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にじゅーご

 




 実は仕えている内に最高位の家事妖精になっていたらしいデイジーによる、〝真面目に護衛やれや? 職務怠慢は許さんで?〟という圧のおかげなのか……あのチャランポランそうなブレイクも真面目に護衛をする、という日々が始まった。



 朝、朝食を終えるとロキは一度詰所に顔を出してから、タニア達を連れて戻ってくる。

 それから、基本的にホープと同じ部屋に二人控え、屋敷内の巡回を残りの二人が担うという体制で護衛を行う。

 ロキは基本的にホープと同じ部屋に控える組に組まれることが多い。護衛対象が一番懐いているのはやはり、叔父であるロキであるからだ。

 そして、昼食を皆で屋敷で摂って、午後もまたホープにつく二人と、屋敷の巡回及び裏庭での訓練を行う──思ったよりも護衛任務が楽そうだったので、ロキが騎士団長に護衛をしながら訓練をする許可を取ってきたらしい。なお、デイジーが最高位の(たたかえる)家事妖精になったため、護衛任務に専念しなくても許されたところもあるとか──二人に分かれて行動し……夕方に帰っていく──ロキは上司に報告をしてくる──という生活サイクルになった。

 ……とまぁ、そんな感じで。騎士が側にいる生活を送るようになったのだが……特に変わったのは、ホープの好奇心の先だろう。

 そう……最近のホープのお気に入りは、自分を護衛してくれる騎士達なのである。

 どうやら彼らの服とか剣とかが格好いいのと、キリッとしながら立っているのが心引かれるらしい。流石は男の子だ。

 だからなのか……最近のホープは、護衛として壁際に控えるロキ達の真似っこをすることが大好きで……。

 軽い木でできた木剣──あまりにもホープがキラキラとした目で腰に下げている感を見てくるものだから……ロキが作ってあげた──を紐で腰に括り付けて、(本人ホープ的には)キリッとした面持ちで隣に立つのが彼のマイブームであった。

 そして今日も、壁際に立つロキとグラディスの間に挟まって護衛達と一緒になっていたのだが……。


 思わぬ訪問者の訪れによって、それは中断されることとなる。


「ロキ様、マリア様、ホープ様。お客様でございます。玄関でお待ちです」


 子供部屋に顔を出したデイジーからそんなことを言われて、全員で顔を見合わせた。

 それもそうだ。何故なら、この屋敷にくる人達はいつも勝手に出入りする国王夫妻と王太子夫妻だけ──……初めてこの屋敷でご夫妻達とかち合ったタニア達は、驚きのあまり空いた方が塞がりそうになかった。なんせ堂々と仕事をサボり──ごほんっ。息抜きをしに来ていたので……。

 とにもかくにも。タニア達以外のお客様は初めてである。いや、彼女達が顔を出したのも顔合わせのためだから、実質初めてのお客様かもしれない。


「ホープ、行きましょうか」

「はーい!」

「ロキ、グラディス様」

「あぁ、行こう」

「後ろはわたしが」


 ロキを先頭に、マリアとホープ、グラディスという並びで一階に降りていく……。

 辿り着いた玄関にいたのは、小さな小さな二人の人物。

 片方は深緑色の髪をハーフアップにした、七〜八歳ぐらいの可愛らしい少女だった。薄紫色の瞳がキラキラと輝いている。

 もう一方は、少女の大人びた紺色のドレスにしがみつく、少し薄めの緑色の髪に茶色の瞳を持った五歳くらいの男の子だ。ムスッとした顔で、階段から降りてくるマリア達を、睨んでいる。

 睨まれる覚えもなく、この二人に見覚えもないマリアは首を傾げるが……ロキとグラディスはこの二人が誰なのかが分かっているらしい。

 二人は直ぐに騎士の礼をすると……高貴な方々にするように挨拶の言葉を口にした。


「ご挨拶を申し上げます、ミラベル・セヴェール第三王女殿下。ディルムント・セヴェール第二王子殿下」

「ご機嫌よう。わたくしは王太子ディナントと王太子妃ミランダの第四子、ミラベル・セヴェールと申します。こちらは弟のディルムント。この屋敷にお父様方がよくお顔を出しているとお聞きして……何がそこまでお父様達の興味を引くのかしらと思ってしまい、ついついわたくし達も足を運んでしまいましたの」


