にじゅーろく
最近──フラリと祖父母である国王夫妻と、両親である王太子夫妻が王宮敷地内の屋敷に向かう姿を見るようになった。
何をしているのだろうと思い、兄である第一王子や姉の第一王女、第二王女にも聞いてみたりしたが……三人は知っているのに教えてくれない。
教えてくれたっていいのにとミラベルが頬を膨らませると、兄達はクスクスと笑って頭を撫でてくる。
「だって……他人から教わるなんて、つまらないだろう?」
「そうそう。なんせ我が王家は《国王陛下と愉快な御一家》だからな! 他の王家と違って、気になることがあるなら自分で調べろ! だ!」
「……えとえと。でも、ヒントぐらいはあげる……ね? あの屋敷には今、人が住んでるんだよ」
見た目に反して好奇心が強いミラベルは、兄達の言葉に背を押されて、早速自ら屋敷に行ってみることにした。
何故か甘えん坊の末っ子王子も一緒に。
そうして王宮敷地内の屋敷で出会ったのは……祖父母に仕えているような家事妖精と、《青》に所属する騎士達。そして……とても綺麗な女性に手を引かれた、《魔王の卵》の男の子。
(……まぁ。初めて目にしましたわ)
《魔王の卵》──。
昔の悪い人に似た色合いと大きな魔力を持っているからという理由で迫害を受けてきた可哀想な子達。
(お祖父様がおっしゃっていたわ。悪いことをしたのは昔の人だというのに……その悪い人に似てしまっただけという彼ら自身にはどうしようもない理由で虐めるなんて酷いと。だから、彼らの迫害を失くそうとしているのだと)
そして、ミラベルは思い出す。
あまりにも残虐ゆえに詳しくは教えてもらえなかったけれど……《魔王の卵》であるというだけで狙われて、両親を殺されてしまった男の子を祖父母が保護してあげたという話を。
(あぁ……では、この子がその保護された子なのね)
ミラベルはまだ八歳であるけれど、決して愚かではない。いや、王族の末端として相応しい知能を有している。
つまり、だ。少しの情報で正しく状況を把握し……これから彼にどう接するべきかを自ら考えて、導き出した。
……まぁ、それでもまだ子供だから。少しだけ間違っているところもあったのだが。
(王族自らがこの子と仲良くしていれば、王族と親しい相手に表立って悪口を言ったりできなくなることでしょう。だから、お祖父様方もお父様達もこの屋敷にこまめに顔を出すようにしていたのね)
…………一応、ミラベルの考えも間違いではないが。
多分、大部分の理由は息抜きとかサボりとかである。どうやらこの王女はまだ、愉快な御一家に染まりきっていないようだ。
(なら、わたくしも……この子と仲良くしましょう。わたくし自身には力はないけれど。わたくしの身分がこの子の盾になることもあるでしょうから)
ともあれ……そう判断したミラベルはホープと仲良くすることにした。
純粋に、自分を慕う弟が増えたことが嬉しかったというのもある。
まぁ……ホープの方が姉のように慕っているのか否なのかは、分からないが。
……誰が思っただろうか?
