37.地下の帝国
体力と魔力が空っぽに近いあたしを気遣って、シェルダンは行きつけの喫茶店に案内してくれた。
彼が気に入っているだけあって、少々不思議な雰囲気の地下にあるお店。
薄っすらと緑の光が輝く、暗くて狭い店内。
あちこちに蜘蛛の巣があるのがわかる。
それでも銀食器で出てきたお茶はほんのり甘くて美味しかった。
「便りも出して頂いたし、後は良い返事が来るだけですなぁ」
シェルダンはズルズル音を立てて、お茶をすする。
「そろそろ教えてくれてもいいだろう。どこに連絡したんだ?」
メルが詰問に近い質問をする。
「地下帝国です」
ひどくあっさりとシェルダンが答える。
「地下帝国?」
あたしとメルの声がハモった。
「この魔界の地下には『ゾーアン』という種類の魔族が暮らしている。古くから地下で暮らす一族で、魔界の支配には属さない、独立国を築いている」
「地下に…?」
ルウの説明に思わず自分の足元を見る。
「ゾーアンは気性が激しかったり、偏屈な者が多かったりとかなりクセがあります」
…それをシェルダンが言うんだ。
「昔の魔王…グランツの家系ですね、彼はゾーアンも支配下に置こうと戦を挑んだこともありました。しかし、失敗に終わった。そして、ルウナリィ様のお父上が魔王になった際に協定を結びました。お互い干渉はしない、と」
「天界と協定を結んだり、地下帝国と結んだり…立派な方だったんですね」
「それはもう!」
あたしが感心するとシェルダンは嬉しそうに顔を崩した。
ルウは静かにカップを口に運んでいる。
「ゾーアンはとても長寿な種族です。その中には魔界の生き字引とも呼ばれる人物もいます」
「そいつなら『儀式』について何か知ってるかも、ってことか」
メルの言葉にシェルダンは頷く。
「グランツが接触をはかっても、その方法は教えないでほしいと伝えた」
ルウがカップをテーブルに置く。
小さな音が鳴った。
「…大丈夫なのか?」
心配そうにメルが顔をしかめる。
「まず、第一に接触することが難しいでしょうね。ゾーアンは魔界王家の便りしか受け取らない」
「でも偏屈なヤツらなんだろ?扉を開ける儀式を面白がるかも知れない」
シェルダンが微笑むとメルが負けずに突っ込む。
「アナタ、なかなか面白いパンダですねぇ。色々調べたくなります」
「俺のことはいいんだよっ!」
その時、ルウの隣に青い光が炎のように揺らめいて出現した。
その丸い光の中に手を差し入れ、引き出すと彼の手には白い封筒が握られていた。
そのとたん、光は消えていく。
「早く返事がもらえたようだ」
ルウがかざした封筒にはシャベルとツルハシが描かれた紋章。
「ゾーアンの紋章!」
シェルダンは甲高い声で喜びを伝える。
ルウは封を開けるとさっと目を通す。
「どうです?」
「どうなんだ?」
シェルダンとメルが身を乗り出す。
「…これは招待状だな」
ルウはふう、と息を吐いた。
招待状?
「このことについて、会って話し合いたいとの事だ」
「と、いうと…」
あたしも口を挟む。
「地下帝国に出発だ」




