18 キャロルに触れた愚か者に制裁を(※コンラッド視点)
キャロルはあの日から自分が女性である事を強く意識している。
私は彼女に女性らしさを求めるつもりは無かった。彼女が彼女らしく、いたいようにいて欲しい。そう思っていた。
彼女はいずれ私の手で女性としてゆっくりと花開いてくれればいいと、男から愛される喜びを知って、少しずつ肩の力を抜いてくれればいいと思っていた。
歳の差もあり待っていた私だ。1年でも2年でも待つつもりだったのに。
(こんな形で彼女に女性である事を強く意識させる気はなかった……)
男に襲われる——未遂だとしても。これは自分を女性だと認識するには最悪のパターンだ。しかも顔見知り……その上、複数人。
恐怖によって女性を印象付けられたキャロルはどれだけ恐ろしかった事だろう。
力で敵わず、女だからと舐められ、下劣な言葉に晒されて、性の対象として触れられる。
国を挙げての祭のような結婚式にでもすべきだったろうか? いや、彼女にそれは荷が重いだろう。ただでさえ清貧をよしとして生きてきて、借金を考えドレスという、作るのも着るのも手間が掛かるものを遠ざけてきたのだ。
彼女の母親も、あれは何度も流行の形に自ら直して大事に着ているドレスだった。家に向かった時に見て分かった。
きっと彼女は、働く為に身支度を整える兄と父の被服代は経費として見ていて、母親の姿を見て、ならば兄のお下がりでいい、となったのだろう。
服に見合った立ち居振る舞いは大事だ。あの服装と髪型であまりに令嬢然としていたら、逆に恥ずかしい思いをしたかもしれない。
そんな彼女に、もう何も憚ることはないから、という事をわかって欲しくて……そして、周りにも私の妻は美しいのだと理解されたくて、着飾って連れ出してしまった。
せっかく練習してくれたダンスもまだ一緒に踊れていない。
この件に片がついたら、一緒に屋敷を見て回って、一緒に踊ってくれるだろうか。お茶会からでも、女性との関わりをもって、いずれ自分の好きな格好を彼女が選べればいいのに。
「つきました」
御者の言葉に私は馬車を降りた。
あの二人は婦女暴行罪で王宮の牢屋に閉じ込められている。私の妻に手を出した……、そんな家は潰れればいいと、家にも手を回してある。
鉄の椅子に縛られて彼らはそこに居る。顔は腫れあがって、もうよく分からない。この時間だけこの様に縛られていて、後は牢の中なら自由だ。不潔感はそれほど無い。定期的に水浴びさせられる。夏も冬も関係なく、牢から病気が出ては王宮からやられてしまうからだ。
「さて……君らは私の妻に、何をして、何をしようとした?」
厚い革の手袋をはめる。私の手に傷がついていては、キャロルが心配をするからだ。
「閣下……どうか、お許しを」
「まことに……申し訳、ありませんでした……」
私は無言で近づいて彼らの顔を一発ずつ殴った。
「質問の答えになっていない。——私の妻に、一体何をして、その後何をするつもりだったのか?」
私の声は単調だ。温度もない。答えのわかりきった質問に、まともな回答を期待していない。
殺すつもりは無い。弁えている。彼らをずっと捕らえておく気も無い。税金の無駄だ。
彼らの家が潰れた頃には帰してやる。
あと3日程だろうか。
彼らの歯は折れて、時々血を流して居る。化膿してはいけないので、コレが終わった後は医者に見せている。
キャロル、愛している。君にこの私の姿と非道は一生知らないでいて欲しい。
君は知らず守られていてくれ。私が何に手を染めようと、君に触れる前には必ず手を洗うから。




