表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/53

さんじゅーろく

 




「ちょっといいかしら?」


 ロキ達の訓練見学を禁止された翌日──。

 屋敷内のホープの部屋でホープと遊んでいたマリアと、本日のホープ付きであるタニアとグラディス──厳しめ訓練は一対一で行われることになっていた。別名、この二人は初日の地獄を逃れたとも言う……。なお、後日順番に地獄を味わうのは確実──は、いつものように別邸へとサボ──……ごほんっ。息抜きにやってきた王太子妃ミランダに声をかけられていた。


「申し訳ないのだけど……ちょっと女性同士のお話をしたくて。マリアちゃんとタニアちゃん、一緒に来てくれるかしら?」

「……申し訳ありません、王太子妃殿下。それは少しばかり障りが……」


 タニアが言葉を濁すが、その表情はついて行くのは難しいと物語っていた。

 しかし、それも当然だ。タニア達の仕事はホープの護衛である。グラディスは残ることになりそうでも、勤務中である今、王太子妃からの要請であろうと護衛対象から離れるなんて……真面目な彼女ができるはずもない。


「……無理を言ってしまってごめんなさいね。でも、大事な話なの。なんだかんだとわたくしも忙しいし……今ぐらいしか時間の都合がつかないのよ。うーん……なら、わたくしの護衛を代わりに──」


 ミランダが自分の後ろに控えていた護衛役の騎士達の方を見る。

 けれどそれは、ホープではなく頼れる家事妖精の言葉で遮られた。


「お話の最中、失礼いたします。少々お待ちくださいませ。只今、ロキ様をお呼びいたしますので」


 サッと空気から滲むように現れ、美しい一礼をしてから、再びサッと消えるデイジー。

 暫く待つと、デイジーを引き連れたロキが部屋へとやって来る。

 彼は既に、話を聞いていたらしく。タニアに護衛付きの交代を申し出たのだった。


「お待たせ。ミランダ妃殿下から大事な話があるんだろ? ここは俺が代わるから行っていいぜ、部隊長」

「……では、よろしくお願いしますわね。二人とも」

「おう」

「承知しました」


 ロキとグラディスに護衛役を交代し、マリアとタニアはミランダの先導で部屋を移動する。

 連れて来られたのは……一階にある応接室。部屋の真ん中に置かれたソファにそれぞれが座ると、ミランダは両手を組んで……鬼気迫る表情で話し始めた。


「あのね? どうやら我が国に超絶☆問題児──ジェンナ・ロッシェータが帰ってきているみたいなの」


 マリアはそうは言われても誰のことだか分からなくて、きょとんと首を傾げる。

 しかし、そんな彼女に反して……タニアはギョッとした顔で叫んだ。


「!? ジェ、ジェンナ・ロッシェータ!? まさか()()……ジェンナ・ロッシェータ様ですの!?」

「そう……そのジェンナ・ロッシェータよ……! タニアちゃん……!」


 …………どうやら、そのジェンナ・ロッシェータという人は有名であるらしい。

 マリアは困惑した様子を隠さずに……問いかけた。


「……あの……超絶……問題児、とは?」

「……あぁ、ごめんなさいね。マリアちゃんは知らないわよねぇ……」

「……希代の毒──……いえ、この言い方はよろしくありませんわね……。セヴェール王国史上、一番の問題児と呼ばれる方ですわ」


 そうして語られたのは……セヴェール王国一の問題児の話。

 ジェンナ・ロッシェータは、ロッシェータ公爵家の令嬢でありながら……貴族令嬢とは思えないような節操なしで。顔が良ければ貴族だろうがなんだろうが構わずに、様々な男性と浮名を流した令嬢であったという。

 そんな彼女は数年前に、東の隣国オレッド王国の豪商に嫁入りしていたのだが。今回、〝とんでもないこと〟をやらかしたため、離縁されて国に帰ってくることになったんだとか。

 そこまで語ったミランダは大きな溜息を零して……憂いを帯びた声で話を続けるのだった。


「…………昔ほど厳しくはないのだけど。それでも貴族の令嬢は平民の女性と違って、貞操を重んじる風潮ではあるの」


 万が一、他の男の子供でも妊娠していたら……血統の略奪となってしまう。ゆえに、未婚の貴族女性は乙女であることが好ましいということなのだろう。


「でもね。ジェンナはそんなの気にしない。誰から構わず肌を重ねちゃうの。それこそ既婚者だろうがなんだろうが関係なし、でね」

「……それは……許されるのですか?」

「当然、許されるはずがありません。何故ながら、我がの国は一夫一妻制、結婚したら不貞は駄目って法律ですもの。けれど……あの方が問題児として扱われる所以ゆえんが、ここにありますの」

