表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/53

よんじゅーなな

 




「あぁ……。また、染め直さなくちゃ……」



 鏡に映る髪を見て、溜息を溢す。

 髪は伸びるモノなのだから仕方ないのだと思っていても、数日置きに髪を染め直さなければならない中々の労力だ。

 やろうと思えば魔法で誤魔化すことはできる。しかし、不測の事態が起きた時のことを考えると染めてしまう方が安全だった。

 だから、本当に大変だけれど……染める。自身の本当の髪の色が〝暗灰色〟……黒に近い色であることが周りの人達にバレてしまわないように、染め上げる。


「…………」


 本当に、ままならない人生だ。

 望んで、こんな風に生まれた訳じゃないのに。

 望んで、この国に生まれた訳じゃないのに。

 黒に近い髪と赤に近い瞳の色を持つだけで、迫害される。黒髪紅目というだけで、殺されそうになる。

 …………本当に、憎らしい。


「………………」


 水魔法の応用で、瞳の色を変えた。流石に目の色は魔法でしか誤魔化せない。

 そうやって準備を終えた後の姿が鏡に映った。偽物の色を纏った、自分の姿が。


「……………………」


 ……歪んだ表情。いつからだろうか……? 気づいた時には人がいないところではこんな顔をするようになってしまった。

 気をつけないといけない。外に出たら、自分は。

 〝  〟は、殊勝な立ち振る舞いをしなくてはならないのだから。


「…………行かなくちゃ」


 〝  〟は部屋を後にする。

 儚い笑顔を貼り付けて、大人しい演技フリをしながら。


 そうして今日も……〝  〟は、普通のフリをして生きていく──……。



 ◇◇◇◇



(まだまだ時間がかかりそうだなぁ……)



 中庭で、ホープの体力作りのための駆けっこを見守るロキは、「ひぃぇぇぇ〜……坊ちゃん元気ぃ〜!」と悲鳴をあげるブレイクを、静かな目で観察していた。

 あの訓練観覧から一週間。

 ブレイクは以前と同じ態度で飄々と暮らしているが、タニアの方がギクシャクとしている。まぁ、彼女の性格を思うと仕方ないかもしれない。

 ……が。結局のところ、あの時浮き彫りになった問題は今だに何も、解決していない。

 ブレイクの抱えている問題は既に、ロキは把握済み──黒騎士としての実力を駆使した──なのだが。この問題はロキではなく、ブレイク自身が解決しなくてはならない問題であったため、下手に手出しするのを止めた……という経緯があった。

 というか下手すると、ブレイクに不信感を抱かれてしまうし。一気に関係が悪化する可能性があるし。一そうなると結果として、ロキ達のギスギス感がホープの護衛に支障をきたすことになる。

 だから、本人が自ら、打ち明けて。問題を解決するのが一番穏便であるのだが。


(そこまで至るにはまだ信頼が足りない、よなぁ)


 ……とはいえ。結局、この件は時間が経てば解決する話ではあるのだ。

 なんせここで働いていれば。いい意味でお節介かつ柔軟な思考で生きてる王族達と交流する機会が多いのだから、その内ブレイクの抱える問題について彼らが関わってくるだろうし。

 信頼してくれるようになれば、いつか打ち明けてくれる可能性が高い。信頼されるには、積み重ねてきた時間が必要だ。共に任務をこなし、信頼できるとブレイクが思うようになれば、自ずと解決に至るはず。

 後、純粋に……ホープの無邪気さに絆されていっている気配がする。

 ホープのことを好きになれば好きになるほど。比例してこの子を守ってやりたいと思うようになるものだし。

 ホープの可愛い笑顔は、全てを解決するような癒し効果がある。


(うん。やっぱウチの子最高)


 ロキはそんな親バカな感想を抱きながら……ブレイクに捕まえられて、楽しそうに笑うホープを見つめるのだった。



 ◇◇◇◇



「きぃぃぃぃ! ム・カ・つ・く・わっ!!」


「「…………」」


 何故か恒例になりつつあるマリア、タニア、ミランダによる女子会の席。

 体力作りのための駆けっこをしているホープとロキ達──なお、ディルムント王子に剣を教えるのは、正式になしとなった──の姿が見える中庭の隅っこに用意された席で……ミランダが王太子妃らしからぬ奇声をあげながら、ケーキをやけ食いしていた。

 最近、なんか別邸に来る頻度が多いなぁ……。なんかどんどん機嫌が悪くなっていってる気がするなぁ……。とは思っていたけれど。まさかここまでの状態になるとは。マリアは困惑を隠せない。

