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にじゅーきゅう


ちょっと微妙かと思われるかもしれませんが、ここで二章は終わりになります。

今後のスケジュール予定は若干のネタバレあるので、後書きにて。


ではでは、よろしくどうぞー。


 




 朝一番……すぴょすぴょと眠るホープと穏やかに眠るマリアの姿に目に入る。



(…………ヤバい……未婚の男女がおんなじベッドで寝ることに慣れてしまっているぅ……)


 ロキは無防備に眠るマリアの姿を見て、ちょっと心配になってくる。

 セヴェール王国で共に、この屋敷で暮らすようになってそろそろ三ヶ月目。流されるまま始まった川の字寝は今だに続いたままだ。

 ……まぁ、黒騎士としていついかなる状況・環境であろうとも一秒で寝れるのでついつい普通に寝てしまっているけれど。流石にヤバいんじゃないかなぁと思う今日この頃である。

 だって、ロキは……この三ヶ月という短い時間で、容赦なくマリアに心を揺さぶられまくっているからだ。

 マリアの方にそういう意図はないと分かっているのに……。モドキとして周りの人から好かれない人生を。冷たい目を向けられながら、嫌悪を抱かれながら生きてきた自分ロキに、あまりにも(純粋かつ)直球な気持ちをぶつけてくるものだから。

 ……勘違いしそうになるのだ。…………マリアが、自分に好意を抱いているんじゃないのかと。

 そして自分ロキも、マリアに好意を向け始めていることを……感じ取っている。


(本当……俺、チョロ過ぎじゃね……? ちょっと好意を向けられたら好きになっちまうとか……)


 《魔王の卵》ほどではないとはいえ、モドキであるロキも、人から距離を置かれる人生だった。

 ロキの世代の女性はまだ、《魔王の卵》とモドキに対する嫌悪感が強く根付いているから……異性と親しくなるなんて殆どなかった。誰かと恋をするなんてあり得ないと思っていた。そう……兄夫婦がロキや自身の子(ホープ)に優しく接する方が異常であったぐらいであった。

 モドキであることを気にしない他の国の女性と結ばれることを考えなかったことがない訳ではないけれど。

 ……でも、この国の騎士として忠誠を誓っている身としては、この国から出ていくことは考えられなかった。そもそも、黒騎士として国の機密に触れてしまっている身だ。…………そう簡単に野放しには、されないだろう。

 つまり、ロキはこの国の騎士として、独りで人生を終えることになると思っていたのだ。

 だが……ロキはマリアと出会った。自分を嫌悪しない女性と、出会ってしまった。


(…………でも、分かってる。マリィが俺に向けてくる好意は……男女のモノじゃなくて。身内に向けてるようなモンだって……)


 しかし、マリアの方はそんなつもりがないことが、見ていて分かった。

 …………というかそもそもの話、マリアは自分の気持ちが分かっていなさそうだから……恋情、なんて言い出したところで分からないで終わるような気配がしていた。


(辛いことを辛いと感じなくなるように……心の防衛本能からワザと、感じなくなるように心を麻痺させるとか。抑え込んだ、感情を失くすことがあるって、聞いたことがあるな……。マリィもそれなのかもしれない)


 そういえばそうだったじゃないかと、ロキは思い出す。

 今はだいぶ……表情が動くようになってきたけれど。初めて会った時の彼女の顔は、まるで氷のように〝無〟そのモノであったことを。

 そして、エキセアの調査報告書に書かれていた……聖女マリアの酷過ぎる生活を。


(…………今、マリィの気持ちは、少しずつ元に戻っているところなのかもしれねぇな……。ぎこちないけど、最初の頃よりも、笑うようになったし。でも、まだまだ気持ちの機微に疎いし、自分の気持ちも分かってないことが多い。そんな彼女に俺の思いを押し付けるのは……負担になっちまう)


 穏やかに眠るマリアの寝顔を見つめる。

 ……下手をしたら。今、ロキから気持ちを伝えたら、自分の気持ちがよく分かっていないマリアは、自分はロキと恋愛をしなくちゃいけないとか思ってしまったりしまうかもしれない。ロキからの好きに好きを返さなきゃいけない、なんて考えてしまうかもしれない。

 それでは、無理強いに、なってしまう。


(…………うん、〝恋〟が分からないマリィに俺の好意をぶつけるのはよくない。俺を好きになるようにって誘導するのも卑怯になる。だから……俺の気持ちは、秘密にしよう。そもそも……誰かと恋愛ができるとは思ってなかった俺が、マリィを好きかもって思えただけで充分だしな)


 かなり後ろ向きな考え方かもしれないが……ロキもロキで、辛い人生を送ってきたので、そんな風に考えてしまうのは仕方ないことであった。

 恋情を含まないとはいえ好意を向けてもらえただけでも……ロキには過ぎた幸福だったのだ。

 だから……だから……。彼女の隣に立つのが、自分でなくても構わないから。


(…………マリィが恋できるぐらいに、心を取り戻して。この国で幸せになってくれればいいな……)



