32.奇妙な研究者
「でさぁ、なんかやっぱりおかしいと思うんだよねぇ」
「悔しいけど、グランツはあんだけ魔力があるわけだし。雑魚を集めて城に放つとか、意味ないと思うんだ。どうして本気で攻めてこないんだろ」
「お兄ちゃんもルウくんも一気にグランツを攻めればいいのに、情報をチョコチョコ集めたりして。変だなぁ。お互いガッチリぶつかっちゃえばいいのに。お兄ちゃんとルウくんがアイツに負けるわけないと思うのに!何考えてんだろ。なんか別の目的があるんじゃないかな?…シャロ、聞いてる?大丈夫?」
マグマのように赤い色したクッキーを食べながら、早口で喋っていたクロエは、心配そうにあたしを覗き込んだ。
「う、うん、聞いてるよ。あたしも考えてたの」
集中、集中。
立派なキューピッドになるために天界から魔界にやってきたんだ。
ふわふわしてる場合じゃない。
「…グランツはまともにぶつかったら勝ち目がないとわかってるんじゃないかな。何か…作戦を練ってるんだと思う」
「だったら、なおさら!今潰しちゃえばいいのにぃ!」
コンコン。
その時、あたしたちのいるクロエの部屋がノックされた。
「はぁい」
「クロエさま、失礼します」
顔を覗かせたのは、ブタの顔をした男性の兵士。
「ルウナリィ様が、シャーロットさんをお呼びです。会わせたい客人がいるとかで」
「わかりました!」
あたしは素早く立ち上がる。
平常心、平常心。
あぁ、メルの視線が痛い。
ブタの兵士に連れられて、城の客間へと進む。
分厚いドアをノックすると、短くルウの声が聞こえる。
そういえば言い合いになったあの日以来顔を合わせてなかった。
平常心、平常心…。
「失礼します…」
ドアを開けると、いつもと変わらないポーカーフェイスのルウと向かい合って、青白い顔をした男性が座っていた。
といっても顔半分は黒いマスクに覆われて、表情も顔立ちもよくわからない。
黒のローブをすっぽりと被り、そこから出ている腕はとても細かった。
「フヒェヒェヒェ。これはこれは、本当に天使だ」
男性は甲高い声で奇妙な笑い声を立てた。
「魔王。良い品を手に入れましたなぁ」
「シャーロット。こいつはシェルダンだ。前に話した、性格に難のある優秀な研究者だ」
ルウが眉間に皺を寄せながら紹介すると、シェルダンはまた笑い声を立てる。
「フヒェヒェヒェ。魔王、そんなに褒めないで下さいよ」
そう言うとゆらりと立ち上がり、あたしに近づいてくる。
「天界の歴史上、最初で最後の二丁拳銃のキューピッド。研究のしがいがありそうですなぁ。あれこれ調べてみたいものだなぁ。実に興味深い」
「ど…どうも…」
「そして、これが守護獣!パンダ型とは愛嬌がありますなぁ!」
「ど、どうも」
…もしかして、あたしをこの人に引き渡すんじゃないよね。
あたしもメルも後ずさる。
「シャーロットもシェルダンもこっちに来て座れ」
ルウの声にシェルダンは名残惜しそうにあたしを何度も振り返りながら、元の席に着席する。
あたしとメルは少し離れた席に腰を下ろした。
「で。シャーロットが心を撃った男の続報を聞こう」
「ウフフ。これが面白いもんでねぇ。今日は連れて来てるんですよ。おい、ジムニー」
シェルダンがドアの向こうに声をかけると、ダダダっと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「お呼びですか、シェルダンさま!」
そう言って入って来たのは、いつかのサイ男で間違いなかった。