 取り敢えずコソッと精神安定の魔法をかけた。甘い物の効果もあって徐々に冷静さを取り戻したらしいミランダは、ふぅと溜息を溢して。

 マリアとタニアに愚痴り始めるのだった。


「以前お話ししたジェンナのことは、覚えているかしら」

「……あ。あの、問題児さん? でしたか?」

「えぇ……あの女ぁ……! また学生時代のようにディーに粉かけまくっているのよぉ……!」


 ミランダ曰く。

 ジェンナは学生時代──既にミランダと婚約していた当時王子であったディナントに粉をかけまくっていたのだという。色仕掛けをかけて、ミランダから彼を奪おうとしていたのだ。

 まぁ、結局のところ。ディナントの愛は揺るがなく。無事にミランダと結ばれ、ジェンナは隣国に嫁いだのだが。

 この国に戻ってきたからと言わんばかりっ……! 再び、ディナントに色仕掛けをかけて寝取ろうとしてきているのだと、ミランダは語った。


「な、何故に……」

「簡単に言えばわたくしへの嫌がらせ、でしょうね。わたくしは節操なしなあの女が嫌いだったように、あちらもわたくしのことが嫌いだったようだから」

「そ、そうなのですか……」

「犬猿の仲なのよ、犬猿の。一生、わたくしはジェンナとは仲良くできないわ」


 ただ一人、ディナントとの愛を貫くミランダと、誰から構わず異性とはしたない行為に溺れるジェンナ。ジェンナに一切靡かぬ男に愛されるミランダ。

 ジェンナがミランダを嫌うのは、それで充分すぎる理由なのだろう。


「えっと……直接注意するのは、駄目なのですか?」

「…………言ったでしょう。マリアちゃん。あの子は神子だから、下手に突っつくと面倒くさいのよ」

「けれど、このままでは王太子殿下と妃殿下に被害が及び続けますわ」

「……そうなのよねー! まぁ、ディーは全然? これっぽっちも? ジェンナに靡かないから! そこまで心配する必要はないのだけど! でも、わたくしのディーに付き纏っているのを見るのは、腹立たしくて仕方ないのよっ……!」


 また王太子妃が荒ぶり始めた。再度、コソッと精神安定の魔法を発動させるマリア。

 そんなミランダの姿に……顎に手を当てて考え込んでいたタニアは、「うーん……」と小さな声を溢しながら。ポソポソッと呟くのだった。


「…………また、ジェンナ様がどちらかに嫁いでしまわれたら良いのですけれど。この国以外の、どこかに」

「…………それはそうだけれど。そんなに上手くいかないと思うわ。あの超絶☆問題児を引き取ってくれそうな奇抜な国なんていないでしょうし」

「ですわよね……」


 真剣な面持ちで話し合うタニアとミランダを、マリアは他人事のように見つめる。

 それも仕方ない。だって、マリアはミランダからの話でしかジェンナという女性のことを知らないから、彼女がどれほどとんでもないかが、全然実感を伴って理解することができなかったからである。

 ……と、そんな時。ミランダが何かを思い出したように「あっ」と声をあげる。

 どうしたのだと首を傾げていると、王太子妃は「一応伝えておくわね?」と、思い出した話を告げるのだった。


「今度……一週間後ぐらいに、ミラベル主催のお茶会が王宮で開かれるの」

「お茶会、ですか」

「えぇ。この別邸は会場から離れているから特にこれといった変わりはないと思うのだけど。でも、これからミラベルは準備で忙しくなるから、暫くここには遊びに来れないと思うの。悪いのだけど、ホープ君にそう伝えてくれる?」

「…………あぁ……。分かりました。はい」


 マリアはその言葉に納得する。

 ホープは何故だかとんでもなく……ミラベルに懐いているのだ。王女が三日ほど顔を出さないだけで「ねぇねぇ、みーちゃんは?」と聞いてくるくらいに。

 だから、彼女が暫く顔を出さないとなれば……明らかに拗ねるに決まっている。


「大変かもしれないけれど、よろしくね」

「頑張ります……」


 苦笑気味のミランダにそう言われて、マリアは肩を落としながらそう答えるしかないのだった。



 きっと……誰も、想像しなかった。

 このお茶会が、運命の日になるだなんて。きっと、誰も。



 ミラベル王女主催のお茶会が開催された日──……。


 王太子妃ミランダは、毒に倒れて意識不明の重体を、負うことになるのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