38.灼熱の池
「セスは大丈夫かな…」
あたしは先程のやりとりを振り返りながら、思わず心配を口にした。
ゾーアンの地下帝国に向けて出発するルウの為、魔界の仕事はひとまずセスに託された。
「えぇ、やだ!困る!オレ、出来ないって!」
そうゴネる長男に、
「…ルウくん。安心して、アタシが見張っとくから」
本当は地下帝国について行きたがった末妹は、諦めてその役目を引き受けた。
その珍しさから交渉の役にたつかもと、あたしとメルも同行し、研究の為とシェルダンも参加。
そして、初めましての方が1人。
「セス様なら大丈夫です。やればできるタイプですから」
そう言って微笑む、細身の男性。
色白で女性のような柔和さもある、アコードという名のこの人物は王家に仕える部下の中で、1番強い人なのだそう。
筋骨隆々な部下は何人も見てきたけど、ほっそりとした体つきからして、とてもそうは見えない。
彼は魔界の支配下にはないゾーアンの土地に行くということで、志願したらしい。
「なんか急に暑くなったなぁ」
「毛皮を着てるからじゃないですか?」
メルがぼやくとアコードが笑う。
岩場しかない道を歩き続けていたら、確かに気温が上がった様に感じる。
「それはあれのせいですよぅ」
シェルダンが愉快そうに指を指す。
…ん?
赤い池のようなものがある。
それは波打ち、躍動してるようにも見えた。
「灼熱の池です。落ちたらあっという間に蒸発しますよ」
語尾にハートマークをつけた感じでシェルダンが教えてくれる。
「そして、その池の中に地下帝国が広がってるんです」
「えぇっ!」
あたしとメルの声がハモった。
「どうやって行くんですか?」
「その為のこれだ」
背後で騒いでるあたしたちを振り返り、ルウは招待状を見せる。
そして、どんどんと池に近づいて行く。
池に近づけば近づく程、熱風が迫り、汗が噴き出してくる。
「うぇぇ、サイアク」
メルが地帯の底みたいな低い声でうめく。
ルウは池の端にあった、巻貝のような形をした岩の前に膝をついた。
岩には細い穴が開いていて、そこに招待状を差し込む。
池の水面が一瞬光り、熱さがピタリとおさまった。
そして、池の中から、赤い大きな球体がゆっくりと立ち上ってきた。
「この中へ」
ルウにうながされ、その巨大なシャボン玉みたいな球体へ進む。
表面に触れると思った瞬間、あたしの体はもう球体の中にいた。
「これは凄い!凄いですなぁ!」
シェルダンは子供のように無邪気に喜んでいる。
ルウとアコードは球体の外で言葉を交わし、ルウがするりと中に入ってきた。
アコードはにっこり笑って頭を下げる。
「え?アコードは?」
「彼にはやるべき事がほかにある」
ルウの護衛の他に?
そう聞きたかったけど、球体がゆっくり下降していく。
手を振るアコードがどんどん見えなくなっていく。
不思議な事に体が揺れたりはしなかった。
透明な球体の外には赤い液体が見えるだけだ。
球体は下降しきると、今度は池の底に沿って平行に移動していく。
赤い景色じゃなくて茶色い岩肌が見えた、と思った瞬間、球体は弾けるように消えた。
左右の壁も天井も床も岩肌。
そして真っ直ぐな道が目の前に伸びている。
どうやら…着いたみたい。




