さんじゅーご
王宮騎士団には年に数度──訓練観覧、という催し物が開催されている。
言うなれば、騎士団がどのような活動をしているか……を、家族や一般の人々に見せる行事だ。
子持ちの騎士達は頑張っているお父さん、お母さんの姿を子供達に見せることができるついで、尊敬の目で見られるので地味に好評な催し物でもある。
当然、騎士団員の家族だけでなく……申し込みがあれば──騎士団の拠点は王宮敷地内にあるため、王族の方々の安全上の理由から、一応、身元の確認が必要となっているのだ──、騎士団の関係者以外──専ら、騎士に憧れる貴族子息や平民の少年達、騎士を見にくる貴族令嬢なんかが多い──も観覧が可能となっている。
そのため、セヴェール王国騎士団の団長として、今度開かれる訓練観覧の参加者リストに目を通していたヒューバート・スワロウは……そのリストに載っていた女性の名前に、驚きを隠さなかった。
「ジェンナ……ロッシェータ……だと……!?」
それは忘れるようもない……。
セヴェール王国随一の問題児──いや、毒婦と言っても過言ではないとんでもない女の名前であった。
ヒューバートは手を震わせながら、ぶつぶつと呟く。
「ど、どういうことだ……!? あの女が帰国していただなんて、聞いていないぞ!? それも、ロッシェータ姓を名乗っているだと……!?」
そこでハッとした。
もしもこのことを王家が知らなかったら……大変なことになると思ったのだ。
ヒューバートは団長室の外で警備をしているだろう騎士に、王太子へ先触れを出すように指示を出す。
いつもはもう少し手順を踏んで会うが……今回は事が事、だ。許されるだろう。
(…………何も、起こらなければいいが……)
そんな風には思いながらも。きっと何か起きてしまうのだろうな……と。ジェンナの問題行動を知っているヒューバートは頭を悩ませるのだった。
◇◇◇◇
「訓練観覧、っていう催し物があるんだと」
夕食後の団欒の時間──。
最近気に入っているらしい謎のダンス──下半身は動かさずに上半身を左右に揺らし、握り拳をした両手をシャカシャカ振る──をホープが披露をしていた時、唐突にロキから話を切り出されたマリアはきょとんと目を丸くした。
「訓練、観覧、ですか?」
「要は職業見学会だと。普段、騎士団はこんな活動をしてますよっていう。とは言っても……対象は騎士団員の身内とか、申し込みした一般の人達にらしいが」
「…………へぇ」
「見に来るだろ」
「……え?」
「訓練観覧」
マリアは目を丸くしたまま固まる。そんな彼女の様子に、お酒を飲んでいたロキは首を傾げる。
「どうした?」
「え、あ、いえ……その……。私も、行っていいん、ですか? 身内……家族だけ、って」
「? マリィも身内だろ。何言ってんだ」
ロキはどうやら、本気でそう言っているようだった。
つまり……彼の中では。既にマリアも家族になっているという訳で。
「…………」
マリアはじんわりと、頬を赤く染めた。むず痒い感覚にむにむにと唇を動かす。
そんな彼女に気づかずに……ロキは「ぴゃん!」と言いながら万歳したホープ──さながら、レッ◯ーパンダの威嚇……──にも、声をかけた。
「ホープも気になるだろ。普段、あんだけ俺らの訓練に興味津々だし」
「…………う?」
「さては聞いてなかったな……いや、踊ってたから聞いてるはずがないか……。沢山の騎士が集まる日があるんだ。ホープも見に来たいだろって話」
「……きしさん!」
「ごふっ!?」
目をキラキラさせながら、弾丸のようにロキのお腹に抱きつくホープ。ちょっとギュンッって音がした気がした。後、ロキが思いっきり痛そうな顔をしている。
マリアは何も言わずに回復魔法をかけてやった。
「あー……この感じ、マリィか? ありがとうな」
「いえ……どういたしまして」
ちょっとした手助けでもきちんとお礼を言われて、マリアの頬が少しだけ緩む。
「パパ! きしさん! 見る!」
しかし、二人の会話はガバッと顔を上げたホープに遮られた。
ホープは頬を真っ赤に染めて大興奮している。相当、沢山の騎士が集まる、というのがお気に召したらしい。そもそも、いつもロキ達の訓練をジッと見てるホープだ。騎士が大好きなのだから、こんな反応になるのも当然なのかもしれない。
ロキは苦笑を零しながら、鼻息の荒いホープの頭を撫でた。
「おぅ。マリィに一緒に来るといい」
「…………? いま?」
「……いやいやいや。今じゃないぞ? 確か……あぁ、そう。八日後、だ」
「……う?」
「太陽が八回登ったら、だ」
「むー……」
けれど、どうやら……今すぐの話だと勘違いしていたらしく。不服そうに頬をぷくりと膨らませる。
そんな幼子の頬を、ロキはケラケラと笑いながら指先で押し潰した。
「さてさて……ここまでホープが行きたがってるんだから。訓練観覧、マリィも参加でいーだろ?」
「ママ! いっしょにいこ!」
にこにこと、似たような顔で笑う二人に、マリアは頷きを返す。
「はい。是非……行かせてください」
「おう。待ってる。…………とゆー訳で」
「「?」」
「マリィとホープは明日から観覧日まで、俺らの訓練見学するのは禁止な〜」
「……………。びゃっ!?!?」
ロキ達の訓練を見るのが大好きなホープが、その言葉の意味を理解して絶望したような顔で固まった。
そんな幼子とは違い、マリアは不思議そうにこてんと首を傾げる。
「何故ですか?」
「んー? ……お前達に格好いいとこ見せたいからさ。観覧日まで、ちょっと激しめに訓練しようと思って。殆どないとは思うけど……余波が及ばないとは限らないし。万が一のことを考えたら安全なとこにいてもらった方がいいからだろ?」
「そこまで激しく練習なさるつもりで!?」
「あっははははは」
「うー? パパ〜?」
ロキが笑いながらホープの両耳を押さえて、会話が聞こえないようにする。
そして、幼子にバレないように……目が一切笑っていない笑顔で、激しい訓練をする本当の理由を告げた。
「今日、騎士団の団員の中にホープのことを差別する奴らがいたんだよ」
「……ホープの、ことを?」
その言葉で、マリアの目も据わる。
血は繋がっていなくても……ホープはマリアの大切な存在だからだ。
「そいつらにちょっとお灸を据えてやろうと思ったら、副団長に止められてな。代わりに、観覧日にチーム戦で模擬戦することになったんだよ。だから当日こそは、そいつらをブチのめした──」
「ロキ。ちょっと、では駄目です」
「…………お?」
「本気で。本気で、訓練してください。いつもの場所には結界を張っておきますので。激しく暴れても問題ないようにします。ですから、絶対に。完膚なきまでに。その騎士様方を反省させてください」
──にっこり。
冷たい笑顔で微笑むマリアは、本気でそう言っていた。
それほどまでにホープを差別した奴らが許せなかったらしい。だが、それはロキも同じ。
ロキは獰猛に笑って、それに答えた。
「トーゼン」
「パパァ! きーこーえーなーいぃぃ〜!」
かくして、当人を置き去りに……。
今、ここに、最強親馬鹿達が結託するのだった──。




