42.扉
壁や床がビリビリと震え、あたしは思わず目を閉じ、姿勢を低くした。
右肩にはメルのふわふわした毛並みを感じる。
そして左肩には力強い手…。
「アイツ、何をした!」
ニコラの声に目を開けると、彼女は床に両膝をつけていた。
その顔は蒼白だった。
あたしの肩に手を置いていてくれたルウは、その手を離すと消してしまっていた青い光を再び放つ。
青い光が映し出す地上の様子は…。
「なんてこと…」
エオンさんもよろよろと力無くその場に倒れこむ。
池の上には、『扉』が出来ていた。
所々剥がれたり、汚れたりしている、くすんだ金色の分厚い扉。
グランツの腕にまとわりついてるのと同じ、黒い蛇のような光がそれを包んでいる。
そして…赤々とし、躍動していた池は、微動だにしないどす黒い水へと変貌していた。
「いったいどうして…」
あたしはその光景の禍々しさに、絞り出すように声を発した。
喉の奥がひりつく。
「…あの扉は死を司るものだ。この池はいわば生きている水。その生命エネルギーを吸い取ったんだ」
ルウは睨みつけるように映像から目を離さない。
「そんな…もう…池の声が聞こえない」
ニコラは震える両手で顔を覆った。
さっきまで自由に操っていた池の力を捉えられないのだろう。
「あの池はゾーアンの魔力の源…もう我々にはわずかしか魔力は使えない」
エオンさんは諦めきった眼差しで、小さな声で言った。
「凄く、良い案だろう?」
グランツの笑みがゆっくりと顔中に広がっていく。
「ここの地下帝国は目障りだったからな。どーんと扉をここに立てて、機能を停止させる。水の加護がないゾーアンなんぞ、敵ではない」
あたしたちが聞いているのをわかって、演説めいたオーバーな仕草。
「ただの小さなクソガキだ」
そして、呆然としてる兵士たちに獰猛なコウモリを向かわせた。
魔力をほとんど失った彼らは逃げ惑うのみ。
「お前たち、一度戻ってこい!」
震えながらも、ニコラは指示を送る。
「させない」
グランツはそう言って逃げる彼らを追う…が、
その間にアコードが立ちふさがる。
「邪魔をするな、三流。オレはゾーアンに用がある。鍵について教えてもらわなくてはな」
「それが教えてもらう態度か!」
アコードの剣を片手で軽くかわしていく、グランツ。
そして、おもむろに黒い光を池の中心に向けて放った!
ドォォン!
ガッシャン!
廊下の奥の方から何かが割れる音、崩れる音がして、それに悲鳴が混じる。
あたしたちはあわてて、部屋を飛び出した。
天井や壁が崩れ、廊下はひどい有様だった。
頭や手足から血を流した男女がへたり込んでいる。
「メル!」
あたしの考えを察して、メルはすぐさま回復魔法を放つ。
あたしも銃を取り出し、回復の白い光線を撃つ。
「シェルダン」
「お任せを」
ルウの指示にシェルダンは一礼をすると、両手を床につけた。
たちまちグリーンの光がそこら中を包み、眼に映るすべてのものが緑色に染まった。
「とりあえず、この帝国全体に結界を張ってみました」
シェルダンは軽い調子で、立ち上がった。
「この帝国って…凄い広さだろ?アンタ、こんなことできたんだ?」
メルが驚くけど、あたしも同感。
こんな凄い魔力を持ってたなんて…。
「これも研究の成果ですよぅ」
彼はニヤニヤと笑う。
「女王陛下、国民を1つの場所に集めて下さい。私の部下が結界で守ります。怪我人も集めて…、シャーロット、メル、頼めるな?」
「任せておけ」
「えっ、ルウは?」
頷くメルの声とあたしの声が被さる。
「オレは上に出る」




