗せられる。
その瞬間、その手が誰のものであるか理解したのか、ヒナタはなんとか声を出すのを堪えた。
「おに……いちゃ、ん」
両目から流れ出した涙を拭わずに、そう言ったヒナタの頭をカナタが撫でる。
「なに、取り乱してん、だ……らしくない、ぞ」
そう言いながら、体を起こそうとするカナタにゆずは肩を貸した。
「悪いな、ゆず……。お前も聞いてくれ」
そう言うと、カナタは大きく息をついた。少し持ち直したように見える。
「ふう……。博士、やっぱりだめですか?」
「…………ああ。さっきの戦闘で、もしくは……夏芽、くんの攻撃で、君は確実に感染した。そして……私が開発した試薬。それを用いても発症は免れない」
喰代博士のその言葉は、全員を動揺させるのに十分なものだった。
それぞれが、近くに敵がいる事も忘れ、話し出そうとするのを、カナタが止める。
「みんな、落ち着け!……これは、予想できた未来だったろ?俺は元々詩織ちゃんから半感染の状態にさせられていた。そうじゃなかったら、俺は明石大橋でリタイヤしてたんだからな」
声量は抑えたものだった。むしろこの場にいる誰よりも落ち着いて聞こえるその声に、全員が自分を取り戻して行く。
「ヒナタ……ごめんな、ロスタイムは終わりだ。やっぱりお前に隊長やってもらう事になった。ロスタイムで……お前に少しでも参考になるようなもんが見せられたならよかったんだが……。」
ヒナタは口を押さえて、大粒の涙を浮かべている。声も出せずにイヤイヤと首を振る。
そんなヒナタの頭を撫でながらカナタは優しい口調で言う。
「大丈夫だ。お前ならやれる。兄ちゃんは信じてる……そうだ、お前にやった「十一」返してくれないか?」
優しい口調のままカナタが言うが、ヒナタは首を振るばかりだ。カナタは優しく微笑んだまま、そっとヒナタの腰に手を伸ばして「十一」を鞘ごと抜いた。
なんの抵抗もしなかったヒナタは、黙ってカナタを見つめる。まるで、その目に刻み込むように……。