 そんな細やかな願いを祈りながら……ロキは大切な人達が側にいる、この穏やかな時間を堪能するのだった。



 ◇◇◇◇



「…………あの……今日は一体?」



 マリアは困惑していた。

 場所はいつもの屋敷である。しかし、今日は子供達が遊ぶ……のを見守るのではなく。

 ホープとディルムントのことは男性騎士達が面倒を見ることになり──騎士ごっこをするらしい──……女性陣はコンサバトリーでお茶をすることになっていた。

 ……なっていたというよりも、いきなりやってきたミラベル王女が「お茶会をいたしましょう! ホープ君とディルの面倒はセルリーツ卿達が見てくださいまし!」と言い出して、急遽お茶会を開催することになったともいうのだが。

 何はともあれ。なんだか今日のミラベル王女はむしゃくしゃしているようだった。可愛い顔を不満に染めて、パクパクとケーキを食べている。まるでヤケ食いである。というか、普通にヤケ食いかもしれない。

 女性だからという理由で巻き込まれたタニアはあちらこちらに視線を彷徨わせる。しかし、いつまでもこのままではいけないと思ったのか……恐る恐るといった様子で、王女に声をかけた。


「……あの、ミラベル王女殿下。どうやらご機嫌が悪いようですが……いかがなされたのですか?」

「……! 聞いてくださいますか、スチュアート卿! マリア様!」


 ──カシャンッ!

 幼いながらにも王族として相応しいマナーを身につけているミラベルが、フォークを音を立てて置く。その時点で彼女がかなり怒っていることが分かる。

 ミラベルはムスッとしながら、どうしてこんなことになっているのかを語り始めた。


「マリア様はご存知ではないかもしれませんが……わたくし、アントルノ公爵家の嫡男──ソーン様と婚約を結んでおりますの」

「……ア、アントルノ公爵家……?」

「セヴェール王国の四大公爵家の一つですわ。王族の次に身分が高い方々だとご理解いただければ……」


 タニアの説明でマリアは〝成る程……〟と頷く。

 ミラベルは握り締めた拳をブンブン振りながら、話を続ける。


「そのソーン様なのですが……彼はカリッド侯爵家の令嬢エレイン様と幼馴染のような関係でしてね? その! エレイン様が! 令嬢達が集まるお茶会で毎回毎回! わたくしに嫌味やら何やらを言ってきて! わたくしを! 二人の仲を引き裂いた悪役のように扱ってくるのですわ!!」


 …………ミラベル王女の話を要約すると。

 アントルノ公爵家とカリッド侯爵家は大変仲の良い関係であり……その子供達は幼馴染のように育ってきたらしい。

 しかし、権力が偏らないようにするといった政治的な理由やら、ミラベル自身も相手ソーンに対して好意的であったのもあり……セヴェール王国の王女ミラベルとアントルノ公爵家の嫡男ソーンとの婚約が結ばれることとなった。

 だが──……幼馴染として、このままソーンと結婚すると思っていたエレインは大変なショックを受けたらしく。


『……わたくしとソーンと婚姻すると思っておりましたのに……酷いですわ……王女殿下……。権力を使ってわたくし達の仲を引き裂こうとするなんて……』

『ずっと、わたくしとソーンは共におりましたのに……幸せな未来を夢見ておりましたのに……』

『聞いてください……! この間、ソーンがわたくしを遊びに誘ってくださったのです……! 二人っきりでピクニックに行ったのですよ……!』


 といった感じで……ミラベル王女が無理やり二人の仲を引き裂いてソーンと婚約を結んだというように立ち回る所為で、どんどん他の令嬢達からなんとも言えない視線を向けられるようになってきているらしい。ついでに、ソーンと今だに仲睦まじく過ごしているアピール……ソーンも自分エレインのことを憎からず想っていると勘違いさせるような言動が多いんだとか。その所為で日々、〝とても仲睦まじくしていた幼馴染二人の関係に婚約で割り込んだ王女〟という印象イメージが令嬢達の間で強くなってきてしまっているそうだ。

 だが、こんなことで親に泣き付いたらそれこそ権力を使うことになってしまう……。

 そのため、なんとか自力で挽回しようと頑張ろうとしているのだが。それでもストレスが溜まり、ついに限界がきてしまったため、愚痴を吐き出さずにはいられなかったのだと王女は告げた。


「……流石に、このような話をお母様とお姉様方にする訳にはいきませんし。けれど、この気持ちを誰かに聞いていただきたくて……。他にお話を聞いてくださりそうな方として思い浮かんだのがお二人でしたの……。わたくしの知る身近な年上の女性は、マリア様とタニア様でしたし……。だから、お二人の許しもなく、いきなり愚痴をぶつけてしまいましたわ……申し訳ありません……」


