よんじゅーきゅう
誤字のご指摘、ありがとうございます。
大変申し訳ないのですが……
投稿前に文章を見返すと、違うパターンが何個も思い浮かんで、書き直し、読み返し、また違うパターン……と、最終的にどうすればいいか分からなくなり、何も書けなくなるタイプなので……
一気に書き切って投稿、投稿後に見つけた誤字を修正していくというスタイルを取っております。
投稿後に見直して、誤字を見つけたら逐一修正しておりますが……人間なのでそれでも見落としてしまうことがあります。
なので、もし誤字を見つけましたら『島田ぁ……お前、誤字を直し忘れてんぞ』と。
お馬鹿な島田めと思って、島田が自力で誤字を見つけて直すまで生温かい目で見守ってくださるか。こそっと誤字を教えてくださると、本当に助かります……。
こんな島田が書いている作品ですが、今後とも楽しんでいただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
タニアがロキに好意を抱いているかもしれないと思った日から……マリアはなんだかソワソワする日々を送っていたが。
今日はいつもと違う騒つき……酷い、胸騒ぎがしていた。
「ママ……? どうしたの……?」
いつものように……。ロキ達と中庭で駆けっこをしていたホープが、中庭の隅に置かれたガーデンベンチに座っていたマリアの膝に駆け寄って、心配そうな顔をしながらこちらを見上げてくる。
どうやら無意識の内に、顔に不安が出ていたらしい。マリアは今日は〝大丈夫〟だと言えなくて。素直に感じた気持ちを吐露してしまう。
「何故、でしょうね……。胸騒ぎが、するんです」
「……ホープが心配するのも当然だな。顔色がとんでもなく悪いぞ、マリィ」
ロキも近づいてきて、マリアの顔を覗き込む。そして、表情を曇らせる。
「デイジー」
「温かいお飲み物ですわ」
「ありがとう、親しき隣人」
「…………ありがとうございます、親しき隣人」
サッと現れたデイジーが用意した紅茶を受け取り、マリアは喉を潤す。けれど、胸騒ぎは強まるばかり。
ふと、何かに気づいた様子のデイジーが姿を消した。その瞬間、マリアは顔を上げる。
──きたと、思ったのだ。
「失礼いたします、マリア様」
「失礼するよ、マリア嬢」
何故、デイジーが主人ではなくマリアの名を呼んだのかが分かった気がした。
客人の目的がロキ達ではなく……彼女だったからだ。
別邸の中庭に現れた人……王太子ディナントは苦しそうな、辛そうな顔でマリアを見つめる。
そして……彼女の側にきて膝をつくと。頭を下げてはならない王族でありながら、深々と。マリアに頭を下げた。
「!? で、殿下ぁ!? 何をなさって──」
「黙ってろ、タニア。こっちにおいで、ホープ」
「う、うん」
真面目なタニアをロキは黙らせてながら、マリアの膝に縋り付いていたホープを自分の方に呼んだ。ブレイクとグラディスも、息を呑んで状況を見守っている。否、見守るしかない。
ホープが完全にロキの側まで移動してから……。ディナントは……ゆっくりと、口を開く。
「……失礼だと。不躾な願いだと、分かっております。本当は、国王陛下にも、止められてはいるのです。この問題は自国の問題ゆえ……貴女様の手を煩わせてはならないと。けれど……けれど! わたしは、愛しい人を救う手段に、手を伸ばさずにはいられなかったっ……! お願いです……! お願い、いたしますっ……! どうかお力をっ……お力をお貸しいただけないでしょうか……!? エキセア王国の聖女──マリア様!」
『「!!」』
マリアだけではなくロキ達も、息を呑んだ。
いつから気づいていたのだろうか……? いや、案外最初から気づいていたのかもしれない。気づいていて、それでも知らないフリをしていてくれたのかもしれない。
けれど、そんなことを言っている状況ではなくなってしまった。聖女の力を必要とするような事態が、起きてしまった。
「…………一週間と少し前。ミランダが、倒れました」
「!」
「国内外から、あらゆる術師を、医師を呼びました。回復魔法、解毒魔法、両方が効かぬのです。ですから、どうか──」
「何故、もっと早く私を呼ばなかったんですか? それほどの時間があって、なにをしてたんです。ごちゃごちゃ言ってる暇はありません。今すぐに、ミランダ様の元へ案内してください」
「! マリア、様っ……」
ディナントが顔を歪ませた。本当は泣きたいぐらいに、辛かったのだろう。
それはそうだ。なんせこの国の王太子夫妻は相思相愛、互いをとても大切にしあっているのだから。最愛の女性が倒れたとなれば、不安にならないはずがない。
