22.シリアスお兄ちゃん
「やっぱり…この魔界は我が一族が支配するべきだった。そう強く思う」
男は机に頬杖をついて、ため息まじりに言う。
「アンタのところが負けたんだから…仕方ないでしょ」
クロエが上半身を起こして、声を絞り出す。
あたしはメルを小脇に抱えると、彼女のそばに移動して隣にしゃがみ込んだ。
男は冷たい視線だけでそれを追う。
「オレの先祖が負けただけだ。…今のオレなら負けない。わかるだろ、この魔力の差」
あたしたちはその言葉にグッと押し黙った。
「女子供相手にドヤ顔でそのセリフ。どうなの、それって」
部屋の中に声が響いた。
床に緑に光る魔法陣が浮かび上がり、声の主がその中から現れる。
「…お兄ちゃん!」
クロエがホッとしたように声を上げた。
「なんで城内をウロウロしてんの、グランツ。シャロたんに会いにきたの?」
セスはあたしに親指を向けると、のんびりした口調で続ける。
グランツと呼ばれた男は、嫌なものを見るように眉間に皺を寄せた。
「頭の中が空っぽの長男に、半分ろくでもない血が混じってる次男。末の妹は天使で人形遊び。ここまで魔王一族が堕落してるとは思わなかったよ」
「そお?」
挑発されてもセスは動じず、軽く交わす。
「そんなこと、わざわざ言いに来たの?そろそろ帰ってくれない?うちは夕食の時間なんだ」
「そんなこと?宣戦布告だよ、これは」
「帰れって言ってるんだよ。こう見えてもさぁ、可愛い妹と天使ちゃんを手荒に扱ったこと、怒ってるんだよね」
セスが語気を強めたとたん、彼の体から紫色の煙のようなオーラが立ち上った。
そして背中から、黒い羽根の大きな翼が現れる。
グランツからも感じた、肌を刺すような禍々しい魔力を感じて、あたしは強くメルを抱きしめた。
いつものヘラヘラしている『お兄ちゃん』とは別人…!
「どうする?この狭い部屋でやるの?」
続けてセスが尋ねると、グランツは目を細めて頭の後ろで手を組んだ。
そして机から立ち上がった。
「また来るよ。近いうちに」
そう言って、あたしたちの横をすり抜け、部屋を出て言った。
バタン、というドアの音。
遠ざかっていく足音。
すべての音が聞こえなくなり、部屋に静けさが戻った。
それで、ようやく緊張がとけ、体から力が抜けた…。
のは、あたしだけじゃなかったらしい。
「うわ〜久しぶりにシリアスして、緊張したわぁ」
翼をしまい込み、セスは床に座り込んだ。
「うぅ、悔しい!あんなやつに歯が立たなかったなんて!」
クロエは両足をばたつかせる。
「来てくれて本当に助かりました…」
あたしはまだ心臓がバクバク言っていて、手もかすかに震えていた。
「本当はこういうの向かないんだけど、ルウが行けっていうから」
頭を下げたあたしにセスは唇を尖らせる。
「このこと、ルウくん知ってるのっ?」
クロエの声が裏返った。
「知ってるも何も、グランツは門番たちを何人も倒して城内に入って来たんだ。すぐにルウに報告が言ったわけ。で、ルウは被害情報を調べに行って、オレに出撃命令が出た。『クロエが広告を出すから刺激した』って怒ってたよ」
「ひぇ…」
ホッとできたはずのクロエは再び怯えるはめになったようだ。
「そんな訳で、今日は珍しく三兄妹プラス、シャロたんでディナーだ。前菜はお説教」
「メインもお説教じゃん…」
「デザートは甘くなるといいねぇ」
兄の言葉に妹はがっくりと肩を落とした。




