40.生き字引
通路を行くあたしたちに立ち止まり、頭を下げるのは皆、小柄で幼い姿。
だけどそれぞれ手に武器を持ち、瞳の奥は鋭かった。
ニコラは彼らに軽く微笑みながら先頭をきっていく。
やがて1つの扉の前に立ち止まり、
「いいか、ここにババ様が…」
言った途端、ドアが勢いよく開いた。
「痛っ!」
「おほほほ」
ニコラの悲鳴に笑い声が被さる。
顔をのぞかせたのは、小さなおばあちゃんだった。
顔に皺という歴史が刻まれ、見たところ80代くらい…って、えっ!?
外見は歳より若いはずだから…一体幾つなんだろう。
あたしとメルは顔を見合わせる。
「ババ様、今わざとでした?」
「はて。最近耳が遠くてな」
ニコラが詰め寄ったけれど、老女は軽くかわして部屋に入るよう促す。
「大体の事はわかっています。さあ、中へお入りなさい」
あたしたちはそのまま進み、真紅と紺色でコーディネートされた室内へと進んだ。
「ここ最近は静かに過ごせていたのに。昔はモーチアストの奴らが攻めてきたりと、色々あったが。ルウナリィ、貴方のお父上にはそれを鎮めてもらったから…貸しがあるねぇ」
「エオン殿。再び、モーチアストの男が騒ぎを起こしております。『禁術』を使って」
ババ様こと、エオンさんは穏やかな表情をすっと引っ込めた。
「『扉』を作り…『鍵』を作ろうとしてるのだね?」
「はい。エオン殿が『鍵』をご存知でしたら、奴にお教えしないで頂きたい」
「貴方の味方をしろと?」
「私の味方ではありません。魔界全体の平穏の為です」
「地下帝国と魔界は別の世界として、切り離して考えて欲しいのだが」
「そうも言っていられないと思います」
エオンさんとルウは淡々と表情を変えずにやりとりをする。
「…ちょっと待て。だいたい、本当にババ様は鍵の作り方を知ってるのか?あんな伝説みたいな話」
ニコラが疑わしそうにエオンさんを見た。
「知っておるよ、その時の事を覚えている」
エオンさんはムッとした様子で言い返す。
「禁術が使われた時も生きてたのか?」
「そりゃピチピチの娘時代よ」
ニコラにそう言い切り、再びルウを見つめる。
「その時は扉が完成し、鍵も作られた。ただ…鍵が不完全だったため、扉は半分しか開かなかった。それでも…空間が歪み、魔界はひどい有様だった。やっとのことで扉を封印、消滅させた。そして禁術となった。本当は扉の作り方も鍵と同様、何にも記したり、残さないはずだった。なのにどっかの馬鹿が、扉の方は書物に残してしまった」
「半分しか開かなくてもひどい有様…全部開いたら、地下帝国も無事ではいれませんね?」
ルウは美しくも冷たい微笑みをみせる。
「お前がモーチアストの男やらを潰しておかなかったせいだろ!うちの国まで台無しにする気か!」
気が短いらしいニコラはキンキン声で怒鳴る。
「台無しにしないために、ここへ来たのです。女王陛下」
「お前っ、小馬鹿にした物言いをするな!」
「あ、あの…」
あたしは慌てて間に入る。
「鍵が不完全だったってどういう事ですか?」
「良い質問だね、天使ちゃん。まさか生きてる間にこうやってまた天使ちゃんに会えるとは」
エオンさんは柔和に笑う。
「材料が足りなかったんだよ、単純な話」
「材料…?」
その時。
「ルウナリィ様!」
部屋に青い光が現れ、そこからアコードの声がした。
「ルウナリィ様の予想通りです。グランツがこちらに向かってきています!」
「!?」
その報告に一同は息を飲んだ。
ルウを除いて。




