36.浄化と封印
「それは何?」
クロエが身を乗り出す。
「わかりません」
「えっ!」
あっさりと笑顔で答えるシェルダンに彼女の瞳はまん丸になった。
「『指切りの儀式』は古い書物に記されていましたし、伝承でまことしやかに伝わっていました。しかし」
そんなクロエを宥めるようにシェルダンは早口で続ける。
「対となるもう1つの儀式はあえて何にも記さないよう、残さないようしてきたのです。それほど恐ろしい事が起きたのでしょうね」
「じゃあ…どうするの?グランツはそれを知ってるって言うの?」
「そうですね…私に考えがないわけではないのですが…」
「アレか」
「アレかぁ」
言い淀むシェルダンに即座にルウとセスが反応する。
「え?なに?なに?」
キョロするクロエのツインテールが揺れる。
「便りを出して頂けますかな?魔王」
「わかった」
「なに?なによ?」
彼女を置き去りに話は進む。
もちろんあたしもなんのこっちゃだけど…。
「さて、この間にシャーロット嬢、同行してくれますか?」
「は、はい!」
浄化のお手伝いをせねば。
「オレもついてくよ!もしもの時のために!」
セスがにっこりしながら宣言する。
「お兄ちゃん!なんなのよ〜!無視すんなっ!」
「そのうちわかるからさぁ、痛っ!噛みつくなよっ」
…うーん、なんか一気に緊張感がなくなるなぁ。
あたしとメルはささっと部屋を出て、シェルダンの後に続く。
彼に連れられていった魔界の外れの街。
賑やかな中心街とは違って、家がポツポツ並んでいる、寂しい雰囲気だ。
魔界らしいといえば、そうなんだけど…。
グランツのレンガの屋敷は、解体作業中だった。
どんどん壁を崩してる人たちと屋敷の四隅に立って、両手を掲げてる人たち。
グリーンの光が建物を包んでるけど、これが封印だろうか。
だけど、禍々しい魔力や鼻をつく悪臭が漏れて来ている。
「凄いものでしょう」
鼻を抑えてるあたしとメルにシェルダンは笑う。
「封印がなかったらこれ以上臭いのかよ」
メルが情けない声をあげた。
「そうですよ。これが禁忌の術を使った結果です。この土地にはもう生き物は育たないでしょう」
「ひでぇなぁ。シャロ、大丈夫か?」
「うん。あたし、やってみる」
息を吐き、気持ちを集中。
両手に銃を出現させた。
そしてシェルダンに頼んで、作業してるみなさんに少し離れてもらう。
銃口をピタリと屋敷跡に向ける。
人型じゃないものに力を放ったことなんてないけど、でもやってみよう。
悪しき力を抑える!
「行けっ」
小さく呟き、引き金を引く。
癒し効果のある白い光線が飛んでいった。
瞬間、邪悪なオーラと臭いが和らいだ気がした。
でも、たったこれだけで抑えられるとは自分でも思ってない。
続けざまに何発も放っていく。
その度に白い光が爆発的に輝き、恐ろしい魔力と激突する。
あたしの精神力が切れてふらつき始めた頃、シェルダンからストップがかかった。
「シャーロット嬢、もう充分です!後は我々で閉じ込める事が可能です」
「え…良かったぁ…」
「また無茶な力の使い方を…」
メルが両手であたしの背中を支える。
あぁ、目の前がチカチカするぅ…。
「ううん、流石ですね。天使の力が凄いのか、もしくはシャーロット嬢が凄いのか…研究したくなりますねぇ」
「研究は待ってくれ」
シェルダンからネットリとしたお誘いが来たとたん、ルウが現れた。
「便りは出しといたぞ」
「仕事が早くて流石です、魔王」
言葉とは裏腹にシェルダンは残念そうな色を滲ませた。




