19 甘えているのはどちらか
コンラッド様が夜、出かけることがなくなった。用事は済んだのだろう。私がコンラッド様の仕事に口を出すのはおこがましいことだから、特に何をしていたのかは聞いていない。
その分、晩餐の後にくっついて会話をする時間が増えた。時には膝の上に乗せられたりもするし、それを嫌だと思わずにコンラッド様に甘えている。
これでは男女のむつみごととというよりも、親に甘える小さな子供のようだ。そろそろ、ちゃんと立たなければいけない。
いつもコンラッド様に抱き上げられて、私はここにいる。
「コンラッド様、お願いがあるのですが」
「何だい?」
「メリアとレイナを連れて、屋敷を見てまわってもいいですか? 公爵夫人として仕事をするために、まずは人を知りたいのです」
コンラッド様の顔が曇る。やはり、コンラッド様が一緒でないとダメだろうか。
でも、これから先私がここで公爵夫人としてやっていくためには、いちいちコンラッド様についてきてもらうようではダメなのだ。
「ここは、私の家です。コンラッド様と、私の。コンラッド様の使用人を、私は信じていますし、それはコンラッド様を信じているからです」
「キャロル……」
「お願いです、私は立って歩けると……ちゃんと、示したいのです。強いて言えば、私とコンラッド様に……、そして隣を堂々と歩きたいのです」
あの時は、無様を晒してしまった。
不可抗力だったとはいえ、夜会に出る女性はあのような時にどうやって戦うのか、女として私は戦い方を身に付けなければいけない。
そのまず一歩として、恥ずかしくない、お荷物じゃ無い公爵夫人になりたい。
そんな気持ちでコンラッド様を見つめていたが、彼はなぜか泣きそうな顔になって眉間に皺を寄せている。
「コンラッド様……?」
「嫌だ」
「はい?」
嫌だ? 何が? と私がきょとんとしていると、コンラッド様はきつく私を抱きしめて……あぁ、これは肩で泣いている。
背中を撫でながら宥めてみたが、中々泣き止まないし次の言葉を言わない。
理性と感情にうまく折り合いがつけられなくて、今は感情が優っているのだろう。
私がコンラッド様に甘えているのだと思っていたが、コンラッド様も私に甘えていたらしい。
『完璧な貴族』は、中々に外向きの顔のようだ。屋敷の中を歩き回りたいと言っただけで、こんな駄々をこねられてしまう。
「ごめんなさい、コンラッド様。大丈夫、あなたがダメと言うなら致しません。メリアとレイナが私を見張っていますから」
「…………本当に、嫌だから、やめてくれ。私は今度休暇を取る予定だから……それまで、待っていて。私を置いていかないでくれ、キャロル」
「どこにもいきません。あなたの側に、あなたの望むところにいます……、泣かないで、コンラッド様」
私が目を離した隙に居なくなっていたのが、余程トラウマになっているらしい。
なかなか泣き止まないコンラッド様の背を撫でながら、私はこの方のためにも強くならなければと思った。
私が自分で自分を守れないと、コンラッド様が泣いてしまう。
可愛いけれど、泣かせたいわけじゃない。あんな目に合うのは私も二度とごめんだ。
コンラッド様、強くなりますから……、それまで、あなたの手の中に居ます。




