41.策
「お前、知っておったのか!?」
その報告に眉1つ動かさないルウにニコラはくってかかる。
「そうではありません」
ルウが指先で円を描くと、青い光は大きな球体になり、外の様子が映し出された。
アコードが警戒した様子で辺りを見回してる姿が映し出される。
「遅かれ早かれ、グランツがここにやって来るのはわかっていたのです。『鍵』を知るのはここしかない。念のため、部下を外に置いていただけのこと」
その部下・アコードは腰に下げていた長剣を抜くと、素早く振り下ろした。
光が矢のように飛んで行く。
「ひどい挨拶だな。ルウナリィに礼儀は教わってないのか?」
グランツだ!
灼熱の池の上で翼をはためかせてるその姿…
「なに、あれ…」
あたしは映像を見て、思わず呟いた。
グランツの右腕には蛇のように黒くて細い光が、うねうねと巻きついている。
そして、その腕の手首から先が…ない。
「ああ、あれはですね。扉を作る儀式の仕上げには自分の手首が必要なんです」
「えっ!」
お菓子のレシピを教えてくれるような軽さでシェルダンが言った。
「これが正式な挨拶ですよ」
闇のオーラにも屈せず、アコードは素早く斬りかかる。
グランツが右手を振ると、黒い光が沢山のコウモリに変化し、アコードに向かって行った。
アコードは踊るように軽やかにそれらを斬り伏せ、グランツに迫っていく。
細身の好青年、といった見た目とは違い、彼は確かに強かった。
かすかに口元に微笑みを浮かべ、この闘いも楽しんでるように見えた。
とはいえ、グランツはのらりくらりと攻撃を交わしてるだけ。
決定打にはかける。
「我が帝国の上で目障りな!蹴散らしてくれるわ!」
様子を見ていたニコラが怒鳴ったとたん、赤い池から空に向かって、何本も水柱が上がった。
グランツもアコードもあわててかわす。
柱はやがて龍の姿となり、一斉にグランツを襲う。
グランツは飛びながら交わしたり、黒い光を放つけど、それらは所詮液体。
龍の顔部分がバシャッと飛び散り崩されても、すぐまた形成され、彼を追っていく。
大きな口を開け、灼熱の液体に取り込もうと。
「ハァァ、凄いですねぇ」
シェルダンは乙女のように胸の前で手を組み、甲高い声を上げる。
「そうであろう!」
ニコラもドヤ顔で答える。
「この池は我らの魔力の源!ここから我ら一族は力をもらっているのだ。誰も地下帝国を落とせないのはその為なのだ!」
いつのまにか、ゾーアンの少年兵たちも地上に現れていた。
少年兵、アコード、灼熱の龍。
それらに狙われ、さすがのグランツも防戦一方。
唇を噛みしめる表情も見える。
「どうだ、魔王よ!これがゾーアンの力だ。あんな小童、敵でもなんでもないわ」
ニコラが高笑いするなか、ルウはじっと戦いの様子を見ている。
「…ふん、陰気なやつ」
ニコラはぷいと横を向くけど、エオンさんも神妙な顔をしてるのを見て、不安げな表情になった。
「ババ様まで、どうしたのだ?」
「…難攻不落のここに単身でやってきたんだ。何か策があるだろ」
メルが低い声で静かに言う。
「そんな策を出す暇なんて与えんわ!」
ニコラの昂ぶる気持ちに合わせて、灼熱の龍の勢いは増す。
「…鬱陶しい」
グランツは確かにそう呟いた。
そしてくるりと回転して攻撃を交わしながら、懐に手を入れた。
取り出したのは小さな瓶…
「アコード、下がれ!」
突然、大声でルウが怒鳴った。
間合いを詰めていたアコードは主の声に大きく後ろに下がる。
グランツの手から瓶が落とされた。
瓶は灼熱の池へと落下していく…
水面に吸い込まれたその瞬間。
轟音と衝撃があたしたちを包んだ。