マリアはサッと立ち上がり、ロキ達に一言断る。
「ロキ、ホープ。ごめんなさい。私は行きます。ミランダ様の容態が分からないので、どれくらい側にいなくてはいけないかが分かりません。なので、子守はしばらくできな──」
「おぅ。じゃあ、俺らも行くか」
「う? うん!」
「…………え?」
ロキがホープを抱き抱えた。
多分、ホープはなんだかよく、分かってないと思うけれど。彼らがついてくる気満々なのは、間違いない。
「マリィ。実のところマリィがただモンじゃないと一番最初に気づいてたのは俺です。ってか、ふつー常時回復型の魔力回復魔法なんて、一般的な治癒師は使えねぇからな? そりゃあいやでも気づくよな」
「そ、そうだったんですか……」
マリアはひくりっと、頬を引き攣らせる。
彼に一定時間魔力が回復する魔法をかけたのは、初めて会った時のことだ。つまり……あの時から。ロキはマリアが只人ではないと、知っていたということなのだろう。
「でも、マリィはマリィだし。俺としては聖女だろうが魔女だろうが変わらんと思う訳。現に、今までだってふつーに接してたろ?」
「…………ロキ」
聖女と分かっても。聖女と知ってても。
変わらぬ態度であったロキに、マリアはなんだか胸がむず痒くなる。
そんな彼女に彼はニカッと笑いかけて、それからディナントに強く。宣言した。
「とゆー訳で、殿下。マリィが聖女だと公になった以上、彼女にも護衛は必要不可欠です。なので、俺もついてきます。ってかこの状況だと俺が一番、適任でしょう」
「そう、だね……。うん……。ロキ。君に、《魔王の卵》ホープの護衛に追加して、聖女マリアの護衛任務を与えるよ」
「承りました」
「で、でしたらわたくし達も──」
「いや、ロキ以外の三人はここで待機してくれ」
「!? 何故ですの!?」
ロキと同じ部隊隊員として。共について行こうとしたタニアは驚きの声をあげる。
しかし、そんな彼女達に対して、ディナントは残酷な真実を告げる。
「足手纏い、だからだよ」
「「「!!」」」
「本当は君らにもっと力があれば護衛役を続けさせたんだけど……君らの実力はこの間の模擬戦で分かってしまったから。だから、《魔王の卵》と聖女、両方を守るのには君らじゃ役不足だ」
「…………では、セルリーツ卿は、問題ないというのですか?」
グラディスが問いかける。でも、その顔は答えが既に分かっている顔であった。
それでも、聞かずにはいられなかったのだろう。ディナントは微かに首を傾げながら、それに答えた。
「分かってるだろう? 君らが一番、彼から訓練を受けてきたんだからね。ロキは君らの何倍も強いよ。逆に、君らの存在はロキの邪魔になってしまうよ」
「…………そう、ですね……やはり……そう、でしたか……」
「……殿下。そろそろ」
「うん、行こうか。マリア嬢」
時間が惜しかったマリアは、失礼だとは分かりながらも話に割り込んだ。
ミランダに一般的な治癒師の魔法が効かない以上、事は一刻を争う。
「では、失礼します」
「じゃあな。ホープ、バイバイの挨拶」
「ばいばい!」
ディナントに連れられ、マリア達は中庭を後にする。別邸の玄関口で待っていた馬車に乗り込み、王宮へと向かう。
席に座ったマリアはかつてのように……瞑想しながら、魔力を練った。
(ミランダ様……)
マリアがこうしてここにいれるのは、彼女が後見人として面倒を見てくれているからだ。
時々サボ──……息抜きがてらに様子を見にきてくれて。いつも気にかけてくれた。
国王陛下や王太子、ロキがマリアの正体を知っていたということは、ミランダも同じはず。なのに彼女は、この国は、聖女マリアを今の今まで利用しようとはしてこなかった。
どんな暮らしを送ってきたかを知っていたから、利用しまいとしてくれたのだろう。だから、この件にマリアの手を借りようとせずに……自分達でなんとかしようとした。
きっとそれは……セヴェール王国の王族達の、優しさ。
でも──……。
(こんな風に穏やかな暮らしができるのは……この国の人々のおかげなのですから)
──ガタリッ。
馬車が止まる。王宮へと辿り着く。
(恩返しぐらい、しませんとね)
先に降りたロキが、手を差し伸べてきた。その手を取って馬車から降りながら……マリアは堂々と、前を向く。
マリアの意識が子守のマリアから聖女のマリアへと切り替わる。
そうして馬車から現れたのは……祖国にいた頃とは比べ物にならないほどに神聖で、厳かな空気を纏った。
美しき聖女の姿で、あった。




