48.黒い蛇
「改めて見ると…あの腕、なに?気持ち悪いんだけど」
セスが指差すのは手首がなくなり、黒い光が蛇のように蠢いている、グランツの片腕。
魔物を生み出し、クロエたちに放っている腕だ。
「扉を作る材料にしたらしい」
「うぇっ」
ルウが簡単に説明するとセスは顔をしかめる。
死の世界と契約した腕…
あたしはふと疑問を口にする。
「あんなに死の世界の力を使って、大丈夫なのかな?
本体…自分の体は持つんだろうか」
「あんなやつの体の心配をするなんて、シャロたんマジ天使♡」
「…確かに。どんどん消耗させてみるか」
「そうだね」
セスをスルーして、ルウの意見に頷く。
「面倒くさいから、腕を切り落としちゃえばいいんじゃないのぉ」
「任せる。お前も好きにやれ」
その時、轟音と共に空から光の矢が降り注いだ。
あたしたちは後ろへ下がり、セスとルウが光で相殺させる。
「お喋りは終わったか?」
グランツはそう言って、音もなく宙から下がってきた。
冷たい目で見下しながら。
「お前も混ぜてやろうか!」
セスが両手に緑の炎を纏い、続けざまにグランツに放つ。
そのタイミングでルウも青い炎を生み出し、波状攻撃を仕掛ける。
グランツは後退しながら、その炎を防いでいく。
あたしも参戦!
彼らの背後から隙を見て、銃を撃つ。
グランツは呪われし腕を大きく二回振った。
また大量の魔物が生まれ、1回目のグループはクロエたちへ、2回目のグループはあたしたちを取り囲む。
そして一斉に襲いかかってくる!
うわわっ!
慌てるあたしとは違って、兄弟は冷静に仕留めていく。
そして魔物に気を取られてると、グランツの攻撃が飛んでくる!
「あー、うっとうしい」
セスの炎で残っていた魔物が焼き尽くされる。
…この人、なんだかんだ言って、やっぱり強いんだ。
「シャーロット、お前の読みは正しいみたいだな」
ルウが顎で示した先には、生み出した扉によりかかっているグランツの姿があった。
顔は青白く、息も荒い。
「…聞こえるか?」
グランツはそう言って、唇に指を当てた。
あたしたちが思わず黙り込むと。
体を預けている扉を叩いてるような音がする。
「…外に出たい。この世界に再びやってきたい。そんな気持ちを感じるよ」
「苦しそうだな」
大きく深呼吸するグランツにルウは静かに言った。
「今はね。中途半端に…身を捧げていたから。それじゃダメだ。一体にならないと…」
グランツは両手を広げ、扉にぴったりとくっつく。
「っ!」
一瞬、グランツの体が光ったと思った次の時には。
扉から例の蛇のような光が無数に現れ、グランツを包み込んだ。
それらがうようよと動き、彼の姿は見えなくなる。
そして蛇の光が消えた…
そこにはかつてグランツだったものがいた。
口は耳まで裂け、尖ったナイフみたいな歯が並んでいる。
舌は蛇のようにチロチロ揺れている。
腕は両方とも復活していて、爪は鋭く伸びている。
背中には黒い翼、頭に長いツノが2本。
瞳は真っ赤だ。
「魔族から…魔物に成り下がったか。アホが」
ルウが鋭く吐き捨てた。
「死の力に全てを委ねたら…力を最大限まで発揮できる。人の形になど…こだわらないよ」
グランツはさっきとはまるで違う、嗄れた声で言った。
苦しげな様子はもう、ない。
「!」
その姿が消えた、と思った瞬間。
空中で光が炸裂し、上空で戦っていたクロエとアコード、メルが落下していく!
あたしたちは瞬時に彼女たちの元へと飛ぶ。
だけど、強風が生まれ、あたしはゴツゴツした地面に叩きつけられた。
「痛…」
突然の事で頭が働かない。
でもメルが、クロエが、アコードが…。
なんとか必死に上体を起こし、進もうとするけど、進めない。
振り向くと、あたしの服の裾を踏まれていた。
血のような目をした、グランツに…!
悲鳴は喉の奥で止まってしまった。