 しょぼんっ……と肩を落とす王女にマリア達はアワアワとする。

 マリアはこれはアレだと思った。少し前にロキから言われた、抱え込み過ぎると爆発してしまうからそうなる前に打ち明けろというのと同じだと。

 王女とはいえまだ八歳の女の子だ。きっと、誰かに話さなくては限界を迎えてしまうと思って、こうして大人であるマリア達に甘えてきたのだろう。

 逆に……この二人になら心の内を明かしても構わないというほどに、ミラベルがマリア達を信頼しているという証左でもある。

 こんなに信頼をしてもらえていることには驚きを隠せないが……取り敢えずは、落ち込む王女を励ますべきだと、マリアは思った。


「だ、大丈夫ですよ。王女殿下。その、私は気の利いたことは何も言えませんけれど。話を聞くくらいはいつでもできますから。それで王女殿下の心が軽くなるなら、いくらでも話してください」

「…………そもそもの話、ですわ……! そのエレインとかいう令嬢、王女殿下になんていう振る舞いをしているのでしょう……! 不敬極まりませんわっ……!」

「…………マリア様……スチュアート卿……」

「王女殿下。殿下の婚約者であるソーン様は、このことは存じ上げていらっしゃるのですか? あまり酷いようでしたら、彼の方から注意してもらうというのも一手だと思いますわよ、わたくしは」


 タニアが真剣な面持ちで告げる。

 しかし、王女は少し悲しそうな顔をしながら……首を横に振った。


「…………エレイン様はどうやら、ソーン様の前で猫を被っていらっしゃるようでして。彼の前では健気にわたくし達の仲を応援しているように振る舞っているのですわ。……ソーン様も幼馴染ゆえに彼女のことをよく知っているからと、エレイン様はそんなことする人じゃないと思っているみたいで」


 …………ミラベル王女は、地味に詰んでいる状況のようであった。

 というか、幼いながらにやっているやり取りが大人顔負け過ぎて……タニアは逆に恐ろしさすら感じてしまう。これが王族と高位貴族なのか……とちょっと偏見を持ってしまうぐらいである。閑話休題。


「…………ですが……ミラベル王女殿下。流石に、エレイン嬢の振る舞いが過ぎるようでしたら、王太子ご夫妻にお話ししなければならないと、わたくしは思いますわ」

「…………分かっていますわ。あまりにも過ぎるようでは、自ら打ち明けなければならないと。でも、ソーン様にとってエレイン様は大切な幼馴染ですので……ソーン様に、嫌われたく、ないのですわ……」


 その言葉の意味を、マリアは理解することができなかったが。

 だが、タニアは察した。理解した。ミラベルが何故、家族にではなく……他人である自分達にこの話をしたかを。


「……そういうことですのね……。王女殿下はソーン様に恋をなさっているから、少しでも嫌われるようなことをしたくないのですね?」

「…………えぇ。そうですの……」


 ミラベルが頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑う。

 その健気な姿にタニアは胸を押さえていたが……マリアは心底不思議そうに、目を瞬かせた。


「…………こい……?」

「マリア様?」

「あ……すみません。その、こいってなんなのだろうと思いまして……」


 その言葉に、タニアとミラベルは目を見開く。


「…………マリア様は、〝恋〟がなんだか、分かりませんの?」

「…………すみません……分からないです」

「あ、いえ……! 謝ってもらうことではありませんわ!」


 ミラベルは慌てて首を横に振る。それから考え込むように視線を彷徨わせて……「あくまでわたくしの見解ですが」と断ってから、〝恋〟を語る。


「恋とは、特定の異性とずっと一緒にいたい……。相手のことが知りたい、自分のことを知って欲しい。共に生きたいと。そんな特別な想いを、ただ一人に抱くことだと思っておりますの」

「…………それが〝恋〟……?」

「ですが、それはあくまでもわたくしが思う〝恋〟であって、人によってその想いは違うようですわよ。物語では燃え盛るような恋とか、穏やかな恋とか、様々な恋が語られておりますから。ね、スチュアート卿」

「そう、ですわね……。わたくしもそれほど恋愛経験がある訳ではありませんが……恋には、沢山の種類があるかと思いますわ」

「…………」

「……今、マリア様が〝恋〟を知らないとおっしゃるなら……これから、貴女は自分だけの〝恋〟を見つけられるのかもしれませんわね」


 マリアは『恋……』と心の中で呟きながら、考え込む。

 こうやって恋の概念を教わっても、彼女はミラベルが婚約者に抱いているらしい気持ちを理解できそうにない。

 それは恋をした経験がないからというのも間違いではないだろうが……まだまだ、彼女の心が元通りではないことも原因であったのだろう。


 しかし、この日、この瞬間──マリアは〝恋〟という感情を初めて知った。


 この〝恋〟というものが後に、どんな影響をマリアに及ぼすことになるのか……。それは当人だって分かっていない。

 だが、一つだけ確かなことがある。



 いつかするであろうマリアの恋は……彼女の運命を大きく変えることになる──……。

 それだけは疑いようのない、間違いようのない事実であった。






かつての暮らしで感情の乏しいマリアが、恋という存在を知るまでが二章になります。

恋という気持ちがあることを知ったマリアが、〝一体恋とはどんなもの?〟って、他の人達を見て恋がどういうものかを少しずつ知っていくのが三章の予定です。


また少しお休みをいただいてから、ある日急にまた投稿していくことになるかと。気長にお待ちくださると幸いです。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました! 今後とも〜よろしくお願いしまーす!


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