この出会いが……誰もが思わぬ展開に繋がるだなんて。
いや、一人だけ……お姉ちゃん大好きっ子だけはなんか嫌な予感がして、あんなにも地団駄を踏んでいたのかもしれない。
とにもかくにも……この出会いが運命であることには間違いがないようであった。
◇◇◇◇
「あら〜……ついにあの子達もここに来るようになったのねぇ」
仕事をサボりに……ごほんっ。息抜きのために屋敷を訪れたミランダ王太子妃が、先客である自身の子供達を見て呟く。
敷物の上に座って、裏庭で遊ぶ子供達を見守っていたマリアは、王太子妃に隣を進めつつ……後ろに控えるロキに問いかけた。
「……ロキ、ロキ。私の目にはホープ達が遊んでいるというよりも……ホープと王子殿下が王女殿下を取り合っているように見えるのですが……気の所為でしょうか?」
「………いんや? 取り合ってんな」
「取り合ってるわね〜。随分と仲がいいこと」
ロキだけではなく、ミランダ王太子も肯定する。
やっぱり間違いなかったのか……。マリアはちょっぴり寂しく思いながら、ホープを見る。
ミラベルがいない時はいつものようにマリアと共にいてくれるホープではあるのだが……王女殿下が現れると、ホープは彼女にベッタリになってしまうのだ。どうやら身近な(?)お姉さんとして、慕っているらしい。
…………だが……。
「……大丈夫か、マリィ?」
ロキが横に移動して、マリアの顔を覗き込む。
マリアはムニュッと、難しい顔をしながら答える。
「……ホープのことを思うと。あの子が仲良くする人が増えるのはいいと思うんですけど……なんか、ちょっと……寂しくて……」
「……。…………。あぁ〜……もしかして。自分に懐いていたホープが他の人と仲良くしてるの見て、寂しくなっちまった?」
「……そうなん、でしょうか……?」
「俺はマリィの心までは読めんから合ってるかは分からんけど。でも、その気持ちには俺も覚えがあるぞ。ホープは俺に懐いてたのに呆気なくマリィにベッタリになったからな。ちょっと寂しかったし、悔しかったわ。〝クソ〜! あんなに俺にベッタリだったのに〜〟って……実のところ、ちょっぴりだけマリィに嫉妬もしちまった」
「……嫉妬……ロキが私に、ですか?」
「マリィが悪い訳じゃねぇのに、勝手にそんな気持ち向けちまってごめんな? マリィ。でも、ホープが王女と仲良くしてるのを見て、自分の方がホープと仲がよかったのになぁ〜……って思うんなら、マリィも嫉妬してる可能性が高いと思うぜ」
……その言葉には納得するところがあった。確かに、この気持ちは嫉妬である可能性が高い。
だが、こんな気持ちはあまりよくないだろう。王女殿下は悪くないのに嫉妬を向けるなんて悪いはずだ。
だが、ロキは……それが嬉しいと、マリアに告げる。
「でも……マリィが嫉妬してくれて、嬉しいよ」
「…………え? ……えぇ? 嫉妬が……嬉しい?」
「それって悪い感情かもしれないって、マリィは思うかもしれないけどよ? でも、ホープが他の人と仲が良いと思わず嫉妬しちまうぐらい、あの子のことが好きになってくれたってことでもあるだろ? だからありがと、マリィ。ホープのこと、そんなに大切にしてくれて。叔父として嬉しいぜ」
「…………」
マリアは無言で、ジッとロキの顔を見つめる。
そしてちょっとだけ彼の方に寄ると……秘密を打ち明けるように、そっと囁いた。
「言っておきますけど……多分、ロキが他の人と仲良くしているのを見ても嫉妬すると思いますからね」
「…………え"っ」
「だって、私が一番仲がいいと思っているのは……ロキとホープなので。……だから、できれば。これからも私と一番、仲良くしてください、ね」
「…………お、おぅ……仲良く、しような。マリィ」
ロキの顔がどんどん、どんどん赤くなっていく。まるで発熱したかのように、真っ赤かだ。
それを見たマリアはギョッと慌てる。
「ロロロ、ロキッ!? だだだ、大丈夫ですか!? 顔が真っ赤ですよ!? 熱!? 熱ですか!?」
「……ち、違う。ただ、純粋な好意に慣れてねぇだけ……大丈夫だから、心配すんな……」
慌てるマリアに、照れのあまりびっくりするぐらい赤面するロキ。
そんな二人をミランダ王太子妃と……実は今日の相棒だったブレイクが生温〜い目で見守る。
「オレ……初対面の時、マリアちゃんを口説くよーなこと言っちゃったんですけどぉ……。流石にこれ見ちゃったらぁ……今後は一切、そーゆーことしないよーにしよーと思いますよねぇ……」
「やっだ、無粋なことしようとしたわねぇ……。この二人は突っつかずに、見てる方が面白いんだから。下手なことしちゃ駄目よ?」
「はぁーい、気をつけまーす」
そんな王太子妃と騎士のやり取りと、騒がしい保護者達の様子に不思議そうにする子供達に気づかずに……マリアとロキはあわあわとし続けるのだった。