 ミラベル王女はその見た目にそぐわぬ、優雅な笑みでそう告げる。

 ロキは驚いたように目を丸くすると……心の中で〝流石は愉快な王家の御一家……行動力バイタリティがある……〟と呟いた。


「……そうでしたか……失礼。偉大なる国王陛下のご慈悲で、この屋敷に暮らさせていただいておりますロキ・セルリーツと申します。こちらは同部隊のグラディス・セース卿」

「……ご挨拶申し上げます、王女殿下。王子殿下。《青》の第十大隊・第十五部隊所属のグラディス・セースと申します」

「そしてこちらが、わたしの甥のホープとその子守のマリア嬢です」

「ご挨拶申し上げます、王女殿下。王子殿下。マリアと申します。王太子妃様には大変お世話になっております。私と手を繋いでいるこの子は……ホープ?」

「…………」


 そこでマリアは隣で手を繋ぐホープが異様に静かなことに気がついた。

 どうしたのだろうと視線を下げると、ホープは目を大きく見開いて目の前の少女……ミラベルを見つめている。

 マリアは微かに首を傾げながら、幼子に声をかけた。


「ホープ? 大丈夫ですか?」

「…………! う? う!」


 パッと顔を上げたホープはなんの問題もないと言わんばかりに満面の笑顔を見せる。

 マリアは急に具合が悪くなったのかと思ったので……元気そうな姿に少しホッとしながら、言葉を続ける。


「ホープ。ご挨拶、できますか?」

「あい! ホープ、でしゅ!」


 ピッと手を上げて挨拶をするホープを見て、ミラベルは「あらあらあら」と言いながら近寄り、彼の前でしゃがみ込んだ。


「初めまして、ホープ君。わたくしはミラベル。わたくし、貴方のような色合いの子とお会いするの初めてよ」

「うー?」

「お話には聞いていたけれど……とっても綺麗な黒髪と紅いおめめね。それもとても愛らしいお顔。本当に可愛らしいわ」

「……。…………う! ねぇねも、きれーね! きらきら! おひめしゃまみたい!」

「まぁ!」


 ミラベルは軽く頬を染めて破顔する。

 マリアは〝小さいのに女の子を褒めるのが上手ですね……〟なんて、暢気なことを考えていたが。対してロキとグラディスは〝幼いながらに口達者過ぎでは……?〟と、口説き文句のようなことを言い出したホープに驚きを隠さなかった。

 しかし……。


「おい、お前! 僕のあねうえを〝ねぇね〟なんて呼ぶな! あねうえは僕のあねうえなんだから!」


 ディルムント王子がビシッとホープを指差しながら、叫ぶ。

 …………王族相手に失礼だとは思っていたが、ぶっちゃけよう。その姿はまさに威嚇する猫そのものであった。


「まぁまぁ。いけませんよ、ディル。ホープ君は貴方より年下なのですから……優しく接してあげなくては」

「でも、あねうえは僕のあねうえです!」

「それはそうですけれど……別にホープ君に〝ねぇね〟と呼ばれるぐらい、いいじゃないの。ディルの姉であることには変わらないのだから」

「でもっ!」

「ねぇね……だめ……? んー……なら、みーちゃんって、よぶ!」

「……あら」

「あっ」


 ホープが繋いでいたマリアの手から離れて、ミラベル王女の手を掴み、その甲にちゅーをする。宛ら、忠誠を誓う騎士のように。

 ミラベルは王女として、貴族男性から手の甲へのキスなどを受けたことがあったため動じなかった──それどころか〝幼いのに淑女はの挨拶ができるなんて、なんて賢いのかしら〟と感心すらしていた──が……ロキ達はそれを見て「「ごほっ!?」」と思いっきり咳き込む。マリアは手の甲のキスがなんだか分かっていなかったので、〝あら……〟と思うだけで留まる。

 ホープはミラベルの手を握ったまま、こてんっと首を傾げた。


「いーい? みーちゃん」

「…………ふふっ。そんな風に呼ばれたのは初めてですわ。えぇ、是非そう呼んでくださいませ。ホープ君」

「う!」


 ──にこにこ、にこにこ〜。

 幼く笑うホープと、笑顔を返すミラベル。そして、悔しそうに頬を膨らませて、地団駄を踏むディルムント。



 後からこの場に合流したタニアとブレイクは……三者三様の様子を見せる子供達の姿と、咳き込むロキ達と見守るマリアという謎過ぎる光景に……困惑を隠すことができないのだった。





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