「……所以?」

「そう。ジェンナの母親は……シャーワット王国の王女であるのよねぇ〜」


 シャーワット王国は、閉鎖的な国であった。

 しかし、数十年前──彼の国は大飢饉に襲われ。自国ではどうすることもできなくなってしまったため、シャーワット王国の姫君を嫁入りさせる代わりに、セヴェール王国か、支援を受けるという……国家間での政略結婚が行われたのだ。

 けれど、当時の王族にはシャーワットの姫君と釣り合う年齢の王子がいなかったため……当時はまだ公爵家嫡男であったロッシェータ公爵に白羽の矢が立つことに。

 そうして婚姻を結んだ二人の間に生まれたのが……ジェンナ・ロッシェータであった。


「でもね? ジェンナの母親が隣国の王女で身分が高いからってことよりも……ジェンナ自身が特別な瞳──《天神の瞳》というモノを有していたことの方が、問題なのよ」

「……《天神の瞳》?」


 聞き覚えのない言葉に、マリアは首を傾げる。

 するとミランダは「さっきも言ったように閉鎖的なお国だから、わたくしも詳しくはないけれど」と前置きをしてから、説明をし始めた。


「シャーワット王国って結構霊的(スピリチュアル)というか……かな〜り、神様への信仰が強めなお国柄らしいの。だからね? 《天神の瞳》っていう、王族の中でもほんの一握りしか発現しない瞳を持って生まれた子供は神に愛された神子……って風習があるそうよ。つまり、ジェンナを無理に抑えつけようとすると、母親経由でその話がシャーワット王国に行っちゃって。それで〝我らの神子がなさることをさまたげようなどどういう領分だ! 許さん!〟って……神様を厚〜く信仰してるシャーワット王国民を敵に回すことになっちゃうのよね……あの国、信じる神のためなら殉職も厭わないってぐらい信仰強々らしいから。ジェンナのはしたない振る舞いをいさめるのと、シャーワット国民とのイザコザとって比べると……そりゃあ後者を取るわよねってなる訳」

「…………な、なんというか……それは本当に……大変、ですね……?」

「そうなの。本当、節操なしに誰から構わず関係を持つのは、男女間の関係を破滅させたり……社交界の秩序を乱すから止めて欲しいのだけど。こちらの言うことを聞いてくれたら最初っから苦労はしないというか……はぁ……まぁたあの問題児の所為で荒れちゃうのね……」


 つまり……ジェンナが不特定多数と関係を持つことを無理に止めさせようと、命を散らすことも厭わないシャーワット王国の国民達が神子ジェンナを擁護するために突撃してくるかもしれない……ということだ。

 そして……修道院に入れようともしても、以下同文。

 結局、ジェンナの好き勝手を許すしかない……ということになるらしかった。


「……と、まぁそんな感じで。我が国の問題児ちゃんがいつの間にか出戻りしていたみたいでね。どうやら騎士団で行われる訓練観覧に参加するみたいなのよね……」

「訓練観覧に、ですか?」

「えぇ。彼女と関わり合いになる確率は限りなく低いと思うけれど……顔が良い異性には見境なしだから。タニアちゃん部隊の男性陣は、なんだかんだいって顔が良いじゃない?」


 確かに、ロキ達三人はそれぞれが違う顔立ちの系統だ。

 柔らかな顔立ちのグラディスに、甘い色男系のブレイク。そして……正統派美青年であるロキ。

 ジェンナが目をつけるのに値するりゆうがある。


「だから、万が一のことを考えて。対応に気をつけて頂戴ねって先に話しておきたかったの」

「…………畏まりましたわ、王太子妃殿下。部隊長として、気を引き締めておきます」


 真剣な面持ちで頷くタニア。

 そこでふと、マリアは湧き上がった疑問をミランダに投げかけた。


「あ、あの……何故、私にも忠告を?」

「ん? あぁ……だって、マリアちゃんはロキちゃんと一緒に暮らしているし。ジェンナがロキ君の顔を気に入ったら、この屋敷に突撃してくる可能性もあるかと思ったからよ?」

「え!? と、突撃してくる可能性が!?」

「まぁ、殆どないとは思うけれどね? ホープ君もいることだから……備えておくに越したことはないかと思って。知らずに対応するよりは知って対応する方が遥かにマシじゃない?」

「…………」


 ミランダの言う通りだ。

 何も知らずにいて、何かが起きてしまうよりも。何かが起こるかもしれないと想定しながら動く方が、いいに決まっている。


「……分かりました。万が一に備えて、心の準備だけはしておきます。ご忠告、ありがとうございます」

「どういたしまして」



 ……だが……ある意味この会話が、立派なフラグにと、なってしまったのかもしれない……。

 後にマリアは……このジェンナ・ロッシェータが関わる事件に、巻き込まれていくことになる──……。



 国を揺るがすような大きな事件に──……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